2014年8月27日

2020年夏の東京オリンピックが決定した。本稿では、国際都市ロンドンで開催された2012年夏のオリンピックから興味深い取り組みについて紹介する。緊縮財政の中新たなメディアを活用したデジタルオリンピックの取り組みと潜在的な人材を活用する大規模なボランティア組織は、グローバル化の進展が期待される2020年東京オリンピックで参考になると思われる。

1.国際都市ロンドンで開催したオリンピック

2020年夏のオリンピック開催地を東京が獲得した。2012年夏のオリンピックは、大都市ロンドンで開催されているが、国際都市ロンドンを舞台に催されたオリンピックからは、多くのことが学べる。オリンピック自体は一定期間突如として現れる巨大な祭典で、終了後は基本的に跡形もなく消滅する。特に、ロンドンのように既に成熟した都市で行われるオリンピックは、大規模な都市の開発やインフラ整備をオリンピックに期待するだけでなく、このような機会を利用し、海外から投資を呼び込んだり、新しいビジネスモデルを実証する場や人材育成の機会として活用するという考え方があった。大会準備に際しては、まず(1)既存のリソースを最大限活用する。次に新たに導入しなければならないものについては、(2)本来社会として必要であるため、オリンピックを機会に社会へ取り入れ、大会後も長期に活用できるものとする。そして最後に(3)大会のためだけに必要なものは、社会や環境への負担を配慮し、解体・消滅を前提に作る。という考えで行われた。ロンドンオリンピックは、さまざまな新しい試みに取り組んだが、その後の状況なども含めて、興味深い事例について紹介する。

2.ポップアップ非営利企業:ロンドンオリンピック組織委員会「LOCOG」の仕事

オリンピック組織委員会は、大会の為だけに存在する代表的な組織であるが、その計画段階から実行までを一貫して推進したのは、ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会(LOCOG:London Organising Committee for the Olympic and Paralympic Games)で、ロンドンがオリンピックの開催地として選ばれた直後の2005年7月に創設された。オリンピックとパラリンピックの両大会を一つの委員会が組織したのは、オリンピック史上初めての事で、この事実がこれまでにないパラリンピックの成功に無縁ではないと思われる。LOCOGは、英国オリンピック委員会(BOA:the British Olympic Association)、大ロンドン市、文化・メディア・スポーツ省(DCMS:the Department for Culture, Media and Sport)との間で結ばれたジョイントベンチャー契約に基づく非営利企業である。委員長を努めたセバスチャン・コー(the Lord Sebastian Coe)氏は、彼自身オリンピックメダリストでもある政治家で、オリンピック招致から計画・実施と一貫してロンドンオリンピックに携わった人物であった。

LOCOGが担当する事業は多岐にわたり、例えば、会場と競技管理、スポンサー管理、チケット販売、開会・閉会式、ボランティア事業、プロジェクトの工程管理についてIOCへ報告業務などがあった。また、インフラ整備を含む全会場の競技開催準備に関する責任を有しており、多くのテストイベントの実施や一時的に設営される競技会場などの設置運営も実施した。こうした複雑な事業を期限内に滞りなく実施するにあたり、最高経営責任者として任命されたのは、元インベストメントバンカーで政治家であるポール・ダイトン(Paul Deighton)氏であった。7年余におよぶLOCOG活動期間中、同組織は最盛期でおよそ9千人の雇用を抱え、7万人のボランティアと15万件を超える契約事業を実施した。LOCOGの組織構成は以下の通りである(表1参照)。

【図】

図1:LOCOG組織構成イメージ図
出典:LOCOGに関する公文書館記録より作成

LOCOGは、2012年9月、大会終了と同時に解散手続きを開始した。解散事業に財務最高責任者として携わったニール・ウッド(Neil Wood)氏は、その難しさを、通常と異なる大きな組織であっただけでなく、多くの資産を抱え支払い能力のある状態での解散という希有な例だったためと語っている。この解散計画は、大会開始以前の2009年中頃に開始しており、組織としてはまだ雇用を拡大するというような時期であった。LOCOGの解散予定は、大会終了1年後の2013年6月であったが、実際は予定よりも1ヶ月早い2013年5月30日に正式な清算処理が完了した。その結果、LOCOGはオリンピック史上最も早く整理解散することができた組織委員会となった。このポップアップ企業の運営と解体の成功は、ユニークなオリンピック運営モデルを提示したと言える。

