何をお探しですか?
連続的改善によりサービスを生み育てるデザインプロセスが企業競争力を支える。企業は柔軟性の高いITを最大限活用して変化を現実のビジネスに繋げる。事業変革をドライブする主役となったサービスが、様々な業態の姿を変えていく。

デジタルが加速させるサービスデザイン

サービスデザインは、顧客を定義し、顧客体験を最善にすべくビジネスに必要なあらゆる要素を組み上げる行為だ。顧客体験は、顧客が直接触れる広告・店舗・陳列・品揃え・接客・決済だけでなく、それらを提供するバックオフィスの活動からももたらされる。この体験を改善するためには、列挙された各接点で反応を測定し、さらに各接点トータルでの改善方法を探っていく。こうした作業を現実に、それも大規模に実施する困難さは容易に想像できるだろう。

しかしデジタルはサービスデザインを競争力の鉱脈に変えてみせた。人々の手には、ビジネスを提供する企業と顧客を直接的に接続するDirect To Consumer Channel(D2C Channel)となるスマートフォンが行き渡った。デジタルビジネスはこのチャネルを通じて顧客にサービスを提供するだけではなく、詳細なフィードバックをリアルタイムに取得できる。デジタルが顧客接点のほぼすべてを覆っているECはD2C Channelを活用したサービス提供とフィードバック収集、そして改善を繰り返すサービスデザインの端的な具体例だろう。スマートフォンのECアプリには、蓄積された膨大な購買履歴から個々人に適切な推奨商品が、適切な順序で提示される。選ばれた商品は、顧客が望むタイミングで最も効率的に配送されるべく物流システムに載っていく。ベテランのコンシェルジュを顧客一人ひとりにつけるが如きDesign For Oneのサービスが満足度を向上させる。商品をカートに入れて逡巡して購買ボタンを押さなかったといった顧客行動は子細に分析され、改善すべき顧客体験が抽出される。改善はソフトウェアの修正により即座に実現され、迅速に提供され、その成果に再び分析と改善が繰り返されるDesignOpsのループがまわっていく。

サービスデザインにより繰り返される改善が顧客満足を高め、競争力を生み出し、さらに多くの顧客を集めていく。ECが全小売売上高の13%を占め、さらに成長を続けている※1ことがその証左だろう。

サービスデザインを活用するビジネス領域の拡大

サービスデザインの手法は様々な領域に広がっている。既存の業態の仕組みが、サービスデザインを最大限活用する企業によって圧倒されていく例にはいとまが無い。B2BからC2Cにまで広がる様々な物販、ビデオや音楽のコンテンツサービス、旅行予約などに加え、処方薬の販売など、巨大で未開拓の領域への参入は話題を呼んでいる。サブスクリプションサービスなどD2C Channelとデジタルシステムがなければ実現不可能なビジネス形態も導入されていく。FinTechベンチャーもサービスデザイン手法を活用している。直感的なUIを持つ手数料無料投資アプリや、複数の債権と債務や条件をシンプルな資金計画にまとめるアプリを提供し、顧客体験を革新的に改善している例もある。バックエンド業務の自動化・効率化を手始めに、これまで複雑で理解が難しかった商習慣を顧客視点で整理して人気を博し、確保した大量の顧客情報によってターゲティング精度を向上させ、Design For Oneでさらにビジネスを拡大していく。

デジタル技術が、こうしたサービスデザインによるビジネスの拡大を支援しているのは間違いない。クラウドはビジネスアイデアの早期実現や、急激なスケール変化に対応し、Design For Oneを支える膨大なデータ処理を担っている。さらにクラウドは、改善ループの中で繰り返される様々なトライや迅速な戦略変更を支える柔軟性を増している。複数クラウドを横断するPolyCloudの活用や、COBOLのような過去からの継承資産ですらクラウドでスケーラブルに扱うServerless Architectureがその好例だろう。

