2016年5月19日

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デジタルビジネス

IoTをはじめとしたITを活用して、新たなビジネス価値を創出する「ビジネスモデルデザイン」が求められています。

株式会社クニエ ITマネジメントサポートグループ 井出 昌浩

背景状況

コンピュータ技術と通信技術の融合した情報技術(IT)は、企業経営において言うまでもなく重要な資源であり、EC(ElectronicCommerce)、IoT(Internet of Things)を始めとして、ITの積極的な活用によって新たな価値を創出するビジネスが数多く生み出されています。ビジネス環境の変化は早く、企業は経験したことがないビジネス領域においてもビジネスの創出が求められています。そのことから、IoTをはじめとしたITを活用して新たなビジネス価値を創出するビジネスモデルデザインが重要になっています。

ビジネスモデルとは何か

最近では当たり前のように使われているビジネスモデルですが、ECに代表されるネットビジネスが誕生した2000年前後に、ビジネスモデル特許が申請され始め、広くビジネスモデルという言葉が使われるようになりました。そのビジネスモデルの定義はさまざまあります。

マーク・W・ジョンソンらは、マッキンゼー賞を受賞した論文「ビジネスモデル・イノベーションの原則」の中で、『ビジネスモデルは、「顧客価値の提供」、「利益方程式」、「カギとなる経営資源」、「カギとなるプロセス」の4要素から構成される(図1)』と定義しています参考1、参考2

  1. (1)顧客価値提案
  2. (2)利益方程式
  3. (3)カギとなる経営資源
  4. (4)カギとなるプロセス

ビジネスモデルは、(1)顧客価値の提供、(2)利益方程式、(3)主要な経営資源、(4)主要な業務プロセスの4要素から成る構造のビジネスの設計図と言えます。

【図】

図1:ビジネスモデルの構成

ビジネスモデルキャンバス

新たな価値を創出するビジネスをデザインする方法として、ビジネスモデルジェネレーションが活用されています。ビジネスモデルジェネレーションは、ビジネスモデルの価値の創出と顧客への提供をデザインする方法です参考3、参考4

その手法のひとつに「ビジネスモデルキャンバス」があります。図2に示すような、「顧客」、「価値提案」、「インフラ」、「資金」の4領域をカバーする9ブロックから構成されています。その9つのブロックの配置は合理的で意味があります。左側に配置された価値の源泉となるブロックから右側に配置された顧客への価値提供のブロックへ至るバリューチェーンに沿って配置されています。そのことから、ビジネスモデルキャンバスは、バリューチェーンに沿った価値創出を中心に、顧客との関係やビジネスのパートナーシップを視覚化できます。

【図】

図2:ビジネスモデルキャンバス

デザイン、評価、学習のプロセスの繰り返し

IoTを活用して新たな価値を創出するビジネスモデルを実現するためには、図3に示すように、ビジネスモデルデザインの段階から、ビジネスモデルを構成するビジネスアーキテクチャとシステムアーキテクチャを同時並行してデザインすることが鍵となります。また、変化の激しいビジネス環境は多くの不確定要因を含むことから、リーンスタートアップ参考5に代表されるように、ビジネスモデルの実現も、デザイン、評価、学習のプロセスを短いサイクルで繰り返して実施するアプローチが適しています。

【図】

図3:IoTビジネスモデルデザインのフレームワーク

IT価値変換マトリクス

ビジネスモデルデザインで重要なプロセスとして、IoTの価値への変換があります。技術を活かしたアイデア発想技法である「SN変換手法」と、アイデア発想の枠組みであるシーズニーズマトリクス参考6、参考7を拡張した「IT価値変換マトリクス(IT Value Matrix、以下ITVM)」参考8を活用すれば、IoTをはじめとするITを、ビジネス価値に変換することが可能となります。

