2014年11月21日

2013年10月1日から16日間継続した政府シャットダウンは、ほとんどの連邦政府機関における機能停止と様々な政府サービスの停止を引き起こし、米国の経済活動に多大な影響を及ぼした。本稿では、17年振りに発生した本シャットダウンが米国経済に与えた影響の概観をみると共に、特に、政府シャットダウンが政府のデータサービスやサイバーセキュリティに及ぼした影響について紹介する。

1.一部政府閉鎖が米国の政府活動及び経済に与えた影響

オバマ大統領の医療保険改革を巡る与野党の対立から、2014会計年度(2013年10月~2014年9月)の暫定予算が2013年9月30日までに議会を通過しなかったことを受け、1995~96年のクリントン政権時以来17年振りに一部の政府機関が閉鎖する事態(partial government shutdown、以下政府シャットダウンと称する)となった。同年10月1日から16日間続いた政府シャットダウンでは、約80万人に上る非要職員(the non-essential)が強制的に自宅待機での一時帰休(furlough)を義務付けられたことで、米国政府による各プログラムを通じた活動及び米国経済に多大な被害・影響を及ぼした。

1.1 一時帰休職員の割合等の情報を提供するEnigma社のウェブサイト

政府等の提供する膨大な公開データを活用してデータ同士のつながりを可視化し、ユーザによるデータ利用を容易にする検索プラットフォームなどを提供する米Enigma社は、政府シャットダウン開始後、シャットダウンの影響を示すウェブサイトを立ち上げ、一時帰休を義務付けられている連邦政府職員の割合を各省庁別に示すデータや、シャットダウンの継続期間や未払い賃金額などのデータをリアルタイムで提供していた。

【図】

図:各連邦政府機関における一時帰休職員の占める割合(連邦省庁別)
出典:Enigma社

上図は、Enigma社が同サイト上で提供している一時帰休職員の所属先機関一覧(各機関の箱の大きさは相対的職員数を示す)を示したもので、茶色が一時帰休となっている職員の割合を表している。同図をみると、多いところでは、連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)で98%、米航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration:NASA)で97%の職員が一時帰休を義務付けられるなど、ほぼすべての連邦政府機関で一部の職員が一時帰休となっていることが分かる。また同サイトは、政府シャットダウン下における政府サービスの状況を、「停止中(halted)」、「リスクがある(at risk)」、「機能している(functioning)」の3種類に分類しており、米国勢調査局(Census Bureau)のデータサイトや米政府機関データ公開ポータルサイトの「DATA.gov」をはじめとする主要な連邦データサービスがアクセスできない状況を受け、オープンデータをリスクがあるサービスの一つに分類している。

  • 議会議員や軍、警察・消防など、生命・財産保護に係る安全保障等の理由で閉鎖することが不可能な機関における仕事に従事する要職員(the essential)以外の職員(連邦政府職員全体の40%程度)を指す。

参考

1.2 政府シャットダウンの経済的影響をまとめたOMBの報告書

米行政管理予算局(Office of Management Budget:OMB)は2013年11月はじめ、政府シャットダウンによる経済的損失・影響に関する報告書(Impacts and Costs of the October 2013 Federal Government Shutdown)を発表した。OMBは同報告書において、経済的混乱や米国企業・市民を支援する連邦政府のプログラム及びサービスへの影響、連邦政府職員への影響など様々な観点から政府シャットダウンの影響についてまとめているが、OMBのSylvia Mathews Burwell局長は、本報告書の発表にあたり、同組織のブログの中で、政府シャットダウンによる影響とコストについて主に以下を挙げている。

  • 連邦政府職員の一時帰休に伴うコスト

    一時帰休を義務付けられた連邦政府職員数はピーク時には1日あたりおよそ85万人に上り、同日数の合計は延べ660万日に相当し、これまでに起きた政府シャットダウンの中で最大の日数を記録した。また、職員の一時帰休による生産性低下に伴うコストは約20億ドルに上る。

