先見日記

先見日記とは 先見リメ[ス

2006 Sep 12
飛幡祐規
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サッカー場に行けた子どもたち
パリにて

 長い夏休みが終わり、先週から学校が始まった。新学年の初めは、文房具と備品を揃えたり、スポーツクラブなど学校以外の活動に登録したりするのに大わらわになる時期だが、この日記で何度も話題にしたサン・パピエ(非合法滞在の外国人)の家族の多くは、受難の日々を送っている。通学の途中で逮捕されないようにと、親の代わりに子どもを学校に送っていくなどの、市民たちの支援行動もつづいている。8月17日にスクワットから強制退去させられた人々のうち、いまだ大勢がカシャン市の提供した体育館で生活している(「サン・パピエの軌跡」その他参照)。国境なき教育網(RESF)によると、サルコジ内相の通達による特別合法化は、懸念したとおり場所や担当者によって対処がまちまちで、拒否が続出している。ナイジェリアに強制送還された高校生のように、それぞれが悲惨なドラマだ
http://www.educationsansfrontieres.org/article.php3?id_article=1029)。

 サン・パピエの運動は10年前、女優のエマニュエル・ベアールをはじめ、ショービジネスや文化界で名のよく知られている人々の支援を受けたが、今回も女優のジョジアーヌ・バラスコや元陸上選手のステファンヌ・ディアガナらはサン・パピエのもとに赴き、彼らの直面している非人間的な状況をメディアに訴えた。この国では伝統といえるほど頻繁に、文化人やアーティストが政治や社会の時事問題に関わって行動を起こす。

 さて、9月6日はサッカーのユーロ杯(UEFAヨーロッパ選手権)の予選がパリ郊外サン=ドニの競技場で行われ、フランスのナショナルチームはイタリアと再び対戦した。ワールドカップの決勝戦で、ジダンの頭突きによる退場後に惜しくもPKで優勝を逃したあとだから、フランス中がこの試合を待っていた。で、リリアン・テュラムとパトリック・ヴィエラはこの試合の招待券を70枚ほど、カシャン市の体育館で仮住まいをつづける人々にプレゼントしたのだ。県議会が競技場往復用にバスを調達し、不便で不安な毎日をおくる子どもたちはその晩、しばしエキサイティングな時間をすごすことができた。この雪辱戦でフランスチームはなかなかのファイトを見せ、やっと選抜されたゴールキーパーのグレゴリー・クペや、ワールドカップではあまり出番のなかったシドネー・ゴヴーも活躍した。

 ところが、極右政党フロン・ナショナルのル・ペンと並んで国粋主義を政治理念に掲げるフィリップ・ド・ヴィリエ(「フランスのための運動党」党首)は、テュラムとヴィエラの行為を批判し、「彼らは億万長者なのだから、サン・パピエたちを自分の家に宿泊させればいい」などと皮肉った。昨年秋、郊外の若者たちに対するサルコジ内相の暴言をテュラムが批判したときも、サルコジは「金持ちサッカー選手より自分のほうが郊外の状況をよく知っている」と反駁したが、テュラムをはじめナショナルチームの選手たちの多くは貧しい郊外で育ち(テュラムは海外県アンティルのグアドループ島出身、シングルマザーの母親は彼が9歳のときにパリ郊外に移住)、差別を体験してきている。コマーシャル出演などお金儲けに走る多くのスポーツ選手やタレントの中で、移民系の若者たちやサン・パピエのような「弱者」の存在を気づかい、批判を恐れずに政治的な発言をするテュラムは光っているとわたしは感じるが、一部の政治家にはそれがたまらなく苦々しいようだ。

 一方で、保守陣営の最も有力な大統領候補であるサルコジは、ショービジネス界の有名人を自分の宣伝に使って人気を集めようと必死だ。8月末の与党UMPの集会には、往年のフランス最大のロック歌手(今でも人気が高い)ジョニー・アリデーが出席した。ジョニー・アリデーは、高額の財産所有者に(所得税、不動産税に加えて)かかる税金を逃れるため、ベルギー国籍になった億万長者だ(移民に対して「フランスを愛していることを証明せよ」と要求するサルコジの論理からいえば、「非国民」的行為なのでは?)。この集会には、かつて警察を罵るラップを歌って若者たちに人気のあったドック・ジネコ(今は落ち目)もサルコジ支持者として登場し、「ラッパーって、サルコジと警察を目の敵にしてたんじゃないの?」と世間をぎょっとさせた。なんとも見苦しい「スペクタクル政治」の世の中になったものだ。

 そういう背景もあったので、イタリアに対する勝利(3-1)は格別に嬉しかった。ユーロ杯の予選はまだ先が長いが、フランスチームにはけっこういい波動が感じられると期待しているのだけれど……。

End

















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