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2016年7月4日INSIGHT

石黒 浩(ロボット研究者)

2045年ごろには人工知能が人間の知能を越えると言われています。 人間とロボットとの関係は、どうなるのでしょうか。 それを考えるには、まず、人間とは何かを研究することから始まります。 ロボット研究の第一人者、大阪大学の石黒浩教授にお話いただきました。

人間は知能を加速させる一時的な手段だ

わたしたちは、今までの枠組みを越え、広く知識・技術・人脈の結集により、新しいビジネスの創発に取り組んでいます。その1つとして、オープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」(※1)を定期的に開催しています。2016年3月10日の特別イベントでは、石黒浩教授をお招きし、ロボット研究から見える「人間とは何か」についてお話いただきました。

人間が好きだからロボットを研究する

石黒 浩(いしぐろ・ひろし) 大阪大学教授(特別教授)。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

石黒 浩(いしぐろ・ひろし) 大阪大学教授(特別教授)。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

ロボットをつくることで人間を理解する、ロボット学をやっています。誤解されがちですが、ロボットを好きな先生は人間嫌いの人が多いので、間違っても人間そっくりのロボットはつくらない。

僕の場合は、ロボットよりも人間の方に興味があるので、自分そっくりのロボットをつくっています。最近ではこのロボットが講演してくれるのですごく便利です(笑)。

このロボットがアイデンティティーを持つことで、僕らが日常生活で何げなく口にする「言葉」、「心」、「意識」などの意味について、もう一度、深くその意味を考え直さなければならないのが、この研究の面白いところです。

近い将来、人間型ロボットによるサービスを提供していく社会がやってくると思います。なぜ人間型かというと、人間の脳は人を認識するためにあるので、世の中にはどんどん人間らしいロボットが登場していくのです。

ヴイストン社のSota

ヴイストン社のSota

ロボット社会に必要なのは、安くて簡単に使えるパーソナルロボットです。「Pepper(ペッパー)」(※2)は少し大きいですが、「CommU(コミュー)」や「Sota(ソータ)」(※3)など、人と対話できる少し小さいロボットの方が私は使い勝手がよいと思っていて、2~4年ぐらいでロボットによって世の中が変わると感じさせてくれます。例えば英会話の練習に使えるなど、いろいろな活用方法が考えられます。

ロボットを改良することは人間を理解すること

人間と自然に対話するアンドロイドの研究開発用プラットフォーム「ERICA(エリカ)」(©ERATO石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)

人間と自然に対話するアンドロイドの研究開発用プラットフォーム「ERICA(エリカ)」(©ERATO石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)

ロボットの世界も、商品開発の世界と同様に、人間のニーズに基づいたものづくりが必要です。ロボットをつくるだけではなくて、人間を理解しながらロボットを改良していくことが重要なのです。

アンドロイド(※4)は分身にも使えるし、触ると自分の体のように感じることができます。例えば脊髄損傷のような体の動かない人でも、アンドロイドがあれば働くことができます。

また、アンドロイドを研究していると、人とロボットの本質みたいなものが分かってきて、性別も年齢も特定できないようなニュートラルなミニマルデザインのロボットの方が、人間の想像をかきたてるということもわかってきました。

人間は道具を使うサル

人間はこれまでの進化の過程において、「遺伝子」と「技術」の2つの進化する方法を持っています。技術による進化は、遺伝子による進化より速い速度で人間の能力を拡張してきました。

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人間とはそもそも何かと、あらためて考えてみると、基本的には「道具を使うサル」なのです。人間とロボットを比較すること自体がおかしい。

人間は能力を拡張して生き残っていく使命が遺伝子に刻み込まれているので、能力を拡張させる新しい技術に対して、とても魅力を感じる性質をもっていて、それが生活を豊かにしていく経済発展の原理になっています。ゆえに、人類の歴史において技術が衰退したことはほとんどありません。

技術開発を進めるにあたり、「コンピューターは人間を超えるのか」という議論がありますね。アンドロイドがどれくらい人間らしくなっているかというと、人の言うことを推察することができ、さらにその意図を共有することができるようになっています。意図を共有できるというのは、人間とロボットが、親しい関係をつくれるということなのです。

