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2020年12月21日INSIGHT

未来の銀行~目に見えないけれど、私たちに寄りそう存在~

Fintechに代表されるデジタルサービスの出現により、世の中には便利で新しいサービスが急速に増加し、金融機関も、今までとは異なる視点でのビジネス創出が急務となった。安心・安全を守りながらもスピーディーに新しいサービスを創り出すにはどうすればいいのか――お客様と向き合い、金融機関のビジネスを支援してきた経験から、NTTデータ 郵政・政策金融事業部の青柳雄一がデジタル活用のヒントについて語る。

NTT DATA Innovation Conference 2021において本記事に関する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。

1.「これからの銀行」への希望

私は入社以来、一貫して金融領域で技術によるお客様の業務発展を支援してきました。日本の金融機関には長きに渡って築かれてきた信頼感がありましたが、2015年頃からのFintechの台頭は、金融業界に大きな危機感をもたらしました。なかには、「銀行に未来はない」とまで思っていた人もいたようです。 しかし私は、その状況をチャンスと捉えていました。金融機関にとっては大きな転換期であり、Fintechに代表されるデジタルサービスを活用することで、金融機関の持つ信頼感の上に新しいサービス付加することで、新たなユーザー体験を届けることができるのではないかと思ったのです。

2020年となり、デジタルやFintechという言葉もすっかり定着した今、お客様と共同で推進したまったく新しいアプリの立ち上げプロジェクトの経験などを通じ、自身の仮説は間違っていなかったという確信を得ることができています。たとえば、保守的な文化が強いと思われていた地方銀行には、地元をよく知る優秀な人材が集まっており、地域のビジネスを牽引しています。地方銀行が積極的にFintechと手を組み、地域のビジネスのインフラとなるような新しいサービスを創出することで、今までターゲットになりにくかった若年層などの新しい顧客にリーチすることも可能となっています。金融機関がうまくデジタルを取り入れることで、自身の業務効率化にとどまらず、地域のデジタル化を引っ張る存在、ひいては、地域の未来を創出する存在になれると私は考えています。

2.未来の銀行とは?

(1)未来の銀行

銀行が地域の未来を創る存在となるためには、デジタルをうまく取り込み、柔軟に業態変革を進めていくことが必要になります。私たちはそれを「未来の銀行」と呼んでいます。

未来の銀行とは目に見えない存在になると思います。・・・と言うと皆さん非常にビックリされると思いますが、いわば皆さんの生活に銀行機能が溶け込んだ状態で、日々の生活において意識しないで利用することが出来る・・・というイメージになるでしょう。例えば何かモノを買うとき、これまでは自分で予めお金や決済手段を用意してお店やEC等でショッピングをしていましたが、これからはそういう購買シーンにシームレスにAIによるレコメンドで口座引き落とし、後払い、レンディング等の色々な金融の手段を提案してくれたり、時には使いすぎをAIが注意してくれる・・・そんな存在になると思っています。

(2)未来の銀行に必要なもの

未来の銀行を実現するために必要となる要素は大きく3つあります。 リソース(人財)、オファリング(サービス、メソッド)、ファンクション(組織、風土)です。ひとつずつ解説していきます。

1.リソース
人がデジタル化のマインドを持ち、技術を併せ持っていなければ新しいサービスは創出されません。データアナリストやデザインといった特殊な技能をもった人財も必要となります。しかし、デジタル化の技術は多岐にわたり、そのすべてを充足することは簡単ではありません。そのため、私はオープンイノベーションにより外部の知見や人財を活用しながらデジタル化を進めるべきだと思っています。NTTデータでは2014年から“豊洲の港から”という、オープンイノベーションを活用した尖った技術やサービスを持つベンチャー企業との共創ビジネスの活動に力を入れています。また、NTTデータではデジタル化を推進するお客様を支援するため、デジタル人財戦略・育成に力を入れています。NTTデータグループ傘下であるスペインのコンサルティング企業からナレッジを逆輸入しながら、金融機関の人財のデジタル化に向けたリスキルも実施しています。
2.オファリング(サービス)
ユーザーから見て使いたいと思ってもらえるサービスでなければ、どんなに数を打っても普及することはありません。従来の金融サービスでは住宅や自動車購入時の借り入れなど使われる場面が限定されているケースが多く、そもそも金融機関とのタッチポイントが少ない状況です。他業態であればスマホひとつで済むことが、わざわざ店舗に行き、紙の申込書を書き、長い時間待たなければ金融サービスを受けられないという不便さがあります。また、日本は金融教育が諸外国より進んでおらず、ユーザー側が金融サービスの活用方法を理解していないという原因もあります。お金は人々の生活の中に必ず登場するものです。日々の決済など、よりユーザーの生活に寄り添うような金融サービスを増やしていけば、金融機関はユーザーの生活に近い存在になれるでしょう。とはいえ、新規サービス創出のためにシステムを一新することは実質的に不可能です。既存のシステムに加え、いかにAPI等を活用して外部の新しいサービスとの連携を実現するかが重要となります。
3.ファンクション
日本の金融機関は昔からお客様の大切な財産を守る立場で、時間を掛け、リスクを避けるという考え方が根付いていました。そのような風土のすべてを変える必要はないかもしれませんが、新しいものにチャレンジするときは多少のトライ&エラーを許容するなど、「攻め」と「守り」を使い分ける組織づくりが必要になります。NTTデータでも、既存組織と分離したデジタルに特化した専門組織を新設し、従来のオフィスとは場所も組織も完全に独立したSPLABというイノベーションラボを作って、様々なお客様と新規ビジネス創発を行っています。私が立ち上げに深く携わったまったく新しい銀行アプリも、銀行のお客様も含めて、初期構想をこのラボで行いました。そこでデザイン思考を活用したワークショップを行い、銀行のオフィスでは出てこない斬新なアイデアが次々と生まれ、それが新しい銀行アプリに活かされた・・・という実績も生まれています。

