2014年6月26日

世界第二位の農産物輸出額を誇るオランダの農業ビジネスは、中小事業者を中心に構成されている。小回りのきく中小企業と豊富な研究機会と資金を背景に世界の農業ビジネスを牽引するオランダの農産業を紹介する。

1.中小事業者が中心のオランダの農業ビジネスの外観

オランダは、米国に次ぐ世界第二位の農産物輸出大国で、米仏と並び青果生産の三大大国の一つでもある。欧州から輸出される野菜の4分の1も同国で生産されており、農業ビジネスは常にオランダの経済を牽引する主要産業の一つであった。2010年時点では1万ヘクタールの温室が国内に存在し、そのうち約半分の5000ヘクタールでは野菜が栽培されていた。最も栽培されている野菜の種類は、トマト、きゅうり、パプリカである。同国の農業ビジネスは、その大半が5人以下の小規模事業主あるいは組合により運営されているが、農業に従事する企業家は効率化と持続可能な生産システムを活用しており、欧州平均の5倍という高い生産性を誇っている(図1、2参照)。そして、同産業はオランダ経済のおよそ10%に貢献し、60万人余の雇用と収入を生み出していると推計され、2012年の農産物輸出総額は約10兆円(754億ユーロ)注1であった。

【図】

図1:農業ビジネスの経営規模別件数
出典:オランダ統計局のEnterprise in AgricltureのデータよりLRIが作成

【図】

図2:農業ビジネスの経営形態別件数
出典:オランダ統計局のEnterprise in AgricltureのデータよりLRIが作成

参考

2.産業政策ですすめる農業ビジネス

2.1 中小事業者が活躍するイノベイティブな農産業

オランダ政府は、2011年、国際的なビジネスを展開できる位置にいる9産業をグローバル産業戦略を進める「Top Sectors」として選択し、経済政策を実施している。オランダ経済省は、オランダ経済の主要な産業である農業を、この9つの「Top Sectors」注2の一つに取り上げており、クリエイティブ産業やエネルギー産業と同様に経済的な観点から支援すべき産業としている。オランダはこれまでも農産物ビジネスの最適なパートナーとして世界中から好まれる存在であり、世界の人口増加が予想される今、効率的な食糧生産に貢献する知識や経験を持つオランダ企業の重要性が、今後一層増すと経済省は予想している。世界が必要としている食糧の大量生産は、持続可能な食糧供給と健康的な食の提供という食の安全に対し、多くの難しい課題をつきつけているが、オランダの農業ビジネスは、こうした社会が直面する食に関する課題を解決する能力を備えた存在だと考えている。オランダの農産業政策は、一歩先の未来を見つめながら、より高度な農業へと発展し、常に世界に誇る農業ビジネス国であり続けるため、たゆまぬ努力を続けている。また、同業界の最先端事業者達は、消費者の要求に合う多様な食の選択を用意し、より健康な食生活が提案できるよう新たな農産物に挑戦している。こうしたイノベーションが行われる過程では、新たに開発された技術を実践に適用する際に、中小企業が革新的な農業技術の実践の場となっている。経済省は、さらなるイノベーションの発生を促すため、中小企業のイノベーションに関わる割合を20%まで上昇させる支援事業を実施している。支援の結果、例えば、肉の代用品を使った新しい機内食を開発した例などがある。「Top Sectors」の各業界が設定したビジネス目標を実現するため、イノベイティブな中小の企業家、科学者、行政官、当該業界の標準運用者により、「Top Sector」のチームは構成されている。

2.2 海外事業の展開を促進

同業界は、農産物輸出市場においてこれに付随する専門的なサービスや知識を輸出することにより、グローバル市場におけるオランダ農業ビジネスの先導的な立場をより強固なものにしたいと考えている。これまでトレードフェアを中国とロシアで開催。農業ビジネスの海外展開を促進する国は、ブラジル、メキシコ、中国、ロシア、ナイジェリア、バングラディッシュ、ルーマニア、トルコ、南アフリカの成長著しい9カ国である。多国籍大企業は、既にこうした新興国に進出し、ビジネスを拡大しているが、中小企業がこうした新しい市場へ参入する際には多少の支援が必要である。現在9つの国において15の支援事業が進行中である。例えば、ロシアにおいて流通経路を創設したり、知識共有のためのAGRIPARKS注3をメキシコに設置したり、ナイジェリアにジョイントベンチャーを設置した。また、「持続可能な企業と食糧安全保障基金」は最初の支援事業を募集し、29事業が採用されている。現在、60余の中小企業が海外の農業ビジネスに関与している。

