2014年4月10日

株式会社NTTデータ経営研究所 公共行政サービスコンサルティングユニット コンサルタント
石黒 裕佳子

ニュージーランドでは付加価値税としてGSTを導入している。このGSTは、ほぼすべての製品、サービスに一律税率15%を課税し、軽減税率はない。一方、給付付き税額控除に相当する税制により低中所得者対策が実施され、税制全体での最適化の意図が伺える。また、会計、申告手続きにはインボイスが用いられている。本稿では、現地政府機関、会計士団体、関連企業等へのヒアリング等の調査に基づき、ニュージーランドにおける付加価値税の概要と、申告、会計手続きについて解説する。

1.ニュージーランドにおける付加価値税の概要

1.1 GST(Goods and Service Tax)の採用

ニュージーランドでは、付加価値税として1986年10月から財貨サービス税(Goods and Services Tax:以降GSTと記載)が導入されている。導入当時の税率は10%であったが、1989年に12.5%に引き上げられ、2010年からは15%となっている。

このGSTは、欧州で広く導入されている付加価値税(VAT(Value Added Tax))が流通段階で転嫁される付加価値へ課税するのに対して、消費へ課税するという考えに基づいている。

なお、GSTの命名について、ニュージーランドでは英国のVATの研究が行われたが、その評判の悪さから、明確に区別するためGSTと名付けられている。

1.2 世界で最も広い課税ベースと一律税率

現在、ニュージーランドでは、「GST法(Goods and Service Tax Act 1985)」に基づき、ほぼすべての製品、サービスに一律15%のGSTが課税されており、消費支出の約9割にまで及ぶ。また、軽減税率は導入されていない。そのため、世界で最も広い課税ベースとなっている。

これは、「最小のコストで税収を得るためには、課税ベースの拡大と単一かつ低率のGSTが望ましい」というニュージーランド政府の方針によるものである。なお、一部製品、サービスにはゼロ税率、非課税等が適用されているものの、医療や教育は対象外であり、対象は非常に限定的である(表1)。

適用税率 対象品目の例
ゼロ税率(全19項目)

輸出品/サービス、一部金融サービス、インターネット販売、土地取引(住居用賃貸は除く)、他国との間の製品/人の輸送 等

非課税(全6項目)

寄贈品販売、非営利団体によるサービス提供、金融サービス(ゼロ税率対象品目を除く)、居住目的の住居借用、高純度金属、遅延利息

特別な合計方法を適用(全33項目)

一定期間以上連続した宿泊施設の利用、コイン/トークンにより動作する機械、不渡り小切手、訪問販売、外貨による支払い 等

  • 4週間以上連続して利用する場合、費用の60%に対して15%課税されるため、実質税率が9%と表現される場合がある。

表1:ニュージーランドのGSTにおけるゼロ税率、非課税等の品目例
出典:IRD(ニュージーランド内国歳入庁)サイトを基に株式会社NTTデータ経営研究所にて作成

1.3 インボイスの利用

ニュージーランドでは、会計処理においてインボイス注1が一般的に利用されており、GST申告においてインボイスベース(invoice basis)の会計方式を選択することができる注2

インボイスの利用は、軽減税率を導入する場合には必要とも言われるが、ニュージーランドでは税務手続き、会計において「事業の支出と収入の記録を残すこと」を目的の一つとして利用されている。

実際、税務調査においてインボイスと申告書の照合により、申告内容の確認が行われている。

1.4 低・中所得者への配慮

ニュージーランドでは、GSTの導入は税制改革の一部として実施されたこともあり、給付付き税額控除の「Working for Families Tax Credit(以降WFTCと記載)制度により、低・中所得者の税額負担軽減が行われている。このWFTCは、子供のいる低・中所得世帯を対象に税額控除を行う「家族扶養税額控除(Family Support Tax Credit)」や、子供のいるフルタイム労働者世帯に対して給付による所得保証を行う「最低家計所得保証制度(Guaranteed Minimum Family Income)」等の制度から構成される。

このように、GST導入に伴う低・中所得者の負担に対する配慮は、軽減税率の導入といったGST制度単独ではなく、他の税制と一体で実施されている。

参考

2.GST導入の経緯

1980年代ニュージーランドでは、1970年代から続く経済低迷の打破と、財政赤字の削減のため大規模な税制改革が行われた。この税制改革の一環として、GSTは1986年に導入された。

2.1 1980年代の税制改革とGST導入

1980年代の税制改革実施前、ニュージーランドにおける税収は、直接税に大幅に偏っており、特に個人の所得税による税収は全体の64%を占めていた注3

またGST導入以前、ニュージーランドでは間接税として、卸売売上税(Wholesale Sales Tax)が実行されていた。この卸売売上税は、課税対象が全個人消費の3分の1に当たる製品に留まり、価格に応じた7つの税率が適用される等、免税範囲が広い、税率構造が複雑といった問題があった。