  • 雇用創出や経済への影響

    大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers:CEA)によると、政府シャットダウンと債務上限の瀬戸際政策の影響により、2013年10月における最初の2週間における民間部門の新規雇用者数は12万人減少した。その他、政府シャットダウンが米国経済に直接的な悪影響を与えた例として、輸出入免許の付与プロセスや個人・中小企業向け融資の停止、全米における国立公園などの文化・観光施設の閉鎖などが挙げられる。

  • 米国市民にとって重要な政府プログラム及びサービス停止による影響

    米国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の臨床センタで治験を受けることを認められている患者数百人の受け入れが滞ったほか、およそ40億ドルに上る税還付処理の遅れ、連邦食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)や米環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)による食品安全性検査の停滞、重要な政府出資による科学研究プログラムの停止など、米国市民が依存する多様な政府プログラム及びサービスに影響が及んだ。

  • 長期的な連邦政府職員への影響

    政府シャットダウンは、2013年はじめに実施された連邦政府職員の3年間の賃金凍結、研修費用の削減、数十万人の職員の一時帰休などの一連の政策に続いて行われたもので、こうした人員・研修費用の削減に伴い、有能な連邦政府職員の獲得及び維持に長期的な悪影響が出る可能性がある。

同報告書を受けて、OMBのBurwell局長は、「政府シャットダウンによるこれらの影響・コストは深刻で幅広い分野に及んでおり、このような自らの手で自国に傷を負わせるような事態は二度と起こすべきではない」とコメントしている。OMBの報告書は、政府シャットダウンにより、米国の幅広い宇宙・科学技術研究や経済活動に影響を与えたことを明らかにしているが、以下では、政府シャットダウンが政府のデータサービスやサイバーセキュリティに及ぼした影響を中心にみていくことにする。

参考

2.連邦政府の提供するデータサービスへの影響

2.1 一貫性を欠いた各省庁による政府シャットダウン期間中のデータサービス提供

2013年10月の政府シャットダウンでは、米国立気象局(National Weather Service)の提供する気象データなど、市民の生命・財産保護に不可欠な政府のデータサービスは継続して提供されていた。一方で、米国勢調査局や教育省(Department of Education:DOE)の国立教育統計センタ(National Center for Education Statistics:NCES)、農務省(US Department of Agriculture:USDA)の農業統計局(National Agricultural Statistics Service:NASS)等がホスティングし、主要なデータリソースを提供するサイトとして民間企業や一般のアクセスが多いウェブサイトにおいては、政府シャットダウン期間中、サイトが完全に閉じられ全ての公開データにアクセスできなくなったことで問題となった。

特に、政府のあらゆるデータセットやAPIを集約し、企業がこれを活用した新たな製品・サービスを一般に提供できるようにすることを目指すデータレポジトリサイトのData.govはオバマ政権のオープンデータ政策の中核を成すもので、同サイトが完全な機能停止に陥ったことは、政府が生成・維持する情報リソースをいつでも企業や一般市民に対してよりオープンにするという同政権の政策方針に反するものとして、対応を疑問視する声も上がった。オープンで透明な政府を推進する米非営利団体Sunlight Foundationの開発者であるEric Mill氏は、現在はインターネット時代であり、「政府シャットダウンにより大部分の政府データが利用できなくなる場合に備え、代替策が必要である」と述べている。政府シャットダウンを受け、上述した機関のウェブサイトのように、政府データの提供及びサイト機能を完全に停止する機関もあれば、環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)や住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development:HUD)のように、「政府シャットダウン期間中は情報の刷新は行わない」との注意書きをサイト上に掲載し、大気汚染データや低価格住宅に関する既存データの提供を継続して行っていた機関も存在した。Mill氏の見解は、政府シャットダウン期間中における各連邦政府機関のウェブサイト運営方法に一貫性がなく、政府がどの政府機関のサイト及びデータがシャットダウン期間中に利用不可能となるか、予め明確に公知していなかったことを批判するものである。

