先見日記

先見日記とは 先見リメ[ス

2008 May 21
赤瀬川原平
backMay 20
大平健
May 14
up
nextMay 22
佐伯日菜子
down
May 28

『蟹工船』の読者
自宅にて

 小林多喜二の『蟹工船』が最近の若者に読まれている、というニュースには、え? と思った。歴史は繰り返すということか。
 あの小説は、ぼくらの学生時代は真面目な顔をして読んでいた。いや、といっていまの若者がひやかしで読んでいるというわけではないのだけど、でも意表を突かれた。
 ぼくらの時代はある種の左翼小説のバイブルみたいなもので、もちろん読みたくもあったが、読ま「ねばならぬ」という風潮にも後押しされていた。
 いまはむしろ逆だ。「ねばならぬ」はどこにもないのに、いつの間にか読まれはじめたという。要するに格差社会ということで、若者たちに身に染みるところがあるという。だからある書店の人がちょっとしたきっかけを作ったら、じわじわと広がって何年振りかで増刷になって、ニュースになった。

 きっかけは必要だけど、きっかけだけで波は起らない。やはり水面下の力の溜まりがあったのだ。
 昔は階級とか階級闘争という言葉がよく使われた。いまはその代りに格差という言葉が広まり、格差社会といわれる。左翼とか右翼という色が抜けて、いろいろなことが均一になってはきたけれど格差だけは変らない、ということだ。昔はそういう不満を束ねる運動とか闘争というものがあったが、そのことでは「歴史は繰り返す」ということになる雰囲気はない。この先どうなるのかわからない。
 『蟹工船』が小説として現役のころには、革命という言葉が生きていた。でもその到達点であるはずのソ連やその他の国々が、ことごとく制度的に腐って崩壊してしまったからには、歴史は繰り返せない。でも格差だけはますます大きく、いまやごく少数の金持と大多数の貧乏人との格差は、ほとんど天文学的数字となって伸びつづけている。でも昔と違ってモラルが崩壊しているいまの世の中では、根本から人を動かす言葉は、どこを探しても出てこない。

End

















backMay 20
大平健
May 14
up
nextMay 22
佐伯日菜子
down
May 28


各日記の内容については必ずしもNTTデータの見解を表明しているわけではありません。