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離れた空間を“つなぐ”IOWNの次世代ネットワーク「APN」
NTTデータグループ
技術革新統括本部
Innovation技術部
技術部長
稲葉 陽子
NTTが提唱する「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想の核となる技術が、「オールフォトニクスネットワーク(以下、APN)」である。半導体内部までフォトニクス(光)技術でデータを伝送する技術により、超低消費電力、超低遅延、超大容量・高品質な通信を実現する。NTTデータグループの稲葉陽子は、APNの活用領域について次のように説明する。
「APNは、臨場感あふれるオンラインライブ配信、データセンター間接続、分散画像処理半導体(GPU)クラウドを活用した効率的なAI(人工知能)学習など、多様な用途で活用されています。さらに、発電設備とデータセンターを最適な形で整備するワット・ビット連携により、再生可能エネルギー利用の向上も見込んでおり、GXの観点からも注目を集めています」
IOWNで実現する金融システムの信頼性と柔軟性の融合
株式会社三菱UFJ銀行
産業リサーチ&プロデュース部
エキスパート
難波 雅善 氏
IOWNやAPNの社会実装は、約150の企業・業界が参画する国際団体「IOWN Global Forum」が推進している。参画企業の一つである三菱UFJ銀行は、NTT DATAと共同で金融分野におけるユースケース創出に取り組んでいる。三菱UFJ銀行の難波 雅善氏は次のように述べる。
「オンライン取引の普及により、銀行を取り巻く顧客ニーズと技術が急速に変化する中、イノベーションの必要性が高まっています。私たちは、レガシーシステムと新技術の共存、データセンターの分散化、ハイブリッドクラウドの柔軟なリソース活用という課題に対し、2つのユースケースで検討を進めています」
1つ目のユースケースは、約50km離れたデータセンターやクラウドをIOWNで相互接続し、1つのコンピューティングゾーンを構築するというものだ。災害やシステム障害などの非常時に備えた運用のアジリティ向上を目指しており、新規サービス展開時のスケーラビリティ向上も期待される。
2つ目は、遠隔地におけるシステムのバックアップと復旧プロセスの高度化である。現在は、東京・大阪など地域単位でバックアップシステムを保有しているが、地理的に離れた拠点をIOWNで接続することで、シンプルで一体的な運用が可能となる。
「金融サービスにおける新技術の導入では、セキュリティー、レジリエンス、アクセシビリティの要件充足が大前提となります。その上で、システムの高信頼性と柔軟性を両立し、顧客の利便性向上を目指します。2024年度中に1件のユースケース検証を完了させ、2025年度には具体的な成果を示す計画です」と難波氏は語る。
リアルとデジタルを「つなぐ」デジタルツインによる社会最適化
デジタルツインは、現実世界をサイバー空間に再現し、可視化とシミュレーションを行う技術だ。人による意思決定の支援や、機器の最適制御に活用されている。近年の技術革新により、その精度は飛躍的に向上している。
「あらゆるモノがネットにつながるIOT機器の多様化によりデータ収集の範囲が広がり、5Gの普及でリアルタイム性が向上しました。さらに、GPUやAIなどの処理リソースが増えたことで大規模なシミュレーションも可能となり、高度なモデリング技術により3D画像での精密な可視化も実現しています」と稲葉は説明する。
こうした技術発展を背景に、デジタルツインの活用領域は拡大している。特にスマートファクトリーでは、以下のような革新的な取り組みが進められている。
まず、無人搬送車による工場内の物資配送の自動化だ。デジタルツインで生産ラインや人流をシミュレーションし、的確な走行ルートを確保。作業効率化やエネルギーの効率化を図り、搬送車の動きを妨害する要素やリスクの検知にもつながっている。
次に、ロボットによる設備異常検知がある。従来人の目で行っていた工場内配管の異常振動検査などを自動化する取り組みだ。「三菱ケミカルとNTT DATAは、4足歩行のロボットドッグを用いた検査自動化を進めており、PoCでも有効な結果が得られています」と稲葉は述べる。
生産計画においても、数理計算プラットフォームを活用した最適化が進展している。「数理最適化というデータ解析の技術により工場内のオペレーションを最適化し、調達からデリバリーまでのスピードを最大化します。環境変化に応じた柔軟なオペレーション調整も可能です」(稲葉)
デジタルツインの活用は社会インフラへも広がりを見せている。「センサーを使って収集した多様なデータを組み合わせ、大量かつ複雑なシミュレーションを行い、社会現象をモデル化することが可能になっています」と稲葉は説明する。未来予測や行動変容を促すことで、混雑緩和などの社会課題解決も視野に入る。例えば、阪神高速とNTT DATAは2025年4月からの国際的イベント開催に向け、交通デジタルツインによるリアルタイム渋滞予測の実証実験を計画している。「交通事故のシミュレーション結果をはじめ、車の走行環境、スピード、ルートなどのデータを取り込み、リアルタイムの渋滞予測など、精度の高いシミュレーションを目指します」(稲葉)
システムと人を「つなぐ」デジタルヒューマンによる業務改革
最先端技術の1つとして注目を集めているのが、アバター(3Dモデル)とAI対話機能を組み合わせた「デジタルヒューマン」だ。
デジタルヒューマンは、人間に近いリアルな外観と高度な対話機能により、人間と話すような感覚で接することができる。状況に応じて即時に応答できるため、受付業務や、美術館・博物館での展示内容の説明、ロールプレイングによる人材育成など、様々な用途で活用が始まっている。
「ニュージーランドのスポーツ施設では、顧客対応業務にデジタルヒューマンを導入しています。デジタルヒューマンがいつでも幅広いサービスを提供する利便性と、人と会話するような感覚で生まれる親しみやすさが、顧客体験の向上につながっています」と稲葉は実例を挙げる。
さらに、デジタルヒューマンを介して利用したトレーニング用具や売店での購買履歴などの情報を蓄積・分析することで、パーソナライズされたサービス提供につながる可能性も期待されている。
今、技術の発展により、デジタルヒューマンは限りなく人に近づいている。「人とシステムの境界を崩す革新的なインターフェースとして、人の業務を代替するだけでなく、人の能力の拡張につながることを期待しながら、ユースケースの開拓と技術の開発を進めています」と稲葉は展望を語る。労働力不足の解消という実用面に加え、親しみが生まれる新技術としても注目が高まっている。
先進技術とお客さまのビジネスを「つなぐ」
これまで、「つなぐ」をキーワードに先進技術の活用例を紹介してきた。「NTT DATAは、世界各地にイノベーションセンタを設置し、これからも顧客との共創ワークショップやPoCを通じてお客さまと先進技術の社会実装を推進していきます。NTT研究所のR&D成果の活用に加え、こうしたグローバルな知見も強みの1つです」と、稲葉は展望を語った。
図:NTT DATAの技術ポートフォリオ(FY2024)
本記事は、2025年1月28日に開催されたNTT DATA Foresight Day2025での講演をもとに構成しています。
NTT DATAのテクノロジーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/technology/
次世代金融システム構築に向けたIOWN技術の適用ユースケース発表についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/081901/
NTTと阪神高速、都市の道路交通の整流化に貢献するデジタル技術を活用した新たな交通マネジメントの実装に向けた検討を共同で実施についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/042102/
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