1.IOWN技術導入の意義と目的
金融機関は、Fin-TechやDXの取り組みなどにおいて、大規模かつ継続的な変革に直面しており、顧客体験のパーソナライズ、データの活用、規制遵守、レガシーシステムの維持が求められます。安定的な金融サービスの提供には、金融システムの高い信頼性、耐災害性、高度な性能やセキュリティが重要であり、地理的に分散されたコンピューティング資源を活用することがシステム全体のレジリエンスを保つひとつの方策として期待されています。
IOWN Global Forumの金融ユースケース開発プロジェクトでは、次世代金融システム実現に向けたIOWN技術のユースケースとガイドラインを議論し、ホワイトペーパーにまとめています。金融機関が市場の課題を克服し、動的かつ回復力のあるサービス提供を支援することを目的とし、以下のステップで取り組みを進めています。
- 1.IOWNの金融ユースケースと主要要件の定義
- 2.技術評価基準の定義
- 3.参照実装モデル(※1)の定義
- 4.概念実証(PoC)リファレンス(※2)の定義
- 5.参照実装モデルとPoCリファレンスに基づいたPoCの評価
2024年7月発行のホワイトペーパー(※3)では、IOWN Global Forumの議論する技術が金融機関にどのように役立つかを示しました。これには上記の目標ステップ1とステップ2を記述しています。
2025年2月発行のホワイトペーパー(※4)はプロジェクトのステップ3および4に位置付けられ、IOWNの金融ユースケース実現に向けて、金融システムにおいてIOWN技術を活用するための参照実装モデルと、それを評価するためのガイドラインであるPoCリファレンスを示しています。
本稿では、最新のホワイトペーパーの概要とポイントを解説します。
IOWN技術を実現するための参考モデル
技術評価基準を用いて、ユーザが実装した参照実装モデルを評価するためのガイドライン
IOWN Global Forum: “Services Infrastructure for Financial Industry Use Case”, July 2024.https://iowngf.org/services-infrastructure-for-financial-industry-use-case/(2025-03-12 参照)
IOWN Global Forum: “Reference Implementation Model and Proof-of-Concept Reference of Services Infrastructure for Financial Industry”, February 2025.https://iowngf.org/reference-implementation-modeland-proof-of-concept-referenceof-services-infrastructure-forfinancial-industry-use-case/(2025-03-12 参照)
2.1つ目のポイント「参照実装モデル」
二つのIOWNの金融ユースケース「Intra-Region Use Case:地域内でのアプリケーション展開やデータ移行による運用の堅牢性と機敏性の向上」と「Inter-Region Use Case:地域間のデータバックアップや移行によるシステムの堅牢性の改善」についての参照実装モデルを記述しています。これらのユースケースは、データセンタ間の距離に基づき区別され、各ユースケースに応じた戦略とシステムアーキテクチャが説明されています。

図1:分散データセンタのモデル
(引用元:IOWN Global Forum, “Reference Implementation Model and Proof-of-Concept Reference of Services Infrastructure for Financial Industry”)
2-1.基本戦略とシステムアーキテクチャ
IOWNの金融ユースケース検討プロジェクトでは、IOWNのオープン・オールフォトニック・ネットワーク(Open APN)技術を利用し、データセンタおよびハイブリッドクラウドの接続を想定しています。この技術は、商用オフ・ザ・シェルフやオープンソース・ソフトウェアと組み合わせて使用され、コスト削減を実現します。これにより、従来の技術に比べエネルギー効率、パフォーマンス、レジリエンスが格段に向上し、より動的で柔軟なネットワーク管理が可能となります。
2-2.Intra-Region Use Case:地域内でのアプリケーション展開やデータ移行による運用の堅牢性と機敏性の向上
このユースケースでは、同一地域内の複数のデータセンタ間でサーバなどのハードウェア資源を柔軟に利活用し、データセンタ間でアプリケーションを速やかに移行することを目指しています。データセンタとパブリッククラウドの両方を使用し、仮想マシン(VM)を稼働させるためのサーバを配置します。以下、シナリオの前提条件や計測ポイントが記されています。
シナリオ1:データセンタ間でのVMマイグレーション(ライブマイグレーション)- 前提条件:
- ライブマイグレーションはPre-Copy方式であること
- マイグレーション元と先のサーバに同じCPUアーキテクチャが搭載されていること
- VMマイグレーション実行中に人手が介在しないこと
- 計測ポイント:
- ライブマイグレーション実行に伴い発生したダウンタイムは、サービスレベルでのダウンタイムとVM単位でのダウンタイムの各々を計測すること
シナリオ2:データセンタからパブリッククラウドへのVMマイグレーション
- 前提条件:
- データセンタとパブリッククラウドで仮想化基盤クラスタが存在し、システム互換性を確保する製品を選定すること
- マイグレーション元と先のサーバに同じCPUアーキテクチャが搭載されていること
- 移行対象VMに特定のハードウェアを使用するプロセスが存在しないこと
- 計測ポイント:
- VMイメージファイルの出力時間/転送時間/形式変換時間
- VMイメージの取込時間
- VM起動時間

