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2020年12月11日INSIGHT

未来へ、ダ・ヴィンチとともに

近年の科学・技術の発展は目覚ましく、現代はダ・ヴィンチが生存していた500年前には考えられなかったようなモノや知識で溢れている。
第1回と第2回で紹介したとおり、ダ・ヴィンチは、当時どんなに無謀に思えるような構想でも、できない理由を並べるのではなく、現状や常識を疑い、専門分野にこだわらず好奇心をもって挑戦し、あらゆる知を活用して新たな世界を構築しようとした人物だった。
そんな彼が現代に生きていたら、どのようなアイディアを描いただろう。そして、何を実現しようとしただろうか。

大胆なチャレンジに彩られたダ・ヴィンチのアイディア

既存の概念にとらわれない革新的なダ・ヴィンチのアイディアの数々。500年以上も昔の時代においては荒唐無稽に思われるものも少なからずあった。しかしその裏には、真理や美への飽くなき探究心が見え隠れする。

鳥に対する憧れを持っていたダ・ヴィンチは、人間が空を飛ぶための装置をつくることを夢見て、長年にわたり、鳥の飛翔や飛行装置を研究していた。彼の手稿には、10種類以上の飛行装置のデザインが遺されている。完成に至ることはなかったが、鳥の翼の断面図や「鳥の上の空気は、他の部分の空気よりも薄い」というメモなどからは、それから200年以上も後に発見される「ベルヌーイの定理」に迫っていたことがわかる。鳥は翼が生み出す揚力により宙に浮くことができているという真理を見抜いていたのだ。

ダ・ヴィンチによる飛翔装置のスケッチ

ダ・ヴィンチによる飛翔装置のスケッチ

また、ダ・ヴィンチは、当時の常識とはまったく異なる方法で巨大な銅像をつくろうともした。ミラノ領主ルドヴィーコ・スフォルツァから依頼され、全長7mを超える当時としては類を見ない巨大な騎馬像の制作を担当することになったダ・ヴィンチは、馬を解剖学的に研究し、躍動感のある粘土模型を完成させ人々を驚かせた。それだけではない。当時、巨大な銅像はいくつかの部分に分けてつくるのが一般的だったが、ダ・ヴィンチは美しさを追求すべく、たった1つの鋳型で鋳造しようとしたのだ。残念ながら、予算の都合でこの計画は打ち切りになってしまったが、鋳造装置の構造からプロセスで必要になる材料、できあがった銅像を釣り上げる装置まで、細かく研究・検討していた形跡が手稿には遺っている。

真理や美を追求したいという想いが根源にあるからこそ、こうした大胆かつ壮大な発想を打ち出すことができたのだろう。

騎馬像のスケッチ。実物大の粘土模型は、画家、彫刻家、そして技術者としての名声をもたらした

騎馬像のスケッチ。実物大の粘土模型は、画家、彫刻家、そして技術者としての名声をもたらした

「人の心を動かす」というダ・ヴィンチの才能

スケールの大きなアイディアを生み出す一方で、ダ・ヴィンチは、人の心の機微に触れるような活動もしていた。そのひとつが、ルドヴィーコ・スフォルツァの宮廷からいちばん初めに与えられた「余興のプロデューサー」という仕事だ。舞台のパネル画や装飾の制作、衣装のデザインなどを手掛けていたほか、宮廷ではリラという楽器の演奏や寓話の朗読でも活躍したといわれている。人柄もよく、ダ・ヴィンチと交流のあった芸術家のジョルジョ・ヴァザーリは、「誰もが彼の虜になった」と絶賛している。

この宮廷での経験から人を喜ばせるという意識が身についたのだろうか。ダ・ヴィンチは、鑑賞者に与える印象を重要視して作品をつくっていた。

ダ・ヴィンチによる絵画作品の人物には、感情と呼応した動きがある。「絵画において、人物の動きはすべてその心の意志を表現しなければならない」という哲学をもっていたためだ。これを最も体現しているのが『最後の晩餐』である。人の感情の広がり、そして絵を見る鑑賞者を引き込む配置などの精緻な工夫が凝らされている。

「最後の晩餐」

「最後の晩餐」
イエス・キリストが処刑される前夜、使徒のひとりの裏切りを告げる場面を描いた。使徒たちの驚き、怒り困惑といった感情が伝播する様が表現されている。また、この作品は修道院の食堂の壁に描かれたが室内のどの位置から見ても、自然に溶け込むような鑑賞者を意識した工夫が多数施されている。

