2015年8月20日

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ダイナミックに変化する新興国特有の環境下におけるIT技術選定・システム構築のポイントと、構築したシステムの先進国への再適用の可能性について、AEC発足をケーススタディとしてご紹介します。

製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 大野 有生

AEC発足によるビジネス環境の変化と、クロスボーダー物流の発展

2015年末、アセアン10カ国によるAEC(ASEAN Economic Community:アセアン経済共同体)が発足します。ヒト・モノ・カネの往来が自由化し単一市場を目指すことで、人口6億超、GDP総額2兆ドルを超える新たな巨大経済圏が生まれます。

『Step by Step』

先月、筆者が、現地の期待の高まりについて、シンガポールのITソリューションベンダーに聞いた際に、得られた返答がこちらでした。現地では、日本での過熱気味な報道とは対照的に、もう少し冷静にAEC発足を捉えており、変化があくまでも段階的となる事を示唆しています。しかしながら、一部の地場企業・海外企業は、黎明期・過渡期の今、先んじて動き出し、激しい競争環境を抜け出す為に、戦略を見直し始めています。

特に、筆者が現地調査を重ねた中でも、サプライチェーン分野においては、既に域内全体再編がダイナミックに起こりつつあります。製造業界では、域内関税撤廃や、各国で進捗する通関電子化による手続き簡便化・迅速化のメリットを生かし、生産工場をラオス・カンボジア・ミャンマー等の人件費がより安い国へ移転し、サプライチェーン全体のコスト削減を図る動きが活発化しています。

これを受けた物流セクターのインフラ改善およびそれに伴う物流量増加も目覚ましいものがあります。例えば、アセアン域のハブの役割を果たしているタイでは、政府を挙げて物流インフラの整備を進めています。2012年~2020年までのインフラ投資計画総額466億ドルのうち、65%が陸送インフラの整備に充てられる予定となっており、国境をまたぐ輸配送を強化する意向を見て取れます。参考1このような取り組みの下、タイは2009年~2013年の4年間で域内貿易額45.8%増参考2を記録しています。また、インフラ整備が比較的遅れているカンボジアにおいても、2015年4月、メコン川を渡るネアックルン橋が開通し、ベトナム・カンボジア間のクロスボーダー物流(国境を越えた物流)が大きく改善されました。

結果として、近年、世界銀行が発表している物流競争力指標参考3において、アセアン諸国が全般的にスコアを伸ばしています。これは、アセアン域を縦横断する経済回廊の物流インフラが全般的に改善されている事を意味しており、近い将来、経済回廊はますます活用され、AECのクロスボーダー物流を支える大動脈となる事は、想像に難くありません。

【図】

図1:アセアン域クロスボーダー物流を支える経済回廊

アセアン域内のクロスボーダー物流における代表的なシステム構成

アセアン域内のクロスボーダー物流業務では、関わるプレイヤーが多国間に渡り、手作業での業務進捗管理では精度の信頼性が欠けるため、システムで管理する事が求められます。一般的に、構築されるシステムは次のような構成が挙げられます。

  • 貨物のリアルタイムトラッキングシステム

    2G・3G回線を活用し、貨物の運行状況をリアルタイムに捕捉するシステムです。ドライバーに携行させる場合はハンディ端末、トラックに据え付ける場合はデジタルタコグラフが挙げられます。近年では、スマートフォンやタブレット端末をトラックドライバーに携行させる事例も増えてきています。

  • 電子錠

    コンテナドアの開閉を感知し貨物の盗難を防止したり、保税運送時の未開錠を証明するシステムです。香港では、電子錠のコンテナ設置が広く普及しています。

  • RFID

    バーコードスキャンによる貨物追跡管理が一般的ではありますが、RFIDタグの活用を検討する企業も存在します。

【図】

図2:クロスボーダー物流業務で利用されるシステム例

IT技術選定・システム構築のポイント

このようなシステムは日本でも存在しますが、クロスボーダー(国境をまたぐ)という側面でシステム要件が異なり、必ずしも日本で構築したシステムを展開導入できるわけではありません。日本では見受けられないシステム要件を満たすための、IT技術選定・システム構築のポイントは以下となります。

