2021.4.23特集

コロナ禍の長岡市と奄美市に見る、自治体DXの舞台裏

2020年4月の緊急事態宣言、それに伴う特別定額給付金の支給は、窓口となる自治体にとって大きな負担となる一方で、業務のデジタル化を一気に進める機会ともなった。ここではRPAとAI-OCRによって業務効率化を推進した新潟県長岡市、鹿児島県奄美市の事例を紹介する。

長岡版イノベーションの一環としてRPA、AI-OCRを導入

人口は27万人を数え、花火大会、地酒、錦鯉、馬高遺跡など観光資源が豊富な新潟県長岡市。2018年から「変化の波を的確に捉え、従前にとらわれず、市民生活の向上と産業の活性化を実現する」という“長岡版イノベーション”を掲げている。指針では「変化する時代に合わせた、最適な行政サービスを追求する」ために、行政事務の効率化も重要なポイントとして挙げられており、その実現のためにRPAの導入・活用が進められてきた。

その先導役となるのが、地方創生推進部に設けられたイノベーション推進課だ。2018年度当時、自治体によるRPA活用の先進事例だった茨城県つくば市役所を参考に、「現場の職員がRPAのシナリオをつくるという方針のもと、WinActorの導入を始めた」と、同課の課長補佐、加藤 俊輔氏は説明する。

導入業務の発掘に際しては、定型業務が大量にあり、なおかつPCでの作業を得意とする若い職員が在籍する課に声をかけ、自由にRPA活用に取り組んでもらったという。このチャレンジは、課ごとに年換算100時間の作業時間削減を目安に取り組んだが、これを大幅に上回る6課25業務で年換算2,028時間の削減という効果を見込めるまでになった。

翌年には総務省の補助金を活用してRPAツール「WinActor」の本格導入を進めると同時に、AI-OCRツール「DX Suite」の導入についても環境整備を始め、試験利用では年2,710時間の削減を見込むことに成功。なお、このうちの約2,000時間分は、現場職員が「AI-OCRを適用したい業務がある」と、イノベーション推進課に相談を持ちかけたことがきっかけだったとのことで、現場が積極的に効率化に取り組む姿勢が伝わってくる。

コロナ禍においては各課から、申請書の処理にAI-OCRやRPAが活用できないかという相談が寄せられており、イノベーション推進課はこれまでの経験を活かして対応を行っている。たとえば市内の事業者の現状把握や観光客の意識調査のために実施した大規模なアンケートでは、イノベーション推進課から、AI-OCRで読み取りやすいように工夫した回答用紙を提案し、円滑な集計に貢献した。

AI-OCRの導入・横展開には、現場担当者に意欲を持たせることが重要

加藤氏はAI-OCRの導入・展開のコツについて、現場が発意してスモールスタートするのが望ましいという。導入する前に業務を“決め打ち”することは、効果が見込める前から組織の説得や予算取りをすることになり、効果が実現するかわからないリスクを抱えながら組織の期待だけ高まってしまうため、現場にプレッシャーになってしまうのが主な理由だ。

「RPAとセットで導入するのが理想だが、できるところから始めるだけでも効果が現れる場合があるので、最初から一気通貫で自動化しなくてもいいと考えている」(加藤氏)

また効果の見せ方や出し方については、「年間を通しての通常業務よりも、ある特定の時期に集中して行う『時期もの』の業務に導入した方が、時間外勤務や動員数などの削減効果を実感しやすく、モチベーションにもつながるだろう。また機器の運用面から考えると、多くの業務で機材やツールを使い回せるようにした方が、効率が高められるのではないかと思う」と語った。

推進する側は、現場の担当者がAI-OCRを利用した効率化を「やりたい」「できるかもしれない」と思える仕掛けをつくることが重要だという。イノベーション推進課では、庁内でのAI-OCRの活用例や成果を職員向けの広報でPRし、未導入の現場担当者が関心を持つ仕掛けをつくっている。そして興味を持った担当者が気軽に試せる環境、たとえばAI-OCR利用の契約や支払い等の事務をイノベーション推進課が一括で行うことにより個別相談やテスト利用のハードルを下げたり、実務と機能の両方の事情を知る職員が相談に乗り、状況に応じてサポートデスクにつなぐといった支援を行った。