LOCOGの最終決算は、一時赤字になるという情報も流れたが、52億円(3000万ポンド注1)の余剰を計上した他、総事業費の一割弱にあたる政府資金330億円(1億9千万ポンド)を節約することに成功した(内訳は表1参照)。会計報告の詳しい内容はLOCOG報告「Report and accounts for the 18 month period ended 30 September 2012」と「Report and accounts for the 6 month period ended 31 March 2013」に詳しい。

予算元 節約金額(円)
内務省(Home Office)セキュリティ補助費 215億
政府オリンピック補助費 30億
緊急予備費(会期開始前・会期中) 33億
緊急予備費(会期終了後) 52億

表1:LOCOGにより節約できた政府資金の内訳
出典:IOC London 2012 Documentsより作成

  • 注1本稿で使用する換算レートは1ポンド=173円

参考

3.デジタル放送が後押しした新しいメディアの活用

2012年は、英国における最後のアナログ放送の電波配信が終了し、本格的なデジタル放送時代が開始した年であった。ロンドンオリンピックも初のデジタルオリンピックと言われたように、デジタルメディアの放送カバレッジの方が、従来のテレビ放送カバレッジを初めて上回ったオリンピックであった。BBCは全ての会場で行われる全ての競技を、リアルタイムかつ無料で英国内全土に届けた。これらの放送は、オンライン視聴可能で、最も視聴されたライブストリームは、80万人以上が観戦した。また、3D放送(計230時間以上)が行われた初の大会でもあった。米国でもNBCが、5500時間以上の放送カバレッジをリアルタイムでオンライン提供した。

そして、IOC(International Olympic Committee)は、初めてYouTubeで競技を放送した。オリンピック放送権を獲得したスポンサーのいないアジアとサブサハラにある64の国と地域注2に対し、2700時間の放送カバレッジでライブとオンデマンド放送を実施した。約6000万件のビデオストリームを配信し、そのうちライブストリームは3500万件だった。また、ライブストリームの視聴形態の6割は、リマインダー付きのオンデマンドサービスだった。Youtubeの購読者数は、オリンピック期間中に10倍増加、全世界の約70億人のうち、48億人の人がオリンピックコンテンツを視聴したと記録されている。これまでにない多くの人々が世界中でオリンピックを楽しむことができた大会となった。

ロンドン大会は、デジタル放送へ移行し、無料で視聴できるオンデマンド放送が増加しただけでなく、デジタル放送番組の使い方を一般に普及させるきっかけにもなった。IOCの公式SNSは会期中400万人のフォローワーが増加し、容易にシェアできるコンテンツはツイッターなどを通じて拡散した。ロンドン大会の教訓は、過去の経験から学びながらも、変化の早い視聴者のメディア利用動向、特に若い世代の動向に注意しながらICTメディアのインフラを構築をすべきと伝えていた。

  • 注2アジア(アフガニスタン、バングラディッシュ、ブルネイ、ブータン、カンボジア、東チモール、インド、インドネシア、イラン、ラオス、マレーシア、モルジブ、モーリシャス、モンゴル、ミャンマー、ネパール、パキスタン、パプアニューギニア、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナム)。
    サブサハラ・アフリカ(アンゴラ、ベニン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、カーボベルデ、中央アフリカ共和国、チャド、コモロ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、コートデュボワール、赤道ギニア、エリトリア、エチオピア、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、レソト、リベリア、マダガスカル、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、セネガル、セーシェル、シエラレオネ、スワジランド、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ)。

4.急増した無料WiFiスポット

海外からの旅行者を含む多くの観光客がロンドンを訪れたオリンピック。スマートフォンや携帯端末が普及してきた当時、公共スペースにおける無料WiFiスポットは、日増しに充実していたが、オリンピックを期に飛躍的に拡大した。当時、オリンピック会場は通信インフラのオフィシャルパートナーであるBT(British Telecom)が提供し、ロンドンの地下鉄はVirgin Mediaが無料WiFiを提供していた。この他、ロンドンエリアで接続の良さを誇るO2 U.K.やBskyBが運営する携帯通信事業The Cloudなどが、さまざまなエリアをカバーした結果、人々は、オリンピック公式サイトが提供する競技スケジュールや結果速報をみたり、離れている会場の移動手段を調べたりと、便利にインターネットサービスを使うことができ、好評だったと言われている。

