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2016年12月15日技術ブログ

ドローンバード シビックテックによる災害支援

災害発生時にドローンを飛ばして現地を空撮、被害状況が把握できる 最新の地図を作成する災害救援隊「ドローンバード」プロジェクト。 隊員はドローンの操縦やオープンストリートマップの作成スキルを学んだ一般市民です。 発起人である、青山学院大学の古橋大地教授にお話を聞きました。

ITが可能にした地図作りでの災害支援

世界初! ドローンを活用した市民参加型救援隊「ドローンバード」

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

───古橋さんらが進めている「ドローンバード」は、ドローンとオープンストリートマップ(OSM)(※1)の手法を活用したプロジェクトだそうですが、概要を教えてください。

古橋 地震などの自然災害が発生した時、あらかじめ飛行ルートをプログラミングしたドローンを飛ばして現地を空撮。回収したドローンから取り出した画像データを元に、OSMの地図作成機能を使って最新の地図を作る、というプロジェクトです。作成した地図は、被災地で救援活動をする医療機関や政府、自治体、災害ボランティアなどに使ってもらうことになります。

 地震や津波、火山の噴火など大きな自然災害が発生した時に、最初に必要になるのが正確な被害状況を把握できる「地図」です。なぜなら、災害直後の現地の状況がわからなければ、的確な人命救助や支援活動ができないからです。地図の有無が命を左右すると言っても過言ではないのです。

───隊員に広く一般市民を募るのはなぜでしょうか?

古橋 災害はいつどこで起きるか分かりません。特に日本は地震や津波、火山の噴火などが起きる可能性のある災害大国です。もし、自分たちの身近で大きな自然災害が発生した時、生き延びるためには市民自らが自分たちの力で情報を取得し、安全な場所へ逃げることが必要です。

 ドローンを操縦し、危険がどの場所まで及んでいるのかといった情報を取得することができる「ドローンバード」の隊員が、その地域の市民の中に一人でもいたら、ドローンを飛ばして現地の被害状況がわかる地図を迅速に作成できるだけでなく、その情報を元に地域の人たちと一緒に的確な避難ができるでしょう。災害時に生き延びる力を持っている市民を一人でも増やしたいと考え、一般市民から隊員を募っています。

───具体的には、どういう活動をする予定ですか? 

古橋 災害が発生した時、まずドローンを操縦できる「ドローンバードパイロット」が現地に急行、被災地の様子を空撮します。ドローンが撮影してきた画像をもとに、現地の被災状況をOSMに反映するのが「クライシスマッピング部隊」です。他には、飛行中に壊れたパーツや新たに設計された軽量型ドローンを最新のデジタル・ファブリケーション(※2)で作る「ドローンバード開発部隊」も計画しています。さらに、平常時に隊員が集い、その技術を磨くことのできる拠点となる「ドローンバード基地」も作っていく予定です。

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世界のどこにいてもリアルタイムで被災地支援が可能

───衛星リモートセンシングが専門の古橋さんが、災害支援活動に関心を持つようになったきっかけは何ですか?

古橋 2010年1月のハイチ地震で体験したクライシスマッピング(※3)です。クライシスマッピングで地図の作成に使うシステムがOSMで、僕がエンジニアの仲間とそのプロジェクトに参加し始めたのが2008年から。オンラインであれば世界のどこからでも自由に地図作りに参加できる仕組みがおもしろいと思っていましたが、最初は趣味のような感覚で自分のやっていることが世の中の役に立つとは考えていませんでした。その考えが大きく変わったのが、ハイチ地震の時でした。

 ハイチ地震は20万人以上が亡くなる大規模な災害だったこともあって、世界中から1000人以上のマッパーが参加しました。衛星や航空機等で撮影された画像データをインターネットで共有し、被災後の道路の中心線や建物の形状などの状況をOSMにマッピングしていきます。

 僕も現地には行かず日本から参加したのですが、震源地に近い首都ポルトープランスで、地震が発生した翌日からOSM上の現地の地図情報が入力され始めたんです。世界のどこかにいる誰かが道路の中心線や建物の形状などのデータを入力すると、地図に描画されるんですね。震災前には情報が少なくてスカスカだった現地の地図がみるみるうち緻密な地図になっていく。その様子を目の当たりにしたことでクライシスマッピングの可能性を強く感じました。

地震前のポルトープランスの地図

地震前のポルトープランスの地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

───その地図はどんなところで活用されたのですか?

