2020.5.29イベント & レポート

食品製造現場におけるOTとITの融合
そして日本型スマート工場の実現に向けて(後編)

デジタル時代の人材育成とパートナー戦略

前編(※)では、工場のスマート化に向けた取り組み状況や目的、目指すべき姿などについて食品飲料メーカー3社に聞き、行政やITベンダーからスマート工場構築へのサポートについて語られた。後編では、直面する社内でのデジタル人材育成、社外ITベンダーとの連携・活用、付き合い方などが話し合われた。

【前編】工場のスマート化の現在地と目指すべき姿 はこちら >>

目利きができる人材の社内確保がスマート工場構築のかぎ握る

日本たばこ産業 IT部 部長 (兼)たばこ事業本部 事業企画室部長 鈴木 悦夫 氏

日本たばこ産業 IT部 部長 (兼)たばこ事業本部 事業企画室部長
鈴木 悦夫 氏

「外部リソースの活用を考えるにあたり、先ずは、自分たちの状況を整理し何を頼むのかを明確にする必要があると考えています」と鈴木悦夫氏は切り出した。IoTを例にとっても、エッジング、センシング、ネットワーク、セキュリティー、クラウドなどの技術要素で構成されるが、「それぞれの知識・リテラシーを持つ組織・人が各部門に点在し、統合的に理解し取り組むことができる組織や仕組みがないのが現状です」という。

鈴木氏は、最先端のデジタル関連技術を食品メーカーが独自開発するのは、相当のリソースと時間が必要となるため、非現実的と述べ、自社内に必要な人財像について「現場の業務プロセスを理解し、何が問題なのか、この先の事業環境を踏まえた時に何を改善しなければいけないのかが考えられること。そして外部パートナーときちんと対話をして、技術の目利きができる人財を自社に置かなければDX(デジタルトランスフォーメーション)は上手く進まないと考えています」と話した。

外部パートナーとの連携こそ重要

キリンビール 生産本部 技術部長 柿沼 健 氏

キリンビール 生産本部 技術部長
柿沼 健 氏

ICTの導入は言うまでもなく現場の要求を実現するということである。しかし、「ICTを実際に導入する外部パートナーが生産プロセスを知らない場合が多く、明確に要件定義をしないと進められないため、つなぎ役として社内に生産プロセスを熟知したエンジニアが必要です」と柿沼健氏は強調する。
柿沼氏が、外部パートナーと上手く連携できた案件として例に挙げたのが、NTTデータと取り組んだ「AIを適用した計画業務の自動化」だ。ビールは100本を超える巨大なタンクなどの大規模な設備を用いて、30種に及ぶ品種を製造する。それらの組み合わせを最適化して素早く製造、新鮮なうちにお客様へ届けるため、計画業務を需給変動に応じて絶えず調整しているのだという。「この計画業務が非常に大変で、これまでは専任者が丸一日ずっと計画業務を実施し、属人化した業務になっていました。誰も代わりができないということで、働き方改革や業務のスリム化の観点からも課題があり、AIを適用してみることにしました」と経緯を振り返る。

工程を熟知した現場のメンバーが、NTTデータと一緒になって複雑な条件の見える化や検証を繰り返し、ブラッシュアップしていくことで計画業務のシステム化を進めてきたという。「我々はビールの製造会社で、AI技術そのものは基本的には保有していません。具体的なICTの開発は外部パートナーの腕の見せ所であり、そのような人材を自社で抱えるのは非常に難しいと考えています。外部パートナーの力を借りるにあたり、我々には要件を確実に伝えることができる能力が必要であり、外部パートナーの方はOT側の理解が必要です。つまり、ICTを適用するには、製造工程を熟知したユーザーと外部パートナーの融合が絶対に必要だと思います」と柿沼氏は語る。

削減できた稼働時間の有効活用を

味の素 食品生産統括センタースマートファクトリーグループ長 樋口 貴文 氏

味の素 食品生産統括センタースマートファクトリーグループ長
樋口 貴文 氏

「初期の構想策定、PoC(概念実証)・PoV(価値実証)や詳細設計、実装に際しては外部パートナーの協力を得ながら進めることが大事だと考えています」と有効に活用していくことの必要性を樋口貴文氏は強調する。さまざまな関係者とともに実行するうえで、自身の所属するグループの役割を「要件定義をしたつもりが、出来上がった道具のイメージが違うということが無いよう、工場とさまざまな関係者の間に立ち、よくある言語のギャップを埋める翻訳者のような存在が求められている」と話す。