BTは、来場者およびオリンピック期間中にロンドンを訪れる人々に十分なサービスを提供するため、オリンピック会場内外を含むテムズ川沿い(約44キロメートル)およびロンドン市内の繁華街や観光地に50万箇所のWiFiスポットを設置した。そして、メイン会場となったオリンピックパーク内(250ヘクタール)では、オリンピック史上初、1500箇所におよぶWiFiスポットを設置し、高密度な無線LANを構築、組織委員会スタッフや観客が使える公衆無料WiFiサービスを提供した(詳細はCASE Study WiFi access at London 2012参照)。BTは、この事業から、さまざまな事を学んだ。無線LANコントローラ60基の設定が、従来の常識では10時間以上かかるとされていたが3分程度で行える事が確認でき、生産性は200倍以上向上した。WiFiインフラの管理もサーバーとアプリケーションの管理で4名を予定していたが、1人で可能だった。サーバー台数も見積もりは10台であったが実際は4台で済み、多くの業務効率化がはかれる事を実証できた。BTが提供するWiFiサービスは、その後もBTの顧客には無料で開放され、英国内にある500万箇所余のスポットを無料で利用できる他、海外においても、BTのパートナーであるFONとの契約で200万箇所におよぶWiFiスポットの利用も可能となった。数百万人のBT利用者は、この恩恵を受ける他、BTとパートナー契約を結んでいる企業の顧客も同様である。2012年5月の3ヶ月間で、BT WiFiの利用時間は10億分以上となったが、この傾向はオリンピックの一時的影響ではなく、その後も利用者のWiFiサービス需要は増加、オリンピック後もBTは、駅、空港、公共施設、ショッピングセンターそして、コーヒーショップやパブなどWiFiスポットの増設を継続している。

Virgin Mediaは、大会期間中ロンドンの地下鉄内におけるWiFiサービスを無料で提供したが、会期終了後もWiFiスポットを増設し、現在はロンドンの地下鉄約120駅にWiFiスポットを設け自社顧客に対し無料でサービスを提供している。他社顧客に対してはプリペイド方式注3で利用料を課してサービスを提供している。

この他、The Cloudは、英国全土で11000箇所のWiFiスポットを主に無料で提供している。O2は、ウェストミンスターやチェルシー、ケンジントンやリージェントストリート、などロンドン中心街にある繁華街で多くの人が集まる広場のWiFiサービスを提供していた。2013年7月には、O2契約者は地下鉄内でも無料WiFiが使えるようになりVirgin MediaとWiFiサービス面で遜色がなくなった。尚、現在O2が結んでいるロンドン中心街で利用できるWiFiネットワークの契約は2015年までである。

オリンピックを境にWiFiネットワークの利用量は3倍に増加したが、その傾向は一時的なものではない。ロンドンオリンピック開催当時の2012年時点で、世界人口の約6割がスマートフォンの利用者だと試算されていたが、2020年には7割に到達する見通しである。旅行先では、時刻表や地図検索など、インターネット検索は非常に便利なツールである。国内外からオリンピック観戦に訪れる旅行者にとっても、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末がアクセスできる無料WiFiスポットサービスは、非常に嬉しいサービスのはずである。世界のトレンドをみても、パリの地下鉄や駅、バス停では無料WiFiが利用できるし、特に旅行者にとっては、費用の嵩むローミングサービスは評判が悪く、現在は使い捨てSIMカードを購入する人が多い。日本でも、SIMフリーの携帯が使える環境を整備するか、無料WiFiサービスの充実が、重要なオリンピックサービスの一つになるだろう。

  • 注31日-346円、1週間-865円、1ヶ月-2594円

参考

5.ネットワークを介し遠隔管理されるボランティア組織「GamesMaker」

ボランティア活動の長い歴史を持つ英国。オリンピック開催もロンドンは2度目であるが、実は、前回1948年に開催したオリンピックで、ロンドンは初めてボランティアを活用した大会でもある。2012年のロンドンオリンピックを支えた巨大なボランティア組織は「GamesMaker」と呼ばれ、ファッショナブルとは言えないがその鮮やかなユニフォームとともに、ロンドンオリンピックを象徴するものの一つとなった。ボランティアは、上手に使えば必要な時に必要な人材を確保することができる効果的な人材活用方法の一つであるが、必ずしも費用が押さえられるというものではない。人材を有効活用するための適切な準備とボランティアを支える基盤が重要で、こうした背景があってはじめて、費用対効果の高い人材活用が可能となる。

