先見日記

先見日記とは 先見リメ[ス

2007 Jan 29
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Feb 5

オトコの品格
横浜郊外の仕事場にて

 以前に観たテレビの番組に、日本を代表する化粧品メーカーの会長が出演していた。スタジオには50人ほどの若い女性が客として招かれており、彼女たちの質問に会長が答えるという形式をとっていた。会長の顔には見覚えがなかったが、ひと目見て一角の人物であることは僕にもわかった。紳士であることはもちろん威厳も兼ね備えていて、普段はやわらかそうな物腰のなかに、容易には他者を受け容れない孤高さも垣間見えた。特徴的なのは、ときとして怜悧に光る目の鋭さで、そこには経営者として会社を成功に導いてきた緊張感と、ある種の冷徹さが表れていた。

 いくつかの質問があって、その後に続いてある女性が挙手をした。司会者に促された彼女は客席を立ち、年齢と名前を告げてから会長にこう尋ねた。
「私たち女性は『かわいい』という言葉を何にでも使ってしまうのですが、それをどう思われますか?」
 複雑なニュアンスをすべて省いてしまい、ごく小さな枠のなかだけで共感されるこの言葉を、会長が支持するとはもちろん思えなかった。おそらく質問をした彼女本人も、否定的な答えが返ってくることを予想していたのではないかと僕は感じた。しかし会長はそんなことはとうに見越したうえで、次のように彼女に答えた。「かわいいをどう思うか」については触れず、にこりともせずに言った。
「何かを見たり、何かに触れて感じたりしたものを、自分を通して表現することは素晴らしいと思います。そのような表現をしたくなる場面を、おそらくあなたや多くの女性たちは持っているのです。かわいいと感じる経験のなかで、自分を磨かれているということです。それに比べて世の男性はいかがでしょう。自分の心や感情が動かされる体験など、ほとんどしていません。たまには美術館に行ったり、映画を観たり、人と共有したくなる体験を少しでもしろと言いたくなります。『かわいい』、大いに歓迎すべきことではありませんか」
 いくら化粧品を売って利益を上げている企業の会長とはいえ、そして質問をした女性のような人たちを対象消費者としているとはいえ、ここまで相手を包みこむような完璧な返答をするとはさすがに思わなかった。些細なことを否定するまえにまず、彼は女性の人生を理解したうえで心から応援しているのだった。

 ささやかながらも大きな感動を得た僕は、ちょうど同じ日にとある男性と話をした。まだ30歳になっていない彼は奥さんの夏服についての不平を僕に洩らし始め、「ということで露出度の高い服は、僕は絶対に着させません」と言い切った。
「肌がたくさん露出した服なんて、男にいやらしい目で見られるだけです。そんなの僕には耐えられません。結婚しているのに男に媚びていると思われるなんて、絶対に我慢できないことです」
 女性が肌の露出度の高い服を着るのは男性の気を惹きたいからだ、と信じている男がいまだに存在することに、僕は少なからず驚いた。先の会長とは比べるべくもないけれど、この若い男性のような男が少しでも認識を改め、会長のような男性がひとりでも多く増えることを、願うしかなかった。女性たちのためにも、そして彼女たちと対等に関係を取り結ぼうとしている男性たちのためにも、こんなに「品格」のないことがまかり通って欲しくはない。映画館や美術館へ無理して足を運ぶそのまえに、先に改めておかなければならないことがあるはずだ。

End

















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