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2021年1月8日INSIGHT

データ社会の交差点

デジタル化する社会においてデータの価値はますます重要になっている一方、データをめぐって様々な問題が生じている。今回の情報未来研究会(※1)は株式会社 企(くわだて)代表取締役で慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授のクロサカタツヤ氏の講演を元にデータ社会の課題と考え方を検討する。

NTT DATA Innovation Conference 2021において本記事に関する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。

(※)情報未来研究会
「情報未来研究会」について
「情報未来研究会」はIT社会の潮流を見つつ、健全な社会や企業の在り様を探るため、NTTデータ経営研究所の創立以来、継続的に実施している活動です。NTTデータ経営研究所アドバイザーを務める慶應義塾大学の國領二郎教授を座長に据え、経営学および情報技術分野の有識者とNTTデータ及びNTTデータ経営研究所メンバーの合計12名を委員として、今年度は「WITHコロナ」をテーマとした議論を開催しています。

情報未来研究会委員(敬称略、50音順)※2020年5月時点

氏名所属
稲見 昌彦東京大学先端科学技術研究センター教授
井上 達彦早稲田大学商学学術院教授
岩下 直行京都大学公共政策大学院教授
江崎 浩東京大学大学院情報理工学研究科教授
國領 二郎(座長)慶應義塾大学常任理事総合政策学部教授/株式会社NTTデータ経営研究所 アドバイザー
柴崎 亮介東京大学空間情報科学研究センター教授
妹尾 大東京工業大学工学院経営工学系教授
本間 洋株式会社NTTデータ 代表取締役社長
三谷 慶一郎株式会社NTTデータ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー
柳 圭一郎株式会社NTTデータ経営研究所 代表取締役社長
山口 重樹株式会社NTTデータ 代表取締役副社長執行役員
山本 晶慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授

クロサカタツヤ氏講演「データ社会の交差点~個人情報保護・消費者保護・競争政策+ELSI~」

社会におけるデータエコシステム

私は「誰のために情報システムやデータエコシステムはあるのか」という問いを出発点に、データエコシステムに関するコンサルティング事業を通じて、利用者と事業者が互いに信頼できる枠組みであるトラストフレームワークや、ブロックチェーン利用も視野に入れた分散型IDを検討してきました。

社会の中で生きていく限り、人間は一人で生きていくのはほぼ不可能で、集団による共生関係を見出さなければ生きていけない生き物です。しかしながら情報システムにおいては、集団における「社会的相互作用」のような、相手の意図を能動的に解釈するような考え方が見落とされ、あまりに利己的な判断に陥っているのではないかということを、コロナ禍以前から課題に感じていました。

今回のコロナ禍でこの課題が表面化し、これまでの価値観に「揺さぶり」がかかっている状況です。特定の人のリテラシーだけ上がれば解決する問題ではなく、新しい技術が社会にどう影響を及ぼすのか、そしてそれにどう対処するかを考える「倫理的・法的・社会的な課題=ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)」がこれまで以上に重要な論点になっています。

この論点を考える上で「インベンション=発明」と、「イノベーション=普及」は区別する必要があります。発明したものをどのように世の中に受け入れられるかを考えるためにはELSIの考えが必要なのですが、現在はその区別をうまく切り替えられないことでさまざまな問題が生じています。

図1:ELSIが求められる瞬間(クロサカ氏講演資料より)

図1:ELSIが求められる瞬間(クロサカ氏講演資料より)

代表的な例はリクナビ問題です。リクナビ問題の出発点はリクナビの個人データと取引先の個人データを切り分けて管理していなかったことでした。

データをどう切り分けて、どのように管理を峻別していくのかはデータ社会の中では基礎中の基礎ですが、実際にやろうとするとこれは容易ではなく、結果的にデータの管理があいまいになってしまいます。データの切り分けができていなかったリクナビの場合、第三者提供が整理・管理できていない状態だったので、第三者提供においてセットとなる、個人データ提供者への通知と同意が機能していませんでした。

