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2018年12月14日技術ブログ

社会貢献度を可視化するトークンとは

可視化・定量化がむずかしいとされてきたボランティア活動や 非営利組織への寄付などの「ソーシャルアクション」に、変化が訪れようとしています。 ブロックチェーンを使用した「actcoin」を始動させた、 ソーシャルアクションカンパニー株式会社の佐藤正隆さんに伺いました。

「actcoin」がソーシャルアクションの連鎖を生む

佐藤正隆(さとう・まさたか)/ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役。2016年から非営利組織向けのWEB制作・運用サービス「Webider」の提供を開始し、クリエイティブ助成プログラム「SOCIALSHIP」の運営やNPO資金調達・支援者管理ツール「congrant」の開始など業界貢献のために様々なサービスを展開。2018年から社会貢献を可視化する新プロジェクト「actcoin」が始動。ブロックチェーン技術の応用を研究しながら、同時にサービス開発も行う。リタワークス株式会社 代表取締役も務める。

佐藤正隆(さとう・まさたか)/ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役。2016年から非営利組織向けのWEB制作・運用サービス「Webider」の提供を開始し、クリエイティブ助成プログラム「SOCIALSHIP」の運営やNPO資金調達・支援者管理ツール「congrant」の開始など業界貢献のために様々なサービスを展開。2018年から社会貢献を可視化する新プロジェクト「actcoin」が始動。ブロックチェーン技術の応用を研究しながら、同時にサービス開発も行う。リタワークス株式会社 代表取締役も務める。

ブロックチェーンで社会貢献活動を可視化

2018年10月10日、東京都港区は日本財団ビルの会議室で、「actcoin」(※1)の説明会が実施されました。「actcoin」とは、個人の社会貢献活動に独自コイン(トークン)を付与する無料オンラインサービスのこと。

運用するのは、同年5月22日に設立されたソーシャルアクションカンパニー株式会社。WEB制作やシステム開発を手掛けるリタワークス株式会社の佐藤正隆さんが、代表取締役を務めます。

「actcoinは、“action”と“coin”をひとつにした造語。ブロックチェーン技術を活用して、ユーザーの社会貢献活動に対してコインを付与します。たとえば、ユーザーがボランティア活動をした場合に、1時間の活動に対して1,000コインを付与する、といった運用になります」

ボランティア活動のほか、社会課題解決のための勉強会やセミナーに参加することもコイン付与の対象になります。評価の対象になるのは、ボランティアなどの現場で行なう活動といったソーシャルアクションだけにとどまりません。

「非営利組織(NPO)や企業の慈善活動に現金を寄付してもコインが付与されます。この場合は、寄付金の10%分のコインがユーザーへ還元されます」

アプリによって、活動履歴を他者と共有

「actcoin」は、スマートフォンのアプリによって獲得することができます。アプリ内のメインコンテンツは「プロジェクト」と「寄付」。「プロジェクト」は、ボランティア、イベント、勉強会などが一覧表示され、興味のある活動への参加申し込みができます。また、参加はできなくても「賛同」することでコインが付与されます。

「寄付」では、登録しているNPOの情報・活動が表示され、ユーザーの指定したNPOに直接クレジットカード決済で寄付することができます。

このアプリの特長は、登録しているユーザー間で、これまでのソーシャルアクションやコインの総量を共有できること。

「たとえば、Aさんはこれまでに総数10万コインを獲得し、その内訳は、寄付で得た3万コイン、プロジェクト参加で得た7万コインといったように、ダッシュボードで閲覧できます。SDGs(※2)に基づいており、SDGsが掲げる17個の目標のうち、ユーザーのソーシャルアクションがどの目標に貢献しているかも、ひと目でわかるようになっています。個人の社会貢献が可視化されたダッシュボードを提供することで、社会貢献のモチベーションを高め、個人間で情報共有できる機会をつくることで多くの参加を促していきます」

コインが一定の総量に達するとユーザーは「ソーシャルアクター」(社会貢献家)にランクアップします。ユーザーの継続的な活動の評価として、利用者のエンゲージメントを高めていく工夫を今後検討していくとのこと。

(左)ユーザーがソーシャルアクションを通して貢献した目標の一覧(中)獲得したコインの区分(右)ログイン画面。SNSとも連携し、簡単にアカウントが作成できる

(左)ユーザーがソーシャルアクションを通して貢献した目標の一覧(中)獲得したコインの区分(右)ログイン画面。SNSとも連携し、簡単にアカウントが作成できる

ブロックチェーンでユーザー情報を管理

「actcoin」への登録は、NPOだけでなく企業など、社会貢献に結びつく活動をしている団体すべてを受け入れています。NPOの場合、アプリを通して、プロジェクトの参加者や寄付を募集できるのは「CANPAN(※3)」のデータベースに登録されている団体が対象になります。CANPANでは、団体の情報開示度を星の個数で評価していて「actcoin」を利用できるのは、星4つ以上の団体になります。

「星の個数は、団体の基礎情報や活動概要、財政など、CANPANで開示した情報のレベルによって決まります。星4つ以上は、活動の方向性や収支の報告に加えて、活動の実績などを開示している団体です。予算がどのように利用されているのか、一年間でどんな活動をしてきたのか、透明性の高いほうがユーザーは安心ですよね」

佐藤さんは、ユーザーのアクションを可視化することで、他のユーザーに各団体の活動が共有され、さらなる寄付や支援者が増加することを期待しています。

個人のソーシャルアクションや団体の活動をプラットフォーム上で証明するうえで、肝になるのがブロックチェーン技術です。

「誰がどんなアクションを起こしたのか、『actcoin』がいくら付与されたのか。そういったアプリ内の情報は、『actcoin』のデータベース、およびブロックチェーンに記録されます。数字と羅列による個人アドレスでユーザーを管理するため、匿名性も保たれる。複数パターンのコイン付与ルールを設定するため、スマートコントラクト(※4)の実装が行われます。

現在のアクトコインのサービス全体像

現在のアクトコインのサービス全体像

ソーシャルアクションを開示する時代へ

仮想通貨やトークンは、売買を目的とした投資対象として取り扱われることもめずらしくありません。しかし「actcoin」は売買することも、サービスを決済することもできません。その狙いとは?

「仮想通貨って、採掘や売買によって入手するイメージがありますよね。採掘された量や市場価値によって価格相場が変動する。『actcoin』は最初に2,030億枚のトークンを発行しますが、売買が発生しないトークンの活用方法として、あくまでもソーシャルアクションを可視化するための目安として利用されるのです。『ポイント』という考え方もできますが、新しい概念としてあえて『トークン』という言葉を用いました。はじめは誤解を生むかもしれませんが、じっくり浸透させていければ」

佐藤さんが想定するコインの利用者層は、20代から40代。それ以上の世代は、ソーシャルアクションに対する価値観のギャップを感じる人も少なくないと言います。

「すべての人に当てはまるわけではありませんが、60代、70代の方は社会貢献活動を世間に公開することに抵抗のある方が多いように思います。彼らは戦後の高度経済成長期を支えた功労者です。そのころは、自身の生活そのものが、社会貢献活動につながっていたのだと思います。社会が豊かになった現代では、子どもの貧困や自殺者増加などの社会課題がどんどん顕在化するなど、社会の抱える課題の種類が少しずつ変わってきました。ソーシャルアクションを開示する地盤があれば、それをきっかけに、ムーブメントがどんどん拡がっていくのではないでしょうか」

※2SDGs

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。2015年の国連サミットにて採択された。「貧困」「飢餓」「健康」など、17分野における課題解決を目標にしている。NTTデータでも、CSRでSDGsに対する取組を行う。
http://www.nttdata.com/jp/ja/corporate/csr/message/index.html

※3CANPAN

日本財団CANPANプロジェクトが運営する公益活動団体のデータベース。登録される団体の概要や組織体制、活動実績などを閲覧できる。
https://fields.canpan.info/

※4スマートコントラクト

ブロックチェーン上で行われる契約の自動的な検証、執行、実行を技術。第三者を介することなく信用が担保される。

「actcoin」が育む、社会貢献リテラシー

社会貢献と世間との溝を埋めるために

佐藤さんが「actcoin」事業に取り組むようになったのは、ある大手企業を退職した後に社会貢献活動を熱心に行っていた60代の男性との出会いでした。

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「その男性は、自身が行ってきた社会貢献活動をうまく言葉で表現できていなかったのです。その男性は確かに多くの社会貢献に関わってきたのに、それが可視化されていなかった。本当にもったいないと思いました」

社会貢献活動を通して築き上げてきたその人の信頼を可視化して、第三者にも見えるようにしたい。その思いが、佐藤さんが「actcoin」をスタートさせるひとつのきっかけとなりました。

もうひとつのきっかけは、佐藤さん自身はが行ってきた、リタワークスでの委託案件です。リタワークスは、「利他の心を学び、実践する」を基本理念に2008年に創業されました。一般企業だけなく、NPOやNGO専用のホームページ制作・運用サービスを展開。誰でも更新できる運用システムによって、団体の情報発信や広報をサポートします。

「NPOとの仕事が増えたのは、ここ3年くらいのこと。彼らの多くは寄付が足りない、支援者が集まらないといった課題を抱えていました。また、どんなに精力的に活動していても、世間に認知されていない団体も少なくありません。現状を垣間見て、業界と世間に大きな溝を感じていました」

しかし、一般の人がボランティア活動や勉強会、寄付などソーシャルアクションに取り組むのは敷居が高いものです。佐藤さんも、それは充分理解していました。

「いくら社会貢献に興味をもっていても、なかなか一歩踏み出せないのではないでしょうか。一般の人からすれば、どんな団体があるのか、どんな活動をしているのか把握が難しい。だったら、気軽にソーシャルアクションできる仕組みを作ったらいいのではないか。そうすれば、業界の課題解決の一助になるかもしれない」

そこで、立ち上がったのが「actcoin」事業でした。ブロックチェーン技術の調査、実装については、「明治大学暗号通貨・ブロックチェーン研究会」が協力。団体情報を提供する「CANPAN」もこころよく、連携を受け入れました。当時のことを、「CANPAN」の企画責任者を務める山田泰久さんがふりかえります。

山田さん

山田さん

「佐藤さんとは、NPO関連のイベントで何度か一緒になり面識がありました。『actcoin』のお話をうかがった際、団体の信頼性がサービスの重要な要素になるという説明に、強く共感したのを覚えています。『CANPAN』が取り組むNPOの情報開示・発信、それによる信頼性の向上とも親和性が高いと思いました」

団体情報データベースを活用しているNPOにとってのメリット創出、利便性向上も山田さんには魅力的に映ったそうです。

「積極的に情報開示・発信している団体が、広く支援を得られるいい機会になると思いました。『actcoin』のような画期的なサービスは、最初は理解促進や信頼向上のハードルが高い部分があるかもしれません。しかし、NPOに広く認知されている『CANPAN』が協力すれば、サービスのスタートダッシュにも寄与できるかと」

山田さんにとって、今回の連携は「actcoin」および佐藤さんへのエールでもあるのです。

アプリを通じて「エシカルな消費」も後押し

2018年内のローンチを予定する「actcoin」ですが、その後も多くのアップデートを予定している、と佐藤さんは話します。

「ユーザーに付与されるコインの多寡は、もっと精査しないといけません」

たとえば、「被災地での復興ボランティアに1時間参加」と「世界の貧困問題を学ぶ勉強会に1時間参加」は、どちらもソーシャルアクションとして認められます。しかし、ユーザーに付与されるのは、いずれも1,000コインで問題ないのでしょうか。活動で発生した交通費や労力なども考慮した設定も佐藤さんは検討しています。

また、現状では「もらう」か「貯める」だけの「actcoin」を、いずれは「送る」こともできるようにしたいそうです。

「コインは売ることができないので、どんどん貯まっていきます。ゆくゆくは、かなりのコイン総数を所持するソーシャルアクターも出てくるでしょう。そういった場合もふまえて、コインを団体などに寄付できる仕組みも作っていきたいですね。寄付されたコインは、また別のソーシャルアクターに付与され、サイクルが生まれる。有志で財団を設立して、団体にお金がまわる仕組みも必要になってくるかもしれない」

また、現状、アプリは「プロジェクト」と「寄付」がコンテンツにありますが、「商品購入」も盛り込んでいく予定です。この項目は、アプリを通じて、特定のエシカル商品が購入できるというもの。商品購入時の金額の一部がコインとしてユーザーに還元されます。

そういった商品は、比較的高価になってしまうことも珍しくありません。その理由には、生産者に利益を還元するためであったり、環境負荷が少ない製造工程を踏んでいたりすることなど挙げられます。佐藤さんは、「なぜ高価になるのか考えてもらいたい」と、商品が生まれた背景もしっかり訴求していくのだそうです。

社会課題リテラシーの底上げを狙う

「actcoin」が普及した社会は、どうなっているのでしょう。佐藤さんが思い描く未来像とは?

「一般の人たちの社会課題へのリテラシーを少しでも底上げできるといいですよね。ソーシャルアクターひとりひとりの力は小さいけれど、束になれば社会を動かすだけの力が生まれるはずです」

「actcoin」は、長くIT系ベンチャー企業の代表を務めてきた佐藤さんの挑戦でもあります。インターネットの台頭により、IT分野はこの20年で急激に進化してきました。そして現在、ブロックチェーン、IoT、AI技術などの新たな技術が開拓されようとしています。

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「90年代から2000年代初頭のインターネット黎明期、私は未熟な10代だったため、起業したり、新規で事業を起こすチャンスがありませんでした。しかし、今は新たなテクノロジーの黎明期を迎えています。今こそ、社会にアクションを起こすときだと思っています」

と、意気込みを熱く語る佐藤さん。最後に、行動力の源泉について伺いました。

「企業こそ、社会貢献に取り組むべき。それが私の行動原理になっています。小規模ながら、事業は軌道に乗り、離職者も少ない。それは、やはりNPOの支援に取り組んでいるからなのではないか。ちょっと抽象的な表現になってしまいますが、まっとうな取り組みを務めていれば、企業はどんどんよい方向に向かっていくはず。『actcoin』を通じて、それを証明していきたいですね」

現在、佐藤さんは2020年の東京五輪を見据えて、ソーシャルインパクトの準備を着々と進めています。2021年以降は「actcoin」のグルーバル展開も構想中です。

2018年6月21日、明治大学で行った講演会『ブロックチェーン×社会貢献×日本初ソーシャルアクションプラットホーム』で登壇する佐藤さん

2018年6月21日、明治大学で行った講演会『ブロックチェーン×社会貢献×日本初ソーシャルアクションプラットホーム』で登壇する佐藤さん

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