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デジタル化の進展により可視化可能な対象が増え、その制御の主導権は新たな主体によりリードされる。デジタルとフィジカル、国境、産業の垣根を越えた新たなパワーバランスが形成され、社会の枠組みが変革していく。

デジタルがもたらす変化

デジタル化の進展がもたらした創造的破壊がこれまでのビジネスルールや社会の在り方を一変させようとしている。近年注目されたUberやAirbnbなどはその最たるもので、移動や宿泊の在り方を大きく変革した。

このようなデジタルイノベーションが生じる背景には、テクノロジーの進化によってあらゆる事象の状態がデータとして把握され、さらにそれらをコントロールすることが容易となったことがある。

例えば、人工衛星は小型化され、再利用可能なロケットにより低コストでの打ち上げが現実のものとなりつつある。それらの衛星から得られる従来とは比較にならない量のデータを用いれば、天気予報の精確さや、台風や竜巻といった自然災害の発生予測を飛躍的に改善できるかもしれない。また、個人の声や表情からその人の感情を把握したり、脳波から深層心理で何を感じ、何を望んでいるのかも分かるかもしれない。これらは夢物語ではなく、テクノロジーの進化により現実に起きている話だ。

デジタル化は、既存の常識を覆し、従来のビジネスの枠組みを崩壊させ、新たなパワーバランスを創り上げていく。我々の社会やビジネスは、今まさに革命的な変化の只中にあるのだ。

主導権のシフト

デジタル革命が社会にもたらすインパクトの一つは、主導権のシフトであろう。これまで特定の業界やユーザだけに閉じられていた情報、暗黙的に扱われていた人々のノウハウや感覚など可視化できていなかった事象が、テクノロジーにより可視化され、流通されることで、誰もが活用することが可能となりつつある。その結果、新たなプレーヤーの参入が容易となり、主導権のシフトが様々な領域で起こり始めるだろう。このうねりは、あらゆる産業の在り方や構造を変化させていく。

例えば、医療業界では検査情報を病院が管理し、患者は自身の医療情報を入手するために費用と時間を支払ってきた。今では普段の健康状態の計測はもちろんのこと、病院で管理されていたヘルスレコードをスマートデバイスに集約し、患者自身の手で管理できる仕組みが広まりつつある。自らが信頼する医師・病院に対して医療情報を開示し、健康増進の助言を受け取ることさえ可能だ。これは、医療情報を保護しつつも、その流通を可能とするテクノロジーの出現が後押ししている。医療情報のコントロールに関する主導権が病院から個人へとシフトし始めているのだ。

プラットフォーマーに転じることで、今後数十年間にわたるモビリティサービスの在り方を変えようとしている自動車製造企業もある。運転の目的は、移動、輸送、余暇など多岐にわたるが、新たなプラットフォーマーがめざす所はそこだけに留まらない。モビリティ内部の空間を目的に応じて柔軟に変えることで、移動可能な空間を提供することが狙いだ。その空間にはショッピング用の店舗、映画館、レストランなど、様々なニーズを搭載できる。従来自動車産業が主導してきた人が乗り移動するためのモビリティという概念を、このプラットフォームは、あらゆるサービス、産業が活用可能なモビリティスペースという概念へと変化させようとしている。その結果、モビリティの主導権は様々な産業へシフトしていくだろう。

新たなプラットフォームの出現は、そこを起点としたビジネスを企図するプレーヤーの参入を促す。そこで形成される新たなエコシステムは、従来の価値観や慣習を越える力を秘めており、新たな主導権をも生み出していくだろう。デジタル化の進展によって生じる主導権のシフトは、あらゆる領域で発生し、既存の業界を変革させる力を持っているのだ。

デジタルとフィジカルの融合

デジタル化は、様々な面での主導権シフトを促している。物理空間もその一つだ。デジタルとフィジカルが融合することにより物理空間の制御権をも人にシフトさせることを可能にした。

従来は空間や時間に縛られていたことが、XR※1空間という助けを借りることで、「いつでも・どこでも・誰とでも」、物理的な制約を越えて行動することや意思の疎通を図ることが可能となった。XR空間の中では、遠く離れた場所にいる人々と協働し、つながりを持つことができる。さらにその空間では、物理世界では再現が難しいシーンを再生することで能力開発やシミュレーションを行うことも可能となる。空間をコントロールすることで新たな体験を創り出し、体験を複製して共有することで、物理的な距離・空間を越えてモノや人にアクセスできるようになった。

XR空間に入り込むためのHMD(Head Mounted Display)は、様々な産業に取り入れられている。例えば、建築業界では設計時点で完成後の建造物をCGによる3D表現によってあらゆる角度から見たり、屋内を歩いたりすることが可能であり、また建築現場に遠隔地からアバターとして参加することでリアルな情報の共有もできつつある。製造業においても同様で、これらにより時には過酷となる現場を離れることができるとともに、属人化した知識や技能を継承することも容易となる。

デジタル化はあらゆるものの主導権をシフトさせる力を持つ。それは、産業のみならず、われわれ人間の身体的限界をも超越可能とするのだ。

パワーバランスの変化

デジタル技術を駆使した破壊的なイノベーションは、従来のビジネスモデルや顧客との関わり方を変え、社会のパワーバランスをも変えている。

MaaS※2は、移動そのものの体験、提供者、人や都市との関わりを変える可能性を秘めている。公共交通、飛行機などを一つのアプリからワンストップで予約し、将来的に目的地へのラストワンマイルには自動運転のサービスカーも接続されることがめざされている。さらに、様々なシェアリングサービスがつながることにより、個人自らが望むサービスを移動や旅行の中に取り入れ、新たな体験を自分で組み立てることが可能になるだろう。従来のような限られた地域で、限られた事業者が、限られたサービスを提供するのではなく、新たに形成されたパワーバランスの中で都市内や地域、ひいては国内全域から海外までシームレスに移動することが、近い将来には当たり前となるかもしれない。

このようなパワーバランスの変化の中心は、プラットフォーマーや従来の価値観に囚われないスタートアップ企業だけではない。インフラを担う企業や自治体、伝統ある企業、そしてデジタルを使いこなす新たなプレーヤーもがその主役になり、社会に変化をもたらす原動力となるだろう。

境界なきイノベーション

デジタル化が進展した社会は、物理・空間的制約が弱まり、あらゆるモノや仕組みを制御可能としつつある。そして、その制御の主導権のシフトが進むことによって、既存の産業構造に敷かれている境界まで無くなってしまう可能性が現れ始めている。境界を越え、異なる価値観や慣習が衝突・融合することで、パワーバランスが変化していく。境界なきイノベーションがそれを主導し、新たなビジネスや社会の仕組みを絶え間なく生み出していくだろう。