国土空間データ基盤構想「NSDI」

インドネシアの国土空間データを集約すべく共有システムを導入。天然資源の管理やインフラの整備と構築に挑む、大規模な国家プロジェクト

インドネシア政府は、NSDI(National Spatial Data Infrastructure/国土空間データ基盤構想)プロジェクトに基づき、NTTデータが提供する世界でも先進的なネットワーク・システムを導入した。それにより、インドネシアは複数の省庁や地方自治体が独自で保有していた国土空間データの一元管理化や、今まで国土空間データの共有がなされていなかったために起こっていた地域開発計画の策定の作業や投資等の重複回避に成功。州レベルの地域開発計画の策定が可能となり、インドネシア全体の経済発展の道筋を確立した。これは日本で初めてインドネシアにおける大規模ITシステムのODA(Official Development Assistance/開発途上国への政府開発援助)案件を成功させた事例といえる。

お客様の課題

インドネシアでは、政府が中心となり国内の天然資源、社会インフラ、地域開発計画等の管理を目的に国土空間を整備していたが、各省庁それぞれが独自の国土空間データを保有・使用しており、他の省庁との共有ができていなかった。そのため、作業・投資の重複や意思決定の遅れが発生していた問題を解決したい。

各省庁が保有している国土空間データを一元化し、複数の機関で共有するネットワーク・システムを導入したい。

導入効果

インドネシア測量地図庁、BIG(Badan Informasi Geospasial)は、正確な国土空間データを作成する技術を身につけ、そのデータを信頼し使用する機関が増えたことにより行政業務の効率化が実現し、インドネシア全体の経済発展に大きく貢献している。

省庁や地方自治体等が、一元化された国土空間データを共有し、地域開発計画をスムーズに推進できるようになった。

全国民が、ポータルサイトを通じてBIGのシステムにアクセスし、簡単に高品質な地図データを入手できるようになった。

災害時の被害予測や危険エリアの割り出しなど、災害管理をサポートする国土空間データを共有できるようになった。

ケーススタディ

導入の背景と課題

豊富な天然資源の管理や今後の経済発展に向け、早急なデータ整備が必要に

経済発展が著しいインドネシアでは、政府が中心となって天然資源や社会インフラ、地域開発計画などの管理を目的に国土空間データの整備を進めていたが、各省庁や地方自治体が独自に管理する地理データが幾つも存在し、必要な地理データを素早く選択することが困難だった。なおかつ、共有されていないがために、各省庁や地方自治体で重複する作業や投資が行われていた。

「ある時、インドネシア大統領が主要な森林面積に関して尋ねてきたのです。私たちはすぐさま調べましたが、多くの異なる地理データがあり、どれを使用すべきか私たちは混乱しました。すると大統領は大変ご立腹され、1つに統合するようにおっしゃったのです」と、BIGのユスフ氏は振り返る。

この非効率的な現状を変えるため、2007年に大統領令85条が発令した。しかし、インドネシアの国土は日本のおよそ5倍以上と広大な上、各省庁との国土空間データ共有のためには、ネットワーク・インフラやアプリケーションの開発、新しいデータセンターが必要だった。

インドネシア測量地図庁(BIG)
Deputy Chairman for Geospatial Information Infrastructure
Yusuf S. Djajadihardja氏

「こうした大規模なシステムを新規開発するためには高度な技術とノウハウが必要となる。たとえば、大規模なネットワーク・インフラの構築や、各省庁で使用されているデータ構造等を統一する標準化などがそうだ。特に、重要な国土空間データを安全なインターネット環境内で移行する作業などに関しては、インドネシア政府も非常に慎重だった。さらに、システムの導入後も、長期的に安全に運用していくためのサポート技術が欠かせない。インドネシア政府は、経済発展に向けた非常に重要なプロジェクトとしてこの事業を位置づけていた」そう語るのは、同じくBIGセンター長を務めるドディ氏だ。

一方、日本ではJICA(Japan International Cooperation Agency/独立行政法人 国際協力機構)によるODA案件として、2007年3月29日に「NSDI(National Spatial Data Infrastructure/国土空間データ基盤整備事業)」がスタート。NTTデータは、この事業の一環であるインドネシアNSDI開発プロジェクトの入札(2010年8月)に、伊藤忠商事と共同参画。その結果、NTTデータがプロジェクトマネジメント全般およびシステム開発を担当することとなった。

インドネシア測量地図庁(BIG)
Deputy for Basic Geospatial Information
Dodi Sukmayadi Wiradisastra氏

選定ポイント

求めていた高い技術力や専門性と経験値。さらにはチームワークと協調性が決定打となる

BIGセンター長のドディ氏は、本プロジェクトのパートナー選定についてこう述べた。
「NTTデータが持つ技術力はもちろん、専門性や他地域での経験値に期待していた。しかし、それよりも重視したのは、彼らがすばらしいチームワークと協調性を持っている点だった。」

本プロジェクトは、2010年暮れから2015年のプロジェクト終了までロングスパンで密接に関わる必要がある。続けてドディ氏は言う。「彼らの協調性のおかげで、壁にぶつかった時も肩と肩を突き合わせて一緒に解決し、前に進んできた。」NTTデータはクライアントファースト精神に則り、長期に渡る揺るぎない関係性を重要視しているからこそ、BIGから公式パートナーとして選定された理由でもあるのだろう。

