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2021年11月30日事例を知る

自分らしく生きていく ~LGBTQ社員と考えるダイバーシティ&インクルージョン~

LGBTQという言葉が一般に使われだして久しい。統計では言葉の浸透率は80%を超え、LGBTQであることを自認する率も9%近いといわれている。こういった社会の現状を受けて、この数年間で人事制度や社内環境を整備する会社が増え始めた。

ダイバーシティ&インクルージョン・ステートメント - Bloom the Power of Diversity」を標榜するNTTデータグループとしても、多様な人財が活躍できる環境整備の観点から、LGBTQなどに関する取り組みを推進している。しかし、この取り組みは当事者の目にはどのように映っているのだろうか。今回は、カミングアウトしたNTTデータグループの社員と人事本部ダイバーシティ推進室課長の作田明彦が対談。当事者が経験してきた体験を踏まえて、LGBTQが活躍できる環境や会社に本当に求められるD&I(Diversity&Inclusion)の取り組みについて意見を交わした。
目次

1.深まるLGBTQへの理解。当事者はどう感じるか

――以前と比較すると、社会的には多様性の尊重やLGBTQ(レズ・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クイア/クエスチョニング)への理解は深まっています。日本企業では、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

作田以前と比較すると、日本の会社でも環境整備や理解促進の取り組みは進んでいると感じます。欧米では早くから法令や企業環境が整備されており、その流れが日本にも波及しつつあるのでしょう。

例えば、NTTデータを含むNTTグループの社員200名以上が行進に参加した「東京レインボープライド2019」(2020・2021はオンライン開催)のパレードには、多くの会社が参加しています。また、LGBTQを積極的に支援するAlly(アライ)と呼ばれる人も増えている印象です。一方で、実際にカミングアウトしている人は少ないですね。制度は整備され理解も進みつつありますが、当事者を含めて、誰もが気にしないで生きられる社会とまではいえない状況です。

図1:東京レインボープライド2019の様子1

図1:東京レインボープライド2019の様子2

図1:東京レインボープライド2019の様子

――確かに、厚労省がまとめた「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集 ~性的マイノリティに関する取組事例~」によると、職場でカミングアウトしているLGB(レズ・ゲイ・バイセクシャル)の割合は7.3%、T(トランスジェンダー)の割合は15.8%とされています。

作田ダイバーシティを推進する立場から見ると、まだまだLGBTQへの理解が十分でない印象があります。これは、LGBTQに限らず、女性活躍推進や障がい者活躍などでも同じ傾向です。残念ながら成立には至りませんでしたが、2021年は性的少数者への理解増進を図る「LGBT法案」も議題に上がりました。法律だけでなく、企業としても理解を深めることで、状況を変えたいと思っています。

――鈴木さん(仮名)は、LGBTQの当事者として日本企業の課題をどう捉えていますか。

鈴木(仮名)当事者が可視化されていないことが問題だと感じています。見えないから「よく分からない」「怖い」といった印象になっているのではないでしょうか。私も社内ではMtF、つまり男性から女性へのトランスジェンダーであることを公表していますが、一般的にはレアケースです。

――具体的には、LGBTQの人は職場でどういった問題を抱えているのでしょうか。

鈴木(仮名)他社でカミングアウトした人のなかには、仕事を外されたり、直接キツい言葉を投げかけられたり、差別に近い扱いをされているという声も聞きます。正直、当社でも、LGBTQの環境整備に取り組む以前は、配慮に欠けたネガティブな発言を耳にしていました。LGBTQの知識が乏しく、本人には悪気がない。しかし、当事者には、刺さります。

環境面での問題では、自認する性に沿ったトイレや更衣室の利用が出来ないという声が多いですね。就業中のサポートでは、トランスジェンダーがホルモン治療や手術を受ける際に会社を休めなかったり、支援がなく困っていたりする人もいます。

2.NTTデータグループの変化を感じて、カミングアウトを決意

――鈴木さんはMtFトランスジェンダーとのことですが、現在はどういった業務に携わっているのでしょうか。

鈴木(仮名)NTTデータのグループ会社で購買業務を担当しています。それ以前は、10年以上、人事担当でした。実は、カミングアウト前からLGBTQに関する服務制度にも関わっていたんです。

――カミングアウトはいつ、どういった理由で?

