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「ムーアの法則」終焉が叫ばれてもシステム高速化の要求は止まない。用途に特化したインフラや、全く新たなコンピュータが要望に応えるべく登場している。企業にはサービス強化を実現する高速なインフラを慎重に選択する技量が要求される。

ビジネス戦略の要となるITインフラ

ITインフラの戦略的選択が、デジタルビジネスの競争優位を確保するための重要な戦略となった。これまでITインフラは、汎用プロセッサを中心にした構築が一般的で、競争優位とはもっぱらアプリケーションの出来に左右されてきた。しかし状況は変わった。ディープラーニングのような既存プロセッサでは対応できない新たな用途が台頭した。モバイルが最も重要な顧客接点になり、顧客体験最優先のサービス設計が求められるなどビジネスの要求が変化した。加えて、汎用プロセッサの進化は大幅に鈍化した。

例えばAIを活用する能力は、間違いなく現代のビジネスの優劣に強く影響するが、AIを支えるITインフラの要は、汎用プロセッサではなく超並列処理を実現するGPUが担う。GPUこそが、ディープラーニングを具体化しAI全盛の時代をもたらしたことに疑いの余地はない。企業はこぞってこのプロセッサを大量導入した。しかしAI活用によるビジネス優位を追求する一部の企業は、独自のAIプロセッサ開発に着手した。AIに特化した高速かつ高効率なプロセッサの開発に成功した企業は、続々と革新的成果をあげ、その後同様の動きは大きく広がることになった。

スマートフォンは、あらゆるデジタルビジネスにおける客との直接的な接点として活用している。スマートフォンの快適な操作感、高速な生体認証、重視される写真品質、そして電池の持ちなどを規定するITインフラは、高速かつ低消費電力のモバイルプロセッサだ。今や標準化された部品を集めれば、比較的容易に参入可能なレベルに成熟したとされるスマートフォン業界だが、トップシェアを争う企業は競争優位の確立を求めて独自プロセッサ開発に注力する。年間2億台を出荷するトップ企業から、急速に実力をつける新興企業まで、各社の特性を詰め込んだプロセッサが開発され、ユニークな機能を提供してスマートフォンの魅力を高めている。

デジタルビジネスがもたらす次の競争領域は間違いなくモビリティ分野だ。自動運転技術は状況認識や判断のために、センサフュージョンやディープラーニング、クラウド連携など幅広い機能を要求する。こうした多彩な機能を過酷な環境下でしかも低電力に実現するITインフラはEdgeプロセッサと総称される。新たな領域の新たな用途に適合するプロセッサが様々に提案されている。各社は自社の意向を取り入れたプロセッサの確保に将来の覇権をかけている。

このようにITインフラをビジネス戦略の要として捉え、必要ならばプロセッサを自社開発する企業が増加している事実は注目すべきだろう。サービスの競争優位をめざして、顧客接点の改善を追求した結果、自らハードウェア開発に乗り出していく必然性が生まれているのだ。

微細化によるプロセッサ高速化

ITインフラの要であるプロセッサの高速化は、これまで半導体製造プロセスの微細化によってもたらされてきた。微細化技術によってプロセッサに載るトランジスタを小型化すればするほど、高速化と省電力が実現できた。企業は自らのソフトウェア資産に手を加えずとも最新のプロセッサを導入し続ければ、処理時間を短縮し省電力化も実現できる大きなメリットを享受し続けてきた。今現在も、この微細化は確かに継続している。最新製造プロセスではゲート長7nmの微細化が実現され、続々と出荷されている。極端紫外線(EUV)を利用して、ゲート長5nmというさらなる微細化を成し遂げる見通しも立っている。

だが長年続いた連続的な微細化は技術的難度が増し、実現ペースは低下している。事実、2018年中にゲート長7nmの微細化製品を出荷したのは一社に留まり、製造にこぎ着けず製品供給が遅れる企業や、微細化競争から脱落する企業まで現れた。今後は、技術的困難さとコストの問題から微細化ペースのさらなる鈍化が想定される。継続的な高速化を前提として、ITインフラを選択するビジネス戦略は再考が必要だろう。