無機物から誕生して再び無機物へ

生命の限界を超えてロボットを進化させるため、障害になりうるのは何か。それは、脳の機能をコンピューターに置き換えられるか。ということだと思います。

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コンピューターは、すでに人間が理解し、定義づけできている物事であれば、その処理や対応能力において、人間をはるかに上回ります。今後、人間が機械に置き換わる場面が増え、最終的には、人類は自身のすべてを機械の体に置き換えることになります。

つまり、人類は無機物から生まれ、また、無機物に戻ろうとしているのです。

地球が誕生して偶然有機物ができて、進化の最終形態として人間があります。その人間はロボット(技術)をつくり出し、すべてを人工物(無機物)の体に置き換えて、生物の制約である120年の寿命を超えようとしている。

人間という有機物の体は、知能を加速させるための一時的な手段と言えます。有機物は適応能力が高いので進化を加速することができたのですが、一方で複雑な構造ゆえに壊れやすく、維持ができない。

だから、最終的にすべて無機物に置き換えることで、有機物の限界(寿命)を超えていくことができるのです。

※1豊洲の港から

NTTデータが運営するオープンイノベーションフォーラムの名称。先進企業(ベンチャー等)、お客様(大企業)、NTTデータとの3者でWin-Win-Winの関係を築き、新しいビジネスを創発することが目的。

※2Pepper

ソフトバンク株式会社が販売する、センサーで感知したデータを元に自律的に動くことのできるロボット。

※3CommU(コミュー)とSota(ソータ)

株式会社ヴイストンが販売する、日本の家庭環境に合わせたテーブルトップサイズのコミュニケ―ションロボット。

※4アンドロイド

人間に見かけも動きも酷似したヒューマノイドロボット。

特別対談 夢を実現させる力(前編)

さらに、石黒教授の「人間とは何か」の問いに深くせまります。NTTデータのオープンイノベーション活動「豊洲の港から」の立ち上げ当時からスペシャルアドバイザーである、多摩大学客員教授の本荘修二氏をコーディネーターに、特別対談が行われました。

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夢を言い訳にするな

本荘 本日は、石黒さんと一緒に、「夢を実現させる力」というテーマで、話を進めていきます。

みなさんの中で、石黒さんが書かれた「アンドロイドは人間になれるか」という本を読んだ人はいますか? これを読んだ人は、夢を実現させる力を分かっていると思います。

ちなみに僕は夢を持ったことがありません。

石黒 僕も同じで、いつも学生にも「夢は持っちゃいけない」と言っています。早めに夢を持ってしまうと、幅広い事柄について勉強しない言い訳として夢を使ってしまうので、夢は持たない方がいいと言っています。自分の能力はどんどん拡張していくはずなのに、夢によって潰されてしまう感じがします。

本荘 夢の実現という例として、セリエAに所属するサッカーの本田圭佑選手が、小さいころの文集に書いた夢がかなったということで大人たちが過剰に美化していましたが、私は違うのではないかと思います。夢は育みつくるもので、どんどん変化して当たり前なのです

石黒 夢を持つことでうまくいく人もいるかもしれませんが、確率的にはほとんど意味がありません。夢を1つしか持てないと、やらないことの言い訳に使われてしまいます。私は、夢を持つなら100万個くらい持てと言っています。

人の気持ちの正体とは

本荘 石黒先生は小さいころから「テーマ(問い)」を持たれましたよね。

石黒 僕は、小さいころ夢がなくてぼんやりしていたのですが、小学校5年生のとき、「人の気持ちを考えなさい」と大人に言われて衝撃を受けました。人の気持ちを考えることは大事なことなのに、考え方自体を一度も教わっていないし、大事にしろというその「気持ち」を見たことがないわけです。皆さんは「気持ち」が何か知っていますか。

本荘 「気持ち」を100字以内で説明せよ、というやつですね。

石黒 そうです。「気持ち」でも「考える」ということでもどちらでもよいですが、それを定義した瞬間にコンピューターが勝ってしまいます。

だから、小学校5年生のときには、「自分の考えている次元とは違う世界に行けるなんて、大人はすごい」と思っていました。ようやく高校生ぐらいになって、全員うそをついていると分かったので卒業しないままずっと学校の中にいるのです。