3.未来の銀行に向けた取り組み ~ゆうちょ通帳アプリのプロジェクト~

「未来の銀行」の実現に向けては前述の3つの要素をバランス良く整えていくことが重要で、デジタルの力でその支援をしていくのが私たちNTTのデータの役割だと思っています。
実際に3つの要素を軸にサービスを変革した事例として、私が関わったプロジェクトをご紹介します。

私のお客様であるゆうちょ銀行様は、従来の強みである顧客基盤を生かしたデジタル化を推進されています。ゆうちょ銀行様は圧倒的な顧客数を誇る一方で、就職の際に新しく作られたメガバンク口座にユーザーが流れてしまうという悩みをお持ちでした。これを解決しより多くの方に使い続けていただくため、ユーザーにとって使いやすい、新しいサービスを創出する必要がありました。
そんな折にNTTデータが開発に携わった「ゆうちょ通帳アプリ」では、従来の金融機関サービスではあまり見られなかった、ユーザーの生活に馴染みやすい柔らかく優しいイメージを持ったデザインと、使いやすい機能を兼ね備えることを実現しました。

このアプリの特色は分かりやすさで、これまでの銀行アプリの堅いイメージを根底から覆す女性向けの柔らかいデザインになっています。例えば画面には「猫に小判」にちなんだ?かわいらしいネコのキャラクターが登場して、その時々のシーンに応じて和むメッセージを発しており、好評を博しています。
この画期的なアプリを開発するにあたっては、まず、リソースの観点から、NTTデータ内およびパートナー会社のデザイン思考に強みを持つ人財を活用し、大学生やユーザーを含めた「アイデア創発ワークショップ」を実施しました。お客様のマインドを変革してユーザー目線を持った開発者の育成に取り組みました。
次に、ユーザーの生活に寄り添ったサービスとするため、実際の利用者層を想定したユーザーテストで生の声を取り込むプロセスを繰り返し、アプリの改善を重ねました。私自身はまったく通帳を使っていないのですが、意外と若い女性の方が通帳をバッグに入れて家計簿代わりに使っている・・・等の利用シーンがユーザーテストで分かり、いかにして通帳のアナログ的な良さをデジタルに取り入れるかについて試行錯誤しました。
今回新しく作った「ゆうちょ通帳アプリ」はこれらの取り組みを活かした使いやすさが評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞することが出来ました。NTTデータとしても11年ぶりの受賞となります。私自身もディレクターとして受賞陣の中に名を連ねさせて頂きました。

図1:グッドデザイン賞を受賞したゆうちょ銀行アプリ

図1:グッドデザイン賞を受賞したゆうちょ銀行アプリ

今回、ゆうちょ銀行様はゼロの状態から新しいデジタルサービスを立ち上げるという経験をしたことで、新しいサービスにチャレンジする風土が生まれつつあるのではないかと感じています。実際、既存のサービスのデジタル化や、これまでに無い新しいサービスの立ち上げも含めて、色々な取り組みが立ち上がっていますが、これらはまさに未来の銀行に向けた第一歩として必要な要素と言えます。

4.未来の銀行に向けて~よりオープンに~

銀行は様々なところでサービス主体となる

先に述べた様に「未来の銀行」は、これからどんどんサービス主体となっていくと考えています。ユーザーは「銀行に何をしてほしいか」ではなく、「自分のお金を使ってどういう体験をしたいか」を考えています。今後は銀行というものの存在がどんどん生活導線に溶け込んでいく世界が予想されます。

最近ではタクシーアプリによって乗車前に事前決済をし、タクシーに乗ったら目的地まで行って降りるだけ、というようにユーザーの導線も変化しています。これまでは銀行はユーザーに店舗やATMで直接サービスを提供してきましたが、今後、銀行は事業会社を通じて間接的に金融サービスを幅広く提供する立場になっていくと思います。
たとえば、物件情報サイト上でオンライン契約をして、その裏で費用の支払い手続きができる。自動車もオンラインで購入して、その裏側でローンを組む。といったように、銀行機能が購買行為の裏側で機能するイメージです。

「Open Service Architecture」で実現されるBaaSという考え方

NTTデータでは、このように機能化した銀行を実現するための基盤を「Baknking as a Service(BaaS)」と名付け、一般事業会社が銀行機能を活用してより簡単にスピーディーに新しいサービスを創出できる仕組みを提供しています。

図2:BaaSによる変革

図2:BaaSによる変革

これらのサービスはAPIの仕組みで色々な社会サービスと結びつくことが重要だと思っています。APIを活用して、様々なプレイヤーがオープンなスタンスで「未来の銀行」の形を共に創っていく・・・そういう社会を実現出来ればと思っています。そのためのフレームワークとして「Open Service Architecture」を発表しました。これはポストコロナのニューノーマル時代における新しい金融ITの在り方やその実現方法をまとめたものです。私も中核メンバーとしてこの策定に携わり、「未来の銀行」について色々と議論をしました。

今までにない「未来の銀行」の姿を社内外の多くの皆さんと連携して共創していくことは非常に楽しく、やりがいを感じています。そういった活動を通じて、金融だけでなく、幅広く社会のためになる活動をしていきたいと思っています。

講演情報

NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会

2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信

2021年1月28日(木)~ 2月26日(金)オンライン展示期間

2021年1月28日(木)15:15~15:55

「グッドデザイン賞受賞の軌跡― ゆうちょ通帳アプリのDX事例に見るデザイン思考の現実解」
NTTデータ 第一金融事業本部 郵政・政策金融事業部 企画開発統括部 デジタルビジネス推進担当

青柳 雄一

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

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