2015年1月16日

Willis Group Holdings
北米部門Willis North America
シニアバイスプレジデント

Richard Magrann-Wells

Eコマースやネットサービスプロバイダーによる決済/資金移動サービス拡充の動きに、金融機関が警戒感を募らせている。背景には若年層を中心に、イノベーションにより利便性が上がった金融サービスを、ノンバンクから利用することに抵抗がなくなっている現状がある。一部の金融機関では、IT企業の買収や提携を通じてイノベーション導入に対応する動きもあるが、スピード感の差により、ノンバンクとの競争には苦戦を強いられるとの見方が強い。金融機関はその存続をかけて、次に来る一手の模索を続ける。

金融機関がEコマース大手PayPalやAmazon、ネットサービスプロバイダー大手Googleなど、幅広い顧客情報を保有するプレイヤーの動きに警戒感を強めている。例えばGoogle Walletに見られるような資金決済や資金移動のサービスなどは、金融機関がこれまで主導してきた金融サービスと競合する。また、ノンバンクのプレイヤーが顧客のライフスタイルなどの豊富な非金融情報を、決済情報と組み合わせ、新たな金融サービス提供に反映させ始めれば、金融機関の存在そのものが脅かされると見ているのである。この背景には、特に若年層(18歳から34歳)において、既存の金融機関のブランドよりサービスの利便性を重視する傾向が強まっていることがある。つまり、積極的にイノベーションを導入したノンバンクから金融サービスを利用することにあまり抵抗が無いのである。2014年春に国際的なコンサルティング大手Accentureが実施した調査によれば、若年層の約半数が、もしPayPalが銀行サービスを提供したらこれを利用すると回答しており、もしGoogleが銀行サービスを提供すればこれを利用すると40%が回答しているという。また、さらに金融機関が警戒感を募らせる理由としては、増加するコンプライアンス負担が、イノベーションへの投資でノンバンクに遅れをとる要因となっている点が挙げられる。金融業界は他業界に比べ、リスク管理やデータ保護、資金洗浄防止策などにおいて規制が厳しいが、金融危機後に成立した金融改革法により、新たなデータ収集/分析/報告にかかる負担が上乗せされた。こうした一連のコンプライアンス負担の増加は、中小の金融機関になるほど深刻さを増す。一部の金融機関では、こうした厳しい環境にあってもイノベーションを導入しようと、すでに技術を持ったベンチャーなどとの提携や買収を進めるケースも増えてはいる。しかし、それでもEコマース大手やネットサービス大手のスピード感に今後も太刀打ちできるかどうかに疑問を投げかける声も根強い。金融機関は今後その存在意義をどう示していくのか、次なる一手としてどのような策を展開する必要性があるのか、そして10年後、20年後の金融サービス市場はどういった様相を呈しているのかなどについて、国際的な大手リスクアドバイザー/保険ブローカーWillis Group Holdingsの北米部門Willis North Americaでシニアバイスプレジデントを務めるRichard Magrann-Wells氏に意見を聞く。

Richard Magrann-Wells氏へのインタビュー

Q.現在の金融サービス市場における金融機関の位置づけは。

モバイルやタブレットの普及により、特に決済サービス分野については金融機関だけでなく、小売大手やネットワークプロバイダー、モバイル決済技術を持った大小のIT企業など、ノンバンクのプレイヤーが影響力を増しています。そして、どの決済技術/サービスも市場の主導権を握るのに十分な消費者の支持を取り付けていないため、決済サービス市場に多くの業種が混在する状態はしばらく続くでしょう。また、金融サービス市場全体で見てみると、金融機関対ノンバンクという単純な二極対立ではなく、金融機関がすでに技術を持つIT企業を買収するケースや、イノベーションを試す目的で複数のITベンチャーと提携するケースなどが増えてきています。このため、共存状態が続く中でも、金融機関とノンバンクの協力関係が深化する可能性もあると思います。

Q.ノンバンクと比べて金融機関に期待される点は。

金融機関はノンバンクに比べて資金規模が異なりますので、法人部門においての金融機関の優位は変わらないでしょう。むしろノンバンクとの競争で苦戦を強いられるのは、リテール部門です。しかしそれでも、金融機関の認知度の高さは、新興のノンバンクに比べて優位にあると言ってよいでしょう。利便性を重視する若年層が、ノンバンクの提供する金融サービスの利用に抵抗が無いことは事実ですが、それでもその約半数はモバイルバンキングサービスを自分の利用する金融機関から利用したいと回答した、という調査結果もあります。イノベーションを取り入れたサービス展開でノンバンクに遅れているために、利用者は既存の金融機関の外に目を向けざるを得ない、というのが現状なのです。つまりこれは、利用者はこれまでの取引を通じて金融機関を信頼しており、金融機関が新しい金融サービスを展開すれば、利用する準備ができているということにもなります。

Q.金融機関のイノベーション導入の現状をどう見るか。

最近では米銀大手Wells Fargoを初めとし、一部の金融機関が金融IT技術を持つベンチャー企業を支援するプログラムを開始しています。これは、金融機関がイノベーションの導入遅れに大きな危機感を抱いている表れと言えます。どのような形にしろ、金融機関はもっと積極的にイノベーション投資を行わないと、存続の危機に関わってくるでしょう。金融危機の後に、多数の金融機関が閉鎖しましたが、米国だけでも2014年4月から8月の間にも79の金融機関が閉鎖/合併し、9行が破綻しました。しかし同期間に新設された金融機関はゼロでした。金融機関がノンバンクに比べて制度的に有利なのは、中央銀行の資金貸出窓口(discount window)と預金保険制度が利用できる点ですが、現在の低金利の市場環境においては、これらを利用するメリットはそれほどありません。それ以上にコンプライアンス負担が大きい点で金融機関はノンバンクに比べて不利であり、これが新設金融機関ゼロにもつながっているのでしょう。極論ではありますが、十数年後には既存の金融機関が壊滅するペースで金融機関は減っていると思います。このため、金融機関は変化の必要を認識し、イノベーションの導入を核にビジネスのあり方を見直す時期に来ていると言えます。

