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2019年6月13日技術ブログ

自動運転社会への要「エッジ・コンピューティング」

21世紀を迎えてすでに約20年が経った今。 人類の長年の夢であった自動運転技術は、その実現に向けて着実に前進を続けています。 自動運転車とともにある、来るべき未来社会について、 最先端の技術研究開発に携わる2人の研究員に話を聞きました。

超高速ネットワーク通信とクラウドを支える仕組みとして、
エッジ・コンピューティングの技術にますます期待が高まります。

大量データの送受信を下支えする技術

(左)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 主任研究員 森航哉さん (右)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 研究員 塩田純さん

(左)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 主任研究員 森航哉さん (右)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 研究員 塩田純さん

全ての車がネットワークでつながる社会

───最近、テレビや新聞でも「自動運転」というキーワードを目にする回数が増えています。自動運転技術の実現へ期待が高まる一方で「本当に自動運転は実現するのだろうか」と考えている人も多いと思います。技術的にはどのような分野に力を入れて取組む必要がありますか。

 自動運転を実現するためには、自動車の性能をさらに高めることが重要です。人間と同等以上の運転能力を車自身が持たなければなりません。性能が未熟であれば当然ながら自動運転は成り立たず、たとえ高性能でも、たった一度のミスが人命に関わる重大事故につながる可能性もあります。

自動車のさらなる性能向上に向けて、現在最も注目されているのがAI、人工知能や機械学習とも呼ばれている技術分野です。自動車が周辺環境のあらゆる情報を常時収集して解析し、瞬時に判断して自動走行を安定的に行うためには、不可欠な技術です。

塩田 AIと同様に重要な技術分野として見逃せないのが通信・ネットワーク技術です。自動運転を実現するには、個別の一台一台が周囲の環境を直接認識するだけでなく、より広範囲のエリアから情報を取得した上で運転の判断を行う必要があります。

たとえば今どこで道路工事が行われていて障害物がある、交通事故や渋滞が発生しているという情報を、近隣だけでなく遠隔地からも取得すればより安全で効率的な自動運転を実現できます。それぞれの車がいわば高性能なセンサーとなって周囲のあらゆる情報を収集し、他の車とも情報を共有し合って相互活用することで、自動運転の精度は飛躍的に高まるでしょう。

 先日行った実験では、走行中の周辺環境を認識し、歩行者などの動的オブジェクトを検出するためにカメラを搭載した車を走らせました。それらの情報をAI技術で解析し、通信・ネットワークを介して他の車と共有することで、道路状況をリアルタイムに再現した高精度地図、ダイナミックマップを作成することができます。

カメラを搭載した車から見える風景と、ダイナミックマップ

塩田 2000年代(2000年?2009年)は、90年代に登場したインターネット技術が進化して飛躍的に普及した時代です。それに続く10年代(2010年?2019年)のキーワードは、「クラウド」と「スマートデバイス」。巨大なデータセンターであるクラウド上で世界中の人たちが大量のデータを共有できるようになりました。スマートフォンをはじめとするスマートデバイスによって、ビッグデータという巨大な知的財産を個人がいつでもどこでも利用可能な時代となったのです。

自動運転を考える上でキーワードになっているのが、つながりあう車、という意味の「コネクティッド・カー(Connected Car)」です。IoTの概念と同じように、インターネットを通じて世界中の車がつながり、高精度センサーとして自ら取得した情報を共有し合ってビッグデータを活用できれば、高度な自動運転の実現に拍車がかかります。

 インターネットや携帯通信、クラウドをはじめ、これまで様々な通信・ネットワーク技術を担ってきたNTTグループにとって、昨今の重要な研究開発テーマとなっているのがまさにこのコネクティッド・カー。自動運転の実現に向けた新たな通信・ネットワーク技術を提供することが私たちの役目だと言えます。

次世代自動車の新サービス研究開発が多数進行中

───現在、利用されている4G(第4世代移動通信システム)に加えて、超高速、かつ多数同時接続の次世代通信が可能になる5Gが普及すると、コネクティッド・カー社会がさらに身近になりそうです。

塩田 全ての車がネットワークでつながり、高度な自動運転が実現すると、先ほどお話しした交通事故削減や道路渋滞の緩和、運転操作からの解放と言った効果はもちろん、「えっ、こんなことまで」と驚くほど便利なサービスも次々に登場する可能性があります。

たとえば乗車中にオススメのレストランを提案してくれたり、席の予約や道案内までしてくれたりする。ドライバーの好みに合わせて、周囲のレジャー施設や名所などをガイドしてくれる。自動運転中に得られる大量の情報が安全や快適を守ってくれるだけではなく、ドライブをより楽しいものにしてくれる、いわゆる「インフォテイメント」の期待が高まります。

 私たちの想像を超える高精度地図や高性能カーナビが登場する可能性もあります。現段階で市販されているカーナビ上に表示されるのは、道路や建物などの静的な情報が中心となっています。しかし近い将来、近隣を走る他の車や自転車、近くを歩いている歩行者などの動的な情報も表示できるようになるかもしれません。

まだまだその他にも、コネクティッド・カーの研究開発プロジェクトは多数あります。運転中のドライバーの体温や脈拍などの生体情報を感知して、交通事故につながる居眠りなどを防止しようとする運転サポート技術の研究開発などもあります。

自動運転実現に向けて期待が高まるエッジ・コンピューティング

───コネクティッド・カーの実現に向けて、現在注目を浴びている「エッジ・コンピューティング」について詳しく教えてください。

塩田 世界中の車がネットワークでつながり、互いに様々な情報を共有しあうようになると、膨大なビッグデータがネットワーク上を飛び交うことになります。そうなると懸念されるのが、データ量の多さに起因する遅延です。

通信環境が悪くなると私たちも「ネットが重い」と感じるように、大容量データの送受信に遅延はつきものです。近い将来車どうしがネットワークでつながり、運転に必要な情報を常時共有するようになると、たとえ100分の1秒遅延しただけでも、通信の遅れが交通事故などの重大なインシデントにつながる可能性も考えられます。

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 今後5Gが普及することで、ビッグデータ時代にふさわしい超高速・低遅延・大容量の通信環境が整備されていくでしょう。しかし、全てのデータを巨大なデータセンターに集めて処理するというクラウドの仕組みには改善の余地があります。そこで登場してきたのがエッジ・コンピューティングです。

塩田 全てのデータをデータセンターという中央部に集約するのではなく、ネットワークの周縁部分(エッジ)にサーバーを設置して、データセンターに集める前にそこでデータ処理を行います。データセンターとエッジ・サーバーで役割分担を行えばネットワーク全体の通信効率が格段に高まります。

エッジ・コンピューティングの概念は、まさにクラウドが世の中に普及しようとしていた2010年頃にはすでに提唱されていました。NTTグループでは国内に先んじてエッジ・コンピューティングの研究開発に着手し、早期の商用利用に向け取組んできたという実績があります。

すでにインターネットが、人々の生活の欠かせないインフラとなっているように、近い将来クラウドも社会に不可欠なインフラとなります。コネクティッド・カー社会が到来し、人間だけでなく自動車も大量のビッグデータをやり取りするようになれば、超高速ネットワーク通信とクラウドを支える仕組みとして、エッジ・コンピューティングの技術にますます期待が高まります。

 自動運転は、盤石な通信・ネットワーク環境があってこそ実現するものだと言っても過言ではありません。NTTグループでは、これまで電話やインターネットなどの通信サービスを提供することで社会を支えてきました。今後はビッグデータ通信や、エッジ・コンピューティングといった最新技術の研究開発を推進することで、高度なコネクティッド・カー社会と自動運転技術を進化させ、社会に貢献する役目を担っています。

自動運転がもたらす未来社会の豊かさとは

───自動運転技術の進化によって、どのような未来が実現されるのでしょうか。

 私は車の運転が好きなので、もし完全な自動運転が技術的に実現したとしても、自分で運転することを選ぶのではないかとも思います。私と同じような考えを持っている人は実際にたくさんいらっしゃるはずです。自動運転技術がどこまで進化しても、車を運転する愉しさ自体が失われることはないでしょう。私たちの想像を超える高度な自動運転技術がこの先実現しても、車ではなくヒトが主役であることに変わりはありません。

塩田 自分で車を運転したいという人がいる一方で、運転したくても難しい、できないという人がいるのも事実です。高齢者の方は今後ますます増えていきますし、体が不自由な方もいらっしゃいます。自動運転技術の進化によって、カーライフはもちろん、人生に関する私たちの選択肢や可能性が広がっていくと考えています。

運転が楽しいという人たちも多い一方で、運転が好きではなく苦手な方もいらっしゃいますし、体調によっては運転が辛い、したくないという時もあります。車を利用するならば、これまでは避けては通れなかった運転操作から解放されるというメリットは見逃せません。

 不幸な交通事故に苦しまない社会を実現できることに、まず大きな期待が集まっています。これまでヒトが操作していた車が自動運転になれば、人為的な操作ミスが格段に減って交通事故件数が激減する可能性が高まります。事故が減れば必然的に渋滞も減り、日本社会を長年悩ませてきた不便な道路事情も改善が進み、より快適なカーライフを実現できます。

塩田 運転は車に任せ、乗っている人はそのあいだ自由に景色を楽しんだり、同乗者とおしゃべりをしたり、食事をしたり、仕事をしたり、眠ったりもできるようになります。まるで自宅ですごすように、様々な制約から解放され、事故や渋滞に巻き込まれる緊張感からも解放されて、車内が常にリラックスして過ごせる空間となるかもしれません。

車の完全なる自動化が実現されたときには、人が移動するための手段というより、動くパーソナルスペースとなる大きな可能性があります。車の自動化によって、これまで以上に、人生を有意義に過ごすことができる大切な場所が増えるのです。

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