世界最古の熱帯雨林の奥深いところで、AIが先住民の間で古くから継承されてきた知恵を活用し、危機にひんした生態系の回復に取り組んでいます。数十年前、オーストラリアのデインツリー・レインフォレストでは、203ヘクタール(東京ドーム43個分)以上の森林が農業用地として伐採されました。その結果、土地は荒廃し、外来種が一面を覆い尽くしました。そしていま、AIがその土地の再生を進めています。
デジタルとインフォメーションテクノロジーサービスをグローバルに展開するNTT DATAは、非営利団体ClimateForceとパートナー契約を締結して、AI搭載システムを導入し、土壌組成の分析、ドローンとレーザーイメージングによる植物の再生の追跡、長期的な生態系回復力の測定を行っています。しかし、このプロジェクトは、テクノロジーの力だけを活用しているわけではありません。プロジェクトを先導するのは、何世代にもわたり土地を守ってきた先住民たちの深い生態学的な知識です。「これは2つの異なる世界の融合です」と、NTT DATAのBennett Indart(Vice President of Smart World Solutions)は語ります。
「テクノロジーはプロセスを加速しますが、その土地に代々受け継がれてきた知識は、プロセス自体を正しく実行するための知恵をもたらします。」
このようなテクノロジーと人間のインサイトの相互作用こそ、AIを単にビジネスツールとしてではなく、社会をより良いものに変革するための力として活用するというNTTデータのビジョンの神髄です。モビリティ、サステナビリティ、そして労働人口の減少に至るまで、AIは現代社会の喫緊の課題を解決しようとしているのです。
1.変わりゆく世界を支えるAI
交通渋滞、労働力不足、気候変動、これらは遠い未来の問題ではありません。私たちの日常生活に直接的に関与し、世界中の人々の生き方、働き方、行動に影響を及ぼしています。AIは、このような問題解決の一端を担うものとして、大量のデータを活用したプロセスの最適化、安全性の向上、自然生態系の維持に取り組んでいます。
NTT DATAのGenerative AI推進室を共に率いるCarlos Galveと本橋賢二は、永続的なインパクトを生み出すAIの可能性についてこう語ります。「生成AIには知識を民主化する力があります。人間の専門知識を保存し、より賢明な意思決定を行い、生活の質を向上させることができます。いわば、“幸福指数が上がる”ということです」とGalveは述べています。事故の未然防止から、重要な専門知識の抽出と保存まで、AIはよりスマートでかつ持続可能な世界の基礎を築いています。
AIによるスキルの継承
高齢化社会では、熟練労働者たちが技術や知見を後継者に継承できないまま退職しています。そのような熟練者の暗黙知を継承するための重要なツールとしてAIが台頭しています。
「暗黙知を言語化するのは困難です。しかし、AIを使えば専門知識を体系化し、次世代の後継者たちがアクセスできる方法で保存することが可能です」とGalveは述べています。
その顕著な例が日本の大手生活品メーカー、ライオン株式会社です。NTTデータの生成AI技術を活用して、数十年にわたる製造のノウハウを保持しています。このような専門知識は従来は徒弟制度を通じて受け継がれてきました。しかし、熟練者が退職すれば、企業はかけがえのないスキルを失うリスクがあります。
AIによるデジタルメンターが意思決定パターンや技術的なニュアンスを把握することにより、若手社員は実務中に社内ナレッジにアクセスして、リアルタイムで必要な知識のガイダンスを受けることができます。
これは、冒頭に紹介したデインツリープロジェクトにおいてAIがガイドとしての役割を果たしつつ、生態系の修復は人間の専門知識に委ねていたのと同じ方法論です。AIは、長年蓄積された経験則(暗黙知)を現代に適用可能なインサイト(形式知)に変換するための橋渡しをする存在として、さまざまな業界で活用されています。
2.責任あるAIとデータセキュリティ
社会におけるAIの役割が大きくなるに従い、データセキュリティと倫理的なAIガバナンスはますます差し迫った問題となっています。「セキュリティを担保した上で、適切にデータを活用することでAIを通じた情報漏洩やハルシネーションを回避し、すべてのお客さまがAIを信頼して安全に使えるようにしたい」と本橋は語っています。このような課題への取り組みとして、NTT DATAでは、ハイブリッドAIモデルを提供しています。パブリッククラウド上でオープンに利用する際には大規模言語モデル、機密情報を含むオンプレミス環境やプライベート環境向けにはNTTのtsuzumi™などの小規模言語モデルを活用するというものです。「機密性の高いデータに対しては、オンプレミスの専用プライベートAI環境を提供し、AIのポテンシャルをフル活用しつつも確実にプライバシーを保護しています」と本橋は説明しています。