具体的には、ITVMを用いることで、IoTをはじめとする「IT(技術)」、「実現機能」、「システム価値」、「ビジネス価値」の4要素を段階的に抽出して構造化し、相互変換することができます。このフレームワークによって、ITからビジネス価値への価値変換を繰り返します。図4に示すようなITVMは、価値変換プロセス(図5)によって、IoTビジネスで活用するセンシング、GPS(位置情報)、モバイルネットワーク、データ解析技術を抽出し、IoTビジネスで創出可能な盗難抑止、迅速なアフターサービス、予兆保全といったビジネス価値に変換しています。

ITVMは、俯瞰的かつ個々の関係性の把握、複数人で思考過程の共有ができます。そのITVMを用いて、個々の発想と議論の結果を表記しながら、連鎖発想と議論を繰り返し実施することでITVM、つまり価値変換の完成度を高めることができます。

【図】

図4:IT価値変換マトリクス

【図】

図5:価値変換プロセス

ITVMで価値変換したビジネス価値を創出、提供するように、ビジネスモデルキャンバスを用いて、構成するブロックの要求分析、ブロック間の関係を分析することで、図6に示すIoTビジネスモデルをデザインすることができます。

【図】

図6:デザインしたビジネスモデルの例
(IoTを活用した予兆保全アフターサービスビジネス)

変化に即したビジネスモデルのデザインで、価値を創造できる企業へ

紹介したIoTビジネスモデルデザインは、技術進化が進むIoTを活用して、ビジネスを取り巻く環境の変化に即した新たな価値を提供するビジネスモデルの実現を可能とします。IoTビジネスモデルデザインは、価値主導であり、探索的にデザイン、評価、学習を短いサイクルで繰り返し、段階的なビジネスモデルの進化を可能とします。そのことから、先が読めないビジネス環境下でも企業が求める価値を提供するIoTビジネスモデルの実現を可能とします。また、ビジネスの持続的な成長やビジネスイノベーションに貢献する切り札になると考えています。

デジタルビジネスの創出方法論の研究

クニエでは、IoTやビッグデータ、AIなどの新技術を活用したデジタルビジネスの創出方法を研究する「クニエデジタルビジネスラボ」を2016年3月に開設しています。定期的に研究成果を発信する計画です。

参考文献

  • 参考1ビジネスモデルとは、『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』参考2において、「どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの」と定義されています。
  • 参考2マーク・W・ジョンソン、クレイトン・M・クリステンセン、ヘニング・カガーマン『ビジネスモデル・イノベーションの原則』ハーバード・ビジネス・レビュー 2009年4月号
  • 参考3アレックス・オスターワルダー(著)、イヴ・ピニュール(著)、小山 龍介(翻訳)『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』翔泳社、2012年
  • 参考4ITC大阪城ビジネスモデル・ジェネレーション WG「ビジネスモデル・ジェネレーション研究(テーマ研究調査報告書)」2014年(PDF:44ページ, 734KB)(外部リンク)
  • 参考5エリック・リース(著)、伊藤 穣一(解説)、井口 耕二(翻訳)、リーン・スタートアップ、日経BP社、2012年
  • 参考6近藤 修司、巽 龍雄、西岡 久継「日本的MOT(技術経営)と日本企業に合致した価値創造型ビジネスモデル構築のために」『経営教育研究 Vol. 8』日本マネジメント学会、2005年3月、pp. 25-57
  • 参考7鈴木 剛一郎『新製品・新事業開発の進め方―顧客価値創造の体系的アプローチ』同文舘出版、2009年
  • 参考8井出 昌浩、青山 幹雄、 情報技術を活用した新事業創出のデジタルビジネスモデルデザイン方法とIoTビジネス開発への適用、JISA Quarterly、Vol. 119、2015 Autum、情報サービス産業協会、Nov. 2015、pp. 169-185

著者プロフィール

【写真】

博士(数理情報学)。デジタルビジネスモデルデザイン、ビックデータ活用などのITを活用してビジネス活動に価値を提供するためのコンサルティングに従事。クニエラボ/デジタルビジネスラボを運営。デジタルビジネスモデルの開発方法論を研究し、国際会議で研究成果を発表している。

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