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2022年8月24日トレンドを知る

グリーンソフトウェアで拓くICT脱炭素への流れ

事業活動に脱炭素への取り組みが不可欠となり、環境負荷低減に資するソフトウェア業界も自らの炭素排出を削減する必要性が高まっている。この普及を目指し設立されたのが非営利団体のGSF(Green Software Foundation)。このほど世界各地でコミュニティイベントが開催された。本稿では、グリーンなソフトウェア開発の原則やエネルギー効率の考え方等を解説した東京会場の概要を紹介する。
目次

14カ国で「GSF Global Summit 2022」を開催

GSF(Green Software Foundation)は、温室効果ガス(GHG)排出量の少ないソフトウェアである「グリーンソフトウェア」を普及させ、これによるエコシステム構築を推進するために、2021年5月に設立されたグローバルな非営利団体だ。設立の背景にはIT業界の成長による消費電力の増大がある。

これまではハードウェアの省エネなど主に物理的な設備についてGHG削減努力が行われてきた。だが、世界の消費電力におけるIT業界の割合は2015年で10%だったものが、2030年には20%を超えるとの予想(※1)もあり、ソフトウェア業界としても消費電力削減への取り組みが必至となってきたことがあげられる。
GSFは電力効率に加え電力を生成する際のGHG排出量やハードウェアの利用量にも着目し、グリーンなソフトウェアを開発するための標準の策定やツール開発など、より広くGHG排出量の削減に取り組んでいる。
ソフトウェアの脱炭素に向けた活動をけん引するGSFは2022年6月、14カ国でコミュニティイベント「GSF Global Summit 2022」を開催。アジア初のGSFの運営メンバーであるNTTデータが東京でのイベントを主催した。
245人の参加者に対し、グリーンソフトウェアに関連する講演やパネルディスカッションなどをウェビナー形式で配信。講演内容の要旨を紹介する。

グリーンなソフトウェア開発の実現を目指して

NTTデータ グリーンイノベーション推進室長 下垣徹は「ソフトウェア開発の文化を変えることが大きなポイントです。私が以前ソフトウェア開発に携わっていたころは、環境負荷を意識することはありませんでした。その意識を持つきっかけになれば」と話す。
今回のカンファレンスは、グローバルにアクセス可能な学習機会を提供し、参加者が新たなスキルを学び、他のメンバーと出会い、GSFに参加する機会を作ることを目的とした「持続可能なソフトウェア開発、メンテナンス、改善に関する組織間のパートナーシップの祭典です」という。
目指すのはグリーンなソフトウェア開発であり、これはGHG排出量をより少なくすることに責任を持つソフトウェアのこと。「私たちの焦点は中和(オフセットなど)ではなく削減にあります」と下垣は強調する。ソフトウェアが気候変動の“問題”ではなく“解決策”になりうることを知り、多くの参加者がこれに取り組んでいくことが重要なのだ。具体的なアプローチは、ソフトウェアの中身(ソフトウェア自身のGHG排出量)に着目する【内部】、外側で利用できるもの(オープンデータ活用)に着目する【外部】、内と外を合わせた開発キットを提供していく【統合】の3点で取り組みを進めている。

図1:GSFのアプローチ

図1:GSFのアプローチ

ソフトウェアのグリーン化の議論はまだ始まったばかりではあるが、現在のGSF加盟状況は32組織、参加者数は694人。加盟団体の収益合計は約97兆円、総従業員数は150万人でそれらの団体がカバーする国は190カ国以上に広がってきた。「各社バラバラにやっていても仕方ないでしょう。IT業界全体として環境負荷の低減に貢献してほしい」と語る。

グリーンソフトウェアとは、その最新トレンド

グリーンソフトウェアの原則を「ソフトウェアエンジニアが、ソフトウェアの設計・開発・運用・破棄においてカーボン排出量を削減するためにとるべき行動です」と日本マイクロソフト シニアクラウドソリューションアーキテクト 畠山大有氏は語る。この原則は2019年にPrinciples.green(※2)というサイトにおいて定義された。
グリーンソフトウェアの影響範囲は、企業内ソフトウェアや企業のファシリティ(Scope 1)、エネルギー使用(Scope2)などが対象となり、これを細分化すると、以下8つの原則があげられる。

  • (1)カーボン効率の高いアプリケーション開発
  • (2)エネルギー効率の高いアプリケーション開発
  • (3)最も低いカーボン強度での電力消費
  • (4)ハードウェア効率の高いアプリケーション構築
  • (5)ハードウェアのエネルギー効率を最大化
  • (6)ネットワーク上のデータ量と距離を短縮
  • (7)カーボンを意識したアプリケーション構築
  • (8)全体的なカーボン効率を向上させる段階的な最適化に焦点をあてる

