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2020年10月9日技術ブログ

サービス創出期にビジネス仮説を立てるコツ

ユーザーニーズの移り変わりが激しいデジタル領域において、クイックに一定の有意性を持ったビジネス仮説を立て、検証することの重要性が増している。本記事では、モバイルアプリ開発案件を題材に、サービス創出期におけるビジネス仮説を立てるコツについて述べる。

VUCA時代のサービス創出

VUCA(※1)時代と言われるように、社会の変化が予測しづらい昨今、ユーザーニーズやそれを支える技術は激しく移り変わります。特に、デジタル領域のサービス創出期においては、クイックに一定の有意性を持ったビジネス仮説を立て、検証することが重要です。
本記事では、ビジネス仮説の立案フェーズに焦点を当て、実際のモバイルアプリ開発案件で使われたプロセスについて、飲食店の注文業務改革を題材に紹介します。

仮説の主語を決める

まずは、以下のようなセグメンテーション観点を利用し、ユーザーをいくつかのセグメントに分類します。それにより、仮説の主語が大きくなること防ぎ、”特定のユーザー層(セグメント)に効率よく機能する仮説“を探しやすくします。

観点説明セグメント例
ジオグラフィック国や都市に紐づく、人口、気候、文化などの地理的情報東京都◯◯区の店舗
都市部、ターミナル駅に近い
デモグラフィック年齢、性別、家族構成、所得などのパーソナル情報店員は40代の女性が多い
子育てをしながらのパートタイム勤務
サイコグラフィック個々の価値観、性格、好みなどの感性情報年上への気配りができる
従業員限定クーポンが嬉しい
ビヘイビアルサービスやプロダクトに対する知識、使用状況などの行動・態度情報勤続8年のベテラン
注文システムに詳しくマニュアルは見ない

表:セグメンテーション観点

ユーザーに共感する

続いて、分類したいくつかのセグメントに対してエスノグラフィ(行動観察)を行っていきます。この時点においては、仮説を立てたり、検証したりせずに、“目の前で起こっている事実を正しく捉え、共感すること”がコツです。
具体的には、師匠に憧れを持つ弟子になりきる方法があります。飲食店の例だと、師匠である店員と一緒に数日働き、業務を自らの経験として理解します。この時、なぜ師匠がそのような行動をとったのかを尋ねたり、師匠のバックグラウンドについて懐に入り込んで聞いたりすることによって、ユーザーがとった行動の実態や潜在的な課題を明らかにしていきます。
実際に筆者も、ある屋外計測の業務改革案件で、担当者と一緒に終日、徒歩や自転車で炎天下を移動しながら業務を経験・行動を理解したことがあります。それにより、日差しでモバイルアプリ内のボタンが見えにくくなることや、自転車を一時駐輪しても迷惑にならない場所を覚えないといけないことなどに共感し、オフィスでシステムを開発するだけでは分からないような現場の実態を明らかにできました。
今回は業務改革を例に挙げましたが、いままでにないサービスを創出する場合においても、サービス創出を仕掛けたいセグメントのユーザーがこれまでどのように行動していたかを観察します。

広い視野で捉える

ユーザーの課題が明らかになったことで、どうやれば解決するかを考えるための材料が手元に揃ったことになりますが、ここで焦って仮説や解決策を決めてはいけません。解決策を見つけるには、手元に見えているものだけに固執せず、“広い視野で物事を捉えること”がコツになります。 本記事では、飲食店利用者をユーザー、紙のメニューを分析対象物とし、デザインフレームワークの1つであるOffering Activity Culture Map(※2)を使って、視野を広げてみましょう。紙のメニューが持つ文化的背景から、その役割や価値を明らかにすることができます。

図:Offering Activity Culture Mapの例

図:Offering Activity Culture Mapの例

紙のメニューが持つ役割や価値

  • メニューを見ることで、気分によって変わりがちな、食べたい料理を決められる
  • メニューを視覚的に理解し、料理のイメージをふくらませる
  • メニューをインプットに、一緒に来店した人とコミュニケーションを取る など

さらに、分析対象物を紙のメニューから注文業務、店舗が提供するサービス、飲食チェーン全体…のように広げていき、さらに高い視点からアイデアを発散させていきます。

アイデアを取捨選択する

最後に、アイデアを整理し、検証する仮説や解決策を決めていきますが、ここでのコツは、既存のサービスやシステムに囚われたアイデアを採用しないことです。“Think 10x(※3)”というGoogleの企業文化にもあるように、イノベーションは、何かを10%改善するのはなく、10倍改善しようとするときに起こると言われています。
つまり、前述のユーザー共感のフェーズで見つけた小さな課題は、別途、10%改善のスプリントを回せばよく、ここでは、もっと大きなことを成し遂げられるようなアイデアを仮説に選びます。10倍のインパクトのある仮説は、失敗する可能性がありますが、まだ、サービス創出のほんの走りであり、このフェーズにおける少額の投資損失は許容することが重要です。
さらに、外部制約を取り込んで仮説を発展させると、紙のメニューの例では、外部制約=コスト削減→QRメニュー、外部制約=コロナ禍→ロボット配膳などの解決策が考えられます。
VUCA時代だからこそ、初期のアイデアをベースにより良く育てるライフサイクルを意識し、一発ホールインワンを狙うのではなく、ユーザーへの共感をもとにした改善を繰り返すことが重要だと、筆者は思います。

最後に

サービス創出期におけるビジネス仮説を立てるコツについてお話させていただきました。
当担当では、これからも、モバイルアプリをはじめとして、お客様のデジタルプロダクトの企画からその後のスケールまでを視野に、デザインから開発まで一気通貫して支援してまいります。

(※1)VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、変化が激しく不安定な昨今の社会情勢を表現する言葉

(※2)101 Design Methods: A Structured Approach for Driving Innovation in Your Organization(Vijay Kumar著)より

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