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2023年9月22日展望を知る

リアルなGHG排出量データの活用によって脱炭素を推進する
~Green x Digitalコンソーシアムでのデータ流通の標準化~

脱炭素の取り組みが加速する中、自社だけでなくバリューチェーン全体のGHG排出量を把握すべく、取引先にGHG排出量データの提供を求める企業が増えている。この記事は、製品カーボンフットプリントをはじめとするGHG排出量データの企業間連携について、国内外のルール整備動向を参照しながら、日本のGreen x Digitalコンソーシアムにおけるルール策定について紹介する。
目次

リアルなGHG排出量データの重要性

企業がGHG排出量を減らすには、まずGHG排出量の可視化が必要ですが、この可視化は自社のGHG排出量だけに限りません。企業が求められているのは、バリューチェーンの上流(サプライヤ)から下流(顧客や廃棄・リサイクル)にわたるGHG排出量の削減であるため、この全体像をまず可視化する必要があります。自社以外のバリューチェーン排出量とは、GHGプロトコル(※1)におけるScope3を指しており、ここに可視化の大きな課題があります。

Scope3排出量は他社のGHG排出量から構成されるため、多くの場合、業界平均値や統計値のような係数を用いて算定しています。しかし、この算定方法では、自社が取引しているサプライヤの削減努力を算定結果に反映できません。そのため、企業はサプライヤに取引量相当のGHG排出量データを提供するよう要請しはじめています。この中でも、「製品カーボンフットプリント」という製品1つ1つのGHG排出量を把握する取り組みが一部の業界で先行しています。

図1:リアルなGHG排出量データが必要となる背景

図1:リアルなGHG排出量データが必要となる背景

(※1)

世界中の企業が使用するGHG排出量の算定基準。GHGプロトコルにはさまざまな基準があるが、本記事はGHGプロトコル・コーポレート基準およびScope3基準を想定している。

国内外で乱立する製品カーボンフットプリントの算定ルール

製品カーボンフットプリントはリアルなGHG排出量データの活用を促すうえで重要ですが、まだ多くの課題があります。関連記事(※2)が解説した「基準の曖昧さ」といった課題に加えて、製品カーボンフットプリントの算定ルールが乱立しており、どの算定ルールに準拠すればいいのか迷いやすい課題もあります。

製品カーボンフットプリントの算定ルールは図2のとおり、業界横断・業界ごと・製品種別ごとの3種類に分けられます。ルールの抽象度が高いほど、個々の製品には寄り添いきれず、グリーン調達を意識した目的では使いづらくなります。逆に、ルールの粒度が細かいほど、全ての製品に対してルールを作るだけの時間と手間がなく、急増する取引先の開示要請に対応しきれない課題があります。このため現在では、WBCSD PACT(※3)の「Pathfinder Framework」が新たに業界横断ルールの中心を担い、これに整合する形で業界ごとのルールが形成されつつあります。

図2:製品カーボンフットプリントの主な算定ルール

図2:製品カーボンフットプリントの主な算定ルール

WBCSD PACTはScope3排出量データの透明性確保を目指しており、既存ルールと整合させながら、データ流通に必要な要件を備えたルールであるPathfinder Frameworkを策定しました。さらに、データ流通のための技術仕様書も策定しました。WBCSD PACTはこれらの内容に基づいて、異なるアプリケーション間でGHG排出量データを交換する世界初の実証を行ったことから、Pathfinder Frameworkが製品カーボンフットプリントに関する算定ルールの中心になりつつあります。

図3:WBCSD PACT Pathfinder Frameworkの特徴

図3:WBCSD PACT Pathfinder Frameworkの特徴

(※3)

WBCSDとは「持続可能な開発のための世界経済人会議」の略称であり、200社以上の企業トップが持続可能な社会への移行のために協働する。また、GHGプロトコルを策定した団体でもある。PACTはWBCSDの中の組織の1つ。

Green x Digitalコンソーシアムが取り組む標準化

ここからは前述の背景をふまえたうえで、NTT DATAがGreen x Digitalコンソーシアム(以下:同コンソーシアム)という団体で取り組んでいる標準化について紹介します。

