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2023年1月27日技術ブログ

AIガバナンスー企業における倫理とマネジメント

近年では、倫理と企業マネジメントは切り離せないものになっている。企業における倫理の確立のために乗り越えるべきポイントは何か。本記事では、3つのGAP―「世代間のGAP」「幹部と現場のGAP」「新技術と社会規範のGAP」―と、その乗り越え方など、AI・データ活用の継続的なガバナンス整備に必要なポイントを解説する。
目次

AIアドバイザリーボード 第3回勉強会について

NTTデータでは、2021年4月に社会デザイン・ソフトウェア工学/法務・倫理/リスクマネジメント・SDGsなどさまざまな分野の社外有識者からなる「AIアドバイザリーボード」を設立しました(※1)。本ボードはAI利活用に関する技術動向、法令・規制、市民社会の認識について、有識者と幹部マネジメント層及びAIプロジェクトに関わる現場最前線のメンバーが議論をし、その結果をAIガバナンスの具体的な手段に取り入れていくことを目的としています(図)。

FY2022第3回勉強会では、AIガバナンスの確立にあたって特に重視してきた「倫理・社会受容性」のうち、「倫理」への理解を深めるために「倫理と企業マネジメント」をテーマに講演と意見交換を行いました。

図:AIアドバイザリーボードFY2022体制

図:AIアドバイザリーボードFY2022体制

(※1)NTTデータニュースリリース「AIアドバイザリーボードの設置について」

https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2021/041901/

新時代の到来と企業倫理

経営倫理学の大家である慶應義塾大学商学部教授の梅津光弘先生をお招きし「新時代の到来と企業倫理」と題して講演をいただきました。
まず、企業における倫理の位置づけの変化として、1990年代までは企業活動と倫理は水と油と言われていたのが、1990年代後半から企業の不祥事が盛んに報じられるようになったことで倫理への意識が持たれるようになり、さらにCSR(企業の社会的責任)という立ち位置から倫理が前向きにとらえられるようになったこと、また、2000年代に入って国連でもグローバルで倫理を中心としたプログラムが出てくるようになり、現在のSDGsや金融の側面からのESG投資に繋がっていることを紹介されました。
続いて、現在、倫理が企業経営のメインストリームとして求められるようになってきたことについて、時代の変化と共に、企業活動に関係するステイクホルダーの増加(社会的拡がり)および地球環境や資源の問題から将来へのサステナビリティ(時間軸の広がり)の視点が必要となったことを述べられました。

また、直近のトレンドであるDXは、非常に便利になるという期待がある一方で、同時にプライバシーや情報漏洩などの問題が後を絶たないことから、倫理面でのコンセンサスが取れている場合には推進すべきだが、そうでない場合は技術の暴走を招き、事後対応では遅きに失する危惧があることを指摘されました。

こうした背景を踏まえ、企業における倫理の確立のために乗り越えるべき3つのGAPについて、これまで様々な企業にアドバイスをされてきたご経験を踏まえて紹介されました。

  • 世代間のGAP:
    世代間での価値観のGAP。例えば、歴史問題は年配の方が鋭く、環境問題は若い世代の方が鋭いなど、違いはあらゆるところにあり、世代間の対話が希薄になることでさらにGAPが広がることが懸念される。
  • 幹部と現場のGAP:
    現場で行われているルール違反を幹部が全く把握できていないGAP。例えば、現場は納期至上主義で、納期を優先するために決められた品質チェックのルールを守っていない状況を幹部が全く気付いていない状態。
  • 新技術と社会規範のGAP:
    新しい技術を社会に導入する際に生じるGAP。技術は自然界にないものを人間が人工物として作るものであり、必ずしも人類を幸福にするとは限らず、害となる場合もあるため、人類に対してどのようなことが起こりうるかを考える必要がある。しかし、画期的な新しい技術ができた時は、早く世の中に出したものが勝ち、という感覚の技術者もいるのが実態。

最後に、GAPを埋めるためには、各所をつなぐ中間組織の重要性を指摘され、講演を終えられました。

企業倫理とサステナビリティ経営

続いて、サステナビリティ経営推進部の金田シニアスペシャリストからは、NTTデータのサステナビリティ経営において「倫理がその中心にある」とのプレゼンテーションがありました。具体的には、昨年5月に改訂された「NTTデータグループ行動規範」を取り上げ、条文の筆頭には、「1.1倫理的で責任ある事業活動」が掲げられ、さらに、社会の変化に対応する形で、AI倫理の重要性を直接的に示す「4.8テクノロジー倫理」が新たに加わったことを参加者間で共有しました。

他方、加速する当社のグローバル化を鑑み、以下のような難しい判断を求められる状況に直面する機会も増えてくるとの指摘もありました。

  • 市場に参加できる大多数の人々の幸福を実現さえすれば、取り残された人々がいても、その企業は倫理的と言えるか?
  • 社会的に良くない結果を招くことに途中から気がついていても、現行の法や手続きにしっかりと対応してさえいれば、その企業は倫理的なのか?
  • グローバル企業にとって、自由で公正な競争は大切。その結果として社会的に弱い立場の方々が生まれたとしても、後からしっかりと救済すれば、その企業は倫理的なのか?

最後に、グローバルTOP5企業には、その社会的な影響力を自覚した立ち振る舞いが求められるため、サステナビリティ経営推進部としても、時代と共に変化するグローバルな倫理問題に注目していきたいと述べ、プレゼンテーションを終えました。

活発な議論の一部をご紹介

講演を受けたディスカッションでは、主に倫理の確立におけるGAPの埋め方について梅津先生との議論がありました。

倫理確立のために乗り越えるべき3つのGAPの埋め方について

ダイバーシティのある観点から人の意見を取り入れることがポイントで、一番弱いステイクホルダーをケアする意識が必要であることを指摘されました。

今後グローバル化により生じるであろう、リージョンやカントリー間にあると思われる倫理のGAPにどのように対処するべきか

国連で採択されているUniversal Declaration of Human Rights(世界人権宣言)を挙げられ、基本的には文化は異なれど、人権は等しいことを念頭に、これをベースにすること。そして社内の体制については、課長クラスが主導するミドルアップアンドダウンができると良いことを紹介され、具体的にはコアバリュー(Principle)を決め、各地域の法律や文化的な状況に合わせて中央集権ルールへの意見を各リージョンから集めて調整していく進め方を紹介されました。

今後に向けて

今回の勉強会では、倫理と企業における確立について活発な議論がありました。倫理的で且つ社会から受容されるAIを提供可能な能力や体制を持つことが、企業ブランド価値に繋がると考えられます。NTTデータは、AIアドバイザリーボードでの議論結果を取り入れつつ、AI関連プロジェクトにおける問題発生を抑制するとともに、提供するAIソリューションの品質/信頼性を向上し、安心・安全なAIを利活用できる環境を整備していきます。

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