2015年2月13日

Brigham Young大学
Marriot School of Management
助教授

Nathan Furr

官民の垣根や業界の壁を超え、問題を解決するため、あるいは他社から抜きんでる転機をつかむ手段として、イノベーションへの期待が高まっている。その一方で、新しいアイデアが実際に試されることなく放置されたり、早々に可能性がないと見切りをつけられたりするケースも数知れない。しかし実際には、イノベーションの取り扱い方によっては、あらゆるアイデアが破壊的なイノベーションになる可能性を秘めている、不確実性の高い市場にあってイノベーターがどう立ち向かうのかが、イノベーションの明暗を分ける。

官民や業界の垣根を越え、イノベーションへの期待が高まっている。長く解決できなかった問題への打開策を見つけるため、あるいは他社に一歩先行く転機をつかむため、イノベーションが鍵になると見られているのである。しかし、実際には新しいアイデアを思いついても、自分に実現できるはずがないとあきらめたり、何から始めたらよいかわからなかったりして、実際にそのアイデアが試されることなく消えて行くケースは数多い。このため、破壊的なイノベーションになる可能性を秘めるアイデアを、内外から発掘しようとする動きが世界的に活発になっているのである。例えば全従業員を対象にしたソーシャルネットワーキングを活用する組織は多い。従業員がアイデアを発信すると、これに対し部署を超えて意見交換ができるため、結果として新商品や新サービス、あるいは既存の商品/サービスの改善策が生まれることがある。あるいは組織外からのアイデアを広く募る方法として、企業がイノベーションコンテストを開催するケースもある。専門の審査委員や一般からの投票で優秀なイノベーションのアイデアが選ばれ、これを実際にビジネスにするためのスタートアップ資金等が授与されたりするのである。このように、新しいアイデアを発信し、イノベーションにつなげるチャンスは増えている。しかしながら、例えばコンテストでトップとなったイノベーションのアイデアを商品あるいはサービスとして具体化させても、これがビジネスとして軌道に乗るかはまた別問題である。例えマネジメント経験の豊富な人材が経営を担ったとしても、市場からの高い満足度を獲得して利益を伸ばすとは限らないのである。それでは、実際にイノベーションを実現させ、ビジネスとして成功させるには何が必要になるのか。世界的ベストセラーとなった「イノベーションのジレンマ」(Clayton M. Christensen著)や「イノベーションのDNA」(Clayton M Christensen、Hal Gregersen、Jeffrey Dyer著)等の続編として2014年9月に発刊された「Innovator's Method」(Harvard Business Review Press)の共著者で、Brigham Young大学Marriot School of Managementで助教授を務めるNathan Furr博士に意見を聞く。

Nathan Furr博士へのインタビュー

Q.なぜ多くの新しいアイデアが破壊的なイノベーションとならずに消えて行くのか。

理由は主に2つあると思います。まずは、企業や起業家が既存の技術に捕われ、その延長線上でしかイノベーションを考えることができない点です。特に既存のリソースや確立されたビジネスのやり方があるような企業は変化に消極的です。既存の枠を突き破らずに、その延長線上でイノベーションを考えていると、多くは小幅なイノベーションの繰り返しになってしまいます 。これに対し、これまでの市場を大きく変えるような破壊的なイノベーションを実現するためには、企業が追究したいものについて、視野を広げる必要があるのです。2つ目の理由は、イノベーションを通じて実現したいのは、顧客が不便を感じている問題を解決することであるにもかかわらず、イノベーターはこれを理解する前に、商品やサービスなどソリューション作りを始めてしまうことです。そして、顧客の心をつかみ損ねたソリューションに注力した結果、将来価値を生む貴重な機会を発見する前に、資金や時間、忍耐力の限界が来るのです。イノベーションに成功するには、顧客を理解し、 必要なソリューションを提案し、顧客のニーズとマッチさせることが必要です。

