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2017年6月15日技術ブログ

市場拡大を続ける無人航空機ビジネス

今後の盛り上がり期待されるドローン。 NTTデータでは、2017年春に「UASビジネスグループ」を立ち上げました。 事業部に聞くUASビジネスへの取り組みや、 ドローン活用による社会課題解決をテーマにしたイベントについてレポートします。

NTTデータが無人機ビジネスに参入

40年以上の知見を活かしUAS市場に挑む

2017年4月。NTTデータが新たに立ち上げた「UASビジネスグループ」は、「UAS」(※1)を活用した事業の企画立案を行う部署です。40年以上の長きにわたり、有人機用の航空交通管制システムを提供し続けてきたNTTデータ。その知見とノウハウを活かし、世界的な盛り上がりを見せるUAS市場に参入していきます。

現在このUAS市場には大きく3つの領域があります。ひとつ目は、ドローンをはじめとするUASの機体そのもの、すなわちハードウェアを中心に扱う領域。ふたつ目は、ネットワークを扱う領域。そして3つ目が、運航管理を行うFOS(※2)や空域・交通管理を行うUTM(※3)といったセンターシステム、すなわちソフトウェアを中心に扱う領域です。

この3つの領域のなかでUASビジネスグループはソフトウェアの領域、とくにFOSやUTMのシステムに注力した事業展開を考えています。その第一歩として、2017年10月には「airpalette UTM(※4)」というUAS専用運航管理・交通管理システムの提供を開始する予定。すでに、民間企業や地方自治体での導入が始まっていて、国内市場はもちろん、アメリカやヨーロッパ市場を視野に入れシェアの拡大を目指していきます。

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UAS市場における3つの領域。FOSやUTMのシステムを使用した場合、指示は左から順に伝わる

2020年には世界で1兆円の市場規模にまで成長すると予測されるUASビジネス。
今後、苛烈な競争が待ち構えているであろうこの領域で、NTTデータはどのように戦っていくのか。UASビジネスグループの伊神惠(いかみ・けい)と吉井洋平(よしい・ようへい)に話を聞きました。

拡大を続ける無人機ビジネスの市場

───まず、UAS市場の変遷を教えてください。

吉井 2001年の9.11テロをきっかけに、軍事利用を目的としたUAS開発がさかんになりました。2010年ごろには、エッジコンピューティング(※5)の技術革新により、ホビー用のドローンが開発され、市場が一気に盛り上がってきたんです。また搭載機能やWi-Fiの開発が進んだ影響で、操縦に関する特別な訓練なしに誰もが簡単にドローンを扱えるようになりました。

伊神 現在では、さまざまなビジネスに活用される業務用ドローンも増えてきています。ハードウェアが進化したことで、広大な土地の測量や危険な場所の点検など、精緻な技術が求められる分野にも続々とドローンが導入されるようになったんです。今後もかなりのスピードで技術革新が進み、市場規模も成長を続けていくことが予想されます。

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

───現状、市場を席巻している国や企業はあるのでしょうか?

伊神 ハードに関しては中国の「DJI」(※6)が世界一のシェアを誇っています。ただ、世界中のスタートアップ企業が参入してきているので、情勢は変化する可能性が大きいです。

一方、ソフトの領域ではいまだ圧倒的な競争力を発揮している国や企業はありません。というのも、FOSやUTMといったシステムの要請が高まったのは、ドローンが業務用に活用されるようになった背景があるからなのです。その歴史はまだ浅いうえ、参入している企業もハードウェアと比較すればさほど多くはなく、シェアや技術力はいまだ横並びいった状況です。

───世界的に見て、NTTデータのような大企業がUASビジネスに参入することは珍しいのでしょうか?