ロンドン大会のボランティア募集は大会開始の2年以上も前の2010年春、LOCOG公式サイトに応募要項が公開され始まった。応募者は、自分のアカウントをLOCOGサイトで作成し、期日までに英語以外に使える言語や所有資格など自分の得意分野や、ボランティアの希望日程などをオンライン登録した。ロンドンオリンピックでは、およそ2000人のコアスタッフがリーダシップをとり、ネットワークを使った人材管理システムを活用、募集の3倍を超える応募者の管理から選抜作業、訓練、そして860種にもおよぶGamesMakerの役割を各ボランティアへとマッチングさせるまでのオペレーションが行われた。GamesMakerの約30%は、イベントサービスと呼ばれる会場内外のさまざまな場面における観客に対する直接サービスを提供した。例えば、80にもおよぶ異なる会場に分散したGamesMakerは、電気自動車の運転手や、セキュリティのサポート、マラソン競技の水分補給所やスタートラインにおける選手補助、そして通訳や選手関係者へのサポートなど多様な業務を担当した(表2参照)。GamesMakerと運営側の間でかわされるコミュニケーションは、ネットワークを介し、いつでもどこでもアクセスできる気軽さがある反面、関係が希薄で容易に切れてしまうリスクも同時にあった。特に、大量のボランティアを確保するため、一年以上も前から採用したボランティア達のやる気を維持し続けることは、無償だけに難しい。LOCOGは、開催までの間、GamesMakerを激励する工夫をセレクションイベントや訓練機会の随所に設けるだけでなく、テストイベントに招待したり、約1万人をスタジアムに集めた大規模なオリエンテーションや各地の競技会場で同様のイベントを開催した。

業務分野 オリンピック パラリンピック
イベントサービス 27% 31%
交通 19% 16%
セキュリティ 6% 5%
競技 6% 6%
プロトコル&言語サービス 6% 5%

表2:GamesMakerが担当した業務分野トップ5
出典:London GamesMaker Survey 2013年7月

ボランティアは、オリンピック会場に期間中通う事ができ、合法的に英国滞在可能なステイタスを持っている者であれば、世界中どこからでも応募ができ、約半年間の募集期間でおよそ24万人の応募者が集まった。大多数はロンドンやイングランド在住者であったが、スコットランドや北アイルランドを含む英国全土からの参加があった。加えて、人の往来が自由である欧州なだけに、遠くはイタリアやドイツ等、EU諸国からの応募もあり、国際色豊かなボランティアが形成された(図2参照)。総勢7万人となったGamesMakerは、若年層の失業対策的側面を持っていたことから、16歳から24歳の参加者が最も多く23%であった。その他は、子育て期間中と思われる年齢層(35歳から44歳)が多少他の階層と比較して少なかった(14%)以外、64歳までの各年齢階層から2割弱程度の参加者がおり、GamesMakerは、バランスよく労働可能年齢の人々により構成されていたといえる(図3参照)。そして、全体の4割は、ボランティアを経験するのは初めてだった。彼らがボランティアに費やした総時間は、訓練に150万時間、会期中の800万時間、合計950万時間と推計されている。

【図】

図2:GamesMakerの居住地
出典:London GamesMaker Survey 2013年7月

【図】

図3:GamesMakerの年齢構成
出典:London GamesMaker Survey 2013年7月

参考

6.ボランティアの面接はボランティアが実施

ボランティア7万人の選抜は、2010年10月、応募受付を締め切ると開始した。12月には書類選考通過者に対し、自分のアカウントにログインし、二次審査面接の日程を予約するよう依頼を通知した。2011年の2月以降より順次行われた面接は、ボランティア業務の適性を見極めるとともに本人のボランティアに対する希望を確認、候補者とボランティア機会の最終的なマッチングを行った。驚くべき事は、このボランティア選抜イベントの運営とインタビューを実施していたのもボランティアだったことである。Trailblazerというボランティア団体が、GamesMakerの二次選考イベントを担当。2011年の2月から2012年3月の間に最低4ヶ月の間毎週1回4時間以上の時間をこの業務に割く事が出来る約170名のTrailblazerボランティアを確保した。彼らは、面接官はもちろん面接の準備やデータの入力などさまざまなGamesMaker選抜イベント業務を実施した。尚、面接官を担当するものに対しては、2011年1月、業務に適切な人物であるかどうか一日研修を通して確認している。