また、味の素では生産部門で求められる人財(※1)像にも今後変化があると想定しているという。「デジタル化、スマートファクトリー化、生産技術の高度化が進んでいくことにより、これまで人がやらざるを得ない作業が機械に置き換えられ、人には時間が生まれてきます。この時間でさらなる効率化や、新たなお客様価値の創造が求められるようになると考えており、期待値の再定義やそのためのトレーニングや教育プログラムの整備などもデジタル化と並行して進めていく必要があるという認識をしています」と語った。

※1 味の素では「人材」を、財産を表現する「人財」を用いる。

現場のモチベーションを高める取り組みに注力

農林水産省 食品製造課 課長補佐 佐藤 真次 氏

農林水産省 食品製造課 課長補佐
佐藤 真次 氏

農水省のスマート工場構築への支援として、業種別業務最適化実証事業がある。佐藤真次氏は「この事業では専門家による診断・助言などコンサルティングのほか、工場を管理・改善できる人材育成も重視しています」と説明する。コンサルタントが工場に入っても工場長の協力が得られないこともあったが、実際に作業の効率化を一つひとつ実証していく中で、工場長自身が効果を実感し、事業が終わる頃には工場長が最も積極的に取り組み、自ら改善点を見出すようになった事例もあるという。

佐藤氏は「国の補助事業は単年度で終わるが、設備投資だけでなく、人材という観点からもその取組を一過性に終わらせず、人材を企業の財産として残すソフト的な対応が求められていると考える」とし、支援事業を通してパート従業員までをも含めて座学の研修などで改善知識を身に着けてもらい、支援が終了した後も現場で自律的に改善活動ができるようになった事例を紹介した。

新しい価値を共に創出する関係性を重視

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部長 杉山 洋

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部長
杉山 洋

NTTデータはITパートナーとして、スマート工場を含む多くのDX事業を支援しているが、実施にあたり重視しているのは、全体の枠組みや仕組み、プロセスなどの構築を後押しすることだという。杉山洋は「単発的なPoC で終わらせないために、経営視点での壮大なビジョンやプランを持ちながら、現場で小さな成功体験を繰り返し積み上げていくことが必要。地道に一歩ずつ目標に近づけていくことが、取り組みを定着・継続させることにつながるのではないか」と提案する。

さらに、今後対応が進むと見られるスモールマスやパーソナライズについて「工場に閉じるのではなく、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン全体の高度化・最適化の両立が重要です。同時にその支援をすることが、NTTデータとしての重要な使命だと思っています」と話す。最後に「ITやテクノロジーを生業とする立場としては、経営や業務からのアプローチに加えて、テクノロジードリブンでイノベーションを起こすことも重要な役割の一つだと認識しており、日本の製造業、産業が競争力を強化できるよう少しでも貢献をしていきたい」と力強く語った。

食品製造業の変革に期待

クニエ マネージングディレクター 井出 昌浩(モデレーター)

クニエ マネージングディレクター
井出 昌浩(モデレーター)

最後に、モデレーターを務めたクニエの井出昌浩は「さまざまな新しいデジタル技術の波が押し寄せてくる中で、どこを自社でやるか、どこを外部に委託するべきなのかを明確にして推進していくことが重要だということがわかりました。さらに、人材の育成は長期的に取り組む必要性も示唆されました」と話した。多くの食品製造業が日本型スマート工場、もしくはサプライチェーン、エンジニアリングチェーンの個々の変革と融合での変革で成果を上げてもらうことで「日本の食品製造業が変革されることを期待しています」とシンポジウムを締めくくった。

後記: Withコロナ、Afterコロナ時代に向けて思うこと

2月14日の本講演後、新型コロナウイルスによって世界は様変わりしました。With/Afterコロナ時代に向けて工場スマート化の必要性はますます高まり、更にはサプライチェーンの再構築が求められています。
実現にあたっては、登壇いただいた有識者の方々から外部パートナーの重要性が語られましたが、NTTデータはこれまでの経験や実績を基に、工場のデジタル化やサプライチェーン全体の可視化・最適化を実現するデジタルツインプラットフォームの企画・構想(図2参照)などに取り組んでおります。今後も日本の製造各社をご支援させていただくことで、日本の製造業の競争力強化に貢献して参る所存です。

図2:NTTデータの目指す Digital Supply Chain

お問合せ先:NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部 三井、斉藤

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