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量子コンピュータの普及は、世間の予想よりも早い

FORTUNE

アメリカで「国家量子イニシアチブ法」が成立し、量子情報科学分野の研究開発に5年間で13億ドルが投じられることになった。21世紀を代表するイノベーションのひとつになることが期待される「量子コンピュータ」。私たちがその技術を手にする未来は、そう遠くないのかもしれない。

量子コンピューティングは、現在開発されている最も重要なテクノロジーです。そう言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、業界は現に、1つの転換点に差し掛かっています。この1年間だけでも、GoogleMicrosoftIntelIBMといったテクノロジー大手が、独自の量子コンピューティング開発に向けて大胆な投資を行い、その進展を約束してきました。

現在、70を超える実用アプリケーションのプロトタイプが、D-Waveの量子コンピュータで稼働しています。2018年9月には米国下院が、教育、研究、開発を加速させる超党派の法案として、国家量子イニシアチブ法を通過させました。この記事の執筆時点では、上院が同法案を審議中です。

量子コンピューティングに携わる人にとっては、大変良い時期がやってきています。急激な成長と進化のおかげで、注目が高まり、投資が膨らみ、この分野は広く受け入れられるようになりました。しかしその一方で、混乱が増し、見解のすれ違いも生まれているようです。

この状況は、私が尋ねられる質問に最も明確に示されています。それはもはや、「量子コンピューティングとは何か」とか「それは現実のことなのか」といったものではなくなりました。現在寄せられるのは、「量子コンピューティングは一体いつ実現するのか」、「どんな外観なのか」、そしておそらく最も多いのが「量子コンピューティングの競争を制して勝者となるのはどの企業か」という質問です。

最後の質問に簡単に答えるならば、答えがわかるには時期尚早だということです。しかし、もう少し踏み込んで言うなら、唯一の「勝者」という概念には難があります。

多様な考え方やアプローチは、他のあらゆるテクノロジーと同様、量子コンピューティングの開発においても重要です。相異なる方向を模索する優秀な人材が多ければ多いほど、私たちはより早期に、日常生活の中で量子コンピューティングの恩恵にあずかることができるようになります。

量子コンピューティングの将来像は、ハイブリッドです。多用な量子テクノロジーと従来型のコンピューティングハードウェアが組み合わさり、互いに連携することで、私たちの将来のニーズに役立つのです。独立したゴールに1つの企業が単独で到達するということにはならないでしょう。むしろ私たちは、テスト、協力、知識の共有を通し、共同的な将来像に到達する必要があります。過去のエコシステムでは多様なメンバーが、コンピュータを20世紀の最重要テクノロジーとする方法を考え出しましたが、それと同様に、多様性を持った新しいエコシステムが、量子コンピューティングを21世紀の最重要テクノロジーに押し上げるでしょう。

大々的な入れ替えではなく、ハイブリッド化

量子コンピューティングについて知ろうとする人々の多くは、自分のスマートフォンを指さして尋ねるでしょう、「では、このスマートフォンはいつになったら量子で動くのですか」と。その答えはこうです。「案外、早いかもしれません。」しかし量子コンピュータが、皆さんのスマートフォンに搭載されるわけではありません。私たちが使う従来型の機器が置き換えられるのではなく、量子コンピューティングの将来像はハイブリッドなのです。QPU(量子プロセッサ)と従来型のプロセッサが連携し、日常のコンピューティングや、複数の業界にわたるエンタープライズレベルの複雑な問題に対応します。そのため、スマートフォンは量子コンピュータを内蔵しなくても、今後数年以内に、特定のアプリケーションに向けられた量子コンピュータに、クラウドを介してアクセスするようになると考えられます。

進歩に関するちょうど良い比較対象が、NVIDIAのグラフィックプロセッサです。同社のグラフィックプロセッサは、ニッチで複雑な用途に特化した装置という認識を持たれていましたが、それは次第に、自動運転車向けに拡張可能なAI民生用のドローンなど現実世界のあらゆる実用例を伴った、強力なテクノロジーという認識へ発展していきました。NVIDIAの例の根底には、グラフィックス向けの複雑な問題を解決できるプロセッサは、その他の問題も既存のコンピューティングシステムより迅速に解決できるという原理が働いていますが、これと似た原理は量子コンピューティングの根底でも働いています。グラフィックス処理装置(GPU)が多くのコンピュータ処理を加速できることは、すでに証明済みですが、誰もがNVIDIA製品を搭載したノートパソコンや電話を使用しているわけではありません。こうした装置は、日常的なすべてのコンピュータ処理に必要というわけではないからです。また、NVIDIAのGPUは、従来型の中央処理装置(CPU)と共にハイブリッドシステムで動作します。