所属する集団で意識が左右される

本荘 皆さんの中で、小学生のときに、人の「気持ち」や「考える」ということに対して、疑問を持ったことのある方はいますか。

石黒 みんな問いは持っていると思います。その問いを大人に投げかけると、「うるさい」と言われ、「そういうことは、大人になったら分かるよ」と、うそをつかれるのです。

僕自身は、人の話を聞かない子どもでした。授業参観とかで、先生の言ったことを全部無視して、1人だけ絵を描いていたら、それを見た母親が泣いていました。自分は、「人とは違うのだ」と思いました。

本荘 アインシュタインみたいですね。以前、中学生に対して、「若いのだから、何でもトライすればいい」と言ったところ、「初めてそういうことを言われた」と返されたことがありました。周りの大人は、日常的に、「(○○を)やってはいけない」、「オマエにはできない」などと言ってしまっているのです。

石黒 もっと不思議なのが、PTAなどの場において、「こういった親はダメだ。」と説いて周囲からは賛同されている大人が、家に帰ると、自分自身がダメな大人になってしまうことです。

つまり、所属する組織や群れに適応するように振る舞うことができても、別の集団に属した瞬間に意識が変わってしまう。自分の中で、何が疑問で何を解決しないといけないかを考えていないと、集団の意識に簡単に振り回されてしまう。
だから人の話を聞いてはいけないのです。

他人と交わり自分を知る

本荘 小さいころの気づきを逸らすことなく、直球でここまで来られたのでしょうか。

石黒 直球ではありません。最初になろうと思った絵描きを諦めて、それからコンピューターサイエンスの道に進みました。それから、機械を勉強するなどバタバタやっています。

ただ「嫌なことはやらない」というのを貫いています。やりたいことをやるのは、小学校の時から同じです。だから、つらいと思った記憶はありません。

本荘 普通、これはやるけど、これはやらない。と決めてしまうと、可能性が限定されそうですが、石黒さんは興味のあるものだけをやるという考えを持ちつつ、他分野・異業種の人と関わり、フィールドを広げていますね。

石黒 他人を見る以外に自分の姿は見えてこないじゃないですか。自己意識を持つには、人と関わるしかないわけです。異業種の人でも、意外に自分との共通点を見つけると面白くなって、一緒に何かをしたくなります。

要するに、すべて自分を知るためです。自分自身や人間という存在に興味を持っているので、大抵何でもできるし嫌なことはないわけです。

本荘 一般の人は、自分の録音した声を聞いたり、録画したものを見たりするのは違和感があると思いますが、石黒さんはそういう感覚はないのですか。

石黒 自分自身の感覚がよくわからないフワフワしたものだから、それを確かめたい思いがあるので全く抵抗がありません。もしかすると、リアリティーがないのかもしれませんね。「意識の場所」は、このあたり(場所)にあると、ピンポイントで指し示すことは難しいですよね。

特別対談 夢を実現させる力(後編)

新しいことは説明しても理解されない

本荘 石黒さんは、斬新なアンドロイド開発の研究をされていますが、他人に説明しても理解してもらえないから、自分のコンセプトに共感できる人と一緒に研究することを大事にされているようですね。

テレノイド(©Hiroshi Ishiguro Laboratory, ATR)

テレノイド(©Hiroshi Ishiguro Laboratory, ATR)

石黒 僕のプロジェクトは、自分自身の中では論理がつながっているのだけれども、他人へ説明するのがすごく難しいといったケースが多い。

遠隔操作型アンドロイド「テレノイド(※1)」をつかったロボット研究のときも、誰もこれが世の中に役に立つとは信じてくれまいと確信していました。そのため、協業者に対しては、「僕が提案することに対して、一切説明を求めてはいけない」ということでスタートしました。

結果は、大成功しました。少しアーティストっぽいアプローチかもしれません。でも新しいことは理由を説明するのがなかなか難しくて、いくら言っても納得してもらえないので、見せるしかない。

本荘 商品やサービスでも、最初はアホじゃないか。と言われたものがヒットしていますよね。企業でも、「俺を信じろ、言う通りにしろ」というかたちで稟議(りんぎ)を通すと、夢が実現できるかもしれないですね。

人の感情を推し量ることからの開放

ハグビー(©Hiroshi Ishiguro Laboratory, ATR)