「この8つの原則に着目するとグリーンソフトウェアの中身が見えてきます」と畠山氏は語る。

図2:グリーンソフトウェアの8つの原則

図2:グリーンソフトウェアの8つの原則

つまり、グリーンソフトウェアは、GHG排出量を最小限にするため、より少ない電力と、より少ないハードウェアを使用し、可能な限り再生可能エネルギーで作られた電力で実行することが望ましい。また、ソフトウェアとプラットフォームを比較して何を使用し何を使わないかを決定するSCI(Software Carbon Intensity)スコアという評価手法の標準化に取り組んでいる。
では、どのようにしてより良いソフトウェアを開発すればよいのだろうか。グリーンソフトウェアエンジニアリングの原則採用と、時間の経過に伴うSCIの測定、それに基づいてアクションを実行することになる。さらに「声をあげることです。サプライヤーの排出するGHGを少なくする必要があることを伝え、現状を聞きオフセットでごまかさないことが大事です」と話す。その次にソフトウェアが実行されるすべてのハードウェアをできるだけ長く効率的に稼働するようにアプリケーションを設計、または再設計することだとした。

ソフトウェアの燃費?Software Carbon Intensityとは

SDGsに対応し開発運用するシステムのGHG排出量の削減機運が高まっている。ではシステムにおけるGHGをどのように実測するのか。推定も含め数値化は難しいのが現状だ。ハードウェアでは、生産や廃棄でGHGを排出するが、すべての設備を網羅して排出量をまとめるのも無理がある。
現状を踏まえNTTデータ 先進コンピューティング技術センタの末永恭正は「自分たちが使うシステムのエネルギー効率を上げていくことが必要だと考えます」と話す。例えば自動車の場合ならば、運転の仕方によって燃費が大きく変わるように、ICTシステムならばハードウェアの無駄のない実装で電力効率を高めることができるという考え方だ。

図3:エネルギー効率の考え方

図3:エネルギー効率の考え方

ここで問題になるのが、消費電力を測ることの難しさだ。たとえば、PCから一つのアプリを実行し、クラウドサービスを利用する時の自社設備の使用は一部分にすぎない。「IT システムは相乗り構成のため、個人が使用した量をピンポイントで特定するのが難しい面があります」という。では、効率の評価をどうすればよいのか。減らすものは明確にあるが、その評価基準がICTシステムには存在していないのが現状である。「基準がなければ、改善の効果測定をする際に第三者が納得するアピールが打ち出せなくなります」と話す。
そこで考え出したのがSoftware Carbon Intensity(ソフトウェアの炭素強度)だ。これはICTシステム版「燃費」であり、CO2負荷観点でシステムの動作効率を数値化する。排出量そのものではなくスコアで、数値は低いほどよいがゼロになることはない。技術的に純粋な指標値となる。また、電力やハードウェアなど、ソフトウェアが動くため必要なものにかかるCO2排出量をすべてパラメータ化したものになる。
算出式は「((ExI)+M)per R」であり、Eはエネルギー、Iは発電時のCO2負荷、Mはハードウェア自体のCO2排出量(製造/廃棄等)、Rは集計単位。
導き出したスコアから運用面でのCO2負荷を見ることができ、そこからソースコード、インフラ再構築などの改善や見直した後に、効果測定することができる。「SCIはシステムを高効率化するうえでの指標になります」と強調する。

デジタルサービスのエコデザイン

デジタルの進化と影響について語ると、10年前に比べデータ処理量は38倍に増加、サイトの規模は4倍に膨れている。アプリケーションサイズは20年前と比べ171倍となり、デジタルサービスによるGHG排出量(世界)は4%といわれている。

図4:デジタルの進化と影響

図4:デジタルの進化と影響

このような状況下で考えるべきなのはエコデザインへの取り組みだ。日本マイクロソフト クラウドソリューションアーキテクト 永田祥平氏は、まず始めるべきこととして「ユーザーのペイン(課題や悩み、不満)を取り除くことが必要です」と説明する。
たとえば、モバイル向けデザインでは不要な機能やコンテンツを削除し、ユーザーが直感的な操作で最終的な目標に到達できるようにする。この展開で優れたユーザー体験を提供し、環境負荷の低減を実現する。画像・動画・音声を可能な限り抑えることでエネルギー使用量を削減できるとした。