これらの背景から、税制改革は以下の要件を含み実施されている注3

  • 税収の構成比において、直接税から間接税への(比重)移行
  • 税政策ひとまとまりでの改革実施
  • 新税制・政策における公平性、運用の簡易性の確保
  • 可能な限り課税ベースが広く、税率の低い、卸売売上税に代わる新税制(GST)導入

特に、「税政策ひとまとまりでの改革実施」については、GST導入とともに、所得税、法人税の引き下げ、給付付き税額控除に該当する家族扶養税額控除や最低家計所得保証制度導入等が同時期に実施されている。このうち、所得税、法人税の引き下げは、GST導入に伴う増税意識への対応としての意味合いが強く、給付付き税額控除が低中所得者への配慮に該当する。

なお、GST導入当時の税率は10%で、非課税やゼロ税率等の詳細な項目に現在の制度と違いはあるものの、ほぼ一律の税率が適用され、軽減税率は導入されていない。

2.2 軽減税率の導入議論について

GST導入時に軽減税率導入に関しては、食品やその他生活必需品の課税対象とするか否かが、低所得者への負担、公平性、経済性を観点に議論された。しかし、低所得者への負担については、所得に占める費用割合では低所得者に不利となるが、支払税額では高所得層が低所得層の約2倍となり、所得再分配によるメリットが認められ、一律課税となった。

また、低所得者への負担や、事業上有利となるといった理由から、軽減税率を後押しする政治家や団体もあり、導入議論は現在も常に存在している。しかし、軽減税率の導入に至っていない理由としては、コンプライアンスコストの上昇および、軽減税率による税収減少の具体的な補填案が無いことが挙げられる。

2.3 GST導入時の政府対応

ニュージーランド政府では、事業者向けにGST導入にあたり、1年間の試行(リハーサル)実施や、運用の概要等を簡潔に解説した白書の発行、税制や小売業の有識者により新税制案の分析を行う諮問機関の設置等を行っている。これらの活動は、GSTへの対応を必要とされる事業者と政府間の相互理解形成の手助けとなったとされている。

また、一般市民向けには、教育、情報提供プログラムの実施や、導入に関する全般的な調整を行うGST調整事務局(The GST Co-ordination Office)を設置している。こちらも市民の理解を得るのに効果的であったとされている。

3.現在までのGSTの変遷

3.1 税率、課税品目の変更

ニュージーランドのGST税率は、1986年の導入後、1989年に12.5%、2010年に15%と、2度に渡って標準税率の引き上げが行われている。いずれも、国家の税収悪化が要因の一つとなっている。特に、2010年の引き上げは、GST導入時以来2度目の税制改革の一環で実施された。

また、課税対象品目や会計方法の変更は、微細なものも含め頻繁に実施されている。いずれの変更も、基本的には課税ベースを広げる(免税品目を削減する)方向で実施されている。

3.2 2010年代の税制改革とGSTの変更

2010年度の税制改革は、以下の目的の下で実施された注4

  • 勤労意欲および貯蓄・投資意欲の向上による経済促進
  • 租税回避の機会を減少させ、税制の公平性、整合性を改善
  • ニュージーランドの国際競争力強化

そのため、税収改善を目的としたGST税率の引き上げとともに、所得税率、法人税率の引き下げ、給付付き税額控除の拡大を同時期に実施するといった、各税制をひとまとまりとした変更が行われている。

4.GSTに係る税務手続き

4.1 申告登録

ニュージーランドのGSTでは、国内で課税対象の商品、サービスを提供し、年間売上高(又は見込み)がNZ$6万以上のすべての事業体に申告義務があり、内国歳入庁(以降IRDと記載(IRD:Inland Revenue Department))へ申告登録が必要となっている。なお、申告義務のない事業者であっても登録は可能であり、GSTの仕入控除を目的に登録する事業者も存在する。

IRDへ申告登録を行う際には、GST申告時の会計ベース、申告頻度、課税期間を選択する(表2)。会計ベース、申告頻度の選択には、年間売上高に応じた制約があり、免税点の設定を含め、GST申告における小規模事業者への一定の配慮がされている。

申告登録を行うとIRD番号(IRD number)がIRDから付与され、この番号により事業者の識別、管理が行われる。

項目 選択肢
会計ベース
  • 支払いベース

    現金帳簿でGST会計が可能。年間売上高がNZ$200万以下の事業者のみ選択可能。

  • インボイスベース

    インボイスをGST会計に利用。

  • ハイブリッドベース

    会計処理ではインボイスを利用し、GSTの仕入控除は支払いベース(現金帳簿)を基に行う。

申告頻度
  • 毎月(年12回)