古橋 道路や建物の情報だけでなく、避難所の場所や避難している人の数などもアイコンやピンで表示された地図は、国連のOCHA(国際連合人道問題調整事務所)や現地の赤十字などのメンバーが被害状況の把握や物資の配布プランを考える際に使われました。

 救援活動に従事する関係各所が僕たちの作った地図を自由に使えるのは、OSMが著作権フリーの地図だから。著作権がほぼないからこそ自由に世界中にネット配信することもできるし、紙地図として印刷して使ったり、誰にでも配ったりできます。この点が他の地図とは異なる点であり、OSMで作成する地図が災害時の救援活動に大きく貢献できる理由です。

 ハイチ地震以降、OSMがどんどん認知され、現在Humanitarian OpenStreetMap Teamのサイトには、世界中からさまざまなテーマの地図の作成依頼が入ってきています。現在、マッパーは世界中に300万人いると言われていて、その数はどんどん増えています。日本でもその動きを加速させたいと願い立ち上げたのが、「ドローンバード」の運営をするクライシスマッパーズ・ジャパン(※4)です。

───2011年3月の東日本大震災をはじめ、国内で起きた自然災害でもクライシスマッピングは行われていたそうですね?

古橋 はい。東日本大震災ではNTTデータにも協力いただき、OpenStreetMap Foundation Japanを中心とした有志でsinsai.info(※5)というウェブサイトを立ち上げました。この時、自国の災害と初めて向き合ったことで多くの学びがありました。その経験は後の活動に生かされ、2015年9月の関東・東北豪雨や2016年4月の熊本地震などで稼働しました。熊本地震の際にOSMで作成した地図は、熊本県社会福祉協議会の災害ボランティアセンターの地図として使われました。

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

災害が起きて僕たちの活動を初めて知ったという人の多くが、クライシスマッピングの活動に加わってくれています。実際、熊本地震では熊本市から益城町、大分市にかけての断層沿いにマッパーが増えるという現象が起きています。災害が契機になるのは悲しいことではありますが、市民の中に1人でも多くのマッパーや「ドローンバード」の隊員が増えていくことは、防災対策としてもたいへん心強いことだと思っています。

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

※1オープンストリートマップ(OSM)

誰でも自由に利用できる著作権フリーの地理情報データの作成を目的としたプロジェクト。誰でも自由に参加し、自由に編集し、自由に利用することができる https://openstreetmap.org/

※2デジタル・ファブリケーション

3Dプリンターやレーザー加工機などのデジタル工作機器を使ったモノづくりの総称

※3クライシスマッピング

自然災害や政治的な混乱が起きた時、現地の状況を反映した地図情報を迅速に作成し、世界中に発信・活用してもらうことを目的としたボランタリーの活動

※4クライシスマッパーズ・ジャパン

世界のマッパーが集う国際的ネットワーク「クライシスマッパーズ」の日本版コミュニティ。「ドローンバード」の運営のほか、地図作りのワークショップ「マッピングパーティー」や次世代型災害訓練「すごい災害訓練DECO」などの活動を主宰している http://crisismappers.jp

※5sinsai.info

東日本大震災の直後に、オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンの有志を中心に、ボランティアスタッフが立ち上げたプロジェクト。地図と結びついた支援情報を提供する復興支援プラットフォームとして運営された http://www.sinsai.info

ITの進化で変わってゆく防災のあり方

一刻も早く正確な地図を作るために飛ばすドローン

───クライシスマッピングでは衛星やヘリコプターで撮影した画像データが利用されていますが、ドローンでの撮影にこだわる理由は何ですか?

