NTT DATA

DATA INSIGHT

NTTデータの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

絞り込み検索
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2023年5月18日事例を知る

異なる決済アプリや銀行口座への送金を可能にした小口決済サービス「ことら」~誕生までの軌跡~

2020年7月に政府が閣議決定した「成長戦略実行計画」に盛り込まれた「多頻度小口決済を想定した新資金決済システムの構築」。これに応える形で、2022年10月、NTTデータが開発を手掛けた小口決済サービス「ことら」がリリースされた。「J-Debit/CAFIS」の仕組みを活用して他行の銀行口座や異なるキャッシュレス決済アカウントにシームレスに送金ができ、手数料も低く抑えることができるこのサービスは、どのようにして生まれ、人々の生活にどう影響を与えるのか。株式会社ことら代表取締役社長 川越 洋氏と、NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 課長 深澤 宏充に話を聞いた。
目次

大手銀行5行が打ち出した小口決済インフラ構想

スマートフォンの普及や人々のライフスタイルの変化などが追い風となり、キャッシュレス決済の利用者は増加の一途にある。経済産業省によると、2022年のキャッシュレス決済比率は36%(111兆円)(※)に達しており、キャッシュレス決済の推進を掲げる同省では、2025年までに約40%まで引き上げることをめざしている。

このようにキャッシュレス決済は今後更なる普及が見込まれる一方で、手数料は、一部で引き下げの動きがあるものの依然として割高なものもあり、普及が遅れている要因の1つとなっている。

そうしたなか、2020年7月に政府が発表した「成長戦略実行計画」には、「多頻度小口決済を想定した新資金決済システムの構築」が盛り込まれた。これを受けて翌8月には、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行の大手銀行5行による小口決済インフラ構想が発表された。それが、全銀システムをはじめとする既存の仕組みと最新のIT技術を組み合わせ、利便性の高い送金サービスを安価に提供する「ことらプロジェクト」だ。

大手銀行で長年、決済システムに携わり、現在は株式会社ことらの代表取締役社長を務める川越 洋氏はこう振り返る。

株式会社ことら 代表取締役社長

株式会社ことら
代表取締役社長
川越 洋 氏

「2019年頃から出身行の中で小口決済インフラ構築の可能性を検討していました。そのとき着目したのが、当時から普及していたキャッシュカードで即時に口座引き落としができるサービス『J-Debit』と、そのカード処理で使われている国内最大のカード決済ネットワーク『CAFIS』でした。すでに多くの金融機関が対応しているこの基盤を活用することで、新しい銀行決済のインフラがつくれるのではないかと考え、CAFISを開発したNTTデータに相談したのが『ことら(COTRA)』誕生のきっかけでした」(川越氏)

(※)経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」(2023年4月6日)より

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html

異なる決済アプリや銀行口座へシームレスに送金

「ことら送金」は、10万円以下の個人間送金を対象としており、対応しているスマートフォンアプリから携帯電話番号やメールアドレスなどを使って24時間365日、簡単に送金することができる。

最大の特長は、異なる決済アプリ間や、決済アプリから銀行の口座へシームレスに、無料もしくは低い手数料で送金できることだ。その利便性の高さが評判を呼び、利用者は順調に増加。「ことら送金」に対応する金融機関も着実に増えつづけている。現在、「ことら送金」が利用可能な金融機関は49行、今後対応予定の信用金庫なども含めると231の金融機関まで広がり、「ことら」でつながる個人口座の合計は2億6000万口座にも及ぶ。

「日本国内には約1000の金融機関がありますので、その多くに『ことら』を採用していただけるようになるはずです。自前のアプリケーションのない金融機関であっても、Bank Payをはじめとした共同利用型のアプリケーション4種に対応していますので、それらを経由することで『ことら』を利用していただけます」(川越氏)

図1:「ことら」を介してシームレスにつながる

図1:「ことら」を介してシームレスにつながる

利用用途はこれまでは個人間の送金がメインだったが、2023年4月から自動車税や固定資産税といった税の納付なども可能になり、その用途は更なる広がりを見せている。

“超高速ウォーターフォール”方式で、柔軟・迅速・安全安心な開発を実現

「ことら」はその仕組みもさることながら、開発スピードの速さでも注目された。

開発は2021年8月頃に始まり、まずは要件定義から着手した。その後半年かけて構想をブレイクダウン。わずか1年後の2022年7月には本番環境のシステムがリリースされ、同年10月11日、日本初のインスタントペイメントサービスとしてエンドユーザー向けに開放された。

この驚異的なスピードでの開発を可能にしたのが“超高速ウォーターフォール”方式だ。NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部 課長の深澤 宏充はその特長を次のように話す。

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部 課長 深澤 宏充

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部 課長
深澤 宏充

「このアプローチは難易度の高い機能から段階的に開発していくため、変更にも柔軟に対応できるという特長があります。開発中に明らかになった課題に対しても、その解決をあとの工程で行いやすいのが大きなメリットでした」(深澤)

川越氏も開発スピードの速さを高く評価している。

「イギリスでは2008年から、アメリカでも2016年頃から同様の小口決済サービスがスタートしていて、日本はこの分野で5年も10年も遅れをとっている状態でした。そのため、スピーディーな開発は至上命題でしたが、システムの特性から安全安心も譲歩できない命題でした。そうした難しい課題に対して、知見の豊富なNTTデータがシステムの基本構想からともに歩んでくれたからこそ、先端ではあっても“こなれている”技術を活用し、迅速に開発を進めることができました」(川越氏)

図2:「ことら送金」のイメージ

図2:「ことら送金」のイメージ

また、従来の金融決済インフラといえば、オンプレミス環境で強固なセキュリティを確保するというのが定番だったが、「ことら」はクラウドでありながらセキュリティについても高度なレベルを実現した日本初の金融決済インフラとなった。

「クラウドを採用したことの最大のメリットは可用性です。クラウドであれば、取引の増大に応じて比較的簡単にリソースを増強し、可用性を高めることができるため、クラウドを活用した取引は今後増大していくことが想定されています。また、外部との接続部分にはパブリッククラウドを、個人情報を取り扱う領域についてはオンプレミス環境でといったように、適材適所な構成とすることで、可用性と同時にセキュリティもまた確保することに成功しています」(深澤)

川越氏は、長年、大規模金融システムの運用を手掛けてきたNTTデータに信頼を寄せる。

「やはりお金を扱うインフラですから、何と言っても安全安心は最優先のテーマであり、障害を起こさず日々、安定稼働することが一番大事です。昨今はサイバー攻撃の脅威も高まっていますので、高い専門性、知見、豊富な経験を有するNTTデータの支援を受けながら、万全の体制を整えていきたいと思います」(川越氏)

新しいキャッシュレス時代を牽引するインフラへ

経済産業省は、将来的にはキャッシュレス決済比率を世界最高水準の80%まで引き上げ、データがシームレスに連携されるデジタル社会を実現することをめざしている。これからの“新キャッシュレス時代”を牽引するインフラとして「ことら」にはさらなる進化とサービス拡充への期待がかかる。

「『ことら』の使命であるキャッシュレス決済そのものを推進していくという目標は、NTTデータが長年めざしてきたことでもあります。今後、消費者のキャッシュレス需要が増えていくことは確実ですので、お客さまに寄り添いながらお手伝いできれば光栄です」(深澤)

お問い合わせ