CEOが見る生成AIインパクト
2025.1.16
企業価値の創出という新時代を生成AIがどのように切り拓くのか、グローバルインダストリーをリードするCEOたちの展望を聞く
生成AI(Gen AI)は業界を問わずビジネスの競争環境を変化させる、まさにゲームチェンジャーである。この変化を受け入れようとする企業の検討課題は、もはや生成AIを導入するか否かではなく、どのように生成AIの活用を効果的に拡大し、企業としての価値を高めるかである。
株式会社NTTデータグループ代表取締役社長の佐々木 裕氏と、株式会社NTT DATA, Inc. President and CEOのAbhijit Dubey氏に話を聞いた。生成AIはどのようにして、これまでにないビジネスチャンスを生み出すことができるのか、新たな可能性の扉を開こうとする企業のリーダーたちのビジョンを探った。

Q: 生成AIはグローバルインダストリーにどのような変化をもたらしていますか?どのような社会的影響がありますか?
佐々木 裕生成AIはグローバルインダストリーのカタリスト、事業成長や市場拡大を促進するトリガーだと思っています。私が最も興味あるケイパビリティは認知プロセスの統合(コグニティブ・プロセス・インテグレーション)です。先日訪れた自動運転車の研究所では、認識・記憶・判断といった機能が個別に制御されていましたが、現在では、生成AIを使ってそれらの機能を完全に統合し、人間の能力を模倣する段階まで来ています。

『私たちのミッションは、拡張性、正確性、人間中心の成果を重視して生成AIを活用し、お客さまの業務変革を支援することです。特に。AIエージェント、フルスタックのプライベートAIソリューション、業界特化型ツール、NTTの大規模言語モデル「tsuzumi」を活用して、さらに高い価値を創出します。』
— 佐々木 裕 株式会社NTTデータグループ代表取締役社長
生成AIは社会全体に甚大な影響を及ぼします。情報へのアクセスを改善し、AIツールの民主化、従業員のスキル向上によって、企業はより少ないリソースで、より多くの成果を上げることができます。
Q: 生成AIをこれほどディスラプティブなテクノロジー(破壊的技術)にしている要因とは?どのように価値を生み出していますか?
Abhijit Dubey 私は20年以上シリコンバレーに住み、数多くのテクノロジー革命を見てきましたが、生成AIに匹敵するものはありません。業務プロセスを最適化するだけでなく、仕事の本質そのものを変えます。これによって、企業は従来のビジネスモデルの見直し、成長のための新たな道の模索を迫られます。このようなテクノロジーをかつて見たことがありません。