鈴木(仮名)2018年10月にカミングアウトしました。踏み切ったきっかけは2つあります。ひとつは、2018年頃から当事者の望む性での実生活経験「RLE(Real Life Experience)」を始めたこと。プライベートは女性、仕事は男性として生活して、それに伴いホルモン治療なども行っていました。ホルモン治療を開始したことで隠し続けることに限界を感じ、だったら言ってしまおうといった流れです。

図2:ALLY(アライ)ロゴ。LGBTQの支援者であることを示す。

図2:ALLY(アライ)ロゴ。LGBTQの支援者であることを示す

もうひとつは、当社の取り組みが進んだこと。制度が整えられて、LGBTQが利用できる福利厚生も増えました。いざというときセーフティーネットとして制度を使うために、カミングアウトしたという面もあります。

ほかにも、PRIDE指標(職場におけるLGBTQへの取り組みを評価する指標)の最高レベル評価のゴールドを毎年連続で取得したり、東京レインボープライドやレインボーフェスタといったLGBTQを応援するイベントに参加したり、社内における関心の高まりを実感できたことも大きかったですね。

特にイベントへの参加は、当初、誰も関心を持っていなかったのですが、2018年には強制参加ではないのに「行ってきたよ」という社員が増えて、明らかに雰囲気が変わっていきました。当時の上司もLGBTQへの理解が高く、この状況ならカミングアウトしても、悪い方向には行かないだろうという安心感がありました。

――カミングアウトして、周囲の接し方や自分の気持ち、働き方などの変化があれば教えて下さい。

鈴木(仮名)私の気持ちとしては、楽になりました。隠し事がなくなり、ありのまま生きられるようになったから。周囲の変化は、特になにもなかったかな。見た目は女性へと変わったので、会った瞬間は戸惑っているのかもしれませんが、事情を5分も話せば、「そうだったんだ」、「いいんじゃない」といった反応です。何ごともなかったように、一人の人間として接してくれていると感じられて、ありがたいですね。

――カミングアウトした当事者に対して、周囲の接し方は重要です。そういった意味では、鈴木さんの場合は、非常によい対応をしてもらったということでしょうか。

鈴木(仮名)そう思います。別に、特別扱いして欲しい訳ではないんです。これまで通り接してもらえるのが一番いい。強いて言えば、LGBTQへの偏見をなくす、基本的な知識は身につけておいて欲しいですね。あとは、アウティングと呼ばれる、カミングアウトした人のことを勝手に言いふらす行為はダメ。この2点はお願いしたいところです。

人事本部 ダイバーシティ推進室 課長 作田明彦

人事本部 ダイバーシティ推進室 課長 作田明彦

作田NTTデータグループでは、LGBTQに対する正しい知識を身につけてもらうために、定期的にLGBTQセミナーを実施しています。ここでは有識者や当事者を招いた講義や、自己の偏見チェックなどを通じた理解を促す内容となっています。もちろん、Diversity&Inclusionのポータルページを設けて、LGBTQの情報発信を積極的に行っています。セミナーの資料なども見ることができます。特に、鈴木さんが指摘したアウティングに関しては、重点的に理解浸透を図っています。本人への理解と、オープンにすることは全く別の話で、カミングアウトの主体はあくまで当事者。本人が許可した相手に話すのはいいのですが、誰彼かまわず勝手に伝えるのは厳禁です。

3.トップからの強いメッセージなどが評価され「PRIDE指標」ゴールドを獲得

――NTTデータグループでは、LGBTQに対する地道な取り組みを行っているわけですね。

作田もともと、人権啓発やDiversity&Inclusionには熱心に取り組んでいました。その観点から、LGBTQに力を入れるべきだと判断したのが、大きな転換点でした。2016年以降、経営幹部からのメッセージ発信や慶弔金・休暇といった制度適用、専用相談窓口開設、人権職場学習会、各種研修等への組み込み、イントラサイト開設など、さまざまな継続した取り組みを実施しています。

特に、経営層がしっかりとメッセージを出していることは大きなポイントでしょう。また、毎年、LGBTQの当事者や著名人を招いて、社員の啓発と意識向上のためのセミナーを開催しています。

図3:PRIDE指標2021

図3:PRIDE指標2021

2018年は増原裕子さんと勝間和代さん、2019年は「総務部長はトランスジェンダー」という著書を持つ岡部鈴さん、多様性に関する様々なイベントやコンテンツの提供を目指すプロジェクト「プライドハウス東京」の代表、松中権さんなどをお招きしました。参加者は年々、増加しているのですが、コロナ禍でオンライン開催になってから顕著に増えました。そのお陰もあって、NTTデータグループのおけるアライは、400人を超えています。
こういった取り組みが評価され、NTTデータでは2021年度、5年連続となるPRIDE指標ゴールド(※2)を獲得しました。

――LGBTQに対する制度面の取り組みを教えて頂けますか。

作田LGBTQだからといって、細かく意識する必要はありません。2018年度からは配偶者およびその家族にかかわる制度全般について、同性パートナーでも基本的に全ての制度が同じように使えるように適用を拡大しました。具体的には、扶養手当や単身赴任手当が適用され、休暇では、結婚休暇・忌引休暇に加え、パートナーの出産・育児にかかわる休暇、家族の看護・介護にかかわる休暇などを使えます。