    年間売上高がNZ$2,400万を超える事業者は必須

  • 2ヶ月に1度(年6回)

    年間売上高がNZ$50~NZ$2,400万の事業者は必須

  • 6ヶ月に1度(年2回)

    年間売上高がNZ$50未満の事業者が可能

課税期間

事業期間に合わせ、課税期間の開始日、終了日を任意に設定可能。

表2:GST申告登録時の選択登録事項
出典:IRDのサイトを基に株式会社NTTデータ経営研究所にて作成

4.2 申告方法

GSTの申告方法は、紙面による申告と電子申告の両方が可能となっている。

紙面による申告の場合、IRDへ専用の申告用紙を請求し、受領した用紙に必要事項を記入して提出することとなっている(提出が必要な申告用紙は1枚)。

電子申告は、ウェブサイト(IRDのサイト)からのオンライン申告となっており、2005年からサービスが開始されている(図1)。オンライン申告サービスの利用にあたっては、申告者は申告登録によりIRD番号を取得した上で、利用登録を行うのみとなっており、日本のように電子証明書の取得、登録等は不要となっている(電子認証は行われていない)。

また、税務の委託については、ニュージーランドには税理士制度はなく、会計士が税務の代行を行っている。

4.3 事業者へのインボイスに関わる作業負担について

近年、日本におけるインボイス導入に関する議論の中で、事業者への発行や申告時の集計に係る作業負担を懸念する意見もある。

ニュージーランドでは、インボイスは決められたフォーマット(項目)に従って作成することもあり、特に発行作業や、申告時の集計作業の負担を訴える顕著な意見は出ていない模様である。また、取引対象の商品/サービスがNZ$50以下の場合、インボイス発行は任意となっており、この点は小規模事業者への負担軽減につながっている模様である。

【画面イメージ】

図1:電子申告が行えるウェブサイト(IRDのサイト)

参考

5.電子申告、会計の実施状況

5.1 電子申告の利用状況

2012年におけるGST申告は、紙面によるものが63%、オンラインが33%、eファイルシステム注5が4%となっている。オンライン申告は2005年から開始され、当初の利用割合は3%であったが、2011年までその利用割合は増加し続けている(図2)。

【図】

図2:GST申告方法の割合の推移
出典:IRDがサイトで公開する統計値を基に株式会社NTTデータ経営研究所にて作成

5.2 会計ソフト等、会計処理でのIT利用状況

ニュージーランド大手の電子会計ソフトウェア会社(Xero)が提供する、会計ソフトのニュージーランド国内の導入割合は2012年で17%となっている。このことから、ニュージーランドでは、会計処理でのIT利用があまり進んでいないことが伺える。

また、インボイスの電子発行、送付は、一部事業者で利用されているものの、現時点では紙面の利用が多くなっている。インボイスの電子発行、送付は、当該機能を持ったソフトウェアや、オンラインサービス注6の提供が行われている。

なお、インボイスの電子発行、送付については、IRDからの要件等は特に提示されていないものの、電子ファイルで保管を行う場合には届け出が必要となっている。

参考

6.今後の税務手続きに関する課題

ニュージーランドのGSTは、軽減税率を導入しない単一税率であり、その税務は他国と比較して簡易に行える制度となっている。

一方、電子申告の実施や、会計ソフトの導入といった手続きのIT化については、普及割合が低いことが課題となっている。この点については、税務手続きの更なる効率化のため、IRDでも申告システムの改善等の対策が進められている。

注釈

  • 注1インボイスとは、取引の際の支払いを記録した書類。品目毎の適用税率や税額の明記が義務付けられている点が、日本で利用されている請求書と異なる。
  • 注2インボイスベースの他、現金帳簿(cash book)を基にした支払いベース(payment basis)、インボイスベースと支払いベースを混合したハイブリッドベース(hybrid basis)から選択が可能。
  • 注3「Reflections on the introduction of Value Added Tax in the United Kingdom and Goods and Services Tax in New Zealand」,Simon James, Clinton Alley, Department of Accounting, 2007
  • 注4諸外国の付加価値税、国立国会図書館調査および立法考査局 2008年
  • 注5eファイルシステムとは、Tax Agentのみが利用可能な電子申告(オンライン)システムである。なお、Tax Agentとは、会計士のうち一定の条件を満たし、内国歳入庁に認定された者である。IRDとの間に専用の連絡窓口があり、申告や納税等の際に期限の延長等、正当な理由のもとで融通を図ってもらうことができる。
  • 注6インボイスの発行者がオンライン上でインボイスを作成、発行。インボイス受領者が指定されたウェブサイトにアクセスし、確認、ダウンロードを行う。
  • 本文中に記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標であり、敬称名は略させていただきました。