OMBは2013年9月半ば、各省庁に対して政府シャットダウン期間中における組織運営に関するガイダンスを送付しており、ITシステムの運用に関連した政府ウェブサイトについては、「一般による組織情報へのアクセスを継続する利益は、シャットダウン期間中の組織のウェブサイト維持にかかる資金面でのコストを正当化するものではなく、(納税申告等を常に受け付けている米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)のウェブサイトのように)ウェブサイトを維持しないことで組織の重要な活動に著しい損害を与える場合を除き、組織はウェブサイトを閉鎖する必要がある」と勧告していた。しかし実際のところ、各省庁は、市民の生命・財産保護に不可欠な情報提供を行っている機関や、エネルギー省(Department of Energy:DOE)のエネルギー情報局(Energy Information Administration)のように、単年度予算のみに依存せず多年度予算により限られた額の別途資金がある機関はシャットダウン期間中も継続してウェブサイトの運営を維持する一方、ウェブサイトの定期的な更新・運用を行う人材が確保できない機関は、一般からの問い合わせがあった場合等の混乱を避けるために、ウェブサイトを完全に閉鎖する傾向にあったようである。

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2.2 政府シャットダウン中の重要政府データへのアクセス継続保障を推進する動き

米図書館協会(American Library Association:ALA)は2014年2月、同年1月末に開催された同機関の冬季会合で、政府シャットダウン期間中、各政府機関のウェブサイトへのアクセス可否について、一般に予め明確な情報提供が行われていなかったことを問題とし、シャットダウン期間中における重要な政府情報についてウェブサイトでの公開継続をオバマ大統領に求める決議を採択したと発表した。同決議において具体的にALAは、OMB及び司法省(Department of Justice:DOJ)が各連邦政府機関に対し、政府シャットダウン及び他の緊急時、各機関のウェブサイトを通じて一般への重要な情報提供を継続して行うことを、資金面でのコストの裏付けが必要な業務から除外するガイドラインを提示するよう求めている。

またALAは、OMBから各政府機関に対し、どのウェブサイトがシャットダウン期間中に維持、更新、閉鎖されているかといった対応状況に関する情報を米政府印刷局(Government Printing Office:GPO)等の機関に連絡して一般に公知するほか、各機関に対し、どの情報が重要で、シャットダウン期間中も継続して公表すべきかについて決定し、緊急時の対応策を策定するよう指示すべきとしている。その他、ALAは、シャットダウン期間中における政府情報への代替アクセス方法を確立するため、GPO等の適切な機関に対し、各政府ウェブページのクリアリングハウス(各政府サイトの情報を一括して検索・利用できるようにするデータ共有サイト)を管理することも提案しており、政府情報は国民の税金によりサポートされているため、シャットダウン時においても継続してデータを自由に利用できるようにする必要があるとの見解を示している。

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3.連邦政府のサイバーセキュリティへの影響

政府シャットダウンにおいて各政府機関が職員の一時帰休義務付けを余儀なくされる中、各機関のサイバーセキュリティチームを構成する人員も最小限度の要員に削減されたことで、サイバーセキュリティ侵害のケースが増加する可能性に対する深刻な懸念が多数のセキュリティ専門家により提起され、実際に多くの政府機関がサイバー攻撃の被害に遭っていた。連邦CIOのSteven VanRoekel氏は2013年10月2日、各機関における職員の一時帰休義務付けは各機関の決定に任されているため、同氏はシャットダウン期間中の各組織におけるサイバーセキュリティ担当人員数又はIT担当人員数については詳細を把握していないが、米国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)を除く連邦政府機関のサイバーセキュリティ対応人員は最低限しか確保されていないとの見方を示し、「私が犯罪者なら、監視の目の少ないシャットダウン期間を狙うだろう」と述べていた。また同氏は、各機関に対し、コンピュータネットワークへのサイバー攻撃を監視する担当人員を一時帰休義務から除外するよう勧告したが、サイバー攻撃への対応にあたる専門人員の多くは一時帰休扱いとなっており、「リアルタイムでの攻撃対策の遅れが心配である」ともコメントしていた。