2.3 EU基準を使った欧州域内における事業の展開

Bio4Packは、パッケージ製品の環境への配慮や安全性などに関するEN13432注4という欧州基準を満たしたさまざまなパッケージサービスを提供する企業である。2009年にオランダのSylvaphaneというパッケージ用フィルム製造の企業を親会社として設立され、同グループ企業により支えられた確かな品質管理によるパッケージ製品を提供している。主に、鮮魚、精肉など生鮮食料品を対象にした消費者向けパッケージを提供しており、パッケージから生じる不必要な環境汚染を最小限に抑制する製品の提供を約束している企業である。同社の製品は、化石燃料を使っておらず、砂糖工場から排出されるデンプンから作られているだけでなく、製造過程においても温暖化ガスの排出を最小限にとどめる努力をしている。農産物の加工過程で発生する副産物を上手に活用しながら、持続可能な事業という現在の社会の要求にも応じた農業ビジネスを海外に展開している事例である。同製品は、今後も環境への配慮が強く求められることが予想されるため、年率30から50%の成長が期待されており、主な販売市場として、ドイツの他、スイス、北欧諸国、英国、フランス、スペイン等が計画されている。

参考

3.農産業の研究開発にかける豊富な意欲と設備や資金

オランダは、農産業の研究開発に対する民間投資額が対GDP(2012年のGDPは83兆円(5993億ユーロ))比で世界第二位である。農産業に関する学術論文数も欧州のトップ10大学のうち2大学はオランダである。中でも、Wageningen大学は、欧州における農産物とその栄養素研究において最も認められている研究機関の一つである。また、オランダには、欧州最大の食品試験パイロットプラント「NIZO food」があり、同施設が、さまざまな食品や食材の研究開発に活用されている。

最近の研究成果では、欧州の研究開発事業であるFP7(第7次研究枠組み計画)とオランダの園芸生産物委員会(PT:Productschap Tuinbouw)の支援を受けて、Wageningen大学の園芸温室研究センターが、3年半余の歳月をかけて実施していたパプリカの自動収穫ロボットが、初めて商用温室での収穫作業を成功させた。10カ国にわたる14パートナー企業の協力で、センサーの新技術、ロボットアームと握り、およびそのコントロール知能を開発している。自動収穫ロボットアームに連動した3台のカメラは、パプリカの色、形、距離などのさまざまなデータを収集し、収穫時期が到来しているパプリカのみを傷つけずに収穫できるよう計算を繰り返し、高い精度で対象物を認識し収穫する。今後は商用実践に向けてビジネスパートナーを探す。

また、オランダが生産する主な野菜の一つであるキュウリに頻繁に発生する病である「Mycosphaerella」の検出方法の研究がすすんでいる。「Mycosphaerella」は、内部から感染し、野菜を腐らせてしまう。熟練生産者でも外からその感染を検知する事は難しい。しかし、野菜を腐らせるため商品価値を著しく損なうだけでなく、感染している野菜を分別できなければ、感染被害が拡大してしまう。毎年、年間約830億円(600万ユーロ)の被害があると推計され、生産者も小売業者も「Mycosphaerella」の完全除去を切望している。2014年、Wageningen大学研究センターと企業は、キュウリ選別時に自動で「Mycosphaerella」感染物を分別する方法の研究に取りかかった。光学的な透過度あるいは反射度、または色彩、形状、表面の状態など、さまざまな角度から収集した情報による検出を検討している。

4.国際的な企業に成長した家族経営のオランダ企業「Lely」

オランダには、労働集約型の酪農業の労働環境を改善するとともに、牛乳の品質と生産性を高めることに尽力した結果、そのサービスやノウハウを輸出することができる国際的なビジネスを展開するまでに成長した酪農家がいる。

農業は、防衛分野などを除いて、医療とならぶロボット活用が確実と思われている分野である。世界で活躍するオランダ発の自動搾乳システム「Astronaut」は、Lelyというオランダの家族企業により開発された。1940年代に牧畜農業をしていたこうした農家が、自らの牧畜を見直し改善して行く中、その改善手段自体が商品となり、牧畜を総合的に改善するサービスを提供する企業へと成長した。