ハグビー(©Hiroshi Ishiguro Laboratory, ATR)

石黒 アンドロイドの研究を行ってきた結果、最終的に行きついたのが、「人の存在をどうやったら表現できるか」、「その条件は何か」ということでした。

人間の脳は、「見る」と「聞く」を足し合わせて、1+1の2で認識すると思われがちですが、実は、2つ情報が重なったときに、4とか5に反応するしくみになっています。その結果、「知っている」という状態になるのです。ハグビー(※2)の場合も2つの情報は「声」と「触感」です。

人間そっくりのアンドロイドをつくってみて分かったことは、人間は大事ではない要素を引き算して認識するということです。さらに、あるところまで行きつくと人間は相手のことを想像でカバーし始めます。

テレノイドが受け入れられるのは、人間は、「誰かはっきり認識できる相手には話しにくいこともある」という性質があるからです。

後期高齢者や認知症の人は、人に対して申し訳ないといった感情から、話ができなくなっています。ところがテレノイドに対しては、自分の記憶の中で適当な想像を働かせながら話すことができます。

本荘 それは面白いですね。リアルな人間よりも、テレノイドに対しては、人間に対する遠慮のような感情が湧かなくなるから、ピュアに受け入れられるのですね。

石黒 人間は相手のことを推察しますが、相手の感情を直接見ることができるわけではない。
すべて自分の想像の産物です。ネガティブな想像をはじめれば、とことんネガティブになってしまう。ところが、ロボットだと分かっていれば、ネガティブな想像をしなくなります。私たちが行った実験では、高齢者、認知症の人、自閉症の子ども、みんなロボットが大好きです。

今の社会では、人の感情などを推し量る必要があるため、そこで問題が起きることが多いのです。

もちろんロボットで全ての問題が解決できるわけではありませんが、少なくとも治療の手段にはなります。ロボットを使用してある程度話せるようになれば、人間を相手にして話す、といった活用です。既に、自閉症専門病院では、小型のコミュニケーションロボットであるCommUが使われています。

精神障がいの女の子の例ですが、大ゲンカをする嫌いな相手の女の子がいるのですが、嫌いな理由は一切医師には言わない。しかしCommUにはすべて話すのです。CommUを通じて、次は相手の女の子と話すことを約束した結果、普通に話すことができて、関係を回復させることができました。

心に引っかかっている、ちょっとした何かを取り除く助けになるかもしれない。それがロボットの可能性です。

本荘 認知症や精神障がい以外にも、ロボットは、転職や職探しのケースで効果があると聞きましたが。

石黒 ジョブカウンセリングも同様で、人間のカウンセラーだと遠慮して言えないことがあります。遠隔操作のロボットであるとわかっていれば、心を開きやすい傾向があります。マツコロイドのお悩み相談は何度もやりましたが、相談者は素直に話してくれます。落ち着いて緊張することなく、論理的に話せるのが特徴です。

恐れや不安があるから人間らしい

本荘 人間のさまざまな感情において、「愛」以外でよくビジネスでとり上げられるのが「恐れ」と「不安」です。人間は、この感情によって非合理的な行動を取りますが、こうした領域の研究も行っていますか。

石黒 アンドロイドが叱ったほうが効果あるかどうか、というテーマがありますね。僕は、良い人間関係を構築するという領域を中心にやってきたので、「嫌いになる」「怖がらせる」という領域の研究はやっていません。

ただ、痛みの研究は行っています。痛みは、最も生物らしい・人間らしい感覚です。ロボットと人間の違いはおそらく「痛み」を受け入れられるかどうかだと思います。根本的に、恐怖の感覚は、命を守る、領土を守るといった、個体を保存する本能から発生しています。だから、痛みの研究をやっていくと、いずれ「恐怖」にもつながっていくのでしょう。

人間は人間でないものに憧れます。例えば、疲れない、いつもニコニコしている、そういったものをアイドルと称して、アンドロイドな状態を望んでいるのです。その一方で、「恐怖」「不安」の感情を持ちあわせている。だからこそ人間らしいのです。

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※1テレノイド

大阪大学と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所により共同開発されたアンドロイド。

※2ハグビー

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所により開発された通信メディアとしての機能を持ったロボット。

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