「現場職員が安心してツールを利用できるように支援して、意欲が実る環境をつくれば、DXは実現できるという実感を得ている。そしてDXの実現が組織の自信、自発的な改善、効率化につながっていく。上からの『この業務を改善しろ』『効率化しろ』というミッションは、重荷にしかならないだろう」(加藤氏)

特別定額給付金にまつわる作業自動化の仕組みを短期間でつくりあげた奄美市

2020年4月20日の閣議決定で、全国民に特別定額給付金を支給することが決まると、自治体では約10日間という短期間のうちに、申請の受付や支払の準備を整える必要が出てきた。NTTデータではRPA「WinActor」とAI-OCR「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite®」に、「専用シナリオ」「専用の申請書様式」「専用帳票定義」を加えて、特別定額給付金専用の自動化ソリューションとして無償提供した。約200の自治体が導入されたが、奄美市もこの支援プログラムを利用した自治体のひとつだ。

人口約43,000人の奄美市では、市役所 総務部総務課の押川裕也氏、プロジェクト推進課の竹山勝寿氏の2人が、申請受付から給付金システムへの入力までの一連の業務を、AI-OCRとRPAで効率化する仕組みをつくりあげた。手書きの申請書を読み取るAI-OCRの設定はマウスで読み取り範囲を指定するだけと、容易だったため3日で完了。給付金システムに自動入力するRPAのシナリオは8日で稼動させられるようになったという。

ノートPC4台、AI-OCR用PC1台という小規模な環境での構築・運用だったが、これが本格運用されるようになると、申請の受付開始当初、仕分け要員として集められた人手(22人)は、完全に必要なくなったという。また市民の申請書が届いてから支給完了までは、およそ2週間が想定されていたが、最短4日での処理を実現し、市長には市民から感謝の言葉が寄せられたそうだ。

奄美市役所ではこれを皮切りにAI-OCR、RPA等の利用範囲を拡大し、2021年1月には35もの業務で変革を実現している。

「イノベーションの流れは一度起きたら止まらないという、スピード感を感じている」とNTTデータでRPAの企画・営業を担当する橘 俊也は語る。

DX実現のための4つのカギとは?NTTデータの支援策とは?

こうした2自治体における事例をふまえ、橘はDXが進まない理由と、実現のためのカギを示す。

DXが進まない理由1:デジタル技術を使いこなせない
DX実現のカギ1:知らなくても簡単に使い始められる状態をつくる

DXが進まない理由2:現場の管理が大変
DX実現のカギ2:管理不要で現場に任せて安心な状況をつくる

DXが進まない理由3:費用対効果が分からない
DX実現のカギ3:コストをかけるのは使いたいとき使った分だけにする

これら3つに加え、橘は「共に成長するプラットフォームをつくること」を第4のカギとして挙げる。そのカギを実現するための施策として、NTTデータでは「WinActor」や「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite」といったデジタル技術だけでなく、業務特化型ロボット、管理統制サービス、DXのサブスクリプション、伴走型サポートなど、4つのカギに沿った支援策を用意していることに触れ、それらを通してめざす将来について言及した。

「我々がめざすのは、デジタルで創る新しい『働き方』だ。この試みは、2020年10月から『スマート自治体プラットフォームNaNaTsu®』という形でスタートさせている。今、自治体で迅速な対応が求められているコロナワクチンの接種体制づくりにも、この『NaNaTsu』の提供を進めている。さらに2021年には金融、一般企業と、業界を超えてイノベーションを起こし続けることをめざしている。DXは現場業務に密着しているものなので、我々だけでできるものではない。共にイノベーションを起こしていければと考えている」(橘)

スマート自治体プラットフォームNaNaTsuの詳細はこちら
https://cobotpia.com/nanatsu/

本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。

「NaNaTsu」は日本国内における株式会社NTTデータの商標です。

「DX Suite」は日本国内におけるAI inside 株式会社の登録商標です。

「WinActor」は日本国内におけるNTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です。

その他の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

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