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2024年3月28日展望を知る

先進技術でビジネスはどう変わるのか―グローバル最新事例紹介―

NTT DATAは、2022年8月にイノベーションセンタを設立。2024年1月時点で10拠点と規模を拡大し、少し先の未来に主流となると思われる先進技術を見極めながら、お客さまとの共創R&Dを通じて、新たなビジネス創出に取り組んできた。本稿では、設立から約1年半の活動の中で生まれた事例や今後グローバルビジネスとしての展開が期待できるユースケースを紹介する。
目次

NTT DATAとしての先進技術への向き合い方

先進技術の技術的価値やビジネス的価値をお客さまとともに検証するために、2022年8月に世界6拠点・約100人という体制でスタートしたNTT DATAのイノベーションセンタですが、現在は世界10拠点・約180人と順調に規模を拡大しています。イノベーションセンタ センタ長の古川は、その取り組みについて次のように説明します。

「私たちは技術検証を“Emerging”、さらにスケールできるかを考えるビジネス的検証を“Growth”と呼び、フェーズを分けて取り組んでいます。また、続々と登場するITの中でどの技術をテーマに取り組むかは重要です。徹底的にリサーチをし、社会の動向も見ながら、NTT DATAとして取り組むべきテーマをイノベーションセンタの中で決めています」

図1:取り組みテーマと事業化プロセス

図1:取り組みテーマと事業化プロセス

上記フェーズ区分に倣い、Emerging段階にあるテーマの中から「衛星データ活用」「AR(Augmented Reality) Cloud」、Growth段階にあるテーマの中から「デジタルツイン」「ブロックチェーン」「量子コンピューティング」という計5つの技術について、事例やユースケースを紹介します。

“衛星データ”を提供するだけでなく、活用までサポート

ここ数年で低軌道衛星を使ったネットワークサービスが日本国内でも使えるようになり、衛星自体のイノベーションも進んでいます。NTT DATAは、衛星事業者と10年以上連携し、「AW3D®」という最高50cmの解像度で陸地の起伏を表現する高精度なデジタル3D地図サービスを提供してきました。さらに2022年からは15cmの解像度で表現できるEOI Spaceと連携し、人や車の動きを衛星から捉えることができるところまできています。

「これまでは衛星データの提供がメインでしたが、今後はデータ分析やデータ活用を通じて、お客さまのビジネスに貢献するところまでできるように、AIを使ったユースケースの創出を進めています。例えば、道路の状態を検知することができれば、災害対策や自動運転にデータを生かすことができると考えています」(古川)

さまざまなユースケースを試すため、NTT DATAでは環境整備から取り組んでいます。衛星データ分析AIのプロトタイプやプロジェクトを迅速に配信するプラットフォームとして、衛星データモデリングエンジンを構築。膨大な量の衛星データを迅速に処理できるようにするほか、「オブジェクト検出」「変更箇所検出」「将来予測」「範囲切り分け」といった機能を搭載しています。

「インド政府と連携して進めている事例として、グリーン農業をサポートするプロジェクトがあります。衛星データを用いて、農地のグリーンスコアを算出。農家の方に対して、グリーンアクションを促す仕組みです。農家の方はグリーンスコアがアップすることでインセンティブを受け取れるなど、マネタイズ設計も並行して進めています」

図2:衛星データ活用事例 ―Farm 360 Platform

図2:衛星データ活用事例 ―Farm 360 Platform

位置情報を連携することで“AR”が進化

コンテンツを現実空間に重ねて表示できるAR技術は身近なアプリにも搭載されていますが、それを複数の人と共有できるように進化したのがAR Cloudです。AR Cloudのポイントは、同じコンテンツでも見る人や見る位置によって見え方が異なるというところです。NTT DATAはブラジルのパートナー企業とすでにアプリケーションを共創。スポーツ観戦をする際に、例えばサッカーであれば、ゴール裏で試合を観たり、タッチライン際で観たりと、自分の好みに合わせて観戦することができます。さらに、好きなチームのユニフォームを購入できるなど、さまざまなことができるアプリケーションをAR Cloud技術を使って実現しています。

