2021.1.19特集

Withコロナ時代に求められる価値創造型ワークスタイルとは

NTTデータ、NTTデータ経営研究所は、『「オンライン・ファースト社会」という新しい日常』提言や情報未来研究会を通じて、Withコロナ時代でのデジタル化の課題や方向性の検討を行っている。今回、コロナ禍で大きく様変わりした私たちのワークスタイルに焦点をあて、今後求められる「価値創造型ワークスタイル」について東京工業大学 妹尾 大教授にお話しを伺った。

オンラインの「場」作りの重要性の高まり

Q:オンライン会議など非対面でのコミュニケーションが中心になるなど、コロナ禍で私たちの働き方は大きく変化したといえます。こういった状況で先生が感じられていることは何でしょうか?

私の専門のナレッジマネジメント、特に知識創造の観点から、コロナの影響で感じていることは、人と人との関係の作り方が大きく影響を受けていることです。知識創造理論には、「場」と呼ばれる概念があります。人と人とが背景情報を共有しながらつくりあげていく関係が「場」と呼ばれているものであり、新たな知識を創造する基盤です。現在はコロナ禍で、密を避ける生活習慣が推奨されているために、これまでとは異なる場づくりの工夫が必要であると感じています。

「場」がつくりだされる環境となる空間を、物理的空間と、仮想的(バーチャル)空間と、意味的空間の三つで捉えています。

一番目の物理的空間の例は、屋内では事務室や会議室や休憩室などであり、屋外ではオープンカフェや海辺など様々あるでしょう。椅子やソファといった家具だけでなく、コーヒーやお菓子や花束や風景なども物理的空間の小道具です。事務机をはさんでの飲まず食わずの会話と、オープンカフェで会食しながらの会話では、つくりだされる関係は違います。

二番目の仮想的空間の例は、インターネット上の掲示板やSNSサイトなどです。ここでも友好的な関係がつくられやすい空間だったり、逆に敵対的な関係がつくられやすい空間だったりと違いはあります。

三番目の意味的空間の例は、勤務時間だから作業に集中する、休憩中だからリラックスする、あるいは今日は無礼講だ、といった共通認識です。たとえ同じ場所で会話していても、雑談が禁止対象の私語とみなされる状況と、雑談こそが発想の源とみなされる状況では、つくりだされる関係は違ってきます。

Withコロナの時代に、物理的空間での工夫は、これまでよりも制限されています。したがって、場づくりにおける仮想的空間と意味的空間の重要度は増大せざるを得ません。

Q:具体的にどういった「場」づくりをすることが重要なのでしょうか?

仮想的空間(オンライン)での場づくりのための空間の工夫は、その目的に依存するため一律に語ることはできませんが、多様な知識を大量に創造するためには、仮想的空間を複数用意して重層的な場をつくりやすくすることが有効だと考えています。

物理的空間では、他者の動きを見ることができるスペース、複数人でアイデア出しをしやすいスペース、プレゼンテーションのためのスペース、個人の集中作業のためのスペース、というような色々な空間を提供しているオフィスが存在します。

仮想的空間においても、集団の成果を追い求めるメインルームのほかに、裏で密かに非公式な話をする「シークレット・コミュニケーション」が可能となるような隠し部屋を持つと場づくりが捗ります。Zoomでの公式的な全体会議中に、作業を振られた担当者同士がLineトークを使って本音の愚痴を言い合う、などがその例です。

これからのワークスタイルは「価値創造型」へ

Q:「場」といった環境のほかに意識すべきことはありますか?

Withコロナ時代の「場」づくりでは仮想的空間の工夫を心掛けよ、という提言のほかに、もうひとつ提言があります。それは、主とするワークスタイルを「価値再生産型」から「価値創造型」に切り替えましょう、という提言です。

「価値再生産型」は既存の価値を再生産する働き方の様式を指し、「価値創造型」は新たな価値を創造する働き方の様式を指します。調理師を例にとると、定番メニューを作り続ける様式は「価値再生産型」であり、客の味の好みにあわせてメニューを改変したり、新作をつくったりするのは「価値創造型」にあたります。

私の研究では個人作業を、ナレッジワークと、スキルワークと、マニュアルワークの三つに分類しています。個人作業の目的(何をやるか、What)と、手法(どうやるか、How)に注目したときに、いずれについても作業主体が裁量を持つのをナレッジワーク、手法にのみ裁量を持つのをスキルワーク、どちらも裁量を持たないのをマニュアルワーク、としています。

このように三分類すると、ナレッジワークは価値創造型ワークスタイルの主体になり、マニュアルワークは価値再生産型ワークスタイルの中心になりそうです。この組み合わせはおおむね間違っていないと考えておりますが、個人がどれかひとつのワークに特化することには危険が伴うと考えています。なぜなら価値再生産と価値創造のいずれにしても、三種類のワークの連携が必須だと考えられるからです。

Q:なぜ三種類のワーク全てが必要なのでしょうか?

組織は分業体制を敷くことで、業務の効率性を高めることができます。機能別に分けたり、事業別に分けたりすることで専門化して学習効果を享受します。しかし、「ナレッジワーカー」と「マニュアルワーカー」というように区分してしまうことは避けるべきです。このように区分してしまうと、個人はそのひとつのワークに専念してしまい、他のワークへと活動を繋げにくくなるからです。

価値再生産の際にも、マニュアルワークだけでなくスキルワークやナレッジワークが必要となることは、工場での小集団によるカイゼン活動が大きな効果を発揮していることで証明されています。マニュアルワークからスキルワークに移行して現状の手法をよりよい手法に変えること、ナレッジワークに移行してそもそもの目的に立ち返ることで不要となった作業を省くこと等が、生産性を高めます。

これから主とすべき価値創造の際にも、ナレッジワークだけでなく他のワークも必要です。たとえば銀行業務では、窓口ワークはマニュアルワークと見なされ、どんどん省人化されています。しかし、顧客接点でのマニュアルワークなしには、振り込め詐欺の被害者の行動特徴を把握することは困難です。振り込め詐欺の防止サービスを開発する価値創造的な業務の一端をマニュアルワークが担っているのです。

価値創造型のワークスタイルを起点に、企業組織を再設計せよ

Q:企業・組織の観点では、今後どういった考え方が必要となるのでしょうか?

日本企業は、積極的に新しい価値を創造していかないと立ちゆかなくなる、という問題意識を持っています。30年前に日本企業が席巻していた世界時価総額ランキング上位は、いまや価値創造に成功したアメリカと中国の企業で占められています。価値再生産だけでは、もはや太刀打ちできない状況なのです。

ただし、価値創造に舵を切るからといって、「ナレッジワーカー」だけを優遇する人事政策や、「マニュアルワーク」を軽視する作業管理をしてはならないと考えます。価値再生産で培ってきた組織能力を、冷静に棚卸して、現在の状況で強みとなるものと弱みとなるものに分別するべきです。

強みとなりうるのは、ジョブローテーションを通じた幹部育成、教育レベルの高い従業員同士の役職・部門を越えた協調関係等でしょう。弱みとなりうるのは、前任者の路線を継承しがちな「組織文化」、与えられた作業の目的を疑わず深掘りにひた走りがちな「現場力」等でしょう。個人の価値創造型のワークスタイルを起点にして、強みとなりうる前者の能力を活用し、弱みとなりうる後者の能力を解除するように企業組織を再設計することが、日本企業の競争力強化に欠かせないと考えます。

<研究会の予定>

「情報未来研究会 Withコロナ」インタビュー編

「情報未来研究会 Withコロナ」研究会編

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