では、このようなエコデザインをどのようにして学んでいくのか。同社クラウドソリューションアーキテクト 小川航氏は「Webシステムを設計するための各検討事項115の方法がまとめられている書籍があり、具体的な検討項目と生態系へ影響度のレベルが学べます」と示唆する。そのほかにもグリーンで持続可能なソフトウェアプリケーションを定義、構築、実装するための原則を提供するサイトがある。
グリーンデザインを考慮して設計・実装したものを評価する、エネルギーを測定するツールはいくつか存在している。これらを活用することで、自社サービスの改善などを知ることができる。また、機械学習モデルの計算コストやエネルギーコストを算出することもでき、モデルに関してもシンプルで精度の高いモデルを開発していくことができるようになっている。
ソフトウェアエンジニアリングの観点でサステナブルな取り組みを考えられる人材は少ない。「共に学び日本のサステナビリティの先駆けになりましょう」と小川氏は強調する。

ハードウェアの観点からみたグリーンなソフトウェア開発

グリーンなソフトウェアの開発をする上では、ハードウェアの省エネ機能を活用することが有効だ。ハードウェアの活用には3つの観点がある。

図5:ハードウェアの省エネ機能活用方法

図5:ハードウェアの省エネ機能活用方法

一つ目は、ハード進化に任せること。CPUはムーアの法則で2年ごとに進化しており、搭載するトランジスタが倍になり性能が上がる。消費電力は上がるが性能はそれ以上に伸びる。処理するデータがハードウェアの中でどのように扱われるか、メモリーのテクノロジーも重要になる。
インテル執行役員 第二技術本部長 土岐英秋氏は「2030年までにデータセンター向けCPUの電力効率は10倍向上する」という。言い換えると現状の処理能力でいいのなら2030年には消費電力は10分の1になるということだ。「ただ、ハードは進化するが処理するデータ量も増えてくるので、効率の良いソフトウェアの開発が重要になります」と語る。また、クライアントPC向けCPUには、高速処理が可能なPerformance-cores(Pコア)とエネルギー効率の高いEfficient-cores(Eコア)があり、これらを環境に合わせて使い分けることで実行効率が向上する。この制御を行うのがソフトウェアになる。
次にハードを上手に使うためのポイントになるのが、電力管理や省エネライブラリを使うことだ。例えばタスクを分散させて処理を高速化する目的で作られたライブラリでも、利用することで効率的にハード利用できているかを、ハード側からモニタリングできるようになってきている。クラウドの処理で効率を上げる場合に、インテリジェントにタスクを投げることにより全体としての性能を上げ、消費電力を下げる使い方ができるようになる。
最後に、クラウド実行やアプリをチューニングするという点だ。システムをオンプレミスからクラウドに移行した企業からは「クラウドを効率よく運用する方法がわからないという声が多い」という。クラウド実行をリアルタイムにプロファイリングすることで、性能×電力×コストを最適化したインスタンスを選択し、アプリやサービスのコストを最適化するようなソフトウェアが存在する。これをCO2排出量の最適化に利用する使い方が考えられる。
ハードウェアの機能を理解しソフトウェアの開発をすることで、効率を上げGHG削減につなげる。ハードウェアメーカーが提供するライブラリを使えるようにすることで、よりよいソフトウェアを作ることができる環境が整う。

グリーンソフトウェアの今後

ソフトウェア×ハードウェア×エネルギーの総合力が、グリーンソフトウェアの世界に求められるだろう。グリーンソフトウェアの開発を、すべてソフトウェア開発者に委ねるのではなく、一定の仕組みに乗ればグリーンな環境になるような状況を実現していく必要がある。
GSFの活動はまだ始まったばかり。今後もグリーンソフトウェアの普及を図りながら、その実現に向けたエコシステムの構築に取り組んでいく。

参考リンク

本イベントの講演動画(GSFのYouTubeチャンネル)

本イベントの講演資料

タイトル登壇者

グリーンなソフトウェア開発の実現を目指して
~Green Software Foundationのご紹介~

NTTデータ
下垣 徹

グリーンソフトウェアとは/最新トレンド

日本マイクロソフト
畠山 大有氏

ソフトウェアの燃費?Software Carbon Intensityとは

NTTデータ
末永 恭正

デジタルサービスのエコデザイン

日本マイクロソフト
小川 航平氏/永田 祥平氏

ハードウェア省エネ機能のソフトウェアによる活用方法

インテル
土岐 英秋氏

※タイトルをクリックすると講演資料を閲覧できます。

GSFサミット各地域でのイベント、閉会式の模様(GSFのYouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UCj0m2KL1yQzcCbmSj7AaAoA/featured

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