7.オリンピックのボランティアは人材育成の機会

英国において2008年から2010年にかけては失業率が急激に上昇し雇用環境が悪化した頃であった。2011年の年末から2012年の2月にかけては8.4%と過去10年で最悪の数字を記しており、特に16歳から24歳までの若年失業者は100万人を超え、過去23年間で最悪の数字を記録していた。当時、失業給付金を支給されている総数は160万人で大きな社会問題となっていたため、オリンピックは、雇用対策に貢献することが期待されていた。例えば、オリンピック会期中、オリンピック会場では計46000人を雇用していたが、このうち10%は前職のない失業者であった。また、契約事業者のうち34%が元失業者で、一時的ではあるが失業者を減らす事に貢献した。こうした一時的な雇用の他、大会会場近隣ショッピングセンターでは、オリンピックパーク跡地にできる住宅整備による長期的な人口の流入期待から、2000人程度のパーマネント雇用を失業者から採用した。しかしながら、若年失業者は経験がないため、比較して職に就く事が難しい。ロンドンオリンピックでは、長期的な失業率回復への一方策として、こうした若年層や大学生をターゲットに、社会経験や資格取得につながるプログラムを提供していた。

1つ目は、「Young presentaters」事業。選ばれた15名の若者達が、オリンピック開催前の準備段階において、オリンピックの裏側に潜入取材し、短い報告ビデオにレポーターとして出演する。この事業は、スポーツ記者になりたい若者など、将来の夢に向けて最初の一歩となる経験の場を提供した。製作したビデオクリップは、Youtubeで公開されSNSを通じて拡散する。2つ目は、BP(British Petroleum)が出資していた「Young Leaders」事業。100人の社会的不利な成育環境にいる青少年を対象に、コミュニケーションスキルと対人スキルを学ぶ事が出来るコミュニティーサービスへの参加機会を用意した。そしてその後は、GamesMakerとしても働ける機会を提供した。3つ目は、大学との連携事業。観光マネージメントやイベント経営などGamesMakerの経験と関連するコースと連携し、GamesMakerの活動をコースワークの一部として組み込む。学生は実践的な経験をつむ事ができ、オリンピック側は、質の高いボランティア人材を確保することができた。ある大学では1000人規模で大学生がボランティアに参加したと報告がある。最後に、マクドナルドが出資した職業資格取得支援事業。GamesMaker経験者は、同事業に参加すれば顧客サービス業務に必要なThe City & Guildの Level 2注4資格を取得することができた。全てのGamesMaker参加者に対しオンライン研修への招待状をメールで届け、受講希望者を募った。義務教育修了資格がないなど就職で不利な立場にいる失業者対策の一つである。マクドナルドは、資格取得者には面接をし、同社支店で職に就くチャンスを提供するとしていた。GamesMakerの選抜過程では、簡単なITリテラシーや自己のスケジュール管理ができなければ面接機会や回答期限を逸し、候補者は脱落していく。また、GamesMakerとしては、その都度形成されるグループで協力したり、世界中の国から訪れる観客達とコミュニケーションを取る経験もする。GamesMakerに選ばれたことで、資格要件を満たしていることが証明でき、失業者は少ない負担で公的な資格が取得できた。日本においても、オリンピックのボランティアは、社会が活用できていない潜在的にグローバル人材を育成・発掘する機会に利用することもできるだろう。

  • 注4The City & Guild のLevel 2は、義務教育修了試験を最高の成績(A*)で卒業したことと等しいとみなされる資格。

参考

8.東京のグローバル化に向け新たな展開をオリンピックに期待

できるだけ税金を費やさずオリンピックを開催し、しかも、この世界的なイベントを梃入れに一時的ではない経済的効果を得たかった英国。相変わらず、国が抱える負債は思うように削減できていないが、ビジネスの新たな展開を獲得した企業もあった。例えば、Aecon UKは、2016年に開催されるリオデジャネイロオリンピックにおけるオリンピックパークのマスタープラン策定事業を落札した。ロンドンオリンピックのスタジアム建設を担当したPupulousは、2014年のソチオリンピックのスタジアムを設計した。この他、2020年にカタールで開催されるワールドカップ大会においても、計約1千億円(6億ポンド)相当の契約を英国企業が受注しており、国際ビジネスの場で事業を展開している。オリンピックは、世界中から注目が集まり多くの人が訪れる機会となり、東京のグローバル度が試される良い機会となるはずである。さまざまな側面において、東京オリンピックという機会が、日本の国際化を一層進めるきっかけになることを期待したい。

注釈

  • 本文中に記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標であり、敬称名は略させていただきました。