伊神 たしかに、アメリカやヨーロッパでUAS事業に取り組んでいるのはスタートアップ企業がほとんどです。ただ、かなりの額の資金を調達していたり、インテルやマイクロソフトといった世界的企業が支援していたりするので、ひとくちに言える状況ではありません。今後は、スタートアップや大企業を問わず、多くの企業が参入してくることが予想されます。

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

NTTデータが目指すのはUTMのマルチベンダー

───NTTデータはUASビジネスのなかでもソフトウェア、とくにFOS及びUTMに注力して事業を行っていくとのことですが、その背景や理由について教えてください。

伊神 そもそもNTTデータが、ITプラットフォームサービスの提供を主な事業としてきた背景があります。さらに、UASビジネスグループが属している第一公共事業部は、長年有人機の航空交通管制システムを提供してきた実績があります。その知見やノウハウを活かすという面でも、運航を管理するFOSや、空域・交通を管理するUTMの領域でチャレンジしたいと考えました。

吉井 また市場調査を進めるなかで、特定の業務に対してドローンそのものからそれを管理するシステムまで「垂直統合」で提供している企業が多いことが判明しました。そのなかでNTTデータの知見を活かせば、さまざまな業界を横断するマルチベンダーとして事業展開できるのではないかと考えたんです。

───具体的に、有人機のシステムで培った知見やノウハウは、UASビジネスにどのように活かせるのでしょうか?

伊神 NTTデータが海外展開のために立ち上げたソフトウェアブランド「airpalette」では、衛星写真を活用して、地形や障害物を3Dで再現するというソリューションを提供していました。その技術はUASの分野でも活用できると考えています。

───世界中の企業が市場に参入してくるなかで、NTTデータが差別化をはかるポイントはどういった点なのでしょうか?

伊神 最大の差別化ポイントは、効率と安全の両立ができることです。現在市場に参入している企業の多くは効率性やフライトの自由度を最優先している印象があります。しかし我々のように、航空交通管制システムの開発に長年携わっている立場からすると、空域という限られた公共資産をいかに安全に活用するかということが第一なんです。そのための知見やノウハウを持っている企業は、国内外を見てもNTTデータ以外にはほぼありません。

吉井 実は、ドローンが飛行する高度150メートル以下の空域には、ドクターヘリやセスナ機といった有人機も飛び交っています。もしドローンが効率性や自由度ばかりを重視したフライトをすれば、取り返しのつかない大事故につながりかねません。空の安全を守るためにも、NTTデータが率先して空域・交通を管理するUTMの領域に取り組んでいきたいんです。

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている(リンク:airpaletteウェブサイト)

日本はUAS市場でイニシアチブを握れるのか?

───日本はIT分野でのグローバル展開に出遅れていると思うのですが、UASの分野でイニシアチブを発揮できる可能性はあるのでしょうか?

伊神 これまで日本がIT分野で世界に遅れをとってきた最大の原因は、はじめからグローバルな市場を想定していなかったことだと考えています。日本そのものが裕福な国ですから、国内市場で成功するだけでもある程度の利益が得られるわけです。するとどうしても日本市場を軸足に事業を進めてしまい、結果的に海外展開に遅れをとってしまいます。

そこで我々は、一からグローバルな市場で事業展開を進めていこうとしているんです。とてもチャレンジングなことですが、そうでなければ生き残っていけないと思います。

───チャレンジングな状況のなかで、NTTデータが解決しなければならない課題はありますか?

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吉井 国内外問わずさまざまな企業がドローンを開発するなか、種類や形状、機能や飛行速度などは多種多様になっていきます。グローバルなマルチベンダーを目指すNTTデータにとって、それぞれの機体の特性を踏まえたうえで、いかに空の安全を担保するシステムに落とし込んでいくかということが大きな課題です。ただ、NTTデータには有人機の分野でメーカーに依存しないソリューションを提供してきた実績がありますから、その知見を活用して解決できる課題だとも考えています。

無人機の進化が叶える便利な社会

───UASビジネスは今後どのような発展を遂げていくのでしょうか?

伊神 たとえば、詳細な気象情報のデータを集めることでよりピンポイントな天気の予想が可能になるかもしれません。我々の事業で言うと、現在は衛星画像を使って再現している3D画像を、UASが収集してきた地形や障害物のデータを活用して、より詳細で精密なものに進化させることができるのではないかと考えています。

───今後、ハードもソフトもUASの技術が進化し続けていくなかで、どんな社会が実現できると思いますか?

