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2016年9月5日技術ブログ

2枚目の名刺が社会を変えていく

自らの強みを核に、組織を越えて社会で知見を役立てる。 ラグビー界向上のため選手会を立ち上げたラグビー日本代表の廣瀬俊朗さんやろう児への学習支援を技術の力で支えるNTTデータの玉田雅己さん。 2枚目の名刺を持つ彼らの強い信念が、社会を変えていきます。

元ラグビー日本代表の挑戦

2枚目の名刺で活動の場を広げよう

「二枚目の名刺・夏フェス2016 超・二枚目」。

2016年8月7日に開催された、NPO法人二枚目の名刺が主催する、「二枚目の名刺・夏フェス超・二枚目」。このイベントは、NPO法人二枚目の名刺(※1)が運営し、組織を越えて活躍する新しい働き方を始める「2枚目の名刺」と出会える日本最大のイベントです。個人・NPO・企業・行政・大学がそれぞれの立場から発信し合うことが特徴です。

2枚目の名刺とは、本業の名刺とは別に持つ名刺のこと。NPO法人二枚目の名刺は、組織を超えて活躍し、新しい社会を創っていく仲間づくりに取り組んでいます。そのために、教育や環境などのさまざまな社会課題に挑戦するNPOと、社会活動に挑戦したい社会人との出会いの場を作るイベントを開催しています。

「二枚目の名刺・夏フェス超・二枚目」の今年のテーマは、「超える」。参加者自身が自分の枠を超えるため、玉田さんをはじめとした、さまざまな2枚目の名刺を持つ経験者との出会いや、自分らしい「2枚目の名刺」のスタイルを見つけるきっかけが用意されています。

何のために頑張るのか

冒頭の基調講演に登壇したのは、元ラグビー日本代表主将で東芝の廣瀬俊朗さんです。ラグビーというスポーツの世界での活躍を自らの核として、新しい2枚目の名刺となる活動へ尽力する姿は、多くの参加者の心を捉えました。

ワールドカップ2015における日本代表の活躍で一躍注目を集めるラグビー。
廣瀬さんも、エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる日本代表選手のひとりとして、厳しい練習に取り組みました。その中で、自分は何のために頑張るのか、ビジョンを持つことの大切さ、それを信じてやり切ることの重要さを痛感したと言います。

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前半では、ワールドカップに向けた厳しい合宿の思い出を振り返りながら、ビジョンがあるからこそ、必死にもがくことも幸せだと感じられること、いつか超えられると信じてやることが全てのはじまりであり、変えていくのは自分しかいない、という心境に至ったことなどを、さまざまなエピソードを踏まえて話されました。

また、ビジョンがあるからこそ、周りの人も応援してくれる。助けてくれる。そのことに気づいた廣瀬さんは、多くの人に支えて貰っているからこそ、代表選手として自分がやるべきことは何かを考えたそうです。

そしてたどり着いた答えは、勝つべき文化を作ること。そのために自分ができることは、あたり前のことに感謝するという謙虚さを持つこと。

廣瀬さんは、その気持ちを表すため、ロッカールームを掃除するという行動を取りました。その行動に、同じチームメイトの選手も共感し、また、チームドクターといったスタッフへも共感の輪が広がり、チーム全体の活動としてひろがっていきました。

「一部の人の取り組みで終わるのではなく、チーム全体の活動になったことが本当に嬉しかった」と廣瀬さんは振り返ります。

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大事な人生の時間を使うに足る意義あるビジョンを持ち、覚悟を決めて、信じてやり切る。その姿に多くの人が共感し、活動の輪が広がっていく。まさに、社会に変化を起こしていく本質は、このようなところにあるのだと気づかされます。

次世代に繋ぐという使命

ラグビーを通じて、「守破離」(※2)という言葉を強く意識した廣瀬さん。エディーコーチの厳しい指導を通じて、選手自身が考え、行動した結果が、ワールドカップ2015の対南アフリカ戦におけるロスタイムでの逆転トライによる歴史的勝利でした。

実は、ロスタイムに選手たちがとった行動は、エディーコーチが指示した内容とは異なるもの。しかし、選手たちは自らの判断を信じ、逆転トライに成功。まさにエディーコーチを超えられた瞬間として、選手たちに強烈な印象を残したのです。

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この経験を経て、廣瀬さんは、自らの核であるラグビーを軸に、選手としての枠を超え、社会に変化を起こす挑戦をはじめています。

今年5月、日本ラグビーのトップ選手と共に一般社団法人日本ラグビー選手会(※3)を立ち上げ、日本ラグビー界の発展を目ざして活動を開始。未来の子どもたちに向けて、日本全国へのラグビーの普及活動や災害からの復興支援などを、選手の経験を活かして行っています。選手会の活動のためにクラウドファンディングも開始し、多くの支援が集まりました。

