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NTT DATA Technology Foresight 2017シリーズ~Vol.6技術トレンド「プレシジョンライフサイエンス」

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部
部長 吉田 英嗣

2017. 03. 30 Update !

NTTデータが導出した2017年の情報社会や技術のトレンドを全10回で紹介。第6回目は技術トレンド「プレシジョンライフサイエンス」です。

世界規模で取り組まれるゲノム解析

世界各国でゲノムデータの収集・解析による医療発展を目指した国家プロジェクトが次々に開始されています。米国では、2016年2月にNational Cancer Moonshot (※1)と呼ばれる、がん撲滅を目指すプロジェクトが開始され、10億ドルという膨大な予算が計上されています。

かつてのアポロ計画になぞらえた国家プロジェクトと言えるでしょう。その中でもゲノムデータの収集・活用は特に重要なテーマと位置付けられています。ゲノムデータや生活環境データ、EHR(電子健康記録/生涯医療記録)データ等、様々な個に関するデータに基づき、個人に最適な予防や治療、すなわち精密医療の実現を目指しているのです。

  1. ※1 FACT SHEET: Investing in the National Cancer Moonshot
    https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2016/02/01/fact-sheet-investing-national-cancer-moonshot(外部リンク)

遺伝子解析技術の飛躍的な進歩

ゲノム解析が世界中で行われるようになった背景には、遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる次世代シーケンサーが高機能、かつ急激に安価になったためです。現在では、人ひとりのゲノムを1,000ドル以下で読み取ることが可能になりました。また、個人で遺伝子分析が可能なDIYキットが999ポンドで発売されており、自宅で唾液、毛髪、食べ物等の様々なものの遺伝子解析が可能になっています(※2)。

解析対象はヒトゲノムだけにとどまりません。人の体内や表面に存在する微生物群「マイクロバイオーム」の遺伝子解析も活発化しています。なぜなら、マイクロバイオームは、免疫機能や栄養摂取のしやすさ等、身体に影響を及ぼすため、人間の健康状態を把握するための重要な要素として考えられているからです。

例えば、人間の腸に存在するマイクロバイオームに基づいて腸疾患を治療するための錠剤が開発されています。このマイクロバイオーム関連市場は2025年には8億9,910万ドルになると予測されており(※3)、今後、ビジネス展開が急速に進む領域と考えられます。

  1. ※2 Bento Lab
    https://www.bento.bio(外部リンク)
  2. ※3 Human Microbiome Market worth 899.1 Million USD by 2025
    http://www.marketsandmarkets.com/PressReleases/human-microbiome.asp(外部リンク)

AIはライフサイエンスの進歩も加速する

AIを活用した創薬が注目されています。一般的に、創薬には長い時間と莫大な開発コストがかかるため、薬価は高額にならざるを得ません。新薬の候補を見つけ出すだけでも2~3年という長い時間がかかると言われています。

これに対して、すでに判明している既存の薬の分子構造とその作用に関するデータをAIに学習させることで、病気の原因となるたんぱく質に機能する新たな化合物の候補を自動的に見つけ出す取り組みが行われています。AIにより新薬候補を1日で発見した例も出てきており、今後AI創薬が開発の短期間化・低コスト化に大きく貢献すると思われます(※4)。

また、医療現場においてもAIの活用が広がりを見せています。蓄積された過去の診療データを学習することで、問診情報から症状を特定する鑑別診断をAIで支援可能になってきています。可能性の高い順に病名を列挙し、必要な処置内容まで提示してくれるため、医師経験に依らず見落としを回避できます。

また、AI研究で著名なGoogleの子会社であるDeepMindは、医療分野に特化したAIの開発を目的にDeepMind Healthを2016年2月に立ち上げました。病院と連携し、過去の症例を学習することで、患者の状態から緊急性を要する急性腎障害を即座に判断可能とする、医師や看護師向けのアプリを既に開発しています(※5)。

今後は、生体センサーやEHRの普及に伴って個のデータが増加するため、それらの膨大なデータとAIを活用した医療・ヘルスケアはより一層広がっていくでしょう。

  1. ※4 新薬の候補物質をスパコン+ニューラルネットで迅速に見つけるAtomwise
    http://jp.techcrunch.com/2015/03/07/20150306y-combinator-backed-atomwise-discovers-drugs-for-diseases-that-dont-even-exist-yet/(外部リンク)
  2. ※5 Google の DeepMind がヘルスケア領域へ――医療現場と協力して開発進める
    http://thebridge.jp/2016/02/deepmindhealth-launch(外部リンク)

個に適した治療、個に適した予防

遺伝子解析技術やAI技術の進歩は、個に適した治療を着実に可能にしつつあります。例えば、乳がんや肺がん等の治療においては、遺伝子情報に応じて患者ごとにより効果の高い治療薬を選択することが既に可能になっています。

さらに今後は、個に適した予防が可能になってくるでしょう。個人の遺伝子情報、生体センサー情報、生活習慣情報等を複合的に分析することで、病気になる可能性を高める要因を予測し、症状が出る前にその人個人に適した対策を打つことができるようになります。

そうなると、医療の中心を「症状に対する治療」から「原因に対する予防」へと本格的に変えることができるかもしれません。そして、個人がより自身の健康に向き合い、予防による健康増進が実現されれば、現在問題となっている高騰する医療費の大幅な削減が期待できるでしょう。

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Profile

吉田 英嗣
株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部
部長 吉田 英嗣

開発自動化技術を中心としたソフトウエア生産技術に関する技術開発に従事。これまではソフトウエア開発自動化をテーマに研究開発から実践導入まで主導してきた。2015年よりNTT DATA Technology Foresight策定を担当。Java等に関する書籍・記事執筆も行う。