サステナビリティにおけるAIの役割は、データ共有のイニシアチブにまで拡大しています。顧客が安全にデータにアクセスできるようにするため、NTT DATAは“秘匿処理技術”を他社に先駆けて開発しました。この技術により、ローデータを公開する必要なしに異なる組織間で双方のデータを分析することができます。この信頼できるデータ連携を可能にする技術は、AIがサステナブルな社会への変革をグローバルに推進していくための端緒となるでしょう。
環境に優しい未来で農業を支える
デインツリー・レインフォレストでは、現在までに16,000本のジオタグが付いた木が植えられ、AIによって森林の回復が進んでいますが、同時に高齢化と労働力不足によって食糧生産の危機という問題も抱えています。AIは、同時にこの問題をも解決しようとしています。
NTT DATAが開発した「Dynamic Lifecycle Adaptation」というAI駆動のフレームワークは、リアルタイムの環境データに基づき、継続的に農業戦略の見直しを行っています。AIが天候のパターン、土壌の状態、作物の生育サイクルを分析することで、農業従事者が作物を植える時期と場所について的確な判断をくだせるようにしています。
「大規模な商業農家は最先端テクノロジーを利用できますが、小規模農家はそうではありません」とIndartは語ります。「AIは、農業の品質向上のためのノウハウを民主化し、小規模農家がサステナビリティや収穫量を改善するためのベストプラクティスを採用できるように支援しています」
熱帯雨林の再生から精密農業まで、AIは思慮をもって導入すれば、人間の行動と自然界とのバランスを維持する上で有用なテクノロジーであることを証明しています。
3.共有化する未来:すべての人のためのAI
AIの活用は業務の効率化にとどまりません。真の力を発揮するのは官民連携です。「このようなグローバルな課題を単一の組織で解決できるわけがありません」と、Galveは語ります。「業界を超えた連携によって、AIの力を破壊ではなく進歩の力に発揮することができるのです」
NTT DATAは、業界横断的なAIコンソーシアムの最前線に立ち、責任ある包括的なAIを展開するためのパートナーシップを推進しています。モビリティソリューション、サステナビリティへの取り組み、ナレッジの保存などのあらゆる活動を通して、より良い社会のためのAI活用を実践しているのです。
Galveは語ります。「私たちがめざすのは、単なる技術革新ではありません。重要なのは、AIが人々、地球、そして次世代にとってより良い世界に貢献することです。」
NTTデータの生成AIのサービス・事例はこちら生成AI(Generative AI)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai
CEOが見る生成AIインパクトについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/socialactivity/world-economic-forum/the-gen-ai-advantage/
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交通渋滞都市を支援するスマートモビリティ
世界のあらゆる都市で、AIは交通渋滞と安全という現代社会における最大の課題に取り組んでいます。「渋滞を引き起こす原因は主に2つ、交通量の集中と事故です」と、NTTデータの平井 聡(自動車事業部 兼 データ&アナリティクスユニット 課長)は述べています。「AIは、車両をさまざまなルートに分散させ、またドライバーが混雑を避けるような行動変更を促します」
NTTデータはトヨタ自動車株式会社のコネクティッドカーデータを活用し、ショッピングモール“ららぽーとTOKYO-BAY”において、AIを活用した交通最適化システムの実証実験を実施しました。デジタルサイネージとQRコードを活用して、ドライバーにリアルタイムの交通情報を提供することで、施設の利用者は最も混雑する出口を避けることができ、ボトルネック渋滞が大幅に緩和されました。
もう1つの大きな課題として、ドライバーの高齢化があります。特に日本のような人口動態の国では、ハンドルを握る高齢者の数が増え続けています。NTTデータのAIを活用した認知機能評価ツールは、運転パターンを分析し、認知機能の低下を示す兆候を早期に検知するように設計されています。「運転免許証を取り上げることが目的ではありません。私たちがめざしているのは早期認識、早期行動、安全運転年数の延長です」と平井は述べています。
AIは、ドライバー個人だけでなく、都市全体のモビリティの見直しにも役立っています。札幌市における取組では、AIモデルが移動デマンドと既存交通を可視化し、サービスが行き届いていない地域のオンデマンド交通のニーズポテンシャルを計算しました。
このシステムは、人流・公共交通の利用状況・交通渋滞を分析し、都市が公共交通サービスを提供する場所を最適化するのに役立ちます。