個客の購買体験をシームレスに再構築する「オムニチャネル」化は必然だが、明確なビジョンを欠いた部分的な取り組みでは手段を目的と取り違える危険性が高い。顧客視点に立脚した戦略と、先々を見据えた多角的な検討が必要である。

1.オムニチャネルは流行言葉か

オムニチャネルは2011 年に全米小売協会が初めて紹介し、日本でも話題にされることが増えてきたキーワードである。新しいコンセプトに盲目的に飛びつけば良いものでもないが、コンサルタントやベンダーが煽っている流行語の類だと過小評価するのも禁物である。

オンラインと実店舗の相乗効果であれば、かって「クリック&モルタル」と呼ばれた手法とオムニチャネルの考え方は本質的には同じだ。言葉こそ新しいが、先進的な事業者らがこれまで積み重ねてきたさまざまな実践の延長線上にあるといってよい。

今このタイミングでオムニチャネルが注目されている背景のひとつには、止まるところを知らないネット通販の隆盛がある。対抗する従来小売にとっては「存在価値」を賭けたリ・ポジショニングだ。もうひとつには、消費者行動における「リアル」と「デジタル」の垣根の急速な瓦解がある。変化する消費者への対応策が求められているのである。

その意味で、もともとは小売に出自を持つ言葉ながら、現在では業種を超え、より広い文脈において顧客接点再構築の鍵と理解されるようになってきたわけである。

2.オムニチャネルは顧客視点に立脚する

これまで事業者は多彩な実店舗やネットショップで顧客に対応する「マルチチャネル」を推し進め、相互送客、機能的な補完・連携による「クロスチャネル」化を志向してきた。ネット会員への実店舗用クーポンの配布など所謂O2O施策も、この一種だ。

一方で、「オムニチャネル」の着目点は、顧客の消費行動プロセスにおけるシームレス性と、それがもたらす経験価値の向上にある。これまでとの違いは、徹底して顧客視点に立脚することにある。

かつてAIDMA モデルなどで説明された消費行動は、ネット、モバイル、ソーシャルの浸透で、大きく変化した。また、ICT 技術の進歩と低コスト化により、顧客を「個」として捉えるのも容易になった。そこで「個」の望む消費行動プロセスを理解し、多様な顧客接点を融合させて唯一無二の経験価値を提供する機会が生まれたのである。ここで問われるのは顧客視点に立って経験価値を組み立てるビジョンと、その遂行能力である。

3.オムニチャネル化に向けた取り組み

当社が相談を受ける案件では、個別には「顧客DB 統合」や「顧客向けプログラム統合」、「在庫の一元管理」などといった、それぞれに"重たい"取り組みがIT 主導で推進されている事例があるが、手段としては正しくとも、先立つべき「顧客視点」でのビジョンが不明瞭な事案も多い。このように手段と目的が転倒した状態で顧客視点に立つことは不可能だ。

また、あまり言及されないが、業績評価の仕組みも難題となろう。実店舗で接客を受けた顧客が、後日にネットで購入。この場合、売上げは誰の功績か。各チャネルが果たした役割をどう捕捉し、評価するか。ことの次第では、従業員の士気を下げ、結果として顧客の購買体験を損ねてしまいかねない。

ネット側の事業者が「ポイント」を介して「リアル」に染み出しつつある。スピード感のある取り組みが必要だが、オムニチャネルへの取り組みを個別のIT プロジェクトに落とし込む前に考えるべきことは多いということを肝に銘じるべきである。

著者プロフィール

株式会社クニエ コンサルティングサービス事業本部 ディレクター
加藤 卓

事業戦略立案・サービス企画から実行支援・営業支援に至るまで、また、経営管理・内部統制の整備から定着支援・業務効率化に至るまでの多様な領域で、業種の壁を越えてクライアントの課題解決支援を行っている。

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