目的特化がもたらす飛躍的高速化

プロセス微細化による高速化に陰りが見える中、新たな高速化を担う主役となったのが利用目的に特化したプロセッサだ。目的特化プロセッサではその名の通り、特定の目的に機能を絞り込み、専用のソフトウェアと組み合わせて高速性や電力効率を実現する。

AIに特化したプロセッサはその代表例だろう。AIの学習・推論それぞれに特化し、さらに利用するフレームワーク向けに絞り込んだアルゴリズムを埋め込んだプロセッサが次々に登場している。現在、大手クラウドベンダは揃って独自のクラウドAIプロセッサを開発している。クラウドで高効率に高速のAIを提供することが、自社のサービス革新にとってはもちろん、クラウドの利用価値を増大させることにつながるのは間違いない。

Edgeプロセッサは、先に述べた自動運転だけでなく、協働作業向けモジュール連携ロボット、センシングなど、その目的は様々だ。ここで利用される目的特化プロセッサは複数の機能を統合している。近年は、様々な目的特化要素を効率よく組み合わせるノウハウも蓄積されつつある。ビジネス目的を達成する適切な組合せと機能バランスの探求が進むだろう。

さらに目的特化したプロセッサは、技術進化や変化の激しいデジタルビジネスでは陳腐化も速いという課題にも対策が進もうとしている。例えば機械学習に特化したプロセッサでも、機械学習フレームワークの違いであれば、柔軟性を持って対応できるプロセッサが提案されている。

プロセッサの基本設計に関わる知的財産をオープン化する取組みとも相まって、今後も目的特化プロセッサ開発への参入と技術革新は活発に続くだろう。

新たなコンピュータがもたらす飛躍的高速化

高速化の様々な手法を駆使しても現状のコンピュータでは、人類の課題に挑むにはまだ力不足だ。例えば、人の脳の神経回路の動きを1分間シミュレーションするためには、スーパーコンピュータでも5分以上を費やす。しかもそれは脳全体の0.5%を計算しているに過ぎない。流体力学や創薬など巨大データを高速処理するコンピュータへの渇望は続いている。

巨大メモリを扱うコンピュータは一つの解答だ。現代のコンピュータはプロセッサが扱えるメモリ量に限界があり、それがそのまま計算規模を規定している。近年進化が著しい広帯域の大容量メモリを接続したプロセッサを複数連結して互いに共有する技術や、超巨大メモリを一括制御して複数ノードで利用する技術など、様々な提案がなされている。

量子力学を応用した量子ゲートにより超並列処理を行う量子コンピュータの実現に、現在のコンピュータを超越する性能が期待される。特に汎用性が期待される量子ゲート方式は、実用化に向け複数の企業が巨額の資金を投じて開発競争に名乗りをあげ、多くのベンチャー企業がソフトウェア開発に参入している。一方で組合せ最適化問題に特化した量子アニーリング方式は、複数のベンダが参入して商用化もが相次いでいる。各社ともまずは適切な用途を見つけることに専念しており、金融、交通、創薬などの分野で具体的な利用例を模索する動きが活発になっている。

注意すべきことは、これらの新たなコンピュータは現在のそれとは全く異なる操作が必要で、現在のコンピュータエンジニアやプログラマーがそのまま利用するのは難しいことだ。例えば同じく量子コンピュータを名乗っても各社の設計は全く別物であり、横断的な利用には膨大な数式の修正が必要だ。先に述べた目的特化プロセッサも同様の問題を抱える。新たなコンピュータの活用を活発化するためには、良質なソフトウェア開発環境の提供からディベロッパコミュニティの育成まで、プロセッサ本体以外にも中長期的な投資とコントロールが必要だ。これはすべての企業が選択できる戦略ではない。プロセッサを始めとするハードウェアにはあえて一切手を出さず徹底してクラウドを利用する一方で、強力なソフトウェア開発に集中して競争優位を築いている企業もある。ITインフラのより戦略的な選択が必要な時代になったと言えるだろう。