1.団体概要

環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデルの創出などを通じて2050年カーボンニュートラルの実現に寄与すべく、2021年に設立されました。
この中の「見える化WG(読み:ワーキンググループ、以下:同WG)」がGHG排出量データに関する標準化に取り組んでおり、同WGにはIT企業に限らずさまざまな業界から100社以上が参加しています。

2.標準化の方針

同コンソーシアムが策定するルールは国際的に通用するデータ流通を目指すため、基本的にWBCSD PACTのPathfinder Frameworkや関連する技術文書に基づきます。加えて、参加企業のニーズに基づく独自要素をWBCSD PACTと議論したうえでいくつか採用しています。例えば、厳密にデータを積み上げて算定する製品カーボンフットプリントだけでなく、企業全体のScope1,2および3を取引単位に按分したGHG排出量の流通も部分的に許容しています。
製品カーボンフットプリントの算定は企業全体のScope1,2および3と比較して複雑であるため、全ての企業が全ての製品に対して製品カーボンフットプリントを算定することは事実上不可能です。また、Scope3上流を削減する上で製品カーボンフットプリントのように精緻なデータが必ずしも必要になるとは限りません。
NTT DATAはこれについて、企業全体のScope1,2および3を取引単位に按分する「総排出量配分方式」をかねてから提唱しており、これを実現できるGHG排出量可視化プラットフォーム「C-Turtle®」を提供しています。

3.NTT DATAの取り組み

同コンソーシアムには主要論点について議論・作業するためのサブワーキンググループ(SWG)が3つあり、NTT DATAはこの全てでサブリーダーとして検討を牽引しています。
具体的には、「ルール化検討SWG」ではGHG排出量のデータ収集・算定・共有ルールを検討し、「データフォーマット・連携検討SWG」では具体的なデータモデル・API仕様といった技術的仕様を検討するほか、「物流SWG」ではバリューチェーン上の企業と企業を繋ぐ物流プロセスに特化したGHG排出量のデータ収集・算定・共有ルールを検討しています。

4.標準化の概要

同コンソーシアムは現時点で、2種類の文書を標準化の成果物として公表しています。

(1)CO2可視化フレームワーク
ルール化検討SWGの成果物として、WBCSD PACTのPathfinder Frameworkに立脚したルールになっています。ただし、Pathfinder Frameworkの日本語訳にとどまらず、日本企業がよく利用するデータベースをどこまで適用可能かなど、具体的な解説に富んでいます。同コンソーシアムとしての独自要素も含んでいます。

(2)データ連携のための技術仕様
データフォーマット・連携検討SWGの成果物として、WBCSD PACTの技術仕様であるPathfinder Networkの技術仕様書に準拠しつつ、上記のCO2可視化フレームワークに基づく同コンソーシアムの独自要素を部分的に含んでいます。

5.実証

同コンソーシアムは上記4.項の文書を用いて、実際にGHG排出量データを異なるアプリケーション間で流通させる実証を行いました。
実証は2つのフェーズから成ります。「フェーズ1」は異なるITソリューション間におけるGHG排出量データの流通を技術的に実証するものであり、ITソリューションの提供企業のみが参加しました。「フェーズ2」はITソリューションを利用する企業も参加することで、利用者目線の使い勝手など社会実装も意識した観点で実証しました。
実証を行うことで、桁数の定義のような技術的な課題を把握したり、データの秘匿性についてさまざまな意見があることを把握したりできました。

製品カーボンフットプリントがデジタルにつながる未来社会

実証で挙がった課題については、機密情報の保護に引き続き留意しながら、「算定対象プロセスの特定」や「データ品質評価の基準」といった課題を解決するようルール改訂に取り組んでいます。加えて、同コンソーシアムは各種業界団体との対話を通じて、GHG排出量のルールに関する相互運用性の担保を図っています。
また、Green x DigitalコンソーシアムにおけるGHG排出量データの企業間流通は、異なるアプリケーション間でデータを共有するという分散型の仕組みでした。今後は、欧州のGAIA-X・Catena-Xや日本のOuranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)のように、データ流通を促すエコシステム(データスペース)が中心となり業界全体でデータを共有する取り組みも増える見込みです。
NTT DATAはこうしたデータスペースの検討も見据えながら、デジタル技術を用いて脱炭素社会の実現に貢献できるよう、イニシアティブ連携・標準化・サービス提供などに取り組んでいきます。

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