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2024年3月7日展望を知る

求められるサプライチェーン高度化とSCM5.0へのアプローチ

パンデミックが引き起こしたサプライチェーンの混乱は記憶に新しい。地政学的な要因などもあり、企業を取り巻く環境の不確実性は増している。こうした中で、先進企業はSCMの高度化を推進している。多くの企業のSCM改革を支援してきたNTT DATAグループのコンサルティングファームであるクニエが提唱するのが「SCM5.0」だ。SCM5.0の目的はレジリエンスとサステナビリティ、人間中心。これまでとは異なる考え方、新しいアプローチでSCM改革に取り組む必要がある。クニエのSCMチームをリードするシニア・パートナーの笹川亮平氏の話をもとに、SCM5.0への道について考えたい。
目次

生産者視点から顧客価値視点へ、発想の転換が求められる

多くの企業にとって、サプライチェーンを取り巻く環境は2020年ごろを境に大きく変わったはずだ。その背景にはパンデミックや半導体不足、米中経済摩擦などがある。これまで企業は、需要の変動・不確実性の高まりに合わせてサプライチェーンを高度化させていた。しかし2020年以降は供給の変動・不確実性が一気に高まったことにより、供給側にも大きな注意を払うようになった。加えて、顧客が環境配慮型の製品を求めるなど、ESGニーズの高まりもある。こうした動きを受けて、企業はSCMの高度化を求められている。

「2020年以降、多くの企業がサプライチェーンの混乱を経験しました。例えば、いつ仕入れられるか分からない、いつ生産・出荷できるかもわからないといった状況です。拠点間、組織間での問い合わせが頻発し、業務効率は大きく低下しました」と語るのは、クニエのシニア・パートナーを務める笹川亮平氏。クニエはNTT DATAグループのコンサルティングファームである。

現状のSCMの取り組みの実態を見てみると、自社内や単独業務領域での取り組みにとどまることがほとんどで、激しい環境変化に対応できるSCMを構築できている企業はあまりないようだ。2000年ころ、笹川氏がSCMに取り組んだ時は、生産領域の業務効率化にとどまっていた企業が多かったという。いうまでもなく、SCMが対象とするのはサプライチェーン全体であり、企業や業務領域をまたいで取り組むことが重要である。

また、現在は生産者の視点から顧客価値視点への考え方の転換も求められていると笹川氏はいう。

「従来は生産の延長で、在庫や物流の効率化に取り組んできました。いま求められているのは、顧客ニーズに基づくサプライチェーンモデルの構築です。いままでの発想を根本的に見直す時期だと思います」

これまでは、「何をつくるか/売るか(WHAT)」が事業成長のカギだった。しかしいまでは、「どのように使われるか、どのような体験を促すか(需要視点のHOW)」と「どのようにつくるか、どのように届けるか(供給視点のHOW)」がより重要である。需要と供給、両方の視点でのHOWが問われている。

しかも、サプライチェーンそのもの、その中を行き交う情報は複雑性を増しており、SCMのあり方も変わらなければならないという。

笹川氏をはじめとするクニエのSCMチームが2022年11月に出版した『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティを実現する新時代のSCM』という書籍でも語られている。

「いま求められているのは動的サプライチェーン。私たちはこれを『SCM5.0』と位置づけています。SCM1.0から4.0で目的とされたのは、効率性や柔軟性、採算性、労働生産性、価値創造などです。これに対して、SCM5.0の目的はレジリエンスやサステナビリティ、人間中心です」。

PSI情報をヨコにつなぐ、サプライチェーンで共有する

急な環境変化にも対応できる強靭さを持ち、環境や人権などにも配慮しつつ、働く人々のやる気を刺激するSCM構築。そのためには、製品企画から製品開発、生産準備に至るエンジニアリングチェーンやマーケティングと、サプライチェーンを1つの流れとして見ることが重要だ。

「高度なSCMは顧客体験の質を高め、顧客満足を高めるでしょう。サプライチェーンを顧客体験の重要な要素ととらえる必要があります」と笹川氏。例えば、サプライチェーンのレジリエンスが不足していれば、突発的な事態に直面して出荷が遅れてしまうかもしれない。