また、NPO法人D00000000(※4)が行うアフリカでの小学校校舎建設など、子どもたちに教育の機会を届ける活動にも参加しています。

「想いを実現するには、他の誰でもない、自分がやるしかない。自分でやるからこそ楽しいじゃないですか。今は、次世代に何か1つでも残したいという想いで、2枚目の名刺の活動に取り組んでいます」と笑顔で語る廣瀬さん。

自らの強みを核とし、ビジョンを胸に、新たな活動の幅を広げていくことで、たくさんの人とつながり、新しい未来を築いていく。
自らの知見が1つの組織だけで役立つのではなく、広く社会でも役立てられることこそが、2枚目の名刺で活動する醍醐味なのです。

※1特定非営利活動法人 二枚目の名刺

本業・本職の他に、組織を越えて、積極的に自ら社会を変えていく意識をもった社会人を支援。http://nimaime.com/

※2守破離

修行における段階を示した日本古来の考え方。師の教えを忠実に守る段階から、自らの流儀を確立させ師の教えを破る段階を経て、型を離れて新たな奥義を極める段階へと到達する様を表す。

※3一般社団法人日本ラグビー選手会

2016年5月31日設立、会長は廣瀬俊朗さん。選手自らが日本ラグビーのために主体的に行動し、日本ラグビーの発展に貢献することを目的に活動。 http://www.japan-rugby-players.com/

※4特定非営利活動法人D00000000

「まず動こう」をモットーに、ケニアの子どもたちの教育支援や、雇用支援を行うことを目的に活動。 http://NPO-doooooooo.org/

BBEDのろう児教育への取組み

ろう児も一般高校に進学できる社会に

このイベントには、NTTデータ社員の玉田雅己さんが代表を務める、NPO法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター(BBED)(※1)も参加しています。

廣瀬さんの基調講演の後、玉田さんの妻で、BBED事業統括ディレクターの玉田さとみさんによるプレゼンテーションがありました。

「BBEDは、ろう児(聞こえない子ども)が、日本手話(※2)と書記日本語(※3)のバイリンガルに育つように支援する団体です。

日本のろう学校では、昭和8年から手話を禁止し、『聞く・話す』を基本に『聞こえる子に近づける』教育(聴覚口語法)を行ってきました。つまり、口の動きから話の内容を読み取ることに取り組んできたのです。」

しかしながら、ろう児はどんなに訓練しても、聴児(聞こえる子)にはなりませんし、口の動きから話の内容を読み取ることは極めて困難だそうです。

「そこで、私たちは、構造改革特区を利用して、2008年に東京都品川区に学校法人明晴学園を設立しました。母語(第一言語)を日本手話、第二言語を書記日本語というバイリンガル教育とし、聴文化とろう文化のバイカルチュラルを実践する学校です。

さらに、ろう高校生が一般高校に通う道筋として、筑波技術大学の三好茂樹准教授が開発したT-TACcaptionというソフトを使った『遠隔パソコン文字通訳』を導入し、自動音声認識ソフトや学習支援員では対応できない、教師の声を文字情報に変えるというしくみの支援も行っています」

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「2016年4月から障害者差別解消法が施行され、合理的配慮の提供が義務化されているのですが、高等学校においては制度の狭間に陥り、ろう児が一般高校で学ぶにも公的な学習支援制度が得られず、進学への大きな壁となっているのが現状です。

この『遠隔パソコン文字通訳』は、現在、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)から社会実装支援プログラムとして3年間の助成金を受けていますが、助成を受けられる期間はあと1年しか残されていません。そこで、ぜひ皆さんにも応援いただいて、このしくみを社会制度化したいと考えています」

※1特定非営利活動法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター(Bilingual Bicultural Education Center for Deaf Children)

ろうの子どもが日本手話と書記日本語(読み書き)の2言語で教育を受けられるように支援している。代表は玉田雅己さんで、奥様の玉田さとみさんが、事業統括ディレクター。「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」のリーダー部門受賞。http://www.bbed.org/

※2日本手話

日本のろう者が使ってきた自然言語。日本語とは違う文法構造で、手の形や位置、動きだけでなく、肩の向き、顔の表情などにも、文法的な意味を持つ。

※3書記日本語

聴者が普段つかっている文法で、日本語の読み書きをすること。

誰しもが能力と可能性を秘めている

ドキュメンタリー映画で伝えたいこと

午後からはNPO法人ごとに、座談セッションが行われました。
支援の輪を広げるためには、まずはろう児について、正しく知ってもらうこと。そして、ろう児も聴児と同様に、高い能力と可能性を秘めていることを伝えたい。その想いでBBEDが制作協力したドキュメンタリー映画、「海を渡る手話の少年―17歳の夏―」が、セッションの冒頭に上映されました。

