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ブロックチェーンは法曹界のゲームチェンジャーになるか?

The Guardian

ブロックチェーンはもはやインターネットにおけるバズワードではなく、具体的な影響を産業界に与えている。そして現在、ブロックチェーンは法的文書を始めとした法務、そして法曹界にイノベーションを起こしつつある。ブロックチェーンは人と法の関係性をアップデートすることはできるのだろうか?

2008年にAppleがApp Storeを作り出したことで、あらゆる分野にアプリが取り入れられるようになりました。それから10年以上を経た現在、今度はあらゆる分野にブロックチェーンが取り入れられようとしています。暗号通貨ビットコインを下支えしていることで最も良く知られるブロックチェーン技術は、それを最大限活用しようと試みる野心的なスタートアップ企業を多数生み出しました。

ブロックチェーンの前提にある基本的な考え方はシンプルです。それはすなわち、人々がデジタル資産を他のインターネットユーザーと共有できるようにすることです。資産の移動は安全に実施され、資産共有の場となるネットワークのすべてのユーザーは、すべての取引の公開記録を使ってその移動を見ることができます。ブロックチェーンのネットワークはあらゆる人に向けて公開することもできるし、許可を与えられた人だけがアクセスできる非公開のシステムとして動作させることもできます。

2018年は、ブロックチェーンに関する楽観的すぎる計画が破綻し始める年になるだろうと、Forresterのアナリストが予測したにも関わらず、ブロックチェーンは、透過性とセキュリティが融合した技術であることが理由となり、暗号通貨という出所から枝分かれして、ほとんどすべての産業に向けて開発が進められています。ブロックチェーンに関する取り組みの多くは初期段階にあり、まだ開発者たちが大々的な展開を企図している最中ですが、食品の安全情報を追跡したり、映画を配信したり、医療上の電子記録を保存したりするためのブロックチェーンアプリケーションが現在開発されています。

しかし、法務や規制環境ではブロックチェーンをどのように利用できるのでしょうか。「ブロックチェーン技術には、法律業務に2通りのやり方で大きな影響を与える力があります」と、パリの国立科学研究センターの研究者兼ハーバード大学ファカルティアソシエイトであるプリマヴェーラ・デ・フィリッピ(Primavera De Filippi)氏は述べています。第一に、ブロックチェーンは安全なデータベースとなる可能性を持っています。このデータベースには証拠書類などの文書を保存しておいて、あとで争いが生じた場合にそれを参照することができます。

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証拠書類を保持するブロックチェーンの「ユースケース」は、すでに開発が始まっています。証拠書類管理企業のCaseLinesは、法的文書の取り扱いに対するブロックチェーン技術の利用に、特許を得ようと試みています。中国では、ブロックチェーン上で検証された証拠書類には地裁での訴訟における証拠能力があると、最高裁が裁定しました。その他にも、英国のシンクタンクPolice Foundationによれば、ブロックチェーンシステムによって裁判を記録できる可能性があり、そうなれば刑事裁判システムにとっての「重大な進歩」となるかもしれません。

デ・フィリッピ氏によると、用途として次に可能性があるのは、契約書をデジタル的に作成・転送する方法を作り出し、法的文書の必要性を減らすことです。スマートコントラクトによって取引に仲介業者は必要なくなり、全体のコストを削減することができます。「ブロックチェーンには明らかに、効率性を高め、安全で透過的な取引を実現する力があります」と、Thomson Reuters Legalのリーガルリスク部門でプロダクトマネジメントディレクターを務めるリチャード・アンダーソン(Richard Anderson)氏は付け加えています。

スマートコントラクトはコンセプトの段階を越え、現実世界で一部使われ始めています。例えば、OpenLawグループが法的契約書を作成すると、それはEthereum(暗号通貨)のブロックチェーン上に安全に保存されます。デ・フィリッピ氏は次のように述べています。「ブロックチェーン技術は、コンピューターのインターフェースを通じて他の人と直接取引できるようにすることで、契約の締結にかかるコストを大幅に削減できます。また、監視と履行にかかるコストも削減できます」

こういったことがすでに起こっている業界の1つに、海運業があります。IBMとMaerskは、コンテナの移動を追跡し、船積書類を共有するため、世界20か所以上の港でスマートコントラクトの利用を開始しました。両社によると、これまで到着時刻、税関申告書、送り状など、船舶輸送に関する事柄1億5,400万件以上がシステムに記録され、それによって業界のコストが削減されました。

法律家たちは実際にブロックチェーン技術の利用を、法律へ適応させなければなりません。

プリマヴェーラ・デ・フィリッピ(Primavera De Filippi)氏

また、文書の送り主と作成者にブロックチェーンアプリケーション内で透明性をもたせることが、銀行が詐欺行為を防ぐうえで役立つかもしれないとアンダーソン氏は付け加えています。特にそれは、金融取引に関わった人の特定を容易にして、マネーロンダリングを防止するために役立つ可能性があります。金融グループは「顧客確認(Know Your Customer)」と呼ばれる規則により、口座を持ち、取引を行っているのは誰なのかを把握しなければなりません。アンダーソン氏によると、ブロックチェーンは取引を遂行した人の身元を検証するために使うことができ、利用されれば業界全体を揺るがす可能性を秘めています。同氏は次のように付け加えています。「金融サービスで多く利用されるブロックチェーンが『顧客確認』の負担を大きく減らし、それによって規制に関連するある種のソリューションが食われてしまい、もはや必要とされなくなるという可能性は大いにあります」

しかし、ほとんどのブロックチェーン技術はまだ実用段階に至っていません。「人々はご覧のように、暗号通貨が爆発的に拡大したのを目撃したため、ブロックチェーンが大々的に利用されるに違いないと推測しています」と、アンダーソン氏は述べています。同氏はブロックチェーンにまつわる誇大宣伝を、AIに対する昨今の期待の高まりに例えます。しかし、AIは今や企業からもどのような活用可能性があるかが理解される段階に達したものの、「ブロックチェーンにおいてそのような成熟が見られたとは思えません」とアンダーソン氏は言っています。

そもそもブロックチェーンには、広く採用される前に乗り越えなければならない大きな障害があります。「法律家たちは実際にブロックチェーン技術の利用を、法律へ適応させなければなりません。また、プライバシー権のような基本的な権利に手を加えるべきではありません」とデ・フィリッピ氏は述べています。2018年5月に施行された欧州の一般データ保護規則(GDPR)は、個人の権利や個人データの保護を強化します。同時にこれは、ブロックチェーン技術の導入に対する逆風にもなり得ます。

現在、世界各国の規制当局は、ブロックチェーンと暗号通貨をどのように規制するべきかについて計画を練っています。英国議会はブロックチェーンの及ぼす影響を調査する、超党派の作業部会を設置しました。カナダの規制当局は、2019年に発表予定の規制案を起草中です。PwCの分析によると、ブロックチェーン技術に関する法制上の不確実性の大きさが、企業がブロックチェーンを導入するうえで最大の障壁となっています。

短期的に言えば、ブロックチェーンには困難な未来が待ち受けています。「データプライバシーに関する規制環境の厳格化は、それを正しいと考えるにせよ、間違っていると考えるにせよ、いずれにしてもGDPRによって確実に生じています。この状況に目を向けてみれば、ブロックチェーンは規制と衝突することになるのがはっきりと分かります」と、アンダーソン氏は述べています。

 

この記事の出典はThe Guardianであり、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。