Q.イノベーションに成功した企業に共通する点は。

イノベーションを成功させた企業には共通して4つのステップがあります。これは、大企業やスタートアップを対象に事例調査した結果です。なぜうまく行くイノベーションとそうでないものがあるのか問題提起し、イノベーションは従来のビジネスより大きな不確実性に直面しているため、新しいマネジメント手法が必要だと仮説を立てて調査を行いました。第1のステップは洞察し、驚きみつけることです。具体的には顧客に話を聞き、観察し、人脈を広げるのです。そして第2はイノベーションで解決する価値のある問題を見つけるため、機能的、社会的、そして感情的な観点から顧客のニーズを探ります。そして第3のステップで具体的なソリューションに着手します。不確実性の高い市場においては、始めから多くの機能を完全に装備させたソリューションに全リソースをつぎ込みません。むしろ多様なソリューションを広く想定し、必要最低限の機能を備えたプロトタイプを迅速に作って繰り返し実験し、顧客のニーズに応えられているかを確認します。そして最終ステップは価格設定や顧客の取り込み戦略、コスト体系等を含め、ビジネスモデルを策定します。

Q.イノベーションにおけるクラウドソースの機運/動きをどう見るか。

イノベーションを求めて物事を洞察する際、できるだけ広い視野を持つことから始め、後から絞って行きます。これを企業がアイデアをクラウドソースで募る事例に照らすと、一企業内で個人が得る見識より遥かに多くを得られる点で非常に有益です。数あるアイデアの中から、追究する価値のあるものをふるいにかけるのにも有効でしょう。しかしクラウドソースは、破壊的なイノベーションを作り出すための問題を全て解決するとは思いません。なぜなら、イノベーション創造するのは顧客ではなくイノベーターで、顧客はそれを確認するのが役割だからです。クラウドソースに限りませんが、顧客に何が欲しいかを聞いてそれを実現させても、多くは従来の商品やサービスの延長線上の小幅なイノベーションに留まり、すぐに他社に真似されてしまいます。このため、イノベーターはまず顧客と交流してそのニーズを理解し、これを解決し得るソリューションを提案して初めて、これが顧客の欲しい物かどうかを尋ね確認できるのです。

Q.クラウドソーシングにおける人気投票は、追究に値するイノベーションを正確に反映するか。

クラウドソースで行う投票は、価値あるアイデアを押し上げる強力なツールです。しかし、例えば企業が従業員を対象にしたクラウドソースで投票を募るときなどは、最も簡単だと言う理由で、既存のソリューションの延長上にある小さなイノベーションに投票が集中してしまう時があるので、注意が必要です。また、革新的なイノベーションで今までにない物を市場に出す時は、人気投票だけでは不十分で、実際に顧客が試してみないとわからないということもあります。例えばスポーツ用品大手Reebokが初めてバスケットボールシューズ「Reebok Pump」 (足首に自分で空気を入れるエアポケットがある靴)を開発した時、最初はみな馬鹿げた商品だと見ていましたが、実際に選手が履いて気に入ったことで、この見方は覆されました。つまり、人気投票に全てを委ねるのではなく、企業は自分たちのイノベーティブなソリューションを、時間や資金を無駄にすることなく、どのようにして顧客が実際に試せる機会をつくるか、ということも大きな課題となります。

Q.イノベーションの実現に経営層の役割には何が求められるのか。

すでに顧客がどこにいるかが明確で、利益を絞り出すことが仕事というタイプのビジネスには、従来のマネジメント手法は有益です。しかし、不確実性が高い市場でビジネスを創出する場合はそうではありません。経営者は最高意思決定者から最高実験者(Chief Experimenter)になる必要があります。さまざまな数値分析に基づいて意思決定するのではなく、イノベーションに最も重要な問題提起や迅速な実験をデザインするため、チームを支援することに重きを置くべきです。そして、その結果得られたデータで選択すべき道が見えてくるのです。この場合のデータというのは、ソリューションを試した実験の結果のことで、例えばマーケティング目的の一般的な市場調査等のデータを指すのではありません。こうした調査では質問内容や対象が適切かどうかわからないからです。そして、従来の経営者はイエス、ノーのどちらかの選択肢しかありませんでしたが、最高実験者には「もしかしたら(Maybe)」というコンセプトを持ちます。「もしかしたら」というのは、実験を通じ、鍵となる重要な「仮説」を問うということです。不確実性の高い環境では仮説を特定し、それが正しいかを迅速に実験し、この結果に応じて仮説に変更を加えていくことが必要なのです。

