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2016年10月27日技術ブログ

車載機器プラットフォームの標準化Automotive Grade Linuxの動向

組み込み機器のプラットフォームはリアルタイムOSが中心でしたが、最近はLinuxをプラットフォームとして活用することが増えてきています。Linux Foundationのコラボレーションプロジェクトの一つとして、Automotive Grade Linux (AGL) というワーキンググループによる車載機器プラットフォームの標準化活動が実施されています。

AGLの生い立ち

携帯電話をはじめとして、Consumer Electronics分野ではリアルタイム性に優れたリアルタイムOSが主なプラットフォームとして活用されていました。しかし、実現する機能の増大化や、PCで実現されている様々な機能の実現を要望されるなど、リアルタイムOS上でシステム開発を行うには規模が大きくなり、様々なライブラリや、ソリューションが実現されているLinuxへの移行が始まりました。

組み込み系システムの特徴として、様々なCPU(SoC:System-on-a-chip)や、限られたメモリ量、NAND Flashを活用したファイルシステムなど各種の制限事項があるだけでなく、Consumer Electronics製品特有の起動時間の高速化など、PC向けLinuxと異なり様々な工夫やチューニングが必要です。

車載機器においても、様々な機能が要望されるようになり、Linuxへの移行が始まっています。しかし同じLinuxを使っている場合でも、自動車メーカーやTier1(メーカーに直接納入する一次サプライヤー)ごとにソフトウエア構成が異なるため、同じ機能を実現する場合でも各社のシステム向けに個別に開発を行わなければならず、機能の実現やチューニングに多くの開発コストが必要となります。

これらの課題を解決するために、車載機器ソフトウエアの標準化・共通化(プラットフォーム化)を行い、短期間・低コストでの開発を実現するためにLinux Foundation(※1)内に協業プロジェクトとして設立されたのがAGL(※2) です。

AGLの特徴

AGLでは、オープンソースソフトウエア(OSS)を活用し、コミュニティーのパワーを最大限に生かすために、Unified Code Base(UCB)を基本的な概念として標準化を進めています。UCBとは、これまで活動していたいくつかの標準化(TIZEN IVI(※3)やGENIVI(※4)などの成果を1つのシステムとしてインテグレートし、統一されたソースコードを公開することを目標にしています。

Specificationも規定されていますが、AGLではソースコードが一番重要(Code First)と位置づけ、開発サイクルを高速化することに重点を置いて活動をしています。また、AGLが標準化の対象としている機器も、インフォテインメント機器(※5)だけではなく、メーターなどの機器(Electronic instrument cluster)、テレマティクスシステム(※6)、ADAS (Advanced Driving Assistant System、先進運転支援システム)など様々な機能の標準化を目指しています。

参加企業は82社(2016年10月現在)が加盟、自動車メーカーも8社が参加しており、さらに拡大傾向にあります。

図1:AGLの目指す姿

図1:AGLの目指す姿

AGLの開発スケジュール

AGLは半年に一度メジャーなリリースを行うことを目標に進んでいます。各リリースで予定している機能は以下の通りです。

表1:リリース予定の機能

表1:リリース予定の機能

他の団体との連携

車載機器ソフトウエアに関する標準化団体として、もう一つGENIVIという団体があります。これは、欧州の自動車メーカーが主体となり、車載機器ソフトウエアを標準化しようという団体です。

GENIVIでは、様々なコンポーネントやミドルウェアが実装されていますが、オープンな活動ではなく、GENIVIメンバーにのみ公開されているソフトウエアも存在しています。また、単一の仕様を満たすのではなく、様々な異なるプラットフォームへ適用可能な様に仕様が決められています。

それぞれの団体の目指しているゴールは異なりますが、AGLとの間では、ソフトウエアコンポーネントの共通化などコラボレーションが進んでいます。

図2:AGLとGENIVIの関係

図2:AGLとGENIVIの関係

今後の動向

AGLの標準化活動はまだ始まったばかりですが、急速に参加企業も増え、技術的なディスカッションも活発に実施されています。今後AGLが成功するためには、不足しているコンポーネントの充足と、欧州自動車メーカーでの採用など、様々なハードルがありますが、混沌とした車載Linuxプラットフォームが統一されることは、今後の自動車を取り巻くソフトウエアの進化に向けて非常に重要なことだと考えています。

NTTデータMSEもこれまで培ってきた組み込みLinuxの知見を生かし、AGLのGoldメンバーとして標準化に向けて貢献していこうと考えています。

※1Linux Foundation

Linux Foundationは、オープンテクノロジの開発や商用展開を加速するエコシステム構築のための非営利のコンソーシアムhttps://www.linuxfoundation.org/

※2Automotive Grade Linux (AGL)

Automotive Grade Linuxは、Linux Foundation協業プロジェクトで、コネクテッドカー向けフルオープンソフトウエアスタックの開発導入を促進するオープンソース共同開発プロジェクトです。https://www.automotivelinux.org/

※3TIZEN IVI

TIZEN IVIは、Linuxをベースとしたモバイル向けOSであるTizenを車載向けにコンフィグレーションされたOSです。TIZENプロジェクトは、Linux Foundationの協業プロジェクトですが、TIZEN IVIは2015年2月4日にTIZEN IVI 3.0をリリース後、実質的な活動を停止しています。https://www.tizen.org/

※4GENIVI

GENIVIは、自動車メーカー、IT企業、自動車パーツメーカーなどを中心に設立された業界団体で、自動車向けのオープンソースのソフトウエアの仕様を策定し、それを業界に提案しています。https://www.genivi.org/

※5インフォテインメント機器

インフォテインメント機器とは、「インフォメーション:情報」と「エンターテインメント:娯楽」の機能を提供する機器の事です。従来のナビ機能やオーディオ機能だけではなく、ネットワーク等で得られた情報を活用し、新しい機能をドライバーや搭乗者に提供する機器です。

※6テレマティクスシステム

テレマティクスとは、「テレコミュニケーション:通信」と、「インフォマティクス:情報科学」から作られた造語で、通信回線を通じて、高度道路交通システムや電子メール、店舗検索などリアルタイムにさまざまな情報のやりとりを実現する仕組みです。

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