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2023年3月17日事例を知る

自社の事業活動が自然に与える影響をどう測る?
~デジタル3D地図の活用で、自然の状態や機能を把握・測定~

自然関連情報開示の動向を受けて、事業者は自社やサプライチェーンの自然への依存関係や影響の測定・評価が求められる可能性がある。本稿では、自然との依存関係と影響を調べる方法の一つとして、自然状態等の把握・測定への活用が期待される「衛星画像を用いたデジタル3D地図」(AW3D®(※1))事例を用いて解説する。

(※1)

「AW3D」は、日本国内における株式会社NTTデータと一般財団法人リモート・センシング技術センターの登録商標です。

目次

1.自然関連情報開示における依存関係と影響

2023年度は、自然関連情報開示に関して、一層の議論の進展が期待されています。2022年12月の国連生物多様性条約締約国会議(CBD COP15)における昆明・モントリオール目標の採択を受け、各国における検討が進むことが予想されるほか、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)においても、2023年春にはベータ版v0.4、秋には最終提言の公表が予定されています。これらをふまえ、2023年秋以降、企業における検討が加速することが見通されます。
TNFDは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)と異なる点として、自社・サプライチェーンを含め、活動拠点別の情報が求められると共に、自然への「依存関係」や「影響」の把握が求められます。また、TCFDにおける温室効果ガス排出量という共通の尺度ではなく、多様な指標で自社の活動の自然への依存関係や影響を捉える必要があることなどがあげられます(※2)
活動拠点といったロケーション情報の把握や依存関係・影響の測定・評価は、実務上の対応も容易ではありません。自身の事業活動が、自然に対してどのような依存関係・影響を持っているのか、体系的な検討をしたことがない、測定・評価したこともない・・という方も多いのではないでしょうか。
本稿では、自社・サプライチェーンの事業活動から生じる依存関係や影響には一般にどのようなものがあげられるのか、また、実際の依存関係や影響を測定・評価するための方法としてNTTデータのデジタル3D地図サービス「AW3D®」の活用についてお伝えします。

(※2)TNFDとTCFDの違いや、自然への依存関係・影響については、過去のDATA INSIGHTを参照

2.依存関係と影響を調べてみる

自然への依存関係・影響を確認するためのツールとして、「ENCORE」(※3)というツールが公開されています。ENCOREを使うと、その産業や生産プロセスに応じて、一般的にどのような自然への依存関係・影響があるのかを確認することが可能です。
試しに、食品製造業と再生可能エネルギー産業について調べてみます。
食品製造業では、製造業単体として、水資源への依存や、取水、廃棄物排出を通じた自然への影響等の重要性が高いとされています。そして、食品業界としては、そのサプライチェーンの上流において、農業などの一次産業と深く関わっていることから、地質、水質、気候調整機能、受粉機能など、多様な生態系サービスへの依存が見られ、重要性も高い状況です。自然への影響として、取水や水質汚染、土壌汚染、生態系への影響等の重要性が高くなっています。(※4)
再生可能エネルギー産業では、風力発電事業について調べてみると、地形や海流等からもたらされる気候調整機能への依存や、生態系への影響について、重要性が高いとされています。(※5)

このように、各産業の特性に応じて、一般的にどのような依存関係や影響があるか、ENCOREを通じて理解することができます。
ただし、実際の開示においては、こうした一般的な情報だけではなく、現場ごとの依存関係や影響について測定・評価し、それに基づきリスク管理や開示を行っていくことが必要です。このため、実際の事業拠点の場所を特定したうえで、その周辺における自然との依存関係や影響を測定・評価することが求められます。自身やサプライチェーン上の活動において生じる依存関係や影響に関し、どのように測定・評価を進めることが考えられるでしょうか。

(※3)ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)

https://encore.naturalcapital.finance/en

(※4)出典:ENCORE

食品産業については、Sector: Consumer staples, Sub-industry: Packaged foods & Meats, Production Process: Processed food and drink productionにて検索
農業については、Sector: Consumer staples, Sub-industry: Agricultural Products, Production Process: Large-scale irrigated arable cropsにて検索