古橋 迅速に被害状況がわかる地図を作成する際、まず必要なのが現地の今の状況を撮影した写真などの画像データです。ところが衛星やヘリコプターで撮った写真は、入手するのに半日~2日くらいかかることがあります。

 たとえば、衛星での空撮は1日1回、11時~13時。14時46分に地震が発生した東日本大震災のときには、僕たちが衛星画像を入手できたのは翌日の夕方でした。ヘリコプターや飛行機の飛行は天候に左右されて飛ばせないこともあります。

 悔しかったのは2015年4月のネパール地震の時。地震発生後、カトマンズ上空はずっと雲に被われようやく晴れたのは地震発生から3日目。人命救助で最も重要な72時間はとっくに過ぎていました。

 もし現地の画像データがもっと早く入手できれば、もっと早く現地の正確な地図を作成し、救援活動をする人たちと共有することができます。つまり、もっと多くの命を救うことができるということ。

 そのためには臨機応変に飛ばすことができるドローンによる撮影が大きな意味を持ちます。もちろんカバーエリアには限界があるので、衛星やヘリコプターで入手する画像データと補完し合いながら利用するのがベストだと思います。

───ドローンにもいろいろ種類があるようですがクライシスマッピングにはどのようなドローンが向いているのですか?

古橋 空からの撮影を目的とした時には、できるだけ広範囲をカバーできるものが適しているため、バッテリーの持ちがよく長時間飛行可能な固定翼タイプのドローンが向いています。

 現在、クライシスマッピング・ジャパンで所有している主力のドローンは2台。いずれもスイス製の固定翼タイプのドローン(※1)です。これはバッテリーのもちがかなり良く約1時間の飛行が可能です。平均時速は約50km。往復を考えると最大で周囲25kmを飛行できます。実際に飛ばす時には安全を考えて半分で見積もっていますが、それでも10kmは行って帰ってくることができます。訓練された操縦士と準備さえあれば即座に出動し、被災地の現状を最短2時間以内に空撮。その情報をオンライン上に公開することも技術的には可能です。

主力機であるSenseFly社製の固定翼ドローン「eBee」

主力機であるSenseFly社製の固定翼ドローン「eBee」

自治体と連携し、災害時に臨機応変な活動を可能に

───いろんな分野での活用が期待されているドローンですが、マイナスの側面も話題になっています。飛行のマナーやルール作りに関してはどのようにお考えですか?

古橋 テクノロジーの進化と法律改正の追いかけっこはどこの国でもあること。日本だけでなくアメリカでもドローンに関する法律はどんどん変わってきていて、僕らも把握するのが難しいくらいです。

 一番大きい問題はやはり航空法の規制(※2)です。たとえば現状、ドローンを飛ばす時には10日前までに国土交通省から許可証をもらわなければなりません。となると、いつ起こるかわからない災害時には飛ばせないことになります。とは言え、この活動を合法的に行うにはこの航空法を遵守しなければなりません。包括申請と呼ばれる1年間まとめて申請という方法や、航空法の対象外となる重さ200g未満の軽いドローンを自分たちで作る方法もありますが、現状ではまだ簡単ではありません。そこで検討しているのが自治体との防災協定を結ぶことです。

───2016年9月に「ドローンバード」は、神奈川県大和市と提携されたそうですね?

古橋 はい。災害時に「ドローンバード」の活動を可能にする協定を全国で初めて締結しました。実は災害時、政府や自治体の立場であれば救命救急行為に関する飛行は航空法の対象外になります。なので、地域の自治体と防災協定を結ぶことが航空法を遵守するための近道なんです。

 ドローンと自治体の防災協定にはいろいろな形がありますが、今回はドローンで空撮した後、マッピングまで僕らがやるということを明記しています。災害発生から1時間以内にドローンを飛ばせるよう、大和市からの要請がなくても僕たちが自主的にドローンを飛ばすことも許可されています。大和市側にクライシスマッピングの意義をきちんと理解してもらえたことで臨機応変な対応が可能な協定を締結することができたと思っています。

2016年9月に神奈川県大和市との協定締結を発表。写真右側は大木哲・大和市長(写真提供:クライシスマッパーズ・ジャパン)

2016年9月に神奈川県大和市との協定締結を発表。写真右側は大木哲・大和市長(写真提供:クライシスマッパーズ・ジャパン)