OMBや連邦人事管理局(Office of Personnel Management:OPM)は、いずれも政府シャットダウン中のIT人員の配置方法についてガイダンスを提供しておらず、実質的なサイバーセキュリティ対策は各機関の判断に委ねられる中、VanRoekel氏の予想通り、多くの政府機関がサイバー攻撃の被害に遭っていたことが明らかになっている。政府はシャットダウン期間中のサイバー攻撃に関する詳細について公表していないが、特にメディアの大きな関心を集めたのが、連邦政府の選挙資金法制を管理する連邦選挙委員会(Federal Election Committee:FEC)に対するサイバー攻撃である。米非営利調査団体のCenter for Public Integrity(CPI)によると、FECのウェブサイトは政府シャットダウン開始直後の2013年10月1日に中国のハッカーによる攻撃を受けてコンピュータシステムがクラッシュし、データベースにアクセスできない状況となったが、同攻撃発生時、FECの339名の全ての職員は一時帰休となっており、攻撃の対応に当たる担当者は不在の状態にあったほか、問題の対応はシャットダウンが終了するまで行われなかったという。

幸いにも同ハッキングによる政党や選挙候補者への寄付金等の選挙キャンペーンに係る財務情報やその用途などに関する機密情報の漏洩は、これまでのところ確認されていない。CPIは、今回のサイバー攻撃によるシステムダウンの一因は、2012年に独立監査機関が指摘したコンピュータシステムの脆弱性に対する改善措置をFECが怠ったことにあると指摘しているが、シャットダウン期間中におけるサイバー攻撃増加の懸念が大きく取り上げられていた中、サイバーセキュリティ対策にあたる最低限の要員も配置していなかった同組織の体制を疑問視する声は大きい。

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4.根深い予算問題で続く政府シャットダウンの脅威

米国では、1980年以降、18回に及ぶ政府シャットダウンが発生しており、予算が成立するまで不急の政府機関業務が休止される状況に陥ることは、これまでも稀なことではなかった。しかし、1995~1996年以来17年振りに起こった今回の政府シャットダウンでは、10数年前と比較してインターネットの発展と政府機関におけるIT依存が大幅に進んだことへの認識の下、各機関がウェブサイト上で継続的にデータサービスを提供できるようにすることや、最低限のIT技術者をシャットダウン期間中も確保することで組織のITシステムを常に管理することの重要性が改めて問われることとなった。

オバマ大統領は、今回の政府シャットダウンを受け、「ここに勝者はなく、過去数週間における政府機能の停止は米国経済に不必要な打撃を与えた」と発言し、共和党が多数派を占める下院が、予算案を武器に同大統領の推進する医療保険制度改革の延期などを要求したことを痛烈に批判している。政府シャットダウンが再び起きるのを防ぐため、財政年度末までに議会が予算案の合意に至らなかった場合、議会承認の獲得又は政府シャットダウンを行わずに、120日間は既存(前年度)の予算水準を維持する「政府シャットダウン終了停止法案(End Government Shutdowns Act)」を提案する動きもRob Portman上院議員(共和党、オハイオ州選出)によりみられているが、同法案には政府シャットダウンといった抑止力が働かなければ、議会における予算争いを長引かせるだけとの批判の声も上がっている。米上・下院議会は2013年12月、2015年秋までの2年間の予算案を可決し、これにより政府シャットダウンは当面回避されることになったが、政府債務の上限引き上げ問題も含め予算案を巡る問題は根深く、議会における予算の瀬戸際交渉が今後再び政府シャットダウンを引き起こす可能性は高いと予想される。

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注釈

  • 本文中に記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標であり、敬称名は略させていただきました。