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2020年10月23日INSIGHT

アート×金融の可能性

近年、ビジネスにアートを取り入れることで、イノベーションや組織活性化などの効果を得ようとする機運が高まっている。またアート自体はデジタルテクノロジーをいろいろな面で取り入れつつあり、一部のデジタル×アートは特殊な専門性がなくともハンドリングが可能となっている。金融機関は従前から富裕層との取引の文脈ではアートの取り扱いを行っていたものの、アート×デジタルを踏まえ改めて金融機関自身のトップライン向上や地域創生の文脈で新しいアートへの向き合い方を考えることができる。

金融機関とアートを取り巻く環境

2019年の日本国内の美術品市場規模は、約2,580億円と推計されています。これは世界の美術品市場規模(約6兆7,500億円)と比べて極めて小さいですが、GDPの規模や富裕層の人数により、成長の余地があると推測されています。

金融機関とアートの関係は古く、創業者や企業のコレクションの展示に始まり、社会貢献の一環として芸術文化支援が行われてきました。近年では、アートに興味を持つ富裕層をターゲットに、美術品信託やアートを活用したウェルスマネジメントビジネスを手掛ける金融機関もあります。例えば、スイスの大手金融機関であるUBS銀行は、1988年にアートバンキング部門を設立し、美術品の売買や保管に関する総合的なサービスを提供しています。また、世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」を協賛し、会場にVIPエリアを設けて相談に応じることで、富裕層顧客との関係構築に取り組んでいます。

図:国内外の金融機関におけるアートに関する主な取り組み

図:国内外の金融機関におけるアートに関する主な取り組み

最近のアートシーンにおいては、デジタルテクノロジーを利用したアート作品が増えています。またCOVID-19の影響などからアートの売り方もオンライン化したり、デジタルアーカイブするテクノロジーも高度化する中でアートの見方も美術館にいくだけではない体験の仕方も出てきたりと、アートとデジタルテクノロジーの距離は非常に近くなっているといえるでしょう。

アートに限らずデジタル全般に言えることですが、デジタルデータとして扱えるようになるとこれまで特殊な技能が必要とされていたことが非常に容易にハンドリングできるようになり、それまで本業としていなかった人たちのビジネスチャンスが増えることは想像に難くありません。金融機関に関していえば、前述の通り富裕層ビジネスの一環としてアートに取り組んできた歴史がありますが、デジタル×アートの流れを踏まえるともう一段踏み込んだ新しい可能性も見えてきます。現状の金融機関の経営は楽観視できる環境ではなく、貸出金利収入が伸びない中でもトップラインの向上が求められています。また、多くの地方金融機関にとっては地域の創生への貢献も期待されています。こうしたトップライン向上や地域創生に向けてアート×デジタルの流れをうまく活用することにひとつのチャンスがあるのではないでしょうか。

以降では、豊かな社会の実現に向けて、アート×デジタルを活用した金融機関の新たな価値創出の可能性について、筆者のアイディアをお示しします。

アート×金融の可能性

アイディア1.美術品のデジタルアーカイブ構築支援

NTTデータでは、デジタルアーカイブソリューション「AMLAD」を活用した文化遺産の保全に取り組んでいます。2018年にはバチカン教皇庁図書館が所蔵する歴史的な手書き文献 約3,000点をデジタル化し、さらにそれらの文献データを保全し公開するシステムを構築しました。また、2020年にはASEAN地域全体の文化遺産を集約するデジタルアーカイブシステムを構築し、美術品のデジタルデータをインターネット上で公開しています(※1)

一例として、地域の美術館が所蔵する美術品のデジタルアーカイブ構築を、地域の金融機関が支援する案が挙げられます。この取り組みにより、財政難に苦しむ美術館には新たなビジネス機会を創出できる可能性があり、金融機関にとっては美術館の事業支援に加えて、地域の文化財保護など社会貢献につながる可能性もあります。

また、顧客の所蔵する美術品を金融機関の貸金庫で保管し、保管品のデジタルデータを提供する案も考えられます。顧客には美術品の保管に手間を掛けずに、デジタルデータをいつでも鑑賞できるメリットがあり、金融機関には富裕層の囲い込みや関係構築につながる可能性があります。

※1『ASEANの貴重な歴史的文化遺産をデジタルアーカイブ!地域の一体感醸成にもつなげるグローバルプロジェクト』

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2020/0610/

アイディア2.金融機関の顧客のビジネスマッチング

近年、ビジネスにアートを取り入れることで、イノベーションや組織活性化などの効果を得ようとする機運が高まっています。中には、アーティストが作品を生み出す時の考え方、思考プロセスである「アート思考」(※2)に注目し、アーティストを招いてワークショップなどを実施している企業もあります。そのような場を金融機関が創出することにより、顧客のイノベーション創出や、アーティストの雇用創出の支援につながるのではないでしょうか。

さらに具体的なビジネスモデルとしては、近年の地域金融機関による地域商社化の流れを踏まえて、地場の工芸品のブランディングや販路拡大を支援する案が挙げられます。地域外での知名度が不足している工芸品と遠隔地の消費者をつなげることにより、工芸品の作り手の事業支援を通して、地域創生に寄与することが考えられます。

NTTデータは今後も金融機関におけるイノベーション創出や社会貢献に向けて、アートとテクノロジーを活用したビジネスアイディアを検討していきます。

※2『アート思考 ~先行きが不透明な時代の思考法~』

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2020/0708/

(参考文献)

『日本のアート産業に関する市場レポート 2019』一般社団法人アート東京
『The Art Market 2020』Art Basel&UBS
『アートの裏側を知るキーワード』美術検定 実行委員会 編
『アート・イン・ビジネス ビジネスに効くアートの力』電通 美術回路
swissinfo.ch(https://www.swissinfo.ch/jpn/ubs%E9%8A%80%E8%A1%8C%E3%81%AB%E8%81%9E%E3%81%8F%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0/5939756

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