(※5)出典:ENCORE

Sector: Utilities, Sub-industry: Renewable Electricity, Production Process: Wind Energy Provisionにて検索

3.デジタル3D地図AW3D®を用いた自然環境の分析

ここでは、AW3Dを用いて自然に関する情報を把握・解析した3つのユースケースをご紹介します。

(1)AW3D®とは

NTTデータが提供する「AW3D®」は、最高性能の衛星群と、最先端画像処理技術の掛け合わせにより生み出されるデジタル3D地図です。2.5m解像度で全世界の陸域をカバーするとともに、日本国内においては、50cm解像度で日本全土をカバーしており、世界最高精度の地図データとなっています。都市計画や建設、交通など様々な分野で活用されていますが、自然に関する解析や可視化についても大きな活用が大きく期待されている技術です。

図1:AW3D®イメージ

図1:AW3D®イメージ

(2)画像解析による土壌の肥沃度の把握

土壌の肥沃度を確認するため、AW3D®を用いて、農業用圃場の衛星画像解析を行いました。実際の土壌分析結果と照合することにより、衛星画像により土壌分析から土壌肥沃度などを評価することが可能です。この解析技術をもとに、農業分野における適正施肥(土壌の肥沃度をふまえ、肥料を必要量のみ施肥することで、過剰な肥料施用を避ける取組み)を実践することで、農業者は過剰な肥料コストを抑えることができると共に、地下水などの水域に過剰に肥料成分が溶け出し水質汚染につながるリスクなどを抑えることにもつながります。

図2:圃場別の土壌の肥沃度ヒートマップイメージ 出典:NTTデータ ©NTT DATA, Included ©Maxar Technologies,Inc.

図2:圃場別の土壌の肥沃度ヒートマップイメージ
出典:NTTデータ ©NTT DATA, Included ©Maxar Technologies,Inc.

農業生産現場においては、地質や土地の肥沃度に依存した生産が行われています。そのため、自身の操業の影響や、その他何らかの原因により、土地の肥沃度が劣化すれば、将来的に生産が難しくなることも考えられます。AW3D®を用いて、土地の肥沃度の変化を経年把握するなどにより、対策の必要性判断や、効果測定、事業上のリスクの有無に関する判断材料に活用することが期待されます。

(3)長期時系列比較による土地利用変化の把握

衛星画像解析では、1970年代までさかのぼって衛星データを活用し、全世界の地表状態を時系列分析に活用することが可能です。たとえば、西アフリカのシエラレオネでは、同一地域の過去40年近くにわたる地表の画像を基に、温暖化によってどのように緑地・森林の減少などを含む土地利用変化を分析し、これらをもとに、気候変動対策の立案等に生かしています。また、地表の画像データ解析により、たとえば森林であれば、樹種や森林資源量を把握することも可能であり、土地利用の状況について、面積のみならず、より自然の効用に直結する指標の測定も可能です。

図3:シエラレオネにおける土地利用変化の長期時系列比較イメージ (出典:NTTデータ ©NTT DATA, Included ©Maxar Technologies,Inc.)

図3:シエラレオネにおける土地利用変化の長期時系列比較イメージ
(出典:NTTデータ ©NTT DATA, Included ©Maxar Technologies,Inc.)