激化するサービスデザイン競争

サービスデザインの有効性が明白になるにつれ、デジタルビジネス企業の競争は激化している。それはD2C Channelにおける顧客の可処分時間をより多く確保しようとする争いだ。これは、ビジネスを展開する業種が様々であってもD2C Channelは限定されるというデジタルビジネスの宿命だ。このチャネルで確保できる顧客の可処分時間の多寡は、顧客から得られる情報の量に等しく、サービスデザインの連続的改善の原資とも等しいのだ。現状のD2C Channelは、スマートフォンと、そこで動作するスマホアプリにより占められている。ユーザがこのチャネルに与える有限の時間をいかに自社のサービスに振り分けさせるかがビジネスの勝敗を決する。EC・広告・オンデマンドメディア・ハードウェアなど異なる収益基盤を持つデジタルビジネス企業は、D2C Channelの占有時間という同じ軸で争っているのだ。例えばチャットアプリをベースにエンタテイメント、EC、ペイメントだけでなく、投資信託、社会信用スコアまで統合して一つのアプリで提供する動きが加速しているのは、単一アプリでより多くの可処分時間を囲い込むために他ならない。一方でスマートフォンに変わる新たなD2C Channelで可処分時間に切り込む動きもある。音声UI を活用するスマートスピーカーや個々人の健康管理の入り口としてのスマートウォッチ、空間コンピューティングを用いた小型軽量の眼鏡型HMDには、将来的なチャネルの役割が期待され開発投資が続いている。

サービスデザインのさらなる展開

デジタルビジネスを展開する企業は、さらにサービスデザインの領域を開拓していく。例えば、日用品の購入にEC同様の顧客体験をもたらすレジ無し店舗が北米地域への複数店舗展開を開始した。今後、支店展開の速さ、大規模から小規模まで柔軟に対応できるスケーラビリティなど、デジタルビジネス同様の特性をリアル店舗にもたらす可能性を秘めている点でも注目すべき動きだ。

さらにモビリティの領域への進出は最も大きな事例になるだろう。自動運転技術は人の移動や荷物の運搬に必要不可欠だった運転者を不要にする。この革新が生み出すサービスに、すでにライドシェアサービスなどで顧客体験を革新してきた実績を持つデジタルビジネス企業が主導権を持って参入しようとしている。期待が高まる中、世界最初の自動運転タクシーを一般公開したのは、やはりデジタルビジネス企業であって伝統的自動車製造企業ではなかった。彼らのデモビデオには、自動運転という技術よりも、人々が考える望ましい移動の実現がアピールされていた。それはまさに最善の顧客体験を基点とするサービスデザインの手法と言えるだろう。

とはいえ課題も残っている。デジタルビジネスがデジタルで完結できる世界を超えてリアルビジネスに進出する際には、モノの扱いや品質といったデジタル化できない情報、自動化できない作業が常に課題となる。ECにおける配送、服飾品の試着、生鮮食料品の販売に伴う管理や物流など未だに試行錯誤が続く。この物理世界への対応、克服こそがデジタルビジネス成功のカギだが、その試みには失敗も多い。モビリティサービスに関わる顧客体験の革新が、既存の車を自動車メーカーから調達しただけで実現するとは考えにくいだろう。

これは、伝統的企業には、自らが持つ物理世界の競争力を活かすことで、デジタルイノベーションの主体となる選択肢があることを示している。ある自動車メーカーはサービスデザインから生まれた新しいビジネススタイルを取り入れつつ事業再編を進めている。営々と積み上げた生産技術が生み出すモノが人に与える満足感、品質がもたらす安心感、その中長期的な維持に必要な物理的サービス網をベースに、デジタルの持つ柔軟性やスピードがもたらす新しい顧客体験を組み合わせる戦略と言えるだろう。伝統的製造業が蓄積している技術やサービスは、デジタルビジネスほどのDesign For Oneやスピードはないまでも、地道なサービスデザインを実現してきた成果でありアドバンテージとなる可能性もある。

蓄積された価値を冷静に見つつ、大きく変化する競争原理を認識し、不足した要素を吸収すべく舵を切る選択肢を持つ企業はまだ残っているのだ。