Q.イノベーションを追究する仮定で、間違いには変更が必要だということだが、changeではなくあえてpivotだと強調する理由は。

ピボットは特定の種類の変更という意味で使っています。もとはバスケットボールの用語で、軸足を置いたまま、もう片方の足で方向転換や調整を加えるということです。この言葉を使うことにより、不確実性の高い環境においては変化を受け入れるべきで、実際に変更/調整を行う際には、ピボットで軸足に重きを置くように、これまで学んだことを捨てるのではなく、十分に使うということを思い出しなさいというメッセージがあります。また同時に、ピボットで自由になった足を頻繁に動かすように、状況に応じて定期的に変化しなさいという意味もあるのです。

Q.イノベーションを成功させるビジネスモデルは、既存のビジネスモデルとどう異なるのか。

既存の企業のビジネスモデルは、すでに利益を生み生き残っているわけですから非常に強力です。しかし、これは不確実性が比較的低い環境で機能し得るビジネスモデルです。このため、新しいイノベーションに既存のビジネスモデルを適用しても、イノベーションを殺してしまいかねません。例えばIntelでは、R&D部門が商品化し得る100の面白いイノベーションを提案しましたが、販売部門はこれらに反対しました。実際に販売/利益管理を行う部門が、既存のビジネスモデルに照らして100のイノベーションは商品化できないと判断したのです。そこでIntelの幹部はイノベーションを支援する小さな販売部門を新設しました。高い不確実性を前に、顧客を知り、仮説を確認しながら、提供するソリューションや、価格戦略、顧客獲得手段/チャネル、コスト体系等を組み立てたのです。そしてイノベーションが軌道に乗り成熟したときに、既存の販売部門にそのノウハウを教えるという仕組みを取りました。不確実性の高さ、コアビジネスかイノベーションかといったビジネスの成熟度に応じ、異なるアプローチが必要になるのです。

Q.大企業が新技術をもつスタートアップを買収するケースが増えているが、これはイノベーションの4つの方法を用いて評価できるのか。

一般的に、すでに成功した大企業は、新しい価値を探し創造することよりは、既存のビジネスモデルの遂行やマネジメントにおいて優れています。そのため、大企業はそのイノベーション創造の部分を、 スタートアップの買収で代用しています。その場合、買収する立場から見て、買収先が深く顧客のニーズを理解し、鍵となる仮説を特定できているかどうか、その仮説に確証を得るために、迅速にソリューションを実験に持ち込み、顧客からどのような実験結果を得られているのかを見極める必要があるでしょう。そして、もし顧客がそのソリューションを気に入ったとすれば、そのスタートアップは買収する価値があるということになります。これを先ほど説明したイノベーションの4ステップに照らして評価できると思います。

インタビューを終えて

破壊的なイノベーションというと、すばらしい才能を持つ人が、特異なアイデアを思いついたことで、これまでとは全く異なるやり方で市場を刷新するとイメージがあります。しかし、イノベーションの4つのステップにより、イノベーションは一朝一夕には完成しないと同時に、地道な実験作業の繰り返しが必要であることに気づかされます。腰を据えて、日常の顧客とのやりとりからそのニーズをくみ取ろうとする姿勢をもつことで、イノベーションのチャンスは大きく広がっていると言えそうです。

注釈

  • 本文中に記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標であり、敬称名は略させていただきました。