伊神 地方や過疎地にUASで荷物を運搬したり、危険をともなう作業をドローンが代わりに行ったり、さまざまな公益をもたらしてくれるでしょう。また災害発生時に、いち早く被害状況を把握するための手段としても活用できます。今後、さまざまな企業や事業者とパートナーシップを組み、UASが効率的かつ安全に社会のために活用されるようなエコシステムを構築していくのがNTTデータの使命だと考えています。

※1UAS

Unmanned Aircraft System の略。操縦士が搭乗せず飛行する、無人で飛行する航空機の総称。いわゆるドローン。

※2FOS

Flight Operation Systemの略。飛行ルート設定や自動遠隔制御などUASそのものの運航管理を行うシステムのこと。

※3UTM

UAV Traffic Managementの略。一定の空域を飛行する機体同士の衝突を回避したり、禁止空域への侵入を監視したりすることで空域・交通管理を行うシステムのこと。

※5エッジコンピューティング

エンドユーザーの近くにサーバを分散させることで、通信遅延を短縮しようとする技術。

※6DJI

本社を中国のシリコンバレーと言われる深せん(せんはつちへんに川)に本社を置く。民生用のドローン市場では、世界シェアの7割を占める。2006年創業。 http://www.dji.com/jp

ドローンを活用した社会課題解決を考える未来のしくみ会議

災害時に迅速に情報を収集する「ドローンバード」

そして2017年4月25日(火)に「INFORIUM豊洲イノベーションセンター」で行われた未来のしくみ会議は、ドローン活用による社会課題解決がテーマ。35人の参加者がアイディアを出し合い、UASの未来について模索しました。

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オープニングトークには、UASビジネスグループの代表として伊神が登壇。ドローンをはじめとするUAS業界を取り巻く現状やNTTデータの取り組みについて話しました。電力会社の設備点検や農薬散布など、さまざまなドローン活用例が紹介されたことで、参加者たちのなかにドローン活用に関するアイディアの種が生まれたようです。

続いて基調講演を行ったのは、青山学院大学の教授である古橋大地さん。ご自身の取り組んでいる「ドローンバード」の活用についてお話しいただきました。

「ドローンバード」は、地震などの自然災害が発生した際、ドローンによって現地を空撮、そのデータをもとにOSM(※1)の地図作成機能を使って最新の地図を作成するというプロジェクトです。

「ドローンそのものやGPSの精度が上がってきているため、特別なスキルがない人でも分解能3cmという高画質な航空写真を撮ることができるようになりました。今後、幅広くドローンが普及することも視野に入れ、『ドローンバード』では一般市民をボランティアとして募っています」と古橋さん。

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。

災害直後の現地の情報をいち早く知ることは、的確な人命救助や支援活動につながります。事実、2016年の熊本地震の際は「クライシスマッパーズ・ジャパン」らが作成した地図がとても役立ちました。

「たとえば地震で陥落してしまった場所や通れなくなった道、緊急で立ち上がった避難所の場所などは、一般的な地図サービスではすぐに把握することは不可能です。一方『クライシスマッパーズ・ジャパン』をはじめとするOSMを活用した地図作成ボランティアは熊本地震の際も、迅速な対応と適切な支援のために必要最低限の情報を、国土地理院等が撮影した航空写真を活用することで提供できました。」

ただ、熊本地震の際に、我々がドローンバードとして現地の空撮を行ったわけではありません。大きな課題は、現行の航空法を遵守したうえでドローンを飛ばすためには、事前に自治体と協定を結んでおく必要があるということです。「ドローンバード」では現在、災害時に合法的に民間人がドローンを飛ばし、空撮を実施することができるよう、事前に委託を受けるというかたちで、数々の自治体との協定締結を進めているところだといいます。

「今後は、ドローンの飛ばし方やOSMへの反映の方法など、さまざまな地域でワークショップを行っていきたいと考えています。僕たちが目指しているキーワードは『一億総伊能化』です」

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古橋さんの講演後には、多くの参加者から質問が寄せられました。ここで、そのなかの一部を抜粋して紹介します。

Q:防災分野にドローンを活用する有効性について教えてください。

「ドローンの強みは迅速性です。人工衛星による撮影は1日に1回なので、災害が起こってから数時間以内は現場の状況はわからないのです。また、現場の状況がわからないうちに有人機を飛ばすのはリスクがあります。そんな状況のなかでドローンが果たす役割はとても大きなものです」

Q :現在「ドローンバード」ではどんな活動をしているのでしょうか?

「現在は、さまざまな自治体と防災協定を結んだり、日本中の大学とコミュニケーションを取りながら拠点づくりをしたりしているところです。そして、より幅広い人たちに活用してもらうために各地でワークショップを行うこともあります」

Q:今後、民間企業がドローンの防災活用を行うことは予想されますか?

「正直、いま災害時に『ドローンバード』と同じような日本全国を対象として、空撮から地図づくりまで一貫して作業を行う活動をしている民間企業はありません。最も近いのは国土地理院の『国土地理院ランドバード』(※2)という取り組みくらいです。空撮以外には物資輸送や、拡声器を空中に浮かせた避難誘導、赤外線暗視カメラでの撮影など実験的なプロジェクトが多く、簡単にスケールするものではないので、なかなか難しいのではないでしょうか」

参加者と古橋さんの間では和やかなやり取りが行われた

参加者と古橋さんの間では和やかなやり取りが行われた

ドローン活用は幅広い可能性を秘めている

伊神と古橋教授の講演を受け、参加者たちが実際にドローンを活用した社会課題解決のアイディアを考えていきます。同じテーブルに座った数人同士でブレストを行うことで、少しずつアイディアの輪郭がはっきりしてくるようです。

最後に、それぞれのアイディアを紙に記入し張り出し、参加者全員で投票が行われました。なかでも得票数の多かったアイディアを紹介します。

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●アイディア1
旅行に行きたいけれど忙しくていけない、身体のハンデがあって飛行機に乗れないという人のために、有名な観光地を空撮。VRに取り込むことでまるで自分がその場所に訪れているかのような感覚を味わえる。

ドローンを動かすためにオプション料金を設定する、ビジネスとしての視点も考えられていたこのアイディア。ドローンとVRという最先端のIoTを活用しているのもポイントです。

●アイディア2
駅や美術館といった施設で不審者の監視をさせたり、急病人やけが人をいち早く見つけたりといった業務に活用する。

いたるところに監視カメラを設置するのはコストがかかるし、人の目による監視には必ず死角が生まれてしまうもの。ドローンを導入することで、コストカットと監視精度の向上の両方が実現しそうです。

●アイディア3
花火大会やライブなど大人数が集まるイベントの際、帰路を分散させるためにドローンで誘導させる。

人がうまく分散すれば、混雑が原因で起こる事故やトラブルを防止することができるはず。また「ある程度のところまで誘導したら、脚を立てて固定する」というドローンの滞空時間の制限を受けないための工夫も紹介されていました。

以上のような参加者たちのアイディアを受けて、古橋さんからこんなコメントをいただきました。

「アイディアのなかに、ハンデのある人のためにドローンを活用するという視点がありましたね。ドローンレースをやっているなかで、脚の不自由な方にお会いしたことがあるのですが、身体の自由がきかない状態のなかで、ドローンを操作しているときだけはその制約から解放されるのが心地いいとおっしゃっていました。そのとき、ドローンは僕らが取り組んでいるような防災の分野はもちろん、バリアフリーとも相性がいいのだと気付きました。きっとドローンは多様性のある社会の実現にも一役買ってくれるのではないでしょうか」

イベントにはさまざまな種類のドローンが持ち込まれた。古橋さんが持っているのは、航空法の制限を受けない小型のタイプ。たった25グラムと、とても軽量

イベントにはさまざまな種類のドローンが持ち込まれた。古橋さんが持っているのは、航空法の制限を受けない小型のタイプ。たった25グラムと、とても軽量

さまざまなビジネスはもちろん、防災やダイバーシティなど、分野を問わず活用できそうなUAS。これから、多くの領域でその可能性を発揮していくのでしょう。

※1OSM

オープンストリートマップ。実質的に著作権フリーで、誰でも自由に利用できる地理情報データの作成を目的としたプロジェクト。誰でも自由に参加し、自由に編集し、自由に利用することができる。 https://openstreetmap.org/

※2国土地理院ランドバード

http://www.gsi.go.jp/sokuryosidou/gsi-icon_gsi-lb.html(報道発表資料)

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