また、ダ・ヴィンチが発明した「スフマート」という輪郭や線をぼかす画法は、『モナ・リザ』の神秘的な微笑を際立たせている。この画法は、私たちの目に映るままに、物体をはっきりとした輪郭がないように描こうという意図から編み出され、全体をとらえることで初めて一つの作品として完成する。まさに、鑑賞者の存在によって初めて成り立つ作品なのだ。

「モナ・リザ」(ラ・ジョコンダ)

「モナ・リザ」(ラ・ジョコンダ)
口元だけを拡大すると口の端が下がり笑っていないように感じられるが、全体を俯瞰すると、スフマートによってモナリザの口角は上がり、微笑しているように見える。

そうした意味でダ・ヴィンチは、人を中心に考え、自然を含む現実の世界と人が創り出したアートの世界との融合を図ろうとしていた人物であったともいえる。

デジタルで「人」中心の温かみがある社会を

今、ダ・ヴィンチが生きていたら、何を考え、どのようなことに取り組んだだろうか。もちろん、当時の科学・技術では実現しえなかった手稿に遺された数々のアイディアを現実のものにしようとするだろう。しかし、それだけでなく、より多くの革新的なアイディアを生みだし、人々を驚かせていたに違いない。特に、第1回で紹介したように「水や空気の流れ」を意識していたダ・ヴィンチは、現代にとってあたりまえの存在である「情報の流れ」を扱うITに注目したのではないだろうか。そして、現実とアートの融合にチャレンジしていた彼は、人を中心に考えるその姿勢で「デジタルツイン」に興味を持つだろう。

デジタルツインとは、モノや人をデータによって表現することで、現実世界の対象をサイバー空間上に再現するものだ。サイバー空間上でシミュレーションや分析を行うことにより、未来の姿を高精度に予測できるようになれば、デジタルツインで得られた知見を現実世界に反映させるということも可能になる。デジタルツインは、オンラインとオフラインとが適切に融合した社会を実現するための手段となりえるのだ。

ダ・ヴィンチの頭の中に次々と浮かぶ奇想天外なアイディアも、サイバー空間上の仮想世界では、さまざまなアプローチ方法をシミュレーションしてみることができる。「理想都市」の形を提案していたダ・ヴィンチであれば、デジタルツインの技術を用い、街やそこに暮らす人々のデータを取得・活用して豊かな生活や社会を実現する「スマートシティ」のこれまでにないアイディアを構想したかもしれない。そして、現実世界の社会とサイバー空間双方での活動をスフマート技法のようにシームレスにつなげ、人間活動の可能性を拡張していくだろう。

NTTデータが目指すのも、まさにダ・ヴィンチが描いたであろう、人を中心にデザインされた社会だ。
コロナ禍を経て、社会全体のデジタルトランスフォーメーションが進み始めるなかで、今まさに、生活者視点での新たなサービスの創出が求められている。

NTTデータは企業理念のもと、多くの社会システムを世に送り出し、お客さまや、多くの人々と交わり、とともに成長してきた。
今後も、これまで培ってきた経験・ノウハウや海外で手掛けたベストプラクティスを活用しながら、新しい社会をデザインし、より価値の高い社会システムの創出を目指している。
そしてその実現のために、ダ・ヴィンチのように、既成の枠にとらわれない技術に挑戦し、そして彼が多くの才能と交わったように、お客さまや他企業と積極的に連携し、既存の業界にとらわれることのないエコシステムを構築していきたいと考えている。
その先に見えるものは、誰もが普段の生活でデジタル化の恩恵を受けられる社会だ。

ダ・ヴィンチが生きたルネサンス。それは人々が中世から解放され自らの手に人間らしい文化を取り戻した時代だ。今こそ、我々もダ・ヴィンチにならい、未来を描き、多くの知と交わり、人が中心となる温かみのある社会を描いていこうではないか。

参考文献

ウォルター・アイザックソン著、土方奈美翻訳『レオナルド・ダ・ヴィンチ 上・下』(文藝春秋、2019年)
池上英洋著『レオナルド・ダ・ヴィンチ:生涯と芸術のすべて』(筑摩書房、2019年)
長尾重武著『建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ―ルネッサンス期の理想都市像』(中央公論社、1994年)

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