テクノロジーと市民の力で変わっていく、これからの災害支援

───「ドローンバード」としての今後の目標をお聞かせください。

古橋 いつどこで起きるかわからない災害に備え、2020年までに「ドローンバード」の基地を国内に100か所整備したいと考えています。もちろん、それだけの数で全国をカバーできるわけではありませんが。まずは100か所を目標にしています。

 実は現在、青山学院の青山キャンパスと相模原キャンパスに「ドローンバード」の基地を作る計画が進行しています。具体的にはドローンも含めたクライシスマッピングの活動場所として2017年度中には整備が始まります。災害時の拠点としてだけでなくドローンパイロットやマッパーの人材育成の場所としても活用していく予定です。若い人たちが集まる大学はドローンの操縦を学ぶにも、マッパーを育成するにもとてもいい環境だと思います。

 現在、首都圏だけでも数千人のマッパーがいますが、常時動けるマッパーを1000人体制にしていくのも「ドローンバード」の目標です。今、マッパーのマッピングにも力を入れています。この2つの目標を達成し、いつどこで災害が起きても、発生から2時間以内に現地状況の地図への反映を始められる仕組みを作りたいと思っています。

マッパーたちの活動場所がわかる地図。活動の活発度によって色分けされている

マッパーたちの活動場所がわかる地図。活動の活発度によって色分けされている

───災害支援活動においてテクノロジーの進化はやはり大きな意味を持つのでしょうか?

古橋 かなり大きいと思います。僕が意識しているのは、「どこまで人間がやるべきか」ということです。人間とテクノロジーの役割分担ですよね。たとえばOSMで地図を作成する時でも、僕たちマッパーが航空写真などをトレースしていますが、コンピューターに任せられる時代がくるかもしれません。実際、イギリスではすでにその件について研究しているメンバーもいます。そうなると、僕らが目標としている「1時間で撮影+1時間で地図化」という時間もどんどん短縮されていく。一刻を争う災害支援活動ではそれは素晴らしいことだと思います。

 最近、スウェーデンのスタートアップ企業がオープンなストリートビュー(※3)を作成する「Mapillary(マッピラリ)」というプロジェクトを始めました。僕たち人間がスマートフォンや360度カメラを付けた一脚を手にテクテク歩きながら撮影するという、いわば“人間ストリートビュー”です。10年前にはこんなことができるとは思いもしませんでした。進化したテクノロジーがプロダクト化され、それを支える技術インフラの整備が進んだおかげで僕たちがやりたかったことがどんどんできるようになってきていると実感しています。

古橋さんたちが撮影した青山学院大学相模原キャンパスのストリートビュー

古橋さんたちが撮影した青山学院大学相模原キャンパスのストリートビュー

───人間とテクノロジーがそれぞれに適した役割を担えば、災害支援活動はより良い方向に向かっていくということですね?

古橋 はい。これは僕の未来像に近い形ですが、「ドローンバード」などの活動で空から撮った写真と地面から撮ったストリートビューを使えば、いずれ建物の被害状況の自動判定も可能になると思うんですよね。災害前と後でどう変わったか、という被害状況の判別を人間がやらなくてもいい時代が遠からず来るのではないでしょうか。その分、人間は人間にしかできない救援活動に集中できることになります。

 人間とテクノロジーの役割分担が進めば、より効率的な災害支援活動ができるようになり、僕たち人間の防災力も高まってくるのではないでしょうか。

※1固定翼タイプのドローン

ドローンには大きく分けて複数のローターを搭載した「マルチコプター型」と飛行機のような「固定翼型」がある。スピードや飛行距離の優位性から広いエリアの測量などには固定翼タイプのドローンが使われることが多い

※2航空法の規制

ドローンによるトラブルが多発したことから、国土交通省航空局では2015年に航空法を一部改正。重量200g以上のドローンやラジコン機など無人航空機を対象に飛行禁止空域や飛行時間、場所などの規定を設けた

※3オープンなストリートビュー

オープンストリートマップ・コミュニティから生まれたプロジェクト。Googleストリートビューと同様の機能をもったオープンな地図サービスを市民の力でつくろうという試み。代表的なものとして MapillaryとOpenStreetCam がある

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