日経フォーラム 第26回世界経営者会議 講演録

日本発のグローバルITサービス企業としてイノベーティブな挑戦を続けていく

2025.1.17

NTTデータグループが大きく変貌している。2022年10月にNTTグループの海外事業会社であるNTTリミテッドを統合し、海外における売り上げは全体の6割を占める。
約19万5000人の従業員のうち、日本国内が4万5000人で次はインドの3万5000人、以下スペイン、イタリアと続く。ITサービスで世界ランキング6位となった同社グループが目指すものは何か。

2024年10月28日に開催された日経フォーラム第26回世界経営者会議(主催=日本経済新聞社、IMD)でも講演した同社グループトップの佐々木裕に話を聞いた。

グローバルにビジネスを拡大、
データセンターは世界3位

2005年ごろからグローバル展開に取り組み、2023年7月から持ち株会社、国内事業会社、海外事業会社の3社体制とし、現在では世界50以上の国と地域に拠点を展開しています。
売上高は世界6位とグローバルな競合と戦えるレベルにまで成長してきました。

ITはグローバルな商材であり、グローバル自体が企業を成長させていくためのフィールドです。
海外に事業を展開する日本企業のサポートという目的もあり、当社グループが日本に閉じることなくグローバルにビジネスを拡大してきたのは必然です。

その過程では、海外企業のM&Aも積極的に推進してきました。
2008年に買収したドイツのitelligence社は当時の日本になかったSAPの幅広いノウハウを持っていました。
こうした化学反応が期待できる企業を統合してきました。

世界50以上の国と地域に拠点を展開図

また、2022年のNTTリミテッドの統合によって海外のデータセンター事業が拡大し、それ以降も海外のデータセンターへの投資を積極的に行ってきました。昨年の投資額は約3900億円で、現在はデータセンター事業者の中で世界3位のポジションを占めています。

データセンター事業で重要なのは、グーグルやマイクロソフトなどのハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)と対等に会話できるレベルにいることです。
そのためにデータセンター建設に有利な立地にある土地を確保するとともに、強固な建物を建設し、品質を担保して一定の提供能力を持ち続けることにこだわっています。加えて、生成AI(人工知能)の普及に伴うAIデータセンターの需要にもしっかり応えていきます。

HOWではなくWHAT起点で
企業のビジネスを支援

デジタルというと「データを活用したい」「AIを導入したい」などテクノロジーから入りがちです。これらはHOWです。それよりも、どんな経営課題を解決するのかというWHATが重要です。社内に対してプロダクトやサービスを売るHOWではなく、お客様の課題であるWHATからアプローチすることを求めています。

生成AIもHOWの一つです。何ができるのかを理解してもらうことは必要ですが、自社内のデータを使い、業務の中で活用していくことが重要です。当社グループでは、次のステップとして「SmartAgent」という新たな生成AIサービスの提供を開始していくことを発表しています。

AIがもたらす企業活動の未来図

今後は経理や法律、営業など業務に特化した知識を持った複数の生成AIが登場します。
それらを業務プロセスの中で活用できるようにする生成AIサービスが「SmartAgent」です。
何かをしたいときに質問すると様々な生成AIを活用して適切な提案をしてくれるようになります。

当社グループの能力を結集し、企業の業務内容や課題を理解したうえで様々な生成AIに対するノウハウを活用して全体を設計し、業務プロセスの中で最適な形で生成AIが活用できるような生成AIサービスを提供していきます。

今後はAIエージェントが専門的な組織能力に代わる時代が訪れます。「SmartAgent」が企業に導入され、オフィスワーカーの生産性が改善されるとともに、生成AIが普及するにつれて、エンドユーザーへの新しい価値提供になくてはならないものになるでしょう。
製造業ではカメラやセンサーにAIが加わったロボティクスも進化します。当社グループはこのロボティクスの領域でも貢献できると考えています。

先進技術の活用を共創する
イノベーションセンタ

イノベーションの起点となるのがEmergingとGrowth、そしてMainstreamの3つの頭文字を組み合わせた「EGMフレームワーク」です。Emergingは5~10年後に開花を見込む技術、Growthは3~5年後にビジネスへの本格導入が期待される技術、Mainstreamは実用化されていてすでに活用されている技術を指しています。

クラウドやサイバーセキュリティーなどMainstreamの技術はすでにノウハウがたまってきていて実用化されている領域であり、他社との競争が始まっています。

EGMフレームワーク図

一方、EmergingとGrowthは未来に利用できるようになる先進技術です。ここに分類される技術については、世界各国のアーリーアダプター(早期導入)企業と一緒に、世界11カ所の「イノベーションセンタ」で、技術活用に対する取り組みを進めています。世界トップクラスの研究開発チームを目指すイノベーションセンタには現在220人の人員を配しています。

例えば、イタリアのメディア企業のSkyと2023年に技術パートナー契約を締結し、デジタルツイン技術によるデータセンターの監視と運用、スマートロボティクスの活用など、複数の技術実証や実用化に向けた取り組みを実施しています。

データセンターでは、ケーブルなどがあっても移動しやすい、自律歩行できる四足歩行ロボットが巡回してセンサーやコンピュータービジョン技術を用いて内部を監視します。その延長線上にはデジタルツイン技術の活用があります。サイバーの世界をリアルな世界に反映させ、安全・安心な施設の実現を目指しています。

イノベーティブな企業に先進技術の実証実験を提案して共創することにより、先進的なユースケース(活用事例)づくりを世界の各拠点で進め、そのノウハウを日本企業にも提案していきます。

豊かで調和のとれた
持続可能な社会の実現へ

あらゆる業界のプラットフォームにITテクノロジーが活用されている今、社会課題の解決は当社グループにとって大きなテーマです。その一つがスリープテックです。「Food & Wellness構想」の一つとして品川駅前に睡眠データを計測するカプセルホテルを開業しました。当社グループ社員の健康データを蓄積している「Food & Wellnessプラットフォーム」に、ここで収集した睡眠データを追加することでデータ分析を通して社会の健康増進に寄与していきます。

また2024年7月に、観測衛星サービスを提供するMarble Visionsを設立しました。当社グループの衛星を打ち上げ、高品質な画像を使って観測を行い、より高性能で高品質な用途に対応できるプラットフォームの展開を目指していきます。

宇宙事業はリスクを伴うものですが、常日頃より社員へ、「開発リスクはとるべきではないが、ビジネスリスクはとってよい」と伝えています。ビジネスリスクをとらなければ世の中は変わりませんし、イノベーションが起きません。当社グループだけで力不足であれば志を同じくするパートナーとの協力も厭(いと)いません。安全・安心のイメージが強かった当社ですが、「Moving forward in harmony.」というスローガンを掲げ、「社会変革プロデューサー」として認知されるように取り組んでいます。

スローガンにあるharmonyは「調和」であり、人と人との協調、人と自然の共生、人とロボットの協働、人とAIの共存など様々な意味での調和を包含する言葉です。そのバランスは人の側面で変わってきます。豊かで調和のとれた持続可能な社会こそが当社グループの目指す姿です。

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