図2:Intra-Region Use Case の参照アーキテクチャ
(引用元:IOWN Global Forum, “Reference Implementation Model and Proof-of-Concept Reference of Services Infrastructure for Financial Industry”)
2-3.Inter-Region Use Case:地域間のデータバックアップや移行によるシステムの堅牢性の改善
本ユースケースでは、災害やトラブルへのレジリエンス向上のため、複数クラスタ環境において二つ以上のデータセンタを接続し、データバックアップとアプリケーション移行を実施します。システム優先度に応じて復旧時間目標(RTO)の要件が定義されています。
- Tier 1 System:RTO < 30分
- Tier 2 System:RTO < 2時間
- Tier 3 System:RTO < 1日
ホワイトペーパーには、これらの要件を満たす上で適したデータ冗長化方式とデータ復旧方法がそれぞれ記述されています。
- Tier 1 System:データベース同期レプリケーション(レプリカからのデータ復旧)
- Tier 2 System:データベース同期/非同期レプリケーション(レプリカからのデータ復旧)
- Tier 3 System:データバックアップ(スナップショットからのデータ復旧)

図3:Inter-Region Use Caseの参照アーキテクチャ
(引用元:IOWN Global Forum, “Reference Implementation Model and Proof-of-Concept Reference of Services Infrastructure for Financial Industry”)
3.2つ目のポイント「PoCリファレンス」
もう一つのポイントは、参照実装モデルに対するPoCリファレンスです。
3-1.Intra-Region Use Case の PoCリファレンス
このユースケースでは、データセンタ間およびデータセンタからパブリッククラウドへのVM移行のシナリオが含まれています。技術評価基準として、「VMマイグレーション実行に伴うダウンタイムが1秒未満」が設けられています。
シナリオ1:データセンタ間のVMマイグレーション(ライブマイグレーション)- 技術検証:
- 準備時間(Preparation time)と最終化時間(Finalization time)を測定すること
- 複数のVMを同時または順次移行し、測定対象時間の重複カウントを避けること
- システム負荷を定量的に理解し、実使用状況に近い条件で評価実施すること
シナリオ2:データセンタからパブリッククラウドへのVMマイグレーション
- 技術検証:
- 仮想マシンのイメージ抽出からパブリッククラウド上での起動までの時間を計測すること
- 各ステップにおいてハイパーバイザ機能を使用し、イメージを出力、形式変換し、クラウド上でVMを起動すること
3-2.Inter-Region Use Case の PoCリファレンス
このユースケースでは、データセンタ間のVMマイグレーションのシナリオが含まれます。
シナリオ:リージョンまたぎのデータセンタ間のVMマイグレーション
- 技術検証:
- 準備時間(Preparation time)、最終化時間(Finalization time)、データレプリケーションに関わるメトリクスを測定すること
- システムの優先度に応じ、適切な計測を実施すること
4.今後の展望
NTT DATAは、ホワイトペーパーで提言しているシステム構成の実現可能性を証明すべく、技術検証の取り組みを進めます。IOWNによる次世代金融システムと金融機関のデジタルトランスフォーメーションを達成するために、IOWN構想をさらに推進していきます。
Use Casesについてはこちら:
https://iowngf.org/use-cases/
NTTデータ テクノロジーカンファレンス2025 ~未来を創るNTT DATAの確かな技術力~についてはこちら:
https://oss.nttdata.com/techconf2025/
NTT DATA Foresight Day 2025についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/foresight-day/2025/
次世代金融システム構築に向けたIOWN技術の適用ユースケース発表
~超高速・低遅延・低消費電力のIOWN技術で既存システムを分散・クラウド対応する具体策~についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/081901/
低遅延・広帯域を実現するIOWN APNを用いたデータセンター相互接続の有効性を実証についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/030702/