農業・食品分野をはじめとして、土地利用に関わる多くの分野では、その製品が、サプライチェーンにおいて森林破壊や土壌汚染といったに自然への悪影響へ関わっていないかが関心事項となっています。たとえばEUでは、気候変動対策とあわせ、生物多様性保護の観点から、EU域内で販売等を行う農産品(大豆、牛肉、パーム油他)に対し、森林デューディリジェンスの実施を企業に義務付ける法案が2022年12月に合意されました。森林破壊によって開発された農地で生産されていないことを確認するための取り組みです。
AW3D®を用いた土地利用状況の時系列比較を行うことで、生産拠点の確保・拡大などの活動が、森林破壊により生み出されたものでないことを確認する、あるいは森林保全活動を行っている場合の森林の保全状況・効果等を把握・評価することができます。

(4)ユースケース 3D地図の特色を生かした風況把握

風力発電においては、複雑な地形上において生じる乱気流が風車に悪影響を与えるリスクに注意が必要です。AW3D®を用いて詳細な3D地形情報と風況解析ソフトウェアを用いた数値解析を行うことで、安定かつ効率的な発電が可能となる風車位置の候補選定に役立てています。
AW3D®を利用する以前は、無償で提供されている精度・解像度が粗いデータを用いており、精度の高いシミュレーション結果を得ることができませんでした。AW3D®の活用により詳細なシミュレーションが可能となり、再生可能エネルギーの発電効率増加に寄与しています。

図4:風況解析ソフトウェアによる解析結果イメージ ©Tsubasa Windfarm Design RIAM-COMPACT<sup>®</sup>、NTTデータ

風況解析ソフトウェアによる解析結果イメージ
©Tsubasa Windfarm Design RIAM-COMPACT®、NTTデータ

風力発電事業は、地形や海流などの自然によって生み出される風に依存しています。そのため、何らかの原因で風力や風向が変化したり、乱気流の発生状況に変化したりすると、操業効率などに影響が生じることも考えられます。AW3D®を用いた3D地形情報を基にした解析により、周囲の環境変化や気候変動等をふまえて、どのような風の変化が生じうるか、対策の必要性判断や、効果測定、事業上のリスクの有無に関する判断材料に活用することが期待されます。

4.まとめ

今回は、自然関連情報開示のなかでも、自然への依存関係・影響の測定・評価という観点に着目し、TNFDより公開されているツールの一つであるENCOREを利用した依存関係の特定から、測定・評価に活用しうるデジタルツールとしてAW3D®をご紹介しました。
自然への依存関係の特定から、サプライチェーンや現場ごとに土壌汚染や水質汚染などの影響を実測することは、多大な労力がかかるものです。衛星画像解析によるソリューションは、広範囲を一度に・効率的に分析・評価ができる利点があり、多数あるいは面的に広がる活動拠点がある場合に効果を発揮します。本文中でご紹介したユースケースの他にも、再生可能エネルギーの一つである地熱エネルギー探査や、森林や農地におけるCO2吸収量の把握にも活用することが可能です。
NTTデータでは、今回ご紹介したAW3D®の他にも、サプライチェーンを一貫する情報管理や、サプライヤーエンゲージメントの強化、またリスク管理に向けたソリューションなど、自然関連情報開示の様々な側面に関わるデジタル技術の開発・提供を行っています。今後も、ネイチャーポジティブな社会の構築に貢献できるよう取り組んでまいります。

参考

AW3Dについて

2014年2月、NTTデータとRESTECは、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち(ALOS))」が撮影した約300万枚の衛星画像を使い、世界で初めて5m解像度の数値標高モデル[Digital Elevation Model(DEM)]で世界中の陸地の起伏を表現している全世界デジタル3D地図のサービス提供を開始しました。
2015年5月からは、都市計画等の分野において利用を広げるために米国の民間衛星会社MAXARの衛星画像を活用した高精細版3D地図の提供を開始しました。これにより最高50cm解像度を実現し、都市エリアを中心とした「建築物」レベルの細かな起伏の表現が可能となりました。さらにAI等最先端技術を用いた地物情報抽出にも取り組んでおり、お客さま業務の短工期化、低コスト化を支援しています。
AW3Dは、世界130カ国以上・3000プロジェクト以上で、新興国におけるインフラ整備や防災対策などの社会問題の解決に活用されており、社会および経済発展へ貢献しています。
AW3D Webサイト http://www.aw3d.jp/

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