Q.金融機関の次の一手を模索するにあたり、必要な将来性のあるイノベーションは。

これまでは、ノンバンクが導入したイノベーションを金融機関がようやく後から取り入れるというのが一般的な流れでした。金融業界そのものが規制の多い業界であり、新技術の導入には常に慎重だということもあるので、このスピード感はやむを得ないとは思います。しかし、金融機関がノンバンクに対してその存在意義を維持し続けるには、やはり次に来るトレンドを主導する必要があります。短期的なスパンで具体的に実現可能性が見込めるトレンドは、個人間の資金決済サービスや個人間の融資サービスだと見ています。すでに複数の主要プレイヤーがサービスを提供しており、投資家の投資意欲が高い分野でもありますし、消費者からの一定の支持が見込めるためです。このほか、認証分野においてバイオメトリクス技術を取り入れセキュリティを強化することもニーズがある分野です。また、将来的にはデジタル通貨の仕組みを支えるプロトコルを活用し、安く迅速な資金移動システムを新しく確立していくことも、次の一手として可能性があるでしょう。

Q.ビッグデータの有効利用が注目されているが、どういった工夫が必要になるのか。

FacebookやGoogle、Amazonといった企業では、主要な業務は異なりますが、利用者のライフスタイルに関する情報や、個人の支払い決済に関する情報などを収集し、これらの情報を組み合わせて活用するのに有利な立場にあるという点で共通しています。つまり、利用者に関して踏み込んだプロファイリングを行うことで、例えばターゲットを絞ったマーケティング活動などを確実に収益につなげることも可能になるのです。金融機関でも、より個人にあったサービスを提供しようとするトレンドがありますが、例えばソーシャルメディアで新しく入手した情報をどこまで利用するのか、金融情報とどのようにリンクさせ分析/利用するのかなどについては、試行錯誤を続けています。現時点ではビッグデータの利用に関するベストプラクティスが確立されていないため、顧客が快適だと感じるデータ利用の程度や、イノベーションにより新しく利用できるデータの増加に合わせ、ビッグデータの最適利用への模索が続くといえるでしょう。

Q.金融機関/ノンバンクともにセキュリティ対策への対応をどう見るか。

若年層が利便性を重視してサービスプロバイダーを選ぶ傾向が高まっているとはいえ、個人情報への不正アクセスやサイバーセキュリティに脆弱性があればその限りではありません。金融機関については、セキュリティに関する一定の規定があり、例えばサイバー攻撃などに関する情報を監督局や金融業界で共有する仕組みを作っていますが、ノンバンクにはこうした仕組みがありません。しかし、ノンバンクが提供する金融サービスについて、監督局に何らかの規制の策定を期待するのは非現実的といえます。このため、例えばモバイル決済について言えば、決済の仕組みにさまざまな業界が関与し、特にノンバンクの影響力が増している状況を勘案し、決済関連情報にアクセスするプレイヤーを広く含めて、ベンダー管理を自主的に徹底させる必要があると考えます。

Q.10年後、20年後の金融サービス市場をどう予測するか。

金融機関がその存在意義を確保するためには、短期的なトレンドだけでなく、長期的なビジョンも見据える必要があると考えています。10年後、20年後となると、利用できるイノベーションも顧客のニーズも大きく変わるでしょう。個人的には日々の資金管理、納税情報、年金情報から、ライフスタイルを含めた非金融情報などを「統合(Integration)」し、ひとつのアクセスポイントから全てのデータにアクセスするだけでなく、個人の必要に応じ、そのデータをリアルタイムで分析/利用できるサービスが一般的になると見ています。消費者が日々の生活の中で何を不自由に感じているかに目を向けると、増える情報をどのように管理/利用するかという点です。このため、イノベーションを利用して、利用者側に操作の負担を掛けず、この不自由さをどう解消するかが鍵になるでしょう。ただし、このサービスを提供するのは、ノンバンクかそれとも既存の金融機関なのか、あるいは今はまだ市場に存在していない全く違ったビジネス形態なのか、現時点では予測できません。ただし、金融サービス市場のプレイヤーは今とは大きく異なっていると思います。そしてそこに既存の金融機関がどれだけ残っているかは、今後のイノベーション導入の戦略次第だといえるでしょう。

インタビューを終えて

金融機関の合併/閉鎖の数が新規の銀行設立を大きく上回るトレンドについて、十数年後には既存の金融機関が激減するとの見通しは衝撃的でしたが、それほどに金融機関は厳しい市場環境に直面しているということなのでしょう。しかし、これは既存の金融機関のみならず、金融サービス市場で活動する、業種の異なるプレイヤー全てにとっても警鐘と捉えるべきなのかもしれません。業界/業態を超えて、どのようなイノベーションが必要とされているのかも含め、提供する金融サービスそのものを捉え直し、見極める時期に来ていると言えそうです。

注釈

  • 本文中に記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標であり、敬称名は略させていただきました。