「実物とコンテンツを重ねられるという点は、非常に有用だと考えています。例えば、破損した車と元の状態の3Dデータを比較して保険審査に活用したり、ATMのような機器のメンテナンス作業において、操作マニュアルをARで表示したりと、さまざまなビジネスユースケースを検討しています」(古川)

図3:AR Cloud ビジネスユースケース ―保険審査

図3:AR Cloud ビジネスユースケース ―保険審査

End-To-Endでサポート可能な“デジタルツイン”

身の回りにあるものからデータを集めて視覚化するというところまでは、IoTである程度実現できています。今後はさらに進んで、計画のための最適化や予測のためのシミュレーションを行うデジタルツインが必要であり、foresightを導き出すところが肝だとNTT DATAは考えています。また、NTT DATAでは、さまざまなテクノロジーおよびそのベンダーと連携しながら、すでに実際のビジネスでの活用にも多く取り組んでいます。

「デジタルツイン活用において、NTT DATAならEnd-To-Endでお客さまをサポートできます。その中でも、現時点で私たちが重要だと考えているのが、マチュリティアセスメント(成熟度評価)です。デジタルツイン活用の戦略を考える上で、顧客企業の成熟度評価を行っています。例えば、3Dモデル化自体が初めての試みになる可視化の段階なのか、3Dモデルやシミュレーション自体は経験があり業務での活用効果をより高めたいのか、デジタルツインとリアルを連動した運用監視までやりたいのか等、実際にヒアリングをすると、会社ごとにかなり状況が違っているため、そういったことも踏まえたコンサルティングを行っています」(古川)

計画のための最適化や予測のためのシミュレーションを行い、foresightを導き出した事例としては、アメリカの交通機関と連携し、バスの運行シミュレーションを行っています。デジタルツインを使えば、運行ルートを変更した場合の本数や乗客の待ち時間から、乗客の満足度、CO2排出量に至るまでを検証し、最適化を図ることができます。その他にも、ヨーロッパにおける事例として、棚卸し業務での活用が挙げられます。店頭の商品棚をスキャンすることで、どれくらいの商品が陳列されていて、欠品がどれくらいあるのかが可視化できるというものです。これにより棚割りの最適化ができ、収益向上につながるため、ヨーロッパではかなり広がってきており、日本国内でも提案を進めています。

図4:デジタルツイン事例 ―Smart Mobility Planning

図4:デジタルツイン事例 ―Smart Mobility Planning

「製造分野でもデジタルツイン活用は進んでいます。例えば、ロボットアームを導入する際、今まではロボットアームメーカーが現場でかなりの工数かけて設計していたところを、クラウド上で簡易に自動化してつくっていくことができます。実際に物を壊したり、人を傷つけたりすることなく、リスクを排除しながら事前テストができる点もデジタルツインの強みです」(古川)

“ブロックチェーン技術”で安心安全な社会を実現

ブロックチェーン技術のビジネス的価値は、データが改ざんされていないことが証明できる真正性と、参加者全員が各自でデータを検証できる公共性にあります。そのため、グローバル全体やサプライチェーン全体に絡む仕組みなど、従来のITシステムでは解決できない課題をクリアできると期待されています。例えば、ヨーロッパではバッテリートレーサビリティの証明が義務化されており、法規制対応としてブロックチェーンを活用。他にもサステナビリティ関連で、排出したCO2を相殺するカーボンクレジットの仕組みづくりの中でも活用しています。

ブロックチェーンをはじめとする技術で、情報を分散管理する新しいインターネットの考え方として提唱されているのがWeb3です。しかし、現時点ではまだ法規制や技術が未成熟なため、完全に信頼されるに至っていません。この点について、NTTデータでブロックチェーン領域の責任者を務めている世取山はこう話します。

「安心・安全を保障する枠組みとして、Progmat(※)のように金融機関を中心とした組織が中心となり、ステーブルコインやセキュリティトークン、ユーティリティトークンといったものを提供することで、トラストをつけてWeb3の分散型技術を提供しようという流れが今来ています」

ブロックチェーン技術を活用した事例として、NTT DATAではバチカン図書館が持っているデジタルアーカイブをNFT(非代替性トークン)として配っています。バチカン図書館は、さまざまなドネーションで成り立っており、支援者に対してNFTを配布。そのNFTを持っていると特別なコンテンツが見られるという仕組みをつくり、コミュニティやファンの拡大を促進しています。