『NTT DATAでは、お客さまとともに生成AIが持つパワーとインサイトを活用して、お客さまのサービスの再構築を支援し、著しく変化するテクノロジー動向をナビゲートしています。先日、当社はDuke Healthとパートナーシップを発表し、新しい在宅ケアモデルを構築しました。高度な分析、自動化、生成AI搭載の仮想エージェントを統合することで、よりパーソナライズされた効果の高い患者体験を提供します。』
— Abhijit Dubey 株式会社NTT DATA, Inc. President and CEO
Q: 生成AIを取り巻く環境で、特に注目するテクノロジーはありますか?
佐々木 大規模言語モデル(LLM)ばかりがニュースのトップを飾っていますが、真のビジネストランスフォーメーションには各企業に合わせたソリューションが必要です。LLMだけでは十分に対応できません。小規模言語モデル(SLM)と軽量LLMであれば、企業の自社データを使った安全なトレーニングが可能です。たとえば、軽量でセキュアなNTTの「tsuzumi」、データセキュリティを最重要視するお客さまの環境に最適です。すでに政府の研究プロジェクトにも採用されており、堅牢なデータ保護と高い効率を実現しています。
Dubey さらに現在、生成AIを活用して業務全体を監督できる高度なシステムの構築が可能となっています。私たちは、個々のタスクではなく、コアビジネスに不可欠な複雑なプロセスを連携して解決する特化型AIエージェントの開発を進めています。お客さまやビジネスパートナーとの共創によりこの進化をリードし、あらゆる業界のリーダーに生成AIをフル活用するために必要なツールや専門知識を提供していきます。
Q: 企業はAIの実験的導入から全社規模での運用までをどのように移行すべきでしょうか?
Dubey 成功の鍵は、AI戦略とビジネスゴールが同じ方向を向いていること、方向性を合致させなければなりせん。スムーズな組織変革のためには、チェンジマネジメントを優先することも重要です。さらに、企業の多くが自社のデータは生成AIに対応していないと気づいているように、データアーキテクチャの改善が不可欠です。価値を実現するためには、企業は迅速に行動し、実験段階にとどまるのは避けるべきです。最後に、セキュリティ、プライバシー、倫理といったリスク課題への投資です。この領域には近道という選択肢がありません。
Q: NTT DATAは具体的にどのように生成AIを活用して、お客さまの経営課題を解決してきましたか?
佐々木 成功事例として、L'Oréal Chile社とのコラボレーションが挙げられます。会話型AIプラットフォーム"Eva"を活用し、AIエージェント"Lore"を開発しました。Loreは、顧客の購入履歴、天候や行き先などの情報から、パーソナライズされた化粧品を提案します。このイノベーションにより、顧客エンゲージメントが高まり、従業員の生産性向上、eコマースでのコンバージョン率増加に繋がりました。
Dubey
もう一つの成功事例は、ドイツ大手Tier 1 自動車部品メーカーとのパートナーシップです。彼らのR&D部門向けに、AI搭載プラットフォーム、"AI Shadow"を構築し、要件抽出・分類・特徴マッピングを自動化、プロセス革新を実現しました。
その結果は一目瞭然です。最初の1年で50%効率アップし、運用コスト108万ドル(100万ユーロ)削減見込みとの報告をいただきました。
Q: サステナビリティに対する企業の関心がますます高まっています。倫理と責任を担保しつつ、サステナブルなAIを導入するために、どのような戦略がありますか?
佐々木 倫理的な責任、これは当社のイノベーションの中核です。代表的な例として、NTTのIOWN ネットワークは企業のエネルギー使用量を大きく増加させることなく、AIの拡張を可能にします。エネルギー消費量の少ないフォトニクスから軽量LLMまで、業界全体の脱炭素化が重要な責務であり、成長の原動力と考えています。
Dubey その通りです。また、私たちはお客さまに”Green IT Calculator”を提供して、IT運用、特にデータセンターからの炭素排出量を追跡しています。倫理面では、責任ある開発の原則が社内においても適用されなければなりません。強固なフレームワークとガイドラインを策定し、社員たちが意図せぬ結果を招くことがないようにしています。NTT DATAのAIガバナンス室は、プライバシー、正当性、説明責任の遵守を重視し、安全対策が組み込まれた従業員ツールの使用を推奨しています。
Q: 今後の生成AIとNTT DATAが果たす役割は?
Dubey 私たちは、コンサルティング、データアナリティクス、アプリケーションマネジメント、物理的インフラストラクチャを組み合わせて提供することで、生成AIの未来を形作るユニークなポジションにいます。ほとんどの企業がデータセンターやネットワーク基盤のような従来型のプロダクトを重視していますが、私たちはその両方でお客さまを支援します。世界第3位の規模を誇るデータセンタープロバイダーとして、主要なパブリッククラウドサービスのホスティングをグローバルに提供する一方で、お客さまの要求に合わせてカスタマイズしたソリューションをフルスタックで提供しています。
佐々木
私の考えでは、次に来るのはAIエージェントだと思います。私たちは、メガモデルのエネルギー負荷と計算需要に対応するSLM群を持つ未来を描いています。このようなブレークスルーにより、新たな運用効率の基準が確立され、将来的にはお客さまにとって生成AIプロジェクトがより費用対効果の高いものになります。
さらに、NTTグループとして、私たちはデジタルテクノロジーと従業員の教育に積極的な投資をし、AIイノベーションにおいて大きく前進しています。NTT DATAだけでも、社員20万人に生成AIリテラシー研修の提供を開始しましたが、これはほんの始まりに過ぎません。未来に目を向けると、これらのテクノロジーによる変革の可能性と、それらを活用する私たちの役割にインスパイアされ、NTT DATAの「つなぐ力」「つくる力」の新しい可能性を予感しています。
NTT DATAの生成AI活用について、詳細はこちら。
備考:
- 1. Microsoft Azure上でNTT版LLM「tsuzumi」の提供開始 | NTTデータグループ - NTT DATA GROUP
- 2. IOWNは、電気の代わりに光を用いてデータを伝送するフォトニクスベースのネットワークであり、消費電力を100分の1に削減、またレイテンシー(遅延時間)を200倍低減することが期待されています。
この記事は、Custom Content from WSJによる英語記事を日本語訳したものです。