「レジリエンスを高めるための基本原則は3つ。第1に、コアをシンプル化して周辺にさまざまな機能や役割を組み合わせてモジュール化する。第2に、即時性のあるフィードバック。状況を素早く検知し、対策実施後の影響把握を高サイクルで行う。第3に、目的の共有および権限委譲と分散です。これらの原則をサプライチェーンのネットワークやプロセス、組織、ITに応用する必要があります」と笹川氏はいう。

こうしたSCM5.0を実現するためには、SCMによって顧客に価値を提供するというマインドセットが欠かせない。また、ITの観点ではSCMとCRMの連携、データを収集するだけでなく自らデータを提供し、共有する仕組みなども求められる。

SCM5.0に向けて、先進企業はすでに歩み始めている。そのための仕組みを、クニエは「デジタルサプライチェーンツイン」と呼ぶ。笹川氏は次のように説明する。

「サプライヤーや工場、販売会社などは、自分たちの業務のために垂直的なシステムを構築していると思います。こうしたタテのシステムも重要ですが、SCM5.0にはヨコ串のシステムが欠かせません。例えば、販売会社が精緻な販売計画を立てても、その情報が工場などに伝わらなければあまり意味がない。多くの企業がタテのラインのデジタルツインづくりに取り組んでいますが、これをヨコにつないでデジタルサプライチェーンツインの構築をめざすのです」

ヨコにつなぐのはProduction(生産)、Sales(販売)、Inventory(在庫)の3つの項目を意味するPSI情報。何らかのモノを扱う以上、PSIは基本情報といえる。自社の数量PSIと上流・下流のPSIを組み合わせれば、エンド・ツー・エンドのSCMになる。また、「数量PSI×単価」により、過去と将来の金額が分かり、利益のマネジメントができる。「数量PSI×CO2排出量原単位」により、過去と将来の温室効果ガス排出量のマネジメントも可能になる。

SCM高度化の4つのパターン

いま、クニエはSCMの高度化をめざす企業のパートナーとして、さまざまなプロジェクトに参画している。大きく分けると、その取り組みは4種類に分類できるという。(1)生産・販売の連携を進めるグローバルサプライチェーンプランニング、(2)モノ・カネの情報を連携するS&OP(Sales and Operations Planning:販売・操業計画)、(3)流通との連携に主眼を置くマーケットPSIプランニング、(4)仕入先と連携するサプライヤーPSIコラボレーションである。

まず、(1)のグローバルサプライチェーンプランニングである。

「現状、海外販社の状況がブラックボックスになっているケースが少なくありません。その結果、販社の予測と実際の注文にギャップが生じ、その都度調整が必要になることが多い。そこで、まず販社の販売、在庫、仕入れなどの情報を可視化します。その上で、販社の販売計画を起点に、本社・工場の製品PSI、さらには部品PSIを一気通貫でつなぐのです」(笹川氏)

ポイントは精度の高い販売計画づくりだ。予算目標を持つ販社の計画にはバイアスが入りがちである。計画の質を高めるためには、過去の実績や市場環境などを分析する本社の力量も問われる。妥当な計画を策定できれば、市場の優先度や必要性に応じて、工場から各販社に適切な量の製品供給ができるだろう。

(2)S&OPは数量情報から金額を導くものである。一般に、経営層は数量よりも金額を注視している。販社の売上計画や在庫金額、工場の売上計画、長期の設備投資計画などをもとに、マネジメントの意思決定が行われる。販社や工場の計画に問題があれば、経営からの修正要求がなされるだろう。このような意味で、S&OPは現場とマネジメントをつなぐ役割を担う。

次に、(3)マーケットPSIプランニングは、市場情報をもとに販売計画の精度向上をめざすものである。先にバイアスという言葉を使ったが、販売計画は根拠なく高めに振れる傾向がある。実際の販売とのギャップが大きければ、工場は生産に急ブレーキを踏む必要があるかもしれない。あるいは、過剰在庫や他販社の機会損失につながる可能性もある。