図5:NTT DATA のNFT事例 ―バチカン図書館

図5:NTT DATA のNFT事例 ―バチカン図書館

NTT DATAではNFTだけでなく、DID(分散型アイデンティティ)やVC(検証可能な資格情報)によるSSI(自己主権型アイデンティティ)の実現にも積極的に取り組んでおり、利用者の不信感・不安感を払拭することが期待できると考えています。そういった意味でもブロックチェーン技術全体のポートフォリオとしてWeb3には注目しています。

「昨今、生成AIによるフェイクニュースや詐欺が話題になっています。今後は人と対面で会う機会はさらに少なくなりますが、ネットワークの向こうにいる人物が本物なのか、データは本物なのかといったことを証明する必要性が出てくるため、ブロックチェーンのような分散型の仕組みの中で真正性を証明するということが進んでいくと考えています」(世取山)

リアルタイム性が求められるシーンで活躍する“量子コンピュータ”

AI学習の計算量が急増し、高速処理が必要になっていることなどを背景に注目され始めているのが、量子コンピュータです。NTT DATAでは、量子アニーリング方式(イジングマシン)に注力し、組み合わせ最適化問題における量子コンピューティング技術の活用を推進しています。具体例としては、自動車メーカーのマツダとともに、生産計画の最適化に取り組んでいます。昨今のEV化という流れもあり、サプライチェーンマネジメントとして、できる限りリアルタイムに近いスピードでの生産計画の最適化が求められています。そこで量子コンピューティング技術を活用。実際の効果として、エンジン部品の製造工程と中間在庫の削減を実現しています。

他にも、世界で初めて匂いのデジタル化にチャレンジしている株式会社香味醗酵との共創事例でも、量子コンピューティングを活用しています。香味醗酵の久保氏は説明します。
「香味醗酵は人間が匂いを感じる388種類の嗅覚受容体という細胞をガラスプレート上に配置することで、人間の鼻に代わるセンサーを開発しました。そこから匂いを数値化し、消臭剤開発や匂いの再構成に取り組んでいます。」

ただし、匂いを再構成するためには、元となる匂いを数値化し、あらかじめデータベース化しておいた膨大な量の香料化合物の中から組み合わせることで、元の匂いを再現する必要があります。この組み合わせ最適化演算は非常に複雑で、1,000種類の化合物候補から適切な組み合わせを見つけるためには、従来のコンピュータで100時間以上の時間を要していました。一方、NTTが研究開発しているイジングマシンのLASOLVであれば、化合物候補を8,000種類に拡大しても数十秒で計算が可能です。これによりリアルタイムに匂いを再構成し、転送することができます。この点について、香味醗酵の久保氏はこのように語ります。

図6:匂いの数値化と転送

図6:匂いの数値化と転送

「ディフューザーを持っていれば、遠隔地や仮想空間、VRゲームの中の世界の匂いなどを体感できたり、テレビの映像に合わせて匂いがしてきたり、コンサート会場などで観客が匂いを共有したりといったことが可能となります。私たちは、ありとあらゆる匂いを世界に届けることをめざしています」

図7:匂いの転送がもたらす未来

図7:匂いの転送がもたらす未来

「量子コンピュータについては、さまざまな事例がでてきていますが、早期に実用化が進む最適化領域をターゲットに、製造・交通・物流といった業界を中心に実ビジネスでの利用が日本や欧州で拡大しています」(古川)

ここまでご紹介した通り、NTT DATAでは先進技術の活用とイノベーション創出に取り組んできました。これからもイノベーションセンタではお客さまとグローバルな共創活動を進めていきます。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

人では発見が困難な匂いの合成パターンを探索する手法を開発
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/012500/

組合せ最適化技術を活用した匂い再構成技術に関するパートナーシップ契約を締結
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/032700/

分散型ID/デジタル証明書に関するビジネスコンソーシアム「DID/VC共創コンソーシアム」を設立
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/101000/

15cm解像度の衛星画像の国内独占販売権を米国Earth Observant, Inc.より取得
https://www.nttdata.com/global/ja/news/services_info/2022/112500/

グローバル6カ国に「イノベーションセンタ」を設立
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/081900/

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