  1. 1.業務継続性

    各国間での通信品質に大きな差が有ります。World Economic Forumが発表した2014年世界各国のネットワーク整備状況指標によると、アセアン域の最上位はシンガポールの2位ですが、他国を見てみると、例えばカンボジアは108位、ラオス109位、ミャンマーは146位と大きく離れています。参考4物流の起点から終点まで、多くの国を通過し、通信の断絶は頻繁に発生する事を考慮に入れなくてはなりません。通信が途絶えた際にも、業務が継続でき、通信回復とともに再同期を図るオンライン・オフライン両対応型システムである必要があります。

  2. 2.保守性

    多国間横断型システムの場合、システム障害発生時に対応する保守・運用フローがより複雑化します。保守ベンダーの数も多くなり、SLAレベルにバラつきが存在し、特定の国においてシステム可用性が低くなるリスクが有ります。保守部品の備蓄の範囲や、故障時の代替品の一時適用可否を網羅的に調査・検討し、SLAのボトルネックについて事前に検討する事が重要です。

  3. 3.法制度

    RFIDを利用する場合、電波を発する為、各国で異なる電波法に準拠する必要があります。その他にも、越境時の輸出入手続きも国によって異なる対応しなくてはなりません。通関手続きを電子化し域内統合を目指す、アセアンシングルウィンドウ(ASW)構想では、将来的に通関業務・書類記載内容の標準化が目指されているものの、現状では、各国法制度の違いの調査と、それに対応したシステム構築・運用が必要となります。

  4. 4.拡張性

    新興国でのシステム開発の場合、今後のビジネス成長性をかんがみ、業務規模拡大に柔軟に対応できる拡張性の高いシステム設計を行う必要があります。具体的には、スケールアップ・スケールアウトを見込んだアーキテクチャ設計や、数年後の業務規模を想定した性能設計が挙げられます。

最後になりますが、以上のポイントを検討時に盛り込み、いかに優れたシステムを構築しても、ソフト面のスキル向上を怠ってしまえば、サービス品質は上がりません。日ごろの社員教育と、現場業務改善を徹底することで、システムに投入されるデータ精度が高まり、エンドユーザーへ適切な情報を届けることが可能となります。これは、日本企業が従来得意とする現場改善力を発揮でき、他国の競合企業と差別化を図りやすい領域といえます。

リバースイノベーションと今後の可能性

今回は、AEC発足という、陸続きの国々が経済統合を図る環境変化をケーススタディとし、その際のIT技術選定・システム構築のポイントを解説しました。このような先進国と異なる環境下で構築された新興国向けのシステムは、先進国においても、実は、同様のシステム要件を持つ市場セグメントが存在する場合があり、逆輸出されることがあります。この現象をリバースイノベーションと呼びます。NTTデータは、イノベーションラボラトリをシンガポールとバンドン(インドネシア)に設置し、組織的にAPAC地域発のR&Dとリバースイノベーションをけん引しています。実際に、筆者自身も、APAC地域発の物流ソリューションを日本へ逆輸出した経験を持ちます。

【図】

図3:アセアンから生まれるリバースイノベーション

クロスボーダー物流の側面で言うと、域内経済統合を図るのはアセアン域だけではなく、アフリカでも同様の兆しがあります。昨今、アフリカ大陸に散らばる地域共同体である東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、東南部アフリカ市場共同体(COMESA)が、自由貿易協定(FTA)を締結し、単一市場化を目指す動きが見られます。アセアンで構築されたシステムをアフリカに輸出する事も考えられます。今後は、日本から海外、海外から日本だけではなく、海外から海外にシステムが横展開される機会が訪れる事が予想されます。

著者プロフィール

【写真】

製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 大野 有生

大学院でSCM・国際物流を専攻。入社後、SCM・物流システム導入に複数参画。2009年にベトナム現地法人へ赴任し、アセアン域一帯の物流企業様向けにITソリューションを企画・立ち上げ。2014年より現職にて、物流デジタル化を実現する世界のIT先進活用事例の研究を進めるとともに、お客様の物流業務変革コンサルティングに従事。

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