ドキュメンタリー映画 海を渡る手話の少年『17歳の夏』

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この映画は、ろう者である玉田さんの次男、宙さんが高校生のときに単身フランスを旅行する姿を捉えたもので、監督はパリ在住の日本人女性、制作費はBBEDと二枚目の名刺のサポートメンバーがクラウドファンディングで集めました。

そこでは、宙さんが、自らさまざまな壁を乗り越え、フランスのろう児や聴者とコミュニケーションを図り、たくましく生きる姿が描かれています。ろう児が特別な存在ではなく、ひとりの若者として旅を通じて成長するさまを、見る者誰しもが実感する映画です。

宙さんの想い

その宙さんが、映画上映の後、自らの想いを日本手話で語ってくれました。

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学校法人明晴学園の中等部を卒業した宙さんは、甲子園への想いを胸に、都立高校へ進学しました。なぜなら、ろう学校では日本高等学校野球連盟(高野連)に加入できず、硬式野球で試合をしたいという夢をかなえることができないからです。

「ろう児も聴児と同じように、何でも挑戦できるのだということ伝えたいです。都立高校で聴児の生徒と過ごすうち、聴児の生徒が僕のスタイルを理解し、お互いにコミュニケーションを図れるようになりました。

ろう者である僕は、視覚により情報を得るスタイルであり、聴者とは、情報確認の仕方が異なっているにすぎないのです。

僕が使う日本手話は、手の動きだけでなく、顔の動きや体の動きを使って、文法のある言葉として伝えることができる手話です。

手話にはもうひとつ、日本語対応手話があります。日本語を母国語とする人のために作られた、日本語を手や指で表現するもので、この手話には日本手話の文法は含まれていません。

フランスと日本の手話が異なるにも関わらず、僕がフランスのろう児とコミュニケーションを図ることが出来たのは、文法のある言葉である日本手話を使えたから。それが使えるのは、明晴学園で学ぶことができたからなのです」

文字通訳の公的制度化への挑戦

音声自動翻訳の限界

ろう児が一般高校で学ぶ際、公的な学習支援制度がない現状において、BBEDでは、授業内容をリアルタイムに文字表示する、「遠隔パソコン文字通訳」のしくみを制度化する活動に取り組んでいます。

技術が進歩した今、人による文字通訳よりも、音声を自動で翻訳するしくみの方が良いのではないかという意見があります。しかしながら、玉田雅己さんによると、現在の技術では誤変換が多く、正確さを優先する高校の授業での使用には耐えられない状況だそうです。

また、ろう者の側からは、誤変換の箇所を知ることができない。という大きな課題もあり、誤った内容を理解することにも繋がってしまう懸念もあります。

NPO法人BBED代表の玉田雅己さん

NPO法人BBED代表の玉田雅己さん

それにも関わらず、現在、文部科学省では、音声自動翻訳の導入に向け、検討が進められています。

なぜなら、人手がかかる「遠隔パソコン文字通訳」は、継続的に人件費がかかるしくみであり、音声自動認識は、初期投資だけで済む、行政としてコストが測りやすいしくみだからです。

今こそが制度化にむけた正念場

「人を通じた文字通訳でないと、きちんと伝えることができない。どんなに技術が進歩しても、正確さを優先する高校の授業では最後は人間の力があってこそ」

NTTデータの社員であり、システムのプロフェッショナルである玉田さんだからこそ、言えるメッセージです。

「2016年4月に障害者差別解消法が施行され、合理的配慮の提供が義務化されました。また、助成金の期間が残り1年となった今こそが、『遠隔パソコン文字通訳』の制度化に向けた正念場なのです。

この取り組みを多くの人に知ってもらい、理解し協力してくれる人を増やしていくこと。それが制度化に向けた大きな力となり、社会を動かす力につながっていきます」

「遠隔パソコン文字通訳」の操作画面

「遠隔パソコン文字通訳」の操作画面

廣瀬さんや玉田さんの後ろのスクリーンには、講演の内容が映し出されていました。講演者の発話が、テキスト文字に変換され、表示されるしくみです。この文字通訳による情報保障によって、障害者に限らず聴者にも理解が進み、記録にも残ります。これは、昨年の夏フェスからBBEDの協力により、実施している取組みです。

右スクリーンが、文字通訳による情報保障。

右スクリーンが、文字通訳による情報保障。

このイベントには、廣瀬さんやBBED以外にも、発展途上国や日本の中高生に向けた支援を行う、合計7つのNPO団体が参加しました。すでに活動を始めている彼らたちだけでなく、休日にもかかわらず会場に集まる多くの想いを持つ参加者や、これを読んだみなさんも、社会を変える力を持っているのです。

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