「もし良いコラボレーション、良いコミュニケーション、良いチームワークがなければ、構築は難しかったでしょう。不義理をしない、人間関係が今回のプロジェクトにおいてはとても重要だった」そして、ドディ氏のNTTデータに対する信頼は、システム開発が完成した後も変わらない。「インドネシア政府はまだ期待している。開発後のメンテナンスをサポートするトレーニング期間が1年間もあるので、今後も私たちのために誠意を尽くしてくれると信じているし、どんな問題が起きたとしても力を合わせれば解決できると思う。恐らくNTTデータは、日本一、いや世界一のIT企業として強力なコミットメントとプロフェッショナリズムを証明してくれるはずだ」と極めて熱いコメントを残している。

導入の流れ

インドネシア国内でのBIGのステータスが高まり、国土空間情報を政策に結びつけていくことが重視されていく

NSDI開発プロジェクトの契約が締結されたのは、2010年12月末のこと。プロジェクト進行中、特に大きな課題となったのは、データセンターの設立についてだった。「2007年に発令された、NSDI開発に関する方針をまとめた大統領令85条によって定められていた内容は、『14の特定政府機関が国土空間データを共有できる国家ネットワーク・システムを作る』というものだった。その後2011年に新たな大統領令4条が発表され、57の省庁、34の州、そして508の自治体が対象となった。これを実現するため、大容量のデータを処理することができる高機能なデータセンターの設立が必要となった」(ユスフ氏)

こうした背景に伴い必要となったのが、ストレージの容量拡大。多くの空間データを扱えるよう、BIGとNTTデータは何度も話し合い、ストレージ追加に関する新しい契約を結ぶことになる。「当初予定されていた300テラバイトから、1ペタバイト以上にまで容量を増やした。もちろんこれはプロジェクト中に直面した数ある課題のひとつに過ぎないが、改善点や問題に対しては常にNTTデータと議論することができた。また、プロジェクト推進中も、インドネシア内のIT技術は驚くほど早いスピードで進歩しており、最新知識をNTTデータと共にいち早く学ぶことで、互いに成長することができたように思う」(ドディ氏)

その後、該当エリアの基本図データを整備し、国土空間データを共有するためのネットワーク・システム整備を行い、同システムの活用による効率的な地域開発計画の策定に係る支援などを互いが協力しながら行った。

インドネシアに開発拠点を置き、データセンターの設立からその国に合ったオリジナルのネットワーク・システムを提案&構築できたのは、グローバルビジネスを得意とするNTTデータだからこそである。

2014年5月現在、すでにNSDI開発は完了しており、2015年のプロジェクト終了までの間は、運用・メンテナンスや、ネットワーク・システムを利用する政府機関へのデータ管理方法の研修などを継続して行う予定だ。

導入効果と今後の展望

開発途上国のインフラ整備や構築、地域開発計画において、NTTデータとのパートナーシップに今後ますますニーズが高まる

2014年現在、インドネシア国内の省庁、地方自治体などを含む25の拠点がNSDIによってつながれている。当初は困難とされたデータの平準化も問題なく行われ、BIGが保有する国土空間データを、各省庁がスムーズに使用できるようになった。「このシステムにより、地域開発に関する各地の行政事業は以前と比べてずっと無駄なく、スピーディーにできるようになった。現在ではほとんどの省庁がこのシステムの操作に慣れ、業務の効率化を実感しているようだ。」(ドディ氏)

それだけではない。NSDIシステムによってインドネシア国民はもちろん、世界中のユーザーがアクセスすることができるのだ。「我々の国土空間データや基礎情報局は、世界中に対してオープンにされており、25万分の1の地図などは誰でも取得することができる。わざわざBIGを訪れたり、地図を買ったりすることなく、ポータルサイト上で欲しい地理情報をクリックするだけで手に入る。しかもその情報は、既存の地図よりも遥かに質が高い。これはインドネシア国内で生活する人や旅行者にとって、大きな利便性を生み出すだろう。現在はまだ無償ではないが、近い将来には世界中のユーザーが無償で使えるシステムにしたいと考えているし、そのためにもシステムの開発は継続的に、急速に行わなければならない」(ドディ氏)

今後の目標はすべての省庁、州、政府機関を互いにつなげることだという。「それを達成するためには、おそらく5年はかかるだろう。そのためにもNTTデータとはこれからも良いグループ関係を維持していきたいと考えている。インドネシアは非常に大きく、スマトラ島だけでさえ、日本の国土より広い。深海エリアへのケーブルの敷設など、課題はまだたくさんある」とドディ氏。「このプロジェクトが世界初の画期的なものであることを証明するためにも、今後の運用も引き続き確実に続けていきたい。そして、このプロジェクトで得られたノウハウは、ぜひ他の国でも使って欲しい」

NTTデータが構築したデータセンターは、国連活動における、「東南アジア地域の地形を統括するネットワークノートコネクター」として認定された。さらに、国際海洋データセンターも請け負うことにもなったという。「NSDIシステムは災害管理をサポートする地理空間情報を共有することもできるため、国連の活動に協力することはもちろん、地球規模での地理空間情報の管理にも今後取り組んでいきたい。そのためにも、さらなるNSDIの拡張は必要だ」とドディ氏は語る。NTTデータとインドネシア政府のタッグは、これから先も長く続いていくに違いない。