現在、同企業は約2000人を雇用し2万機に及ぶ搾乳ロボットを欧州域内はもちろん、米国やアジア諸国など世界中に導入し、2013年には、年間830億円(6億ユーロ)の総収入をあげた。一体の価格が約1400万円(10万ユーロ)の同社製搾乳ロボットは、数百もあるセンサーにより精密に管理されたロボットで、一日60から70頭の牛を搾乳することができる。時間と労働負荷が大きい搾乳は、人手によって行われる場合は通常朝晩2回であるが、このロボットを使えば1日3から4回の搾乳を行うことができる。しかも搾乳は、牛自身が自発的にマシンに入る事で行われており、人の介入は最小限である。衛生状態も人が関与しないことで向上し、搾乳口や乳房の消毒は水蒸気を利用しており、余分な化学物質を使う事なく、99%のバクテリアを死滅させている。また、搾乳ロボットは、単に搾乳するだけでなく、個々の乳牛に最適な濃厚飼料を与えており、牛にとってより最適な栄養補給をする事が可能になり、牛乳の生産量を向上させるだけでなく、牛の健康管理も向上する。搾乳時間も短縮され、乳牛への不要な接触や行動を制限する事がなくなるため、牛へのストレスが軽減された結果、乳牛の寿命が30パーセント延びたという報告がある。

搾乳は、餌におびき寄せられ自発的に搾乳ロボットのケージ内に入ってきた時に行われる。全ての乳牛はマイクロチップ付きのタグで管理されており、ケージ内に侵入した際、該当する牛のデータが呼び出され、搾乳頻度や健康状態などの記録をもとに、搾乳に適している時期かどうか判断、搾乳すると判断すれば、洗浄作業に入る。一回の搾乳で10L程度のミルクが搾乳できるかどうかが判断の基準で、これ以下の場合は、非効率なため搾乳せずそのままケージから牛をリリースする。搾乳ロボットは一日に60から70頭の搾乳を行う事が出来、搾乳された牛乳は、即座に複雑なセンサーで濃度や成分を分析し、不適切な成分が検出された牛乳は即座に自動的に分離され、生産ライン外に排出される。また、余分な脂肪分は搾乳と同時に分離され、子牛の餌として蓄積される。搾乳から成分の判定までは約4秒で、その後、37度の牛乳は2度程度まで温度が下げられる。

そして、この搾乳ロボットは、不具合が生じた場合、世界中どこにいても発生の数秒後には、管理者の携帯にテキストで不具合の状態を送信し、知らせることができる仕組みを備えている。管理者は、簡単な不具合であれば問題解決のための適切なコードを返信すれば、指示に従いシステムが自動で問題を解決する。また、管理者は、システムのどこが悪いのか実際にみたければ、インターネットに接続できるPCなどが身近にある状況であれば、農場内にあるカメラを遠隔操作して、実際に不具合が起きている場所の映像をリアルタイムでみる事も可能である。そして、遠隔操作でシステムの不具合を調整する等、その後の指示を出すこともできる。

参考

5.欧州地域における食物の流通をつなぐICTの活用:eFoodchain

農産物の輸出大国であるオランダが積極的に進めているICTの活用分野に、農産物の物流チェーンがある。欧州域内における農産物の全流通過程において消費者が農作物の生産地から加工所や輸送経路など食材の履歴を確認できるレベリングが実現すれば、質と価格で競争力のあるオランダの食材は、そのメリットを享受できると期待している。

欧州の食物流通の発展に関する変遷は、2009年にフランスが食物の流通に関する法規制を導入したことに始じまっているが、農産業におけるICTの活用が普及した現在でも、欧州域内で農業に従事する企業の99%が中小企業であり、各企業が独自のシステムを導入しているため、ICTは域内の物流という点においては思ったほど効果的に活用されていない状況にある。加えて、各国の異なる法規制に規定された認証制度などが障壁となり、国境を越えた物流ではビジネスデータの流通は困難である。

2013年に欧州連合のJRC(Joint Research Centre)によりまとめられた、ローカルな食材流通に関する科学的な分析と政策に関する報告書「Short Food Supply Chains and Local Food Systems(SFSCs)in the EU. A State of play of their Socio-Economic Characteristics」では、多くの欧州加盟国が、食材に対し適切な価格と質を求めていることが明らかになった。また、新鮮という質が保証されているとの期待から近隣で生産された食材を好む傾向が高い。尚、調査にあたり、SFSCsとは半径20kmから100km圏内で食物が流通していると定義。