リクナビ問題は個人情報保護関連の話ばかりが取り上げられますが、民法の観点ではそもそも同意に基づく契約が成立していたのか、また消費者契約法の観点では正当な同意手続きなのか、という懸念もあり、消費者保護の問題にもなります。

就職活動をするときに利用するサイトがリクナビとマイナビしかほぼ選択肢がないというのは学生などエンドユーザーにとって不利ではないかという問題もあります。リクナビ問題以降、公正取引委員会が独占禁止法の中に「消費者優越」を概念として打ち出し、「ユーザーが押さえつけられている状況」も独禁法の枠組みの中で判断しようという機運も生じています。

AI開発者の中には、AIの限界・課題とELSIについて、「多少のエラーは社会の枠組みで調整するしかないのでは」という意見もあります。しかし、社会的相互作用の観点からは必ずしも同意できません。今起きている問題に対してどのようなアプローチで応えるかが、データエコシステムを考えるうえで重要な論点になります。

EDPS(EUROPEAN DATA PROTECTION SUPERVISOR:欧州データ保護監察機関)が2014年に出している「Privacy and competitiveness in the age of big data」というペーパーは、これからのデータ社会において必要なのは「Data Protection(データ保護)」だけでなく、「Consumer Protection(消費者保護)」と「Competition(競争)」の三位一体でなくてはならないといっています。

ただし、この3つのバランス全てを高いレベルで保つのは大変困難で、実際にそれを実現したソリューションを提供できるのは一部の企業しかいません。GAFAを規制するために生まれたともいえるGDPRも、このようなデータ社会を実現するために非常に高い水準を掲げていますが、実はそれを達成できるのはGAFAしかおらず、結果的に他の企業の力を弱めてGAFAの力を高めるだけに過ぎないのではという意見もあります。またコロナ以降のニューノーマルの中で公衆衛生に関する意識が変わり、“公衆衛生のためならプライバシーを犠牲にしてもいい”といった議論も生まれてきており、この三位一体の考えをアップデートする必要が生じています。

図2:データ社会における三位一体(クロサカ氏講演資料より)

図2:データ社会における三位一体(クロサカ氏講演資料より)

5Gで加速するデータ社会

そしてこの状況を加速させるのが5Gです。デルタ航空CEOはCES2020の場で、「物理的に提供できる価値を最大化するためにテクノロジーを使う」とし、「エンドユーザーの旅行に関するあらゆる行動を捕捉し、そのデータを他企業と連携・融通しあい、サービスの質を高めることが必要だ」と主張しました。ここで彼らが想定しているのが、5Gの活用です。彼らは通信インフラやその先のセンシングの機械をエクスペリエンス(体験)と結び付け、新たなビジネスを生み出そうと考えています。

この例のように5Gは基本的に「フィジカルな空間をデジタライゼーションする技術」と言えます。Amazon Goが行っている、カメラとセンサーの活用で実店舗をサプライチェーンに直接つなげる試みのように、デジタルテクノロジーがフィジカルの世界にどんどん進出してくるという事で、5GはまさしくSociety5.0を実体化させる技術なのです。

こういったことを実現する上では、技術的、要求水準的な側面のみの実現性だけではなく、価値観的に実現可能なのか、広義のTrustを維持できるのかが問われてきます。そのためには競争、プライバシー、消費者保護、ELSIなどの考え方の中で、何を価値として考えていくかが必要になります。中国のような開発主義的なアプローチもありますが、我々がテクノロジーとデータ流通においてどのような社会に住みたいかという選択を迫られはじめていることこそがニューノーマルであるともいえます。