「できるだけバイアスを排した市場の情報を取得する必要があります。実需を反映した流通の情報、消費者の購買情報などです。本社はこれらをもとに、販売計画の妥当性を判断します。妥当ではないと判断すれば、リプランや追加的な販売施策の検討などを指示します。こうしたやりとりにより、販売計画の精度を高めることができます」と笹川氏は指摘する。

そして、(4)サプライヤーPSIコラボレーション。サプライヤーとPSI情報を共有・可視化することで、迅速かつプロアクティブな打ち手を講じることができる。

ツール選びのキーワードはベスト・オブ・ブリード

SCMへの関心は高まっているとはいえ、そのシステム構築プロジェクトで困難に直面する企業は少なくない。その要因として、不適切なツール選定が目立つと笹川氏はいう。

「事業の特性やSCMの目的に適したツールを選んでいないケースが散見されます。ツールの思想や特性などを軽視して、ブランドや単純な機能比較で選ぶと後で苦労するでしょう。従来、ERPやSCPなどの分野では、グルーバル標準のプロセスをめざし、単一のシステムパッケージを導入するやり方が主流でした。しかし、企業の抱える課題は多様化しています。また、変化の激しい環境の中で、すべての事業について、世界の全地域で単一のプロセスやルールを適用することは、もはや現実的とはいえなくなりました。適切なツールを選び、それらを組み合わせる必要があります」

キーワードはベスト・オブ・ブリードである。SCPとしての組み合わせを考える際の切り口として、バッチ型かリアルタイム型か、マネジメント寄りか需給寄りか、という2軸で分類すると分かりやすいだろう。例えば、不確実性の高い事業では通常、リアルタイム型が適している。事業や市場の特性に応じたツール選びや組み合わせに慎重を期したい。

先に触れたように、SCM5.0の目的の1つに人間中心がある。「人」という要素はますます重要になる。例えば、担当者は「やらされ感」を抱くのではなく、意欲を持ってSCMに取り組んでいるだろうか。業務負荷の大きさが、業務の持続可能性を損なっていないだろうか。

また、SCMの意義を見直す必要もあるかもしれない。社会的意義が大きいと納得すれば、人は積極的に取り組む。その意味で、ESGを1つの軸に据えるのも一案だ。

「メーカーのSCM担当者からは『サプライヤーが情報を出してくれない』といった悩みをよく聞きます。一方で、同じ担当者が『環境や人権がテーマなら、誰も反対しない』とも話していました。ESGはSCMの情報共有を進める上で、一種の“錦の御旗”になりうる」と笹川氏は考えている。

SCM5.0においては、サプライチェーンにおける環境や人権なども重要な要素だ。ESGというテーマであれば、サプライチェーンに参加する多くの企業の理解も得やすいだろう。

最後に、人材育成について。SCM改革を誰が推進するのか、という観点である。SCMに限らず、経営者が改革リーダーについて「ベテランに任せるか、若手に任せるか」と考える機会は多いに違いない。

「豊富な経験と広いネットワークを持つベテランに任せれば安心かもしれませんが、過去の成功体験を再現しようとして失敗するケースが多い。私がお勧めしているのは、デジタルが当たり前の世界で育ち、従来の前提に縛られない若手を責任者に就け、ベテランをアドバイザーとする組み合わせです」

Z世代を中心とする若者は社会や環境などの課題に敏感で、こうした課題解決への意欲も高い。そんな若手リーダーを見いだし、責任あるポジションを任せて育てる。それは経営者の重要な責務であるとともに、目利き力を問われるプロセスでもある。

従来のSCM改革の進め方はWhat(何をやるのか)から、How(どうやってやるのか)を検討する流れが主で、Whyは”最適化”という目的に固定化されていた。しかし従来型の目的のみに固執していては、変化は起きにくい。SCM5.0の実現に向けては、Why(何を目的とするのか)、How(誰が誰とやるか)の順番で進めることが重要だ。WhyからSCM改革を進めることにより、不確実性の時代において、今後起きうる事業環境変化に対応できるSCM構築を可能とするのである。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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