2014年6月18日、19日に「農業と食糧ビジネスにおける未来のICTとロボット利用」をテーマに開催されるSmart AgriMatics 2014では、調達から輸出入に至る農業ビジネスの全過程で発生するデータの互換性を課題にeFoodChainのイベントも行われる。同イベントの後半では、事前に「eFoodChain B2B Connector」をインストールしたノートブックを各自が持ち込み、ハッカソンスタイルでthe eFoodChain Interoperability Frameworkに基づいたソリューションの開発を試みる。

参考

6.アフリカでの農業ビジネス展開

現在、オランダは、農業ビジネスの展開先として、アフリカに注目している。同地域は、人口の増加が見込まれ、今後高い食糧需要が見込まれるだけでなく、同地域の半分は未耕作地(約200ミリオンha)であり、多くの開発可能性を残している。オランダの持つ農業技術や知識および経験を、新たなアフリカという地での適応方法を探ることで、今後の農業ビジネス拡大につなげられると考えている。例えば、オランダのハーグに本部をおき、世界の貧困対策を手がけている非営利組織SNVは、農業を通じて世界中の貧困に苦しむ人々に収入の糧を提供している。2014年3月、オランダの企業であるKIT(the Royal Tropical Institute)とパートナーシップ契約を結び、家族のためだけに営まれているような極小規模の農業を小規模ビジネスとして育てる事業を実施している。例えば、ラクダのミルクが牛乳より高い栄養成分注5を含むという調査に基づいて、ケニアでは、家族のために飼育していたラクダのミルクをナイロビの市場で販売することができるようにした。昨年1月、オランダ政府は米国の元大統領であるビル・クリントン氏のClinton財団とともに、アフリカの国際的な農業事業を実施することで合意した。同事業は、アフリカにおける食の安定供給を確保するとともに地域経済を活性化し気候変動にも対応しようというものである。職業訓練農場を作るほか、ルワンダでは極小農家を対象に環境に配慮したClimate-Smart農場の設営に乗り出す。オランダ政府は、同事業に約305億円(220百万ユーロ)の資金を投資する予定である。タンザニアとマラウィの約2万戸に及ぶ農家を対象に、Climate-Smart農業の普及に乗り出す。オランダは、Climate-Smart農業に関する豊富な経験と知識をアフリカの農家とシェアし、アフリカという厳しい気候の中でも耐久生の高い持続可能な農業を開発したいと考えている。職業訓練農場は、情報システムや研究を通して、ルワンダのClimate-Smart農業を支える。

オランダの農産業業界は、常に新しい挑戦に取り組んでいる。業界のこうした取り組みを支えているのは、適切な知識やスキルを持つ人材とイノベイティブな起業家の存在である。こうした農業ビジネスの発展を停滞させないため、才能ある若者を農業へと惹き付けることができる適切な労働環境を整える事は非常に重要である。そして、農業ビジネスの労働環境の改善は、業界の人材確保のみならず、ひいてはその労働環境を提供できるシステム自身が新たに提供できるビジネス商品として成長していき、オランダ農業ビジネスは好循環を生み出していく。

参考

注釈

  • 注1換算レートは1ユーロ=138.5円
  • 注29つのトップ業界とは、農産業、医療と生命科学、水ビジネス、高度技術と原材料、ロジスティックス、クリエイティブ産業、園芸と品種改良、エネルギー産業、化学産業。(参考:2013年10月発行の中間報告「Enterprise policy at Full Speed:Progress report on enterprise policy 2013」)
  • 注3「Top Sector」として選ばれた農産業分野で、今後オランダが世界を舞台とした輸出市場で一層の強さを誇る事が出来るよう、農産業ビジネスにおいて高いポテンシャルを持っていると思われる、アジア、アフリカ、南米を対象として、これらの地域における農業や農作物を理解し、農産物輸出ビジネスに役立てるという施策を進めている。AgriParksは、こうした施策を実施する過程で得た情報を共有するために設立された組織。
  • 注4EN13432基準を満たすには、生分解により原型をとどめない形で堆肥可能な素材でできている必要がある。また、この分解過程ではいかなるマイナス要因をも生じない事が求められている。尚、こうした基準を満たしているか否かの試験方法についても同基準により規定されている。
  • 注5ラクダのミルクは、鉄分が豊富で、ビタミンB・Cは約3倍含まれているが、その一方で脂肪酸は少ない。