- 目次
デザインの力で生み出す
デザインプロセスの価値
株式会社NTTデータ
デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部
サービスデザイングループ Tangity
デザイン責任者
村岸 史隆
NTTデータはグローバルにデザインスタジオを展開し、企業の競争力強化や新商品、新サービスの開発をデザインの力で支援している。世界に17以上あるスタジオには約1000人のデザイナーが所属し、幅広くパートナーシップを結びながら世界に価値を提供してきた。
「2020年からは日本、イタリア、英国、ドイツ、中国のスタジオで新しいデザインブランドであるTangityを立ち上げました」とNTTデータ デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部 サービスデザイングループTangityのデザイン責任者 村岸史隆は話す。
Tangityのデザインプロセスは大きく4つのフェーズで展開されている。マーケットをリサーチしながら事業・サービスとしての注力領域を見定め、新事業を生み出す「Market Discovery」、注力領域でユーザーにどのような価値を提供していくべきなのかを検討する「People Discovery」、どのようなアイデアが必要なのかを検討し、ユーザー検証するとともに、技術およびビジネス的に可能なのかどうかを検討する「Solution Design」、そしてプロトタイプを開発して検証するなどの「Development」だ。
村岸は「デザインプロセスの価値は直感やセンスではないサービス設計、顧客視点からのサービス開発、部門横断での多様な人材による共創、見て触れるものを使った検証など様々です」とそのメリットを語る。
このデザインプロセスの価値に着目したのが、日本マクドナルドのサプライチェーンサービスを一手に担う、HAVIの日本法人、HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン(以下、HAVIジャパン)だ。
図1:NTTデータ
ビジョンを言葉や数字だけでなく
絵で共有することを目指す
HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン合同会社
カスタマーサクセス本部
レストランサクセス部兼サクセスエネーブルメント部
シニアマネジャー
海老原 憲 氏
1974年にシカゴ周辺のマクドナルドの店舗に配送のサービスを提供することから始まったHAVIのビジネスは、マクドナルドのビジネスを熟知することを武器に、サプライチェーンの様々な領域に広がってきた。
現在では倉庫・輸配送のロジスティクスプロバイダーであり、需要予測や供給・勾配を担当するサプライチェーンサービスプロバイダーであり、ホールセール機能を提供する総合サプライチェーンインテグレータでもある。
日本では14カ所の配送網を構築し、国内約3000店舗に対して需要を予測して、資材を調達し、配送するサプライチェーンを一手に担っている。カスタマーサクセス本部レストランサクセス部兼サクセスエネーブルメント部シニアマネジャーの海老原憲氏は、「本部は6つのチームから構成され、約80人の従業員がいます」と説明する。
このHAVIジャパンでサービスを拡充しながら業務効率化を行うというBPRに取り組むことが決まった。同社では「BPRを成長の機会にしたい」と考え、サービスレベルを落とすことのないBPRを模索していた。
この時、HAVIジャパンがこだわったのは、BPRをピープルカルチャーの変革を伴ったものにしたいということだった。「チームごとがサイロ化していて、業務プロセスがつながっていませんでした。プロセス思考をとりいれてリスキングすることで、生産性向上と守備範囲の拡大ができれば、サービスレベルの向上につながると考えました」(海老原氏)
図2:HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン
そこで目をつけたのが、デザインの力だった。NTTデータが手がけたイーデザイン損害保険におけるデザイン手法を活用した新規サービス共創事例を知り、Tangityにコンタクトしたという。海老原氏は「コンサルティング会社が言葉や数字で計画を並べるアプローチは従来もありましたが、それだけではなく絵にすることで、自分たちが何を目指しているのかを思い描くことや、事後の振り返りの効果も高いと直感的に思い、そこがTangityを選ぶポイントの1つになりました」と語る。ここから2社による共創プロジェクトが始まった。
“To Be像”を明確にすることで
従業員の意識改革を促す
デザイン力を活用してサービスレベルの高度化を図るという目標を実現するために、2023年8月から、ワークショップや分科会形式でのディスカッションが複数回開催された。
このワークショップでポイントになったのは、高度サプライチェーンマネジメント人材としての“To Be像”を描き、そこから個々人の業務に落とし込むことだ。海老原氏は「Tangityは常に“To Beはどんな姿ですか”と投げかけながら手厚く伴走してくれました」と振り返る。
To Be像を明確化するワークショップを繰り返す中で、HAVIジャパンの社員は、日本マクドナルドの店舗に良いサービスを提供するには、カスタマーサクセスやデリバリー部隊など、部門を横断した連携の必要性を実感するようになっていった。
「6つのチームそれぞれが完結していてサイロになっていたのが、ワークショップを通して自分たちの仕事がその後にどう引き継がれていくのかを気にするように変化していくのが分かりました」と海老原氏は話す。
ワークショップの締めくくりには、各チームによるBPRビジョンゴール発表会を行った。「発表会は好評でした。経営陣からのトップダウンではなく、それぞれが今回描いたTo Be像を自分事化して決意表明できたことで、明るい形でBPRのワークショップを締めることができました」(海老原氏)
村岸は、「BPRには一つ一つの業務の最適化が必要ですが、それに加えて全体最適ができることで効果が違ってきます。それだけに様々な組織の巻き込みが重要です。今回はTo Be像をどう作るかという大きな絵が描けた事例になりました」と、HAVIジャパンのプロジェクトを評価する。
BPRプロジェクトを通して
横のつながりが生まれた
デザインの力で組織のサイロ化を打破するという変革への取り組みの効果は徐々に上がってきているという。海老原氏は「Tangityが伴走して会社としてのTo Beまで引っ張ってくれました。期待以上の効果が上がっています」と話す。
ワークショップをきっかけに開眼して自主的に動くメンバーが増え、組織の枠を超える動きが生まれたことで、当初からの狙いだったリスキリングや人材の高度化にも弾みがつき、働き方が変わりつつある。To Be像をデザインに落とし込んだことでその効果の持続性も期待できる。
村岸は、「もともとTo Be像を描こうということが出発点でしたが、デザインの力を活用して、共創型のアプローチを取り入れながらTo Be像を描くことを成功させたことで、向かっていくべき方向への意識づけができたのだと思います」と話す。その方向に一人ひとりが動き出すことが大きな成果を生み出すことになる。
図3:HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン
海老原氏は「当社と日本マクドナルドとの間のビジネスは今後も続いていきますが、それは絶対安泰ではありません。常にサービスレベルの向上が求められます。日本マクドナルドの売り上げ増加に伴い、物流も増えています。それだけにシステム活用の高度化も求められます。そうした変化に能動的に対応できる人材が必要なのです」と話す。
同社のメンバーが高いモチベーションを持ってスキルアップを図ることが、日本マクドナルドの顧客の笑顔を増やすことにつながる。今回のBPRプロジェクトでプラスのサイクルを回す土台ができたといえる。村岸は「これからもビジネスの未来を作っていくことに、デザインがどう貢献できるかをテーマに支援していきます」と語る。
本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。
Tangity詳細はこちら:
https://tangity.design/
NTTデータのデザインコンサルティングサービス詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/design-consulting/
あわせて読みたい: