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2020年5月20日INSIGHT

「リアル店舗」はどこへ向かうのか
~遠隔接客は“ニューノーマル”の主役となれるか~

インターネットでの商品・サービス購入がすっかり当たり前となったいま、従来型の営業店舗は「リアル店舗」と呼ばれ、様々な業種でコスト削減、人手不足の課題に直面している。そんな中、注目されているのが遠隔接客だ。人と接触しないことから新型コロナウイルスなど感染症対策として役立つことも期待される。変わり始める小売・流通、金融機関のリアル店舗。角度の異なる手法でソリューション提供を目指すNTTデータの取り組みを追った。

近未来の接客スタイルとは何か

豊富な専門知識を持ち、笑顔で説明を行い、顧客との信頼関係を築きながら商品を販売するのが理想的な来店型接客スタイルだろう。人と人とのふれ合いが満足度を高め、リピート顧客を生み出す。だが、この基本スタイルの維持が難しくなっている。

長期化する低金利で収益環境が厳しい銀行は、行員数の削減や店舗統廃合・店舗の軽量化などでコスト削減を図っている。この状況下でも専門性が必要な金融商品の販売を全店舗で維持しなければならず、顧客サービスの低下も避けなければいけない。一方、小売・流通業界の人手不足は深刻さを増している。少子高齢化の流れが続くことを勘案すれば、経営そのものを危うくする問題にさえなりかねない。

このような課題を解消すると期待されているのが、直接的に対面する接客ではなくデジタルデバイスや最新テクノロジーを活用する遠隔接客だ。接客を必要とする業態はさまざまあるが、それぞれに最適な接客サービスが存在する。

遠隔接客で重視すべきなのは、企業ごとに提供するサービスや店舗運営に関する課題が異なるため、いかに業務内容を把握し最適な仕組みを提供できるかだ。そこに、企業の業務をビジネス面・システム面で支えてきたNTTデータだからこその取り組みが、取材を通して見えてきた。その内容を紹介しリアル店舗に浸透していく近未来の接客スタイルを展望してみる。

スタートは顧客ニーズの発掘から

冷水さん

第二金融事業本部 第二バンキング事業部 冷水康一

「地域金融機関が直面する課題解決への取り組みとして遠隔接客の展開は必然でした」というのは、地方銀行の新しい金融サービス創出を手掛ける冷水康一。地域金融機関の経営は厳しい。人員や設備などの店舗コストの削減を図りながら、顧客との接点を維持・拡大していくための営業体制とチャネル構築を仕掛けることは自然な流れだった。冷水のチームでは、最初の顧客接点であるフロント系業務や商品説明を行うエキスパート系業務など、様々な業務をアバターでリモート接客するシステムを提案している。
これは、専門の担当者を中央に配置し各店舗にはディスプレーに移るアバターが接客するので人員を最小限に抑えられること。ショッピングモールなど店舗外でも対応でき、顧客獲得手段の多様化にもつながるメリットがある。「スタートアップ企業が開発した技術を探索し、地方銀行向けにPoCとして提案中です」と冷水は語る。

図1:アバターを活用した銀行接客のコンセプト

図1:アバターを活用した銀行接客のコンセプト

一方、アバターとは異なる遠隔接客の仕組みも検討している。銀行の営業店システムなどを担当する里見千晶が率いるチームでは、PCやタブレットのWeb機能とネットワークを利用したリアルタイム映像コミュニケーションツールとして「遠隔相談システム(仮称)」を構築。「銀行店舗の運用が変わる流れが見えていたので、次世代で通用するソリューションを調査研究してきました。構築したシステムは、まだプロトタイプですが今年度から本格的に提案していく方針です」と里見は開発経緯を説明する。

里見さん

第三金融事業本部 戦略ビジネス本部 里見千晶

特徴は、実際の対面とそん色なく相談業務が行えるよう鮮明な画像・画面とクリアな音声を実現すること。これにより円滑なコミュニケーションが可能になり、書類やパンフレットなども画面上で共有・提示することができる。遠隔地との相手とも問題なく対面で相談できるなどを重視したという。

顧客ニーズを肌感覚で実感

コスト削減を目的に遠隔接客の取り組みを始めた金融機関向けとは異なり、労働力不足を補う手段としてアバター活用による案内業務、レジ無し店舗などを小売・流通サービス向けに積極的にPoC展開しているのがSDDX事業部だ。担当の小川恭平は、小売業などの人手不足は社会的課題であり、この解消に役立つシステムを検討。その結果がアバターによる接客ソリューションだったという。「コンセプトは顧客から賛同されています。本格稼働に向け現場でどのような課題があるのか検証中」としている。

アバターによる遠隔接客は、銀行に向けた提案も積極化させており、「強いニーズを肌感覚で実感します。接客では顔の表情から得る情報が大きなウエイトを占めますのでアバターによる効果を確認していきます」と冷水は強調する。

仮想空間での分身という意味のアバターは、ディスプレーを通じて顧客と会話するだけでなく、シーンに応じて、音声を変えることや、より豊かな表情を作り出せるメリットがある。実際の顔を映し出すよりも担当者の負担感を減らせる効果もある。

これに対し、実際の顔を出して相談業務を志向するリアルタイム映像コミュニケーションツールは、店舗内のPCやタブレットなどで対応が可能で、Webに接続できる環境があれば利用できる手軽さがポイント。顧客の反応は好意的な評価が多いという。今後は「遠隔接客に取り組む他部門と連携しながらPoCに向けた課題整理をしていきたいと考えています」と里見は話す。

図2:リアルタイム映像コミュニケーションツールの概要

図2:リアルタイム映像コミュニケーションツールの概要

踏み込んだPoCでリアル店舗の未来を切り拓く

少子高齢化で労働生産人口は減少し、働き方改革も経済活動全般に浸透していくだろう。小売・流通業だけでなく金融機関にとってもこれまでとは違う人材活用法が求められてくる。そこにデジタル技術の進化、通信手段の高度化が重なり合い、課題解消に向けた新しい価値提供への期待が高まってくる。

こうしたニーズを的確にとらえ、業態ごとに最適な提案活動をNTTデータが始めている。NTTデータのさまざまな取り組みに共通しているのは、顧客企業の将来を見据え、先回りしたソリューションを提案し、顧客企業とともに最適な形を作り上げること。顧客企業の担当者からの要望だけではなく、業務に入り込んでペインポイントを探りながら、PoCを展開する。

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 小川恭平

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 小川恭平

「PoCで繰り返す仮説・構築・実施・検証は、ITシステムの範囲に留まりません。店舗の動線や、接客マニュアルなどお客様の業務そのものに及ぶこともあります。こうした取り組みを通して、遠隔接客を中心とした違和感のない顧客体験を提供できるようになれば、新たなビジネス展開ができると考えています」と小川は話す。

図3

NTTデータでは、業態や顧客企業ごと異なる遠隔接客のアプローチをしているが、答えが見いだせていない未来型店舗だけに、さまざまな角度での取り組みが今後生きてくるだろう。それぞれが培った技術力とPoC展開を通して、遠隔接客がリアル店舗の未来を創る日もそう遠くないかもしれない。

追記 2020.6.28

NTTデータは東急ハンズの協力のもと、アバター接客を渋谷スクランブルスクエア店のUV特設ブースに設置してPoCを行った。NTTデータが顧客の購買体験のシナリオを考え、特設ブースのデザイン、商品画像、売り場案内の動画やポスターを制作し、顧客の行動の変化を観察・計測した。

専門スタッフは、アバターを介した接客で、顧客から要望(商品の使用用途や肌状態など)を聞き、おすすめ商品や使用方法などを案内する。利用客からは、「対面の接客よりもアバターの方が気軽に話せる」「説明と商品画像がセットで表示され分かりやすい」といった好意的な声があった。この結果からスタッフの働き方に、接客=対面という常識にとらわれない新たな選択肢が増えたと言える。また、顧客の性別や年齢層、感情や対話データを取得でき、将来的に接客品質の向上や商品開発、プロモーションへの還元が期待される。

NTTデータはこうした知見を重ね、東急ハンズとともに新たなお客さまがより利便性やワクワクを感じられるような購買体験の提供、店舗運営に関わる労働力不足、働き方の多様性の実現といった社会課題の解決を目指していく。

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