このような5G時代のデータビジネスにおいて求められる知見や技術には、「体験設計」、「行動科学」、「信頼構築」の3つの論点があると考えます。体験設計をきちんとしないとユーザーが受け入れないし、社会としても適応していきません。行動科学的アプローチも重要になってきます。いかに人間にとって心地よい状態を作り、いかに自然に自発的な行動を促す(ナッジする)のかが重要となります。トラスト(信頼構築)の問題は昔からありますが、改めて非常に重要になってきています。適正性、真正性、有責性をより正確にとらえていかなければ、テクノロジー的に可能になっても社会システムとしては破綻してしまいます。

図3:5G時代に想定されるデータビジネスの様相について(クロサカ氏講演資料より)

図3:5G時代に想定されるデータビジネスの様相について(クロサカ氏講演資料より)

編集後記:「データ社会」実現に向けた私たちの課題とは

1.一般の人々はいかにデータと関わるべきか
データ社会においては、私たちすべての人が皆「関係者」と言えます。しかしながら、データの権利や価値、使い方の問題に対して、専門家以外の人はほとんどその議論が出来る状態にはなっていません。具体的に誰にどんな影響があるのか明確にしたうえで、広く一般の人々を巻き込んだ議論を行う必要があるといえます。
また、一般の人々が受けるデータ社会のメリットとして、マイレージやポイントが挙げられますが、データ社会の推進に向けては、そういった経済的メリットだけでなく、データによって自分の状態をある程度把握したり、それに基づき次の行動を促すといった、これまでになかったモチベーションを生む設計を行動科学等の視点から行う必要があるといえるでしょう。

2.誰がデータを管理すべきか
データ社会において、データを管理する主体についてさまざまな議論があります。企業がデータを管理するのは難しいのではという意見もありますが、クロサカ氏の意見は「国・自治体・企業などのどこがデータ管理を担うかはサービス分野や内容によって変わらざるを得ない」というものでした。例えば、社会保険の枠組みにおいて、地方公共団体が取得した住民のデータに対して所有権を持ち、自治体の中で共同利用することが、これまで先行して行われてきましたが、それは公益に資することと、業務効率化ができるという観点があるからでした。だからといって、全てのことを行政が管理すればいいというわけではなく、行政が担うべき領域、行政が行った方がコミュニティ全体の利益に資することは何なのかを考えなくてはなりません。

3.データが使われる社会の実現に向けて
私たちが提供するデータの利活用について、あまりにその範囲を制限すると、企業のデータ利用が推進せず、データの提供価値が実現されません。実際に企業のデータ利用に関して「データを提供した人に対して不利に働かないようにする」ことは、企業側からするとあらかじめ完全に把握することは難しいという意見もあります。これについては、データ利用に際し、例えばシステム側のエラー等によって生じた不測の損害を補償するような社会システムを目指したほうが有効であること、またそれ以外の想定外の問題発生に備え、何が個人にとっての不利益で、何がPublic Interest(公益)かを硬直的に定義するのではなく、常に議論できる状態にしておくことが重要になるといえます。

(情報未来研究会 ディスカッションより)

終わりに

研究会の第3回では、データ社会の課題と考え方について議論がなされました。今後もWithコロナにおけるデジタル社会の在り方について引き続き「情報未来研究会」で検討・発信していきます。

<研究会の予定>

「情報未来研究会 Withコロナ」インタビュー編

「情報未来研究会 Withコロナ」研究会編

※各回のテーマは変更となる可能性があります

編集・執筆:情報未来研究会 事務局

講演情報

NTTデータ主催のInnovation Conferenceに、情報未来研究会委員の江崎氏、國領氏、三谷が登壇します。
企業や社会がWithコロナ時代においてデジタル化とどう向き合うべきか、本セッションを通じてこれからのデジタル社会の展望を議論します。皆さまのご参加をお待ちしています。

NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会
2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信
2021年1月28日(木)~2月26日(金)オンライン展示期間
2021年1月28日(木)16:45~17:35

「Withコロナ時代のデジタル社会の展望」
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩 氏
慶應義塾大学 総合政策学部 教授 NTTデータ経営研究所 アドバイザー 國領 二郎 氏
NTTデータ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー 三谷 慶一郎

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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