量子プロセッサも、これと同様の経路を辿るでしょう。専門的な領域である量子プロセッサには今のところ、量子物理学や量子プログラミングの知識と、実際的なサポートが必要です。実用例は数年の間、物質科学、機械学習、複雑な最適化問題など、量子コンピューティングのメリットに向けてかなり成熟している分野に限定されるでしょう。しかし、私たちが協力してより多くの用途を見出し、それを追求していくと同時に、量子コンピューティングの利用が容易になっていけば、QPUが日常の問題の中で有用性を発揮する機会がますます増えるでしょう。

そもそも「勝者」とは何を意味するのか

この分野について知ろうとする人々から次によく尋ねられる質問は、「誰が勝利するのか」です。

事実を言えば、勝利するのは私たち全員です。量子コンピューティングは、ほぼ無限の規模でコンピューティング能力を拡大することを保証し、新たな道筋を切り拓いて、がん治療、宇宙探査、未知の物質の開発を実現したり、私たち人間のシステムに関わる既知および想定外の複雑さを解決したりします。長い目で見れば、このような重大な問題の解決に役立つ量子コンピューティングテクノロジーは、1種類にとどまらないと考えられます。

業界内のプレイヤーごとに取っている進路は異なるため、短期的な目標はさまざまです。D-Waveの創業チームは、実用例を最速で実現する方向に注力することを決定しました。この指針となる優先事項は、私たちが下してきた技術的な意思決定を規定しただけでなく、協業するために選択したパートナー、ビジネス上で下してきた意思決定、採用してきた人材のタイプにも影響を与えました。

量子コンピュータの実際的な利用には、従来型のコンピュータと比べて明確な経済的メリットがあると示すこと、それがすなわち自らの仕事だと私たちは考えています。これは、話題になっている「量子超越性」という目標とは異なります。量子超越性を目標に掲げる場合に求められるのは、量子コンピュータが人工的な(実用的でない)問題を、これまで存在してきた従来型システムより迅速に、またはより適切に解決できることの証明です。量子超越性は価値ある理論的な目標ですが、私たちは現実の問題における実用的なメリットの方に注力することを選びました。

というわけで、成功を示す特定の指標がゴールを表すのではありません。量子コンピューティングを利用する未来へ到達するための目標は、絶えず変化し、そこに至るまでにはマイルストーンも失敗も待ち受けています。その過程のなかで人類への大きな恩恵がもたらされ、量子コンピューティングへのさまざまなアプローチに向けた役割が登場するでしょう。

ある種の問題に力を発揮するシステムが、他の問題にはあまり向いていないとわかることもあるでしょう。しかし、それでも多様な考え方がイノベーションを推進するのであり、量子アプリケーションのテスト、学習、開発における最近の躍進は、すべての関係者にとって好ましい状況なのです。

私がよく尋ねられる、質問の最後に聞かれることは、「次に来る状況はどういったものか」です。私と同僚はたいてい、この質問に同じように答えます。私たちには、用途を見出し、プログラミングを改良し、量子コンピューティングを前進させる優秀な人材がもっと必要です、と。

鍵となるのは、「アプリケーション」です。大まかに言うなら、量子コンピューティングの年表において次に来るのは、量子アプリケーションの開発時代です。実際の日常生活とのつながりを築くことに注力する時期がやってきました。幸いなことに、優秀な人材が払底しているわけではなく、この仕事の担い手はしっかりと存在しています。私たちが量子コンピューティングを利用する未来は、すぐそこまで来ているのです。

バーン・ブラウネル(Vern Brownell)氏は、D-WaveのCEOです。LinkedInでブラウネル氏をフォローすることができます。

この記事はFORTUNEへバーン・ブラウネルが寄稿・執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。