――鈴木さんは、なにか活用した制度はありますか。

鈴木(仮名)LGBTQに関する制度ではありませんが、性別適合手術のときには、病気休暇を取得しました。また、ホルモン治療に関してもフレックスタイムを活用して、柔軟に勤務計画を立てられています。そういった意味では、制度に助けられていますね。

4.多様な人に「安心」ではなく「安全」を

――NTTデータグループはLGBTQでも働きやすい職場を目指して、制度を整え、社員の意識を変えようとしています。当事者から、さらに進めて欲しい分野や提言があれば、アドバイスを頂けますか。

鈴木(仮名)正直、まだまだ、担当や上長によって対応に違いがあると思っています。「上長に相談すれば大丈夫」という安全性が確保されていれば、もっとカミングアウトしやすいはず。しかし、現状はそこまで達していません。だからこそ、ダイバーシティ推進室が旗を振り、「カミングアウトして何かあっても、ダイバーシティ推進室に相談すれば安全が確保される」ということをもっと強くアピールしてほしいです。

会社が進めている環境整備や制度構築は、LGBTQの人にとってはセーフティーネットだと考えています。そのセーフティーネットを活用するには、カミングアウトする必要がある。言い換えれば、カミングアウトするということは、セーフティーネットを求めているということです。「カミングアウトしても差別的な扱いがないように、会社が安全に守ってくれる」という信頼感は重要です。

私を含め、LGBTQの人たちは、ありのままに生きられないことへの限界を感じてカミングアウトをします。会社が守ることでカミングアウトしやすい状況をつくり、その限界から救って欲しいと思っています。

――「安心」ではなく、「安全」という表現なのですね。

鈴木(仮名)今の段階では、「安全」のほうがいいのかもしれません。差別や偏見という、身の危険があるかもしれないから。NTTデータグループ内では、安全が保障されているのでカミングアウトして働けていますが、この対談記事はNTTデータグループ以外の方も読むことができます。そのため、まだまだ名前や写真は出せないですね。

まずは自分が働く会社の部署で安全が保障されて、それが全社に広がり、ゆくゆくは多くの会社で安全にカミングアウトできるようになって欲しい。そうやってLGBTQの人たちが可視化されることで、最終的に世の中が変わっていくのではないでしょうか。NTTデータグループにも、その一翼を担ってもらいたいです。

――今のお話を受けて、人事本部ダイバーシティ推進室として今後、進めていきたい施策などがあればお聞かせ下さい。

作田NTTデータは、お客さまとともに目指す、5年後の新しい社会の形をSmarter Society Vision 2021として策定しました。Smarter Societyとは、信頼をつむぎ、一人ひとりの幸せと社会の豊かさを実現する社会です。ここで大切にしているのは「生活者視点」であり、この「生活者」には社会に生きるすべての人々が含まれます。私たちの社員も例外ではなく、多様性を当然のものとして受け入れ、考えていく姿勢が欠かせません。

図4:ダイバーシティ&インクルージョン・ステートメント - Bloom the Power of Diversity

図4:ダイバーシティ&インクルージョン・ステートメント - Bloom the Power of Diversity

そのためには、過去の経験からくる無意識の思い込みや偏見に気づき行動を変えていくことが必要です。そこで、2021年度は全管理職を対象に「アンコンシャス・バイアス研修」を実施しています。理解した先には行動変容があり、安心で安全、差別や偏見がない会社につなげていきたいと考えています。私たち自身がアンコンシャス・バイアスに気づき行動を変えていくことが会社におけるDiversity&Inclusionの実現につながり、ひいては、社会全体のウェルビーイングにつながると考えています。

鈴木(仮名)私は幸いにも会社や部署、同僚に恵まれ、カミングアウトして働くことができています。オープンに活動することでLGBTQの存在が可視化されることは、大きな意味があると感じています。私の働き方や会社での立ち位置を知ってもらうことで、隠れた当事者にとってのモデルケースになればいいと思っています。LGBTQのことを正しく知らなければ、誤った捉え方をするかもしれません。しかし、知ってもらえれば何も変わらない人だとわかるはず。そのためにも、NTTデータグループのなかで活動していきたいですね。

ただ、最終的に目指すべきはLGBTQの周知ではありません。作田さんが話したとおり、Diversity&Inclusionの世界です。病気や障がい、性別、どんな個性を持った人でも、未来への不安など抱えず、働きやすく、パフォーマンスが発揮できる会社になって欲しい。LGBTQへの理解は、その第一歩だと思っています。

作田その通りですね。Diversity&Inclusionを実現し、新しい「これから」を描くため、NTTデータグループでもより一層取り組みを推進していきます。

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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