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2018年8月29日技術ブログ

STEM教育を変える乾電池型IoTデバイス

2016年にリリースされるや、またたく間に注目を浴びた「MaBeee」。 「乾電池型デバイス」という画期的な切り口でIoT化の裾野を広げ、 その影響はいまや教育の分野にまで及んでいます。 開発・販売を担うノバルス株式会社の代表、岡部顕宏さんに今後の展望を聞きました。

「MaBeee」ですべての人にIoTの恩恵を

岡部顕宏(おかべあきひろ)/ノバルス株式会社代表取締役。1995年、株式会社アスキーに入社しWEB広告事業に携わる。その後、ゲーム会社企画部門を経て、2002年にセイコーインスツル株式会社に入社。スマートウォッチの規格策定や新規事業開発を担当する。2015年にノバルス株式会社を起ち上げ、現職に至る。2016年、クラウドファンディングやシードラウンドなどを利用し乾電池型IoTデバイス「MaBeee」を開発

岡部顕宏(おかべあきひろ)/ノバルス株式会社代表取締役。1995年、株式会社アスキーに入社しWEB広告事業に携わる。その後、ゲーム会社企画部門を経て、2002年にセイコーインスツル株式会社に入社。スマートウォッチの規格策定や新規事業開発を担当する。2015年にノバルス株式会社を起ち上げ、現職に至る。2016年、クラウドファンディングやシードラウンドなどを利用し乾電池型IoTデバイス「MaBeee」を開発

専用アプリで乾電池の出力を制御

───現在、御社の主力商品として販売されている「MaBeee(マビー)」について教えてください。

MaBeeeは、乾電池型のIoTデバイスです。本体はちょうど単三乾電池とおなじサイズで、内部に単四電池を装着して使用します。現在、「コントロールモデル」と「モニタリングモデル」、「ビーコンモデル」の3種類で展開していて、それぞれで機能を分けています。

「MaBeee コントロールモデル」は、2016年に販売したモデルです。本体に単四乾電池を装着して単三電池で動く機器に使用すると、本体に内蔵した電子回路によって、電池出力をコントロールすることができるのです。対象機器は玩具や目覚まし時計、電動歯ブラシ、照明機器など。

乾電池型IoTデバイスMaBeee本体と内蔵する回路。左から「コントロールモデル」(青色)、「モニタリングモデル」(ピンク)、量産準備中の「ビーコンモデル」(白色)と各モデルで配色が異なる

乾電池型IoTデバイスMaBeee本体と内蔵する回路。左から「コントロールモデル」(青色)、「モニタリングモデル」(ピンク)、量産準備中の「ビーコンモデル」(白色)と各モデルで配色が異なる

コントローラーは、スマートフォンの専用アプリ「MaBeeeコントロール」。7つの操作モードで出力をコントロールできます。内蔵したBluetoothアンテナを介して通信し、スマホをかたむけて電池出力を制御したり、音に反応させて稼働のON・OFFを切り替えたり、直感的に使える操作方法を採用しています。

たとえば、使用例のひとつにミニ四駆があります。本来であればミニ四駆は一定の速度でしか走行できませんよね。しかし「コントロールモデル」を装着することで、直線コースで急加速したり、カーブで減速したりできるようになります。

コントローラーは、自動車のコントロールパネルのようなUIデザインを採用した「MaBeeeレーシング」やイルミネーションの電飾の操作に特化した「MaBeeeライト」などいくつかのアプリに派生しています。

MaBeeeライト(左)とMaBeeeレーシング(右)の操作画面。MaBeeeライトでは光の点灯や明滅、明暗などを操作。MaBeeeレーシングには、メーターを操作するかスマホの傾きで速度を調整する機能がある

MaBeeeライト(左)とMaBeeeレーシング(右)の操作画面。MaBeeeライトでは光の点灯や明滅、明暗などを操作。MaBeeeレーシングには、メーターを操作するかスマホの傾きで速度を調整する機能がある

───MaBeeeは個々に識別情報を備えているのでしょうか?

はい。ひとつひとつ出荷時に識別IDを付与していて、ユーザーはIDごとに接続を設定します。IDを指定すれば、複数のMaBeeeを一度に操作することもできます。IDではなく「照明用」「ミニ四駆用」など、ユーザーが把握しやすいようにIDを変更することも可能。あとはおまけの機能として、アプリ上で個々の電池残量が確認できます。

乾電池は様々な機器に使用されていますよね。これが良くも悪くも開発者泣かせ。つなぐ乾電池の本数によって電圧なども変わってくるものですから、不特定多数の機器で使用しても滞りなく稼働させるための対処に腐心しました。それもあってMaBeeeが対応できるのは、乾電池の使用本数が最大4本までの機器に限られています。

発売から2年ほど経ちますが、じつは仕様や搭載技術は少しずつ改良されています。ユーザーに提供する機能こそ変わりませんが、内蔵する回路は乾電池で動くデバイスでなくても組み込めるようにしました。これにより、乾電池を使わない製品もIoT化できる。機能としては「コントロールモデル」のような出力の制御だけではなく、家電にセンシング機能を追加したりすることできます。

日用家電が見守り用ツールに

───出力制御以外の機能というと2017年、2018年にリリースされた「モニタリングモデル」、「ビーコンモデル」ですね。

「コントロールモデル」は上位システムであるスマホから、エッジのデバイスにあたる機器に指示を送る構成でした。「モニタリングモデル(※1)」はその逆で、エッジのデバイスの状態を通知する機能を持っています。「モニタリングモデル」をテレビのリモコンや玄関のセンサーライトに入れると、稼働状況がクラウド上で可視化できるようになるのです。

この機能に期待できるのは、一人暮らしの高齢者や小さなお子さんを対象とした「見守り」です。ガスコンロが毎日使われているか、毎週楽しみにしているテレビ番組を観ているか、といった状況をもとに安否を確認できます。人感センサーなどを用いた安否確認システムと比較しても仰々しさがなく、見守りの対象者も監視されている、と感じるようなストレスがありません。日用家電の乾電池を替えて、Bluetooth用のゲートウェイをコンセントに差し込めば設置が完了。わずかなステップで見守りシステムが構築できます。こちらは2018年の5月に量産出荷を開始しました。

「MaBeee モニタリングモデル」の構成イメージ

「MaBeee モニタリングモデル」の構成イメージ(提供:ノバルス株式会社)

「ビーコンモデル」は、機器に使用することでビーコン端末(※2)の機能を付加できます。乾電池からビーコン信号を発信し、接近したビーコン受信機に位置情報を伝達することができるわけです。落とし物防止や入退室管理、お子さんの見守りなどに活用いただけます。

従来、IoT製品の上位システムは個々に用意され分断されていました。しかし、乾電池にIoT化の機能を持たせれば、多く機器に適応できるし上位システムも一括で管理できる。導入も容易だから、お年寄りや児童など、テクノロジーに馴染みのない人にもその価値を受け取ることができるのです。

「MaBeee ビーコンモデル」の構成イメージ

「MaBeee ビーコンモデル」の構成イメージ(提供:ノバルス株式会社)

有志のアイデアから生まれた「MaBeee」

───「乾電池型IoTデバイス」というコンセプトはどのような経緯で着想を得たのでしょうか。

開発に至るまでの経緯を辿ると、2013年に私が主催したサークル「ヤミ研」がきっかけになっています。ヤミ研は、様々な企業に勤める人たちが集まったサークルのような団体です。自社で埋もれてしまった企画やアイデアを協力しあって実現するのを活動の目的に、企業や業種の垣根を越えて、毎回有意義な議論が重ねられました。

そして有志のひとりから挙がったのが「スマホでプラレールを操作したい」というアイデア。私もそのアイデアに興味を持ち開発を進めた経験から、電池形状のものを組み込めれば、より多くの機器で利用できると考えるようになりました。というのも私は以前から、社会基盤になるようなプラットフォームをつくりたいと考えていたのです。

ノバルスを起業する前、時計の大手メーカーに勤めていた2000年代初頭の話です。受信した電子メールを閲覧できるスマートウォッチの企画に関わりました。時計メーカーや部品メーカーなどが協同で開発を進めるプロジェクトでしたが、結局、実現には至らず。プロジェクトの外部からは「腕時計に通知機能が付いて何かメリットがあるの?」というムードさえあったほどです。今でこそスマートウォッチやウェアラブル端末は当たりまえになっています。しかし、当時はまだ市場が醸成されてなかったのでしょう。

スマートウォッチ事業だけではありません。前々職で関わった映像・音楽コンテンツの配信事業も志し半ばで、頓挫してしまいました。何千億円もの収益を見越した事業は、開発にそれ相応の投資が必要になり、もし計画が流れてしまえば目も当てられない状況に陥ってしまう。ノバルスは2015年に起ち上げましたが、過去の経験を踏まえて素早い製品開発を心がけるようになっています。

「ヤミ研」第1回は2013年10月3日に開催。岡部さんは、製造業だけでなくITやインターネットサービスなどの業界からも参加者を募った

「ヤミ研」第1回は2013年10月3日に開催。岡部さんは、製造業だけでなくITやインターネットサービスなどの業界からも参加者を募った(提供:ノバルス株式会社)

※1モニタリングモデル

2018年7月27日に行われたシニア向けコンテスト『“人生 100 年時代”を切り拓く シニアライフ・イノベーション・チャレンジ 2018』で、最優秀賞を受賞。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000016319.html

※2ビーコン端末

無線電波を発信して位置情報などをを標示する装置のこと。

「MaBeee」がSTEM教育にもたらす影響

自由度の高さが創造性を育てる

───大人のアイデアに端を発していますが、専用アプリのUIやデザインは児童向けです。当初から児童向けの製品として意識していたのでしょうか。

当初は大人向けか児童向けにするか悩みましたね。男心をくすぐるようなギークなデザインも悪くないかな、とか。購入するのは親御さん、遊ぶのはそのお子さんです。果たして、お子さんに気に入ってもらえるのか、いわゆる「代理購買」の難しさに悩まされました。最終的には、お子さんが遊んでいるのを見て、お父さんも一緒に楽しめたら、と現在のコンセプトに落ち着きました。

───結果として「コントロールモデル」は2016年度の「グッドデザイン賞 金賞」と「キッズデザイン賞 子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門 優秀賞(経済産業大臣賞)」を受賞していますね。

キッズデザイン賞では審査員から「子どもの創造性や感性を育てる可能性を具体的に示した」と評されました。メインターゲットはお子さんでしたが、想定どおり親御さんにも波及しているようですね。いまでは、SDK(※1)でアプリを自作する大人のユーザーもいるほど。

教育機関やその関係者からの関心はいい意味で想定外のことでしたね。いまでは、教材として生徒に「コントロールモデル」を配布している小学校もあります。2020年度、小学校でのプログラミング教育必修化(※2)を見越してのことなのでしょう。しかし、まだまだ地盤が築かれているとは言いがたく、業界全体で試行錯誤している印象です。そんななかでも、ITリテラシーの高い親御さんはいるようで、将来を見すえてMaBeeeのワークショップにお子さんを積極的に参加させています。

ロボット教材やプログラミング教材って高価なものも珍しくありません。加えて、飽きっぽい子だったらせっかく教材を買い与えても、すぐに遊ばなくなる。それに比べたらMaBeeeの初期投資はごくわずか。家計にも優しい(笑)。

「MaBeee」がモノとプログラムを結ぶ

───やはり、プログラミング教育やSTEM教育(※3)は意識しているのでしょうか?

はい、そういった昨今の潮流を受けて開発したのが「MaBeee-Desktopアプリ」です。アプリは、教育用プログラミングツール「Scratch」(※4)に対応しており、ユーザーはパソコンのデスクトップ上から「コントロールモデル」の動作をプログラミング・操作できます。

「Scratch」ならSDKよりも敷居が低く、とっつきやすい。それでもミニ四駆を10秒間停止させたのち走行させる、といった従来の機能にはない高度なプログラミングが可能になります。豆電球を使ったプログラミングから電気磁石を使ったプログラミングまで、教材を変えることで生徒の学年や技術レベルに対応できるわけです。

MaBeeeと関連付けたScratchの操作画面

MaBeeeと関連付けたScratchの操作画面(提供:ノバルス株式会社)

物理的なモノとプログラミングで制御する「フィジカルコンピューティング」が気軽に体験できるのも「MaBeee-Desktopアプリ」のポイントでしょう。パソコンだけでプログラミングを学ぶよりも理解が進みます。方法としてのプログラミングを学ぶことも大切なのですが、それ以上に思考や仕組みとしてのプラグラミングを学ぶことが肝要です。

教材用の工作キットは多く出回っていますが、もともと備わっている機能以上のことはできない。一方、MaBeeeならユーザーが自分好みで機能を追加できる拡張性があります。それはつまり「MaBeeeを使って、機器をどう動かすか」といった価値のある過程が生まれるということ。その拡張性はいわば可能性であり、STEM教育の骨子になるのではないでしょうか。

───自由度の高さは、作品コンテスト「MaBeee祭」が好例といえそうです。

2017年、「MaBeee祭」と題して、ユーザーからMaBeeeの活用方法を募ったところ、たくさんのエントリーがありました。予定していた作品数を大幅に上回る44作品が一次審査の書類選考通過しました。
そして、32作品がユーザーによって実際に作成されて、最終審査を迎えています。

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MaBeee祭の参加者たち(提供:ノバルス株式会社)

コンテストには有識者を集めて、審査を行いました。技術力や完成度の高さだけでなく、着眼点や作品の面白さなども評価項目になっているのがミソです。

大賞を受賞したのは、マインクラフト上で制作したクリスマスツリーのイルミネーションと「コントロールモデル」を連動させて、実物のクリスマスツリーを点灯させる作品。なんでも、制作者は自分の娘さんを喜ばせるために企画を思いついたのだとか。作品を作ったら終了、ではなく家族間でコミュニケーションが生まれているのがうれしいですね。

各作品の工作レシピは『“MaBeee”活用ブック』(※5)(発行:ジャムハウス)にも収録されています。

ジャムハウスより刊行された『“MaBeee”活用ブック』。「MaBeee祭」のエントリー作品の工作レシピのほか、コンテストのレポートやMaBeee開発者へのインタビューなどを収録している

ジャムハウスより刊行された『“MaBeee”活用ブック』。「MaBeee祭」のエントリー作品の工作レシピのほか、コンテストのレポートやMaBeee開発者へのインタビューなどを収録している

プログラミング教育の市場拡大に向けて

───MaBeeeを今後どのように展開していきたいですか?

児童向けのプログラミング教育市場は増加傾向にあり、2023年には226億4400万円(※6)に達するともいわれています。これは2013年と比較すると34倍の数値。当然ながら教材メーカーからの注目度はどんどん上がっていくはず。こちらとしてもMaBeeeで培った技術や知見で業界にアプローチできればと思っています。

また、教育関係に限らずIoTのノウハウがない既存の製造メーカーとも連携していきたいですね。互いのリソースを融合させることで、新たなIoT製品を開発することもできるでしょう。既存の製品に組み込めるのがMaBeeeの強さであり、当社はIoTモジュールを使った小型省電力機器開発を強みとしていますから。

───起業当初、インテル社のCMにあるキャッチコピー「インテル入ってる」に対して、「MaBeee入っている」を標榜されましたが、その思いはまだ変わりませんか?

はい、現在もその夢を追っています。MaBeeeは現在3モデルだけですが、どんどん機能のバリエーションを増やしていきたい。単三電池サイズ以外のサイズを展開するという選択肢もありますね。乾電池を使う製品が減ってきている、という意見もありますが、それならばバッテリーにIoT機能を持たせるとか。スマートウォッチが10年かかって浸透したように、時代の潮流を見極めたうえで最適なサービスを提案できれば、と考えています。

ちなみに、乾電池の規格は世界共通だということをご存じですか? 見本市に「モニタリングモデル」を出展した際には、ヨーロッパをはじめ南アフリカ、メキシコなどの各国のバイヤーから関心を寄せていただきました。日本に限らず、日用品や電化製品のIoT 化は避けて通れない道です。中期的な見方ではありますがMaBeeeが参入する余地は大いにあるのです。

※1SDK

「Software Development Kit」の略。あるシステムのソフトウェアを開発するためのプログラムや文書などをひとまとめにした開発キットのこと。

※2プログラミング教育必修化

文部科学省は2020年に実施される新学習指導要領において、小学校でのプログラミング教育必修化を明示した。算数や理科、社会科といった既存の教科内で実施される。

※3STEM教育

「STEM」とは「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(算数)」の頭文字に由来する。来たるべきAI社会に必要な資質、能力としてSTEM教育が世界的にも注目を集めている。

※4Scratch

米マサチューセッツ工科大学の「MITメディアラボ」が開発したプログラミング言語学習環境。成人を含めた「すべての年齢の子ども」を対象にしており、初心者でも構文を覚えることなく直感的な操作でプログラミングができる。

※5“MaBeee”活用ブック

http://www.jam-house.co.jp/mabeee/index.htm

※6226億4400万円

プログラミング教育メディア「コエテコ」と株式会社船井総合研究所が協同実施した「2018年 子ども向けプログラミング教